開業資金・設備資金・運転資金といった目的で、資金調達を必要とする個人事業主は少なくありません。法人より信用力の低い個人事業主ですが、目的にあった方法を選べば資金調達できる可能性が高まります。

今回の記事では、個人事業主向けの資金調達の方法・選ぶポイント・注意点などをまとめました。くわえて、融資以外の資金調達方法についてもわかりやすく解説します。

本記事を読めば、個人事業主が利用しやすい資金調達方法や融資審査で気をつけるポイントがわかります。多様な個人事業主向けの資金調達方法を把握し、状況にあわせて最適な選択肢を検討しましょう。

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個人事業主が資金調達方法を選ぶポイント

個人事業主が資金調達方法を選ぶときのポイントについて解説します。

  • 開業資金・運転資金・設備資金などの資金使途
  • 資金調達スピード
  • 金利・手数料の安さ
  • 審査通過率・資金調達のしやすさ

資金調達の目的にあわせて、どのポイントを重視して資金調達するか検討しましょう。

開業資金・運転資金・設備資金などの資金使途

開業資金・運転資金・設備資金など資金使途にあわせて、最適な資金調達方法を選びましょう。個人事業主の資金使途は、大別して以下の3種類があります。

  • 開業資金:事業をはじめるための資金
  • 運転資金:商品の仕入れ・家賃・水道光熱費・広告販売費など事業運営のための資金
  • 設備資金:パソコン・空調設備・電話など事業の設備を購入する資金

それぞれの資金使途別に最適な資金調達方法は、以下の通りです。

資金使途 重視されるポイント 向いている資金調達方法
開業資金 開業資金に対応した資金調達方法である
  • 日本政策金融公庫
  • 信用金庫
  • 自治体の制度融資
  • 地方銀行
運転資金 急な資金調達ニーズに対応できる
設備資金 大きな金額をリーズナブルな金利・手数料で資金調達が可能
  • 日本政策金融公庫
  • 信用金庫
  • 自治体の制度融資
  • 地方銀行

上記の表を参考に、状況にあわせて最適な資金調達方法を検討しましょう。

資金調達スピード

急な支払いが迫っているなど、すぐに資金調達したい場合はスピードを重視しましょう。スピードを重視したおすすめの資金調達方法は、以下の通りです。

  • ファクタリング
  • ビジネスローン

ファクタリング・ノンバンク系ビジネスローンともに、最短即日で申し込みから入金まで完了します。ただし、銀行・信用金庫・日本政策金融公庫と比較して金利・手数料が高いのがデメリットです。

ファクタリング・ビジネスローンの金利・手数料相場は、以下の通りです。

資金調達方法 金利・手数料相場 資金調達スピード
2社間ファクタリング(面談あり) 10%~20% 最短即日~数日
2社間ファクタリング(オンライン) 2%~12% 最短数十分~即日
3社間ファクタリング 1%~9% 数日~1週間ほど
ノンバンク系ビジネスローン 5%~18% 最短即日~数日
銀行系ビジネスローン 1%~15% 3営業日~5営業日

手数料はそのまま金利とは比較できないため、以下の式で年利換算しましょう。

年利換算=12ヶ月÷支払いサイト×手数料

たとえば、支払いサイトが3ヶ月で手数料が10%の場合は「12÷3×10=40」となり、年利換算で40%相当だとわかります。ファクタリングは年利換算すると割高になるため、できるだけ手数料が1桁台のサービスを利用しましょう。

金利・手数料の安さ

個人事業主が金利・手数料の安さを重視するなら、以下の資金調達方法から検討しましょう。

資金調達方法 金利
日本政策金融公庫 1%~3%
自治体の制度融資 1.5%~3%
信用金庫 2%~6%
地方銀行 2%~3%

上記4つの資金調達方法はどれも個人事業主への融資に積極的ですが、審査通過には十分な準備が必要です。実現性のある事業計画・返済計画を作成し、返済能力があると審査でアピールしましょう。

なお、上記4つの資金調達方法は審査期間が3週間~1ヶ月程度かかります。時間に余裕を持って計画を立て、無理のない返済ができる資金調達を実現してください。

なお、返済の必要がない資金調達方法として助成金・補助金・支援金が挙げられます。ただし、助成金・補助金・支援金の給付にはさまざまな条件がついているため、事業内容がかなり限られる点には注意が必要です。

審査通過率・資金調達のしやすさ

審査通過率や資金調達のしやすさで、資金調達方法を選ぶのもおすすめです。審査が柔軟であれば信用情報に傷がついていたり、経営状態が悪かったりしても資金調達できる可能性があります。

