会社が事業を継続するうえで大きなリスクとなるのが、手形取引での不渡りです。

手形や小切手を振り出した事業者が不渡りを起こすと、会社の信用低下や取引停止に陥るおそれがあります。最悪の場合は事業の継続が困難になり、倒産にまで至るケースも考えられるため細心の注意が必要です。

本記事では、不渡りの意味・種類・会社に与える影響をわかりやすく解説します。今回の記事を読めば、不渡りの仕組みとともに回避方法がわかります。

手形取引を利用する事業者は本記事を参考に、不渡りを回避して事業の継続を目指しましょう。

不渡りとは

不渡りとは、手形の支払期日や小切手の呈示の際に決済不能となる状態です。呈示とは、小切手などの所持者が振出人に対して支払請求のために証券を差し出すことです。

手形や小切手の発行側に、金額分の支払い能力が不足していた場合に不渡りが起こります。手形とはビジネス上の取引で現金に代わる決済手段として、支払いを先延ばしして資金繰りに活用できる有価証券の一種です。

小切手も手形と同様に現金の代わりに決済に用いられ、一定の金額の支払いが約束される有価証券として活用されます。当座預金の口座にお金を預けて小切手が振り出されると、小切手を引き換えに現金が支払われる仕組みです。

手形と小切手は似た有価証券ですが、前者は支払期日以降にしか現金化できず後者は呈示期間にいつでも換金できるのが違いです。呈示期間とは受取人が金融機関に対して換金を請求できる期間であり、原則振出日の翌日から10日間で設定されます。

手形や小切手での取引において、会社の資金が不足して支払い不能となるのが不渡りです。

不渡りの種類

不渡りは発生原因・状態・処分の違いによって、以下の3通りの種類があります。

  • 0号不渡り
  • 1号不渡り
  • 2号不渡り

不渡りの種類によって異なる対処が必要なため、予備知識として適切に押さえておきましょう。

0号不渡り

0号不渡りとは、手形や小切手の振り出した側に責任がない場合の不渡りです。

0号不渡りは振出人の信用が原因ではないため、金融機関から不渡届が発行されず「銀行取引停止処分」にも該当しません。

0号不渡りが起こる原因として、以下の例が挙げられます。

  • 決済日以前の換金
  • 手形の誤植や不備
  • 換金可能な呈示期間の超過

振出人の責任ではなく、上記の例のとおり手形や小切手に形式上の不備がある場合に発生します。自分が振出人だった場合、0号不渡りが出ても特に対処をする必要はありません。

1号不渡り

1号不渡りとは、口座の残高や取引がない状態を原因に発生する不渡りです。

手形や小切手は、銀行口座の残高が不足していると期日までの支払いを完了できません。また、口座の解約などによって銀行取引が終了していると同様に支払いが不能です。

1号不渡りの原因として、振出人の信用に関わる以下の例が挙げられます。

  • 口座の残高不足
  • 支払い先の金融機関との取引がない

0号不渡りとは異なり、1号不渡りを起こすと信用問題に発展しかねません。6ヶ月のうちに2度の1号不渡りが発生すると、「銀行取引停止処分」が下されます。

ほかの不渡りと比べて1号不渡りは会社の信用低下に関わるため、取引停止や倒産など事業への影響が甚大となります。

2号不渡り

0号不渡りと1号不渡りのどちらにも該当しないケースが「2号不渡り」です。

2号不渡りが起こる原因として、以下の例が挙げられます。

  • 手形の偽造
  • 手形の盗難
  • 納品されないなどの契約不履行

2号不渡りの場合も、1号不渡りと同様に金融機関から不渡届が発行されます。不渡届とは手形や小切手が不渡りの状態に陥った場合、手形交換所に対して金融機関から発行される書類です。