審査通過率が高く、資金調達がしやすいのは以下の3つです。

  • マル経融資
  • ファクタリング
  • ビジネスローン

マル経融資は商工会議所の財務・経営指導を受けて、事業改善の取り組みを行えば高い確率で融資を受けられます。ファクタリングは売掛先を重視するため、利用者の経営状態・財務状況が悪くても審査に通る可能性があります。また、信用情報が調査されないため、事故情報が登録されていても審査に影響がありません。

ビジネスローンは信用情報が確認されますが、銀行・日本政策金融公庫より審査に通りやすいのが特徴です。審査通過を目指すなら、銀行系ビジネスローンよりノンバンク系ビジネスローンを利用しましょう。

個人事業主が融資を受けるための最低条件

個人事業主が資金調達で融資を受けるためには、開業届・確定申告を行うのが最低条件です。開業届・確定申告について、概要・作成方法・提出の仕方をわかりやすく解説します。

開業届

開業届とは新規事業を申告するために税務署へ提出する届出で、原則として開始日から1ヶ月以内の提出が求められます。未提出でも罰則はありませんが、青色申告で確定申告するなら開業届を提出している必要があります。

開業届の作成には以下のツールを使うと便利です。

税務署の所在地は国税庁の公式サイトから確認でき、提出方法は窓口への持参・郵送のいずれかを選べます。

確定申告

開業資金以外の目的で融資を受けるなら、確定申告をする必要があります

確定申告とは1年間の収入から経費を差し引いた所得を算出し、納税額を計算して税務署に報告する手続きです。毎年1月1日~12月31日までの所得を、翌年2月16日~3月15日までに確定申告します。

確定申告には2種類あり、白色申告は開業届なしで申告できて手続きも容易です。青色申告は複式簿記が必要な代わりに、最大65万円の特別控除が受けられるため節税ができます。青色申告は複式簿記が求められますが、以下の会計ツールを利用すると知識がなくても帳簿をつけられます

融資審査で確定申告書が黒字であり、資金使途・事業計画・返済計画が適切なら審査通過の可能性が高まります。

個人事業主に対応した融資・借入による資金調達方法8選

個人事業主でも融資が受けられる資金調達方法の金利・特徴を、以下の比較表にまとめました

資金調達方法 金利 特徴
日本政策金融公庫 1%~3%
  • 日本政府が100%出資した公的金融機関
  • 個人事業主・フリーランスにも積極的に融資
  • 金利が非常にリーズナブル
  • 開業資金のための融資も行っている
自治体の制度融資 1.5%~3%
  • 地方自治体・金融機関・信用保証組合が連携して提供
  • 自治体によっては保証料・金利などをサポート
  • 長期の借入ができる
信用金庫 2%~6%
  • 個人事業主・フリーランスでも積極的に融資
  • 長期的な視点で審査・サポートを行ってくれる
  • 協同組織であり、融資は組合員に限定
地方銀行 2%~3%
  • 地域密着型で地域にあわせた細やかなニーズに対応
  • 低金利で融資限度額が大きい
  • 審査はやや厳しめ
商工会議所 1.2%
  • 最大2,000万円まで借入が可能
  • 固定金利でリーズナブルなため資金調達コストが低い
  • 個人事業主・フリーランスが対象
銀行系ビジネスローン 1%~15%
  • 担保・保証人が必要ない
  • 銀行・信用金庫などより審査が柔軟
  • 金利が割高で資金調達コストが高い
  • 資金調達スピードは3営業日~5営業日と早め
ノンバンク系ビジネスローン 5%~18%
  • 最短即日で資金調達が可能
  • 担保・保証人が必要ない
  • 審査基準はほかの借入方法より柔軟
  • 金利が高く設定されている
法人カード・ビジネスカード 10%~18%
  • キャッシング枠の利用の審査は厳しめ
  • 融資限度額が低い
  • 金利が割高のため利用には注意が必要

それぞれ異なる特徴がありますので、自分に最適な資金調達方法を検討しましょう。

日本政策金融公庫 | 創業融資があり新規の個人事業もOK

金利 1%~3%
メリット
  • 金利が低い
  • 最大7,200万円の高額融資を受けられる
  • 返済期間を長く設定できる
  • 開業資金の借入が可能
デメリット
  • 面談で事業計画・返済能力が厳しく審査される

日本政策金融公庫は政府が100%出資する金融機関で、個人事業主・中小企業を対象にした融資制度を提供しています。営利団体ではないため金利が低く、借入期間が長めに設定されているのが特徴です。また、融資の種類によっては担保・保証人が必要ありません。

一方、融資審査は厳しく事業計画書・返済計画書など多くの資料の準備が求められます。創業融資も提供しているため、新規事業を開始予定の個人事業主でも資金調達が可能です。

実現性のある事業計画書を用意して、日本政策金融公庫で低金利の資金調達を実現しましょう。

自治体の制度融資 | 自治体が提供する低金利の公的融資

金利 1.5%~3%
メリット
  • 個人事業主・フリーランスに積極的に融資している
  • 審査のハードルが低い
  • さまざまな経営支援が受けられる場合がある
デメリット
  • 融資限度額は500万円~3,000万円
  • 自治体によってはやや複雑な制度設計になっている
  • 民間の金融機関に比べて手続きが煩雑

制度融資とは、自治体・信用保証協会・指定金融機関の3者が連携した公的融資制度です。自治体の財源やリソースを活用するため、信用力の低い中小企業・個人事業主でも利用しやすいのが特徴です。

また、利子補給や保証料の補助を実施している自治体も多く見られます。利子補給とは、制度融資で金利の全額ないし一部を自治体が負担する仕組みです。

自治体によっては利子補給で、日本政策金融公庫より低い金利で融資を受けられる可能性もあります。ただし、制度融資は自治体・指定金融機関などと複数の面談が行われるケースがあり、手続きがやや煩雑です。。

低金利で資金調達コストを押さえられる制度融資は、時間に十分な余裕を持って利用しましょう。

信用金庫 | 個人事業主・フリーランス・自営業への融資に積極的

金利 2%~6%
メリット
  • 個人事業主・フリーランスへの融資に積極的で審査が柔軟
  • 貸し渋り・貸し剥がしのリスクが少ない
  • 組合員になると金利優遇などを受けられる
デメリット
  • 日本政策金融公庫・制度融資などと比べて金利がやや高め
  • 融資限度額が低め

信用金庫とは信用金庫法に基づき、会員の出資による営利を目的としない協同組織の地域金融機関です。地域で集めた資金を中小企業・個人事業主に還元し、地域社会の発展に寄与する目的で設立されました。

日本政策金融公庫と比較して少し金利は高めで、融資限度額は500万円程度に設定しているケースが多いです。融資を受けるには会員への加入が求められ、出資金は5,000円~10,000円ほど必要です。

審査通過もほかの資金調達方法と比較して難易度が低めなので、個人事業主で資金調達が必要なら信用金庫を検討しましょう。

地方銀行 | 創業融資に力を入れており独立開業におすすめ

金利 2%~3%
メリット
  • 審査が柔軟で通過しやすい
  • 信用保証付き融資が受けやすい
  • 金利が低く資金調達コストが安い
  • 借入期間が長いため月々の返済額を押さえられる
デメリット
  • 地域外では利用できないケースがある

地方銀行は各地方・都道府県を営業基盤とした銀行で、地域に密着して活動しているのが特徴です。

地方銀行には2種類あり、第一地方銀行は都道府県を基盤とした全国的なネットワークを持つ大規模な銀行です。第二地方銀行はより地元に密着し、一部の都道府県や特定の地域を対象として活動しています。

個人事業主が資金調達するなら、小口取引を多く扱う第二地方銀行がおすすめです。ただし、地域外では利用できないケースがあるため引っ越しなどを予定しているなら注意しましょう。

商工会議所 | 最大2,000万円まで借入できて担保・保証人なし

金利 1.2%
メリット
  • トップクラスの低金利で2,000万円まで融資が受けられる
  • 担保・保証人が必要ない
  • 商工会議所からのサポートが受けられる
デメリット
  • 創業して1年以上が経過している必要がある
  • 経営指導による事業改善後にしか融資が受けられず時間がかかる
  • 商工会議所への加入が必要

商工会議所が推薦し、日本政策金融公庫が提供するマル経融資は個人事業主にも対応しています。

商工会議所は、政府の認可を受けて設立された特別認可法人です。商工業の振興と国民経済の健全な発展を目的とし、金融・税務・経営・労務の相談・指導を提供しています。

商工会議所からの承認・推薦を受けるためには商工会に加入し、経営・金融指導を受けて事業改善への取り組みが求められます。そのため、商工会への加入からマル経融資を受けるまで多くの時間がかかるのがデメリットです。また、商工会議所から推薦されても日本政策金融公庫の審査に通過しないと融資を受けられません。

一方、融資限度額2,000万円で金利1.2%、担保・保証人が不要と非常に魅力的な融資制度でもあります。マル経融資での資金調達を予定しているなら、商工会への加入と事業改善への取り組みをあらかじめ行っておきましょう。

銀行系ビジネスローン | 最短1週間ほどで資金調達が可能!

金利 1%~15%
メリット
  • 最短3営業日~5営業日で資金調達が可能
  • 審査に通過しやすい
  • 原則として担保・保証人が不要
  • メガバンクなら融資限度額が数千万円以上と高い
デメリット
  • 金利が銀行融資より高い
  • 信用保証協会の保証が求められるケースがある
  • 地方銀行の融資限度額は300万円~1,000万円と低め

ビジネスローンとは事業資金として使途に絞った融資商品で、一般的に担保・保証人が不要で借入できるのが特徴です。

銀行系ビジネスローンは銀行が提供しており、銀行融資より金利は高めですが審査が通りやすいというメリットがあります。銀行融資が3週間~1ヶ月かかるのに対し、銀行系ビジネスローンは3営業日~5営業日で資金調達ができます。

個人事業主が資金調達を目指すなら、融資限度額が低くても審査が柔軟な地方銀行のビジネスローンがおすすめです。

ノンバンク系ビジネスローン | 最短即日で融資が受けられ、審査も柔軟

金利 5%~18%
メリット
  • 担保・保証人が不要
  • 銀行より審査に通りやすい
  • 審査期間が短く最短即日融資も可能
  • 銀行融資などに比べて提出書類が少なめ
デメリット
  • ほかの資金調達方法より金利が高い
  • 返済期間が短めに設定されている
  • 融資限度額は一般的に300万円~800万円ほどと低め

ノンバンク系ビジネスローンとは、クレジットカード会社・信販会社・消費者金融などが提供するビジネスローンです。

一般的には年商数千万円以下の個人事業主や小規模事業者を対象としており、短期のつなぎ資金としても活用できます。銀行系ビジネスローンより審査が柔軟で、即日資金調達できるのが特徴です。

急な資金調達ニーズにおすすめですが、金利が割高なので計画的に利用しましょう。

法人カード・ビジネスカード | キャッシング枠の申し込みが必要

金利 10%~18%
メリット
  • 審査なしにすぐ資金調達できる
  • 担保・保証人が必要ない
  • キャッシング以外にも支払い業務の効率化・付帯サービスなどのメリットがある
デメリット
  • キャッシング枠の審査が厳しめ
  • 金利が高く借入期間は短め
  • 融資限度額が低い

法人カード・ビジネスカードは法人に対して発行されるクレジットカードですが、個人事業主も利用できます。一般的なクレジットカードと比較して限度額が大きく、さまざまな特典がついているのが特徴です。

法人カード・ビジネスカードでキャッシング枠を利用するなら、審査に通過する必要があります。あらかじめ審査さえ通過しておけば、いつでもすぐに借入ができるのが大きなメリットです。ただし、融資限度額が低く借入期間も短めなので計画的に利用してください。

個人事業主が融資を申し込むときの注意点

個人事業主が融資を申し込むときの注意点について解説します。

  • 自己資金の準備
  • 融資を申し込むタイミング
  • 資金計画の作成
  • 必要書類の準備
  • 不明な点や疑問を積極的に相談
  • 借入後の私的流用は規約違反

注意点をあらかじめ理解しておき、トラブルを回避してスムーズに資金調達を実現しましょう。

自己資金の準備

個人事業主が融資を受けたいなら、自己資金を十分に用意しておきましょう創業融資を利用するなら少なくとも開業資金の1割、できれば3割の自己資金を準備してください。

たとえば、日本政策金融公庫の新創業融資制度では、開業資金の1割以上にあたる自己資金の準備を要件に定めています。また、日本政策金融公庫の「2022年度新規開業実態調査」によれば、開業時の自己資金額の平均は21%~23%ほどです。そのため、少し余裕を見て開業資金の3割ほどが自己資金の目安と考えられています。

ただし、自己資金が開業資金の1割以下でも100%融資が受けられないわけではありません。一定の条件をクリアしていれば、自己資金がなくても日本政策金融公庫の審査通過は可能です。

なお、家族・知人などからの借入は負債であり、自己資金とはみなされませんので注意しましょう。

融資を申し込むタイミング

融資を申し込むタイミングは、できるだけ早めに設定しましょう。

資金調達のタイミングが遅いと、支払い期日に追われてスピードの速い調達方法を選択せざるを得ません。スピードが速い資金調達方法は金利・手数料が割高に設定されており、かえって経営を圧迫する恐れがあります

そのため、資金計画を立てて余裕を持って早い段階で融資に申し込む必要があります。また、1つの融資審査に落ちても立て直しが利くように、多様な資金調達方法を選択肢として検討しましょう。

資金計画の作成

資金計画を綿密に立てて、資金繰りトラブルが発生しないか十分に確認しましょう。

資金計画とは、事業に必要な資金の調達手段・運用方法を策定した計画です。資金計画を作成すれば、事業を運営するための資金の流れを視覚化して管理できます。そのため、いつまでにどの程度の資金が必要なのかを把握して融資の申し込み予定を立てられます。

融資のタイミングを計画的に設定できると、審査が早く金利の高いビジネスローンなどに頼る必要がありません。個人事業主は将来的な資金状況を早めに把握し、余裕を持って予定を立てるのが大切です。

必要書類の準備

融資を申し込むときには、あらかじめ必要書類を確認して準備しましょう。個人事業主が融資を受けるときの必要書類は、おおよそ以下の通りです。

  • 事業計画書
  • 直前2年の確定申告書
  • 資金繰り計画表
  • 直近の経営状況がわかる資料
  • 開業届

金融機関は審査で、年間の経営状態・資金使途・事業計画・資金計画を確認します。また、事業の実在確認に開業届の提出が求められます。

金融機関ごとに必要書類は異なりますので、あらかじめ公式サイト・電話での問い合わせで確認しましょう。

不明な点や疑問を積極的に相談

不明な点や疑問があるなら、放置せず積極的に調べたり相談したりして明らかにしましょう

個人事業主は税理士と契約しておらず、「売上や利益をざっとしか把握していない」「事業計画書などの資料が用意できない」といったケースも散見されます。融資を申し込む前に、インターネット・金融機関の電話サポート・自治体の窓口などで必要書類の内容・作成方法を調べましょう。

個人事業主が経営のアドバイスをもらえる無料の相談先は、以下の通りです。

ほかにも、有料で経営のアドバイスがもらえる相談先は以下の通りです。

  • 中小企業診断士
  • ファイナンシャルプランナー
  • 税理士

融資申し込み前に疑問を解消し、トラブルを回避してスムーズな資金調達を実現しましょう。

借入後の私的流用は規約違反

個人事業主が事業資金として借入したお金を、生活費に流用するのは資金使途違反です。また、運転資金として借入したお金を設備資金に使うのも違反になります。たとえば、以下のような事例は資金使途違反とみなされます

  • 生活費に流用
  • 有価証券を購入
  • ほかの人への転貸資金として使用
  • 設備資金の融資実行前に設備を購入
  • ほかの金融機関への返済資金にあてる
  • 設備資金を運転資金として使う

信用保証付き融資を受けた場合、資金使途違反が発覚すると今後の保証が受けられなくなります。したがって、現在の借入金を返済しない限り信用保証付き融資が利用できない事態に陥ります。

融資のときに発行される契約書を十分に読み、資金使途違反にならないように気をつけましょう。

個人事業主が融資で審査されるポイント

個人事業主が、金融機関への融資申込時に審査されるポイントについて解説します。

  • 返済能力
  • 事業計画の実現性
  • 自己資金額
  • 資金の使い道
  • 融資希望額の妥当性
  • 信用情報

審査のポイントをあらかじめ押さえておき、審査通過率を少しでも上げるように工夫しましょう。

返済能力

融資審査で個人事業主は、返済能力があるかどうかをチェックされます。審査で返済能力の有無が確認されるポイントは、以下の通りです。

  • 所得額
  • 事業計画・資金計画・返済計画
  • 自己資金額

開業資金以外の場合は、個人事業主の所得額が返済能力の審査で重視されます。所得額から税金・国民健康保険料が算出され、残りの金額が生活費と返済原資になるからです。つまり、個人事業主が融資を受けたいなら生活費を上回る利益を上げている必要があります。

現在の事業が赤字の場合は、実現性が高く堅実な事業計画書が提出できなければ融資審査の通過は困難です。経営状態・財務状況が悪い場合は、ファクタリングの利用を検討しましょう。

事業計画の実現性

事業計画の実現性も、融資審査において重要視されるポイントです。

事業計画は夢・想い・将来性より、堅実に売上が上がる根拠を明示するなどの実現性が重視されます。たとえば、金融機関は店舗1坪あたりの売上の相場を業種ごとに把握しています。そのため、実現性のない事業計画を提出すると分析力・計画力が疑われるため審査通過は困難です。

自分の想いや夢よりも、堅実性・実現性を重視した事業計画を作成しましょう

自己資金額

融資の審査では、個人事業主が準備している自己資金額がポイントとなります。創業融資は、自己資金の額が多ければ多いほど審査に通過する可能性が高くなります。

自己資金とは自分で自由に動かせるお金で、家族・知人などからの借入はカウントされません

融資を申し込むときの自己資金は、一般的には開業資金の3割ほどが目安です。たとえば、日本政策金融公庫の「2022年度新規開業実態調査」によれば、開業資金に占める自己資金の割合は21%~23%でした。自己資金は最低限ではなく、余裕を持った金額を準備しておくのが望ましいため3割が目安となります。

また、自己資金が3割というもう1つの理由は、自己資金の3倍~4倍までしか融資が下りないケースが多いからです。十分な融資を受けるためには、あらかじめ開業資金の3割以上の自己資金を用意しましょう。

資金の使い道

資金使途は、融資の審査で必ず確認されるポイントです。資金使途とは借入したお金の使い道で、開業資金・設備資金・運転資金などに大別されます。

融資審査では、資金使途について仕入れ先・発注先の見積書での具体的な説明が求められます。たとえば、飲食店を開くなら以下のような開業資金・設備費・運転資金の見積書が必要です。

  • 店舗の契約金
  • 内装工事費
  • 厨房設備費
  • テーブル・椅子などの購入費
  • 人件費
  • 家賃
  • 広告費

なお、運転資金の融資審査は個人事業主にとって非常に高いハードルです。運転資金の融資が必要な状況とは、赤字に陥っており生活費が捻出できないような場合です。赤字補填資金として融資を希望するなら、黒字化の見通しや根拠について徹底的に説明が求められます。

運転資金不足に陥る状況では、融資よりファクタリングの利用がおすすめです。

融資希望額の妥当性

個人事業主が融資審査を受けるとき、融資希望額の妥当性が厳しくチェックされます。

多めに融資額を希望する個人事業主は少なくありませんが、妥当性のない金額の申請はおすすめできません。金融機関側から妥当性がないと判断されると、審査結果に悪影響を及ぼすからです。事業計画に基づいて綿密に積み上げた金額を、融資希望額として提出するのが望ましいです。

なお、融資希望額に見合った自己資金があるかどうかもチェックされます。たとえば、日本政策金融公庫・銀行・信用金庫では自己資金額の3倍~4倍が実際に借入できる金額の目安です。

信用情報

個人事業主は信用情報に事故情報が登録されていると、融資審査に悪影響があるので注意が必要です。

信用情報とはクレジットカード・ローンなどの取引情報で、申し込み・借入・返済などの取引事実が登録されます。信用情報に以下の取引事実が登録されるのを、事故情報と呼びます。

  • 一定期間以上の滞納
  • 未返済
  • 自己破産
  • 債務整理

事故情報は登録されると5年~10年は削除されず、キャッシング・クレジットカード申し込み・融資審査などに影響します。個人事業主が信用情報に不安があるなら、融資に申し込む前に開示請求で確認してみましょう。

信用情報機関は以下の3つで、それぞれリンクから開示請求ページに移動できます。

信用情報に事故情報が登録されており、融資が受けられないならファクタリング・助成金・補助金の利用がおすすめです。

金融機関からの融資・借入以外で個人事業主が資金調達する方法5選

金融機関からの融資・借入以外で、個人事業主が資金調達する方法を解説します。

  • ファクタリング | 売掛債権を売却して最短即日で資金調達
  • クラウドファンディング | リスクゼロで資金調達できる可能性が高い
  • 助成金・補助金・支援金 | 返済の必要がなく事業をはじめる資金にぴったり
  • 生命保険の解約・契約者貸付制度 | 審査なし・返済期限なしで資金調達が可能
  • 家族・知人からの借入 | 返済計画を立てて借用書を残そう

それぞれの特徴を把握し、自分が利用できそうな資金調達方法を検討しましょう。

ファクタリング | 売掛債権を売却して最短即日で資金調達

ファクタリングとは売掛債権をファクタリング会社に売却し、手数料が差し引かれた金額を資金調達できる仕組みです。ファクタリングのメリットは以下の通りです。

  • 最短数時間~即日で資金調達できる
  • 経営状態・財務状況が悪くても審査の通過が可能
  • 売掛先が倒産して売掛債権が未回収でも弁済義務がない
  • 2社間ファクタリングなら売掛先に利用を知られない
  • 担保・保証人が不要

ファクタリングは売掛先の信用力を重視するため、利用者の経営状態・財務状況が悪くても審査の通過が可能です。特に、売掛金が直接ファクタリング会社に入金される3社間ファクタリングなら、利用者の経営状態・財務状況はほぼ審査対象外です。

また、売掛先が倒産して売掛債権が未回収になっても、利用者はファクタリング会社に弁済する必要がありません。

ファクタリングには、2社間ファクタリング・3社間ファクタリングの2種類があります。2社間ファクタリング・3社間ファクタリングの特徴・メリット・デメリットは、以下の通りです。

ファクタリング形態 特徴 メリット デメリット
2社間ファクタリング
  • 利用者・ファクタリング会社で契約を締結
  • 売掛金は利用者が回収してファクタリング会社に入金
  • 最短数時間~即日で資金調達できる
  • 売掛先にファクタリングの利用を知られない
  • 3社間ファクタリングより手数料が高い
3社間ファクタリング
  • 利用者・ファクタリング会社・売掛先で契約を締結
  • 売掛金は売掛先が直接ファクタリング会社に入金
  • 2社間ファクタリングより手数料が低い
  • 資金調達に数日~1週間ほどかかる
  • ファクタリングを利用する承諾を売掛先から得る必要がある

ファクタリングの手数料相場は以下のようになっています。

ファクタリングの種類 手数料相場
2社間ファクタリング(面談あり) 10%~20%
2社間ファクタリング(オンライン) 2%~12%
3社間ファクタリング 1%~9%

資金調達スピードと手数料の低さを両立させるなら、オンラインファクタリングがおすすめです。

クラウドファンディング | リスクゼロで資金調達できる可能性が高い

クラウドファンディングとは、群衆(Crowd)と資金調達(Funding)を組み合わせた造語です。インターネットを通して自分の商品・サービス・事業内容を発信し、応援したいと思った人から資金を募る仕組みです。

クラウドファンディングのメリットは、以下の通りです。

  • 個人事業主でも気軽に資金調達ができる
  • 商品・サービスのテストマーケティングになる
  • 実績がなくてもチャレンジが可能
  • ほかの資金調達方法のような審査がない

クラウドファンディングが利用できる大手プラットフォームは、以下の通りです。

Webサイト名 特徴
Makuake(マクアケ)
  • 展開する新商品・サービスに先行的に代金が支払われる
  • 大手なので集客効果が高い
  • マーケティング機能が豊富
CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
  • プロジェクトの掲載費が一切かからない
  • 取り扱いジャンルが豊富
  • サポート・独自の保証制度が充実
READYFOR(レディーフォー)
  • プロジェクトの掲載は無料
  • 購入型・寄付型の2種類に対応
  • サポート体制が整っており初心者でも安心

クラウドファンディングはコストがかからず、リスクもほぼゼロではじめられます。時間に余裕があるなら、一度はチャレンジして欲しいおすすめの資金調達方法です。

助成金・補助金・支援金 | 返済の必要がなく事業をはじめる資金にぴったり

助成金・補助金・支援金は、政府・地方自治体から申請者に給付されるお金です。厚生労働省・経済産業省・自治体が主に管轄しており、災害支援・事業不振のサポート・雇用創出・地域への貢献などの目的で給付されます。

助成金・補助金・支援金ごとに設定されている要件を満たし、審査に通過すると給付されます。助成金・補助金・支援金のメリットは以下の通りです。

  • 返済の必要がない
  • 社会的な信用が得られる

助成金・補助金・支援金は、基本的に返済の必要がない点が大きなメリットです。また、厚生労働省・経済産業省・自治体などの受給要件をクリアしないと受給できません。そのため、雇用・育成・地域へ貢献している事業者として社会的信用を得られます。

個人事業主が開業時に利用できる主な助成金・補助金・支援金は、以下の通りです。

名称 対象 要件
地域雇用開発助成金 雇用保険加入事業者(個人事業主・中小企業) 特定の地域に雇用保険適用事業所を設置し、従業員を雇用
創業促進補助金(自治体ごとに名称が異なる) 新規事業をはじめる事業者 自治体によって異なる
IT導入補助金 小規模事業者・個人事業主 生産性向上を目的としたITツール導入で支給
起業支援金 個人事業主・法人 都市圏以外の地域で社会的事業を起業

そのほかにも、人材開発支援助成金・事業再構築補助金・小規模事業者持続化補助金などさまざまな助成金・補助金・支援金があります。要件を満たせる助成金・補助金・支援金がないか、厚生労働省・経済産業省・自治体などの公式サイトから確認しましょう。

生命保険の解約・契約者貸付制度 | 審査なし・返済期限なしで資金調達が可能

生命保険の解約や契約者貸付制度なら、個人事業主でも簡単に資金調達ができます

生命保険の解約によって得られるのは、これまでに積み立てた保険料の一部である解約返戻金です。ただし、生命保険を解約すると加入していた保障がなくなるため注意が必要です。

契約者貸付制度とは、契約している生命保険からお金を借入できる制度です。契約者がいままでに積み立ててきた解約返戻金のうち、70%~90%を借入できます。融資限度額は生命保険会社によって異なるため、手続き前に問い合わせて確認しておきましょう。

契約者貸付制度のメリットは、以下の通りです。

  • 生命保険の解約が不要
  • 金利相場が4%~8%と、ビジネスローンなどと比較して低い
  • 審査がない
  • 返済期限の設定がない

生命保険の契約者貸付制度は解約払戻金の中から融資するため、審査・返済期限の設定がありません。仮に返済しないまま満期を迎えても、借入金と利息が満期額から引かれて支払われます。

家族・知人からの借入 | 返済計画を立てて借用書を残そう

個人事業主が開業資金を用意するために、家族・知人から借入するケースは珍しくありません。日本政策金融公庫の「2022年度新規開業実態調査」によれば、事業者は開業資金の約7%を家族・知人からの借入で調達しています。

ただし、家族・知人からの借入でも借用書を用意し、返済計画について提示しましょう。借用書は無用なトラブルを避ける効果があるだけでなく、贈与税の発生を防げます。借用書がない場合、贈与とみなされて贈与税の納税義務が発生する可能性がありますので注意してください。

個人事業主の資金調達に関するよくある質問

個人事業主の資金調達に関するよくある質問を解説します。

  • 資本金という会計項目は個人事業主にもある?
  • 個人事業主の資金調達の相談先は税理士以外にどこかある?
  • 新型コロナの影響を受けた個人事業主向けの融資はある?

あらかじめ疑問を解消しておき、トラブルを回避してスムーズに資金調達をしましょう。

資本金という会計項目は個人事業主にもある?

個人事業主の会計で、資本金という会計項目はありません

法人登記時に必要となる開業資金が資本金ですが、登記が不要の個人事業主には同様の概念がありません。個人事業主は資本金の代わりに、開業資金を元入金という会計項目に計上します。

資本金は増資・減資以外で変化しませんが、元入金は個人事業主の出資・利益が合計されるため年ごとに変動します

個人事業主の資金調達の相談先は税理士以外にどこかある?

個人事業主は資金調達で悩んでいるなら、以下の相談先を検討しましょう。

よろず支援拠点は、政府が設置した中小企業・小規模事業者からの経営相談に対応した無料相談所です。都道府県等中小企業支援センターとは、都道府県と政令指定都市に設置された中小企業・小規模事業者向けのサポートセンターです。

よろず支援拠点・日本政策金融公庫・都道府県等中小企業支援センター・商工会議所は、すべて無料相談できます。資金調達の無料相談が必要なら、自分の拠点に近い相談先をインターネットで確認してみましょう。

新型コロナの影響を受けた個人事業主向けの融資はある?

新型コロナの影響を受けた個人事業主向けの融資制度は、以下の通りです。

新型コロナウイルス感染症特別貸付は、コロナ禍で売上が減少した事業者向けの融資制度です。未だにコロナ禍の影響がある業界は、低利で最大8,000万円の融資が受けられるためチェックしておきましょう。

セーフティネット保証4号は、自然災害などで売上が減少した事業者が信用保証付き融資を受けられる制度です。コロナ禍以外にも対応しているため、自然災害で被害を受けたときは利用を検討しましょう。

個人事業主は資金使途にあわせて最適な資金調達方法を選ぼう

個人事業主は法人と比較して信用力が低いため、資金調達は簡単ではありません。しかし、日本政策金融公庫・制度融資・信用金庫・地方銀行なら、開業資金を含めた個人事業主向け融資を積極的に行っています。

今回の記事では、個人事業主が資金調達するポイント・注意点・最低条件・資金調達方法についてまとめました。くわえて、融資で審査されるポイントや借入以外の資金調達方法についても解説しました。

多様な資金調達方法を把握しておけば、状況・資金使途・調達希望額にあわせて最適な選択肢を選べます。それぞれの特徴を理解し、自分に最適な方法を選んで事業のための資金調達を実現しましょう。