一方、2号不渡りは1号不渡りのように振出人の残高不足が原因とならないため、処分への異議申立てが可能です。

異議申立て後に預託金として手形金額を手形交換所へ支払えば、処分の猶予を受けられます。また、偽造や盗難の場合は、預託金の代わりに証拠資料の提出で猶予が可能です。

振出人の残高不足を原因としない2号不渡りでも不渡りの処分を受けるため、放置せず異議申立てや猶予といった対応を行いましょう。

不渡りが起こる流れ

不渡りが起こると銀行取引停止処分が下され、最悪のケースでは実質的な倒産に追い込まれるおそれがあります。

不渡りを出した際の流れは、以下の順で進められます。

  1. 不渡届の発行と不渡報告の通知
  2. 1回目の不渡りで融資取引の継続が困難になる
  3. 2回目の不渡りで銀行取引停止処分が勧告される

実際に不渡りが起こった際の処分までの流れを、それぞれ理解しておきましょう。

1.不渡届の発行と不渡報告の通知

不渡りが発生すると、金融機関が「不渡届」を発行して手形交換所に送付します。その後、不渡届を受領した手形交換所が「不渡報告」として各金融機関に通知を行う流れです。

不渡り発生後に企業の信用低下が起こるのは、不渡り処分や不渡報告を受けた金融機関の対応が変化するためです。

2.1回目の不渡りで融資取引の継続困難

1回目の不渡りによって、金融機関との融資取引の継続が困難になります。

不渡りを起こした振出人は「不渡り処分」を受け、不渡り報告に掲載されます。処分を受けるだけでなく加盟の金融機関に通知されるため、不渡りの事実が知れ渡るのは避けようがありません。たった一度の不渡りでも、金融機関から事業者への信用は一気に落ち込んでしまうため、継続中の融資取引が台無しになってしまいます。

3.2回目の不渡りで銀行取引停止処分の勧告

2回目の不渡りを起こしてしまうと、最終的に銀行取引停止処分が勧告されます。

半年のうちに2回目の不渡りで銀行取引停止処分が下されると定められており、銀行取引がすべて停止されてしまいます。

また、銀行取引停止処分は停止日から2年間継続されるため、当分の間は取引の再開が見込めません。事業者が銀行取引停止の状態で事業を継続するのは非常に難しいため、最悪のケースでは倒産に至ります。

不渡りを出した企業はどうなる?

不渡りを出した企業は、以下の3つの影響を受ける可能性が高くなります。

  • 金融機関からの信用低下
  • 受取人が資金を回収できなくなる
  • 不渡りが2回で銀行取引の停止

不渡りによる影響は取引や企業自体の信用にまで及ぶため、注意が必要です。不渡りによる深刻な影響を十分に理解し、手形・小切手の管理を徹底しましょう。

金融機関からの信用低下

企業が一度でも不渡りを発生させると、金融機関からの信用力を大きく落としてしまいます。

不渡りが企業の信用力低下につながるのは、手形交換所規則で定められている「不渡り処分」が下されるためです。手形交換所には大半の金融機関が加入しているため、不渡り処分は全国に知れ渡ってしまいます。

これまでの銀行取引での信用を、不渡りによって一気に低下させるリスクがある点を理解しておく必要があります。

受取人が資金を回収できなくなる

手形や小切手が不渡りになると、受取人が資金を回収できなくなってしまいます。

不渡りの手形や小切手を銀行に持参しても、現金化してもらえません。不渡りで無効化した手形や小切手は「不渡手形」と呼ばれ、不渡付箋が貼られて依頼人のもとに返送されます。

手形取引が発生する場合は、信用状況が悪化した取引相手だと資金回収のリスクが高まる点を理解して行わなければなりません。

2回の不渡りで銀行取引の停止

企業が6ヶ月以内の間で2回の不渡りを起こすと、銀行取引の停止に追い込まれます。

不渡りが起こると、金融機関とのあらゆる取引が不可能となる「銀行取引停止処分」が下されるためです。

銀行取引停止処分は一度受けると取引停止日から2年間にわたって継続されるため、融資の利用が極めて難しくなります。融資を止められると会社にとっては資金繰りが安定せず、結果的に事業の継続ができずに倒産を引き起こす結末になりかねません。

事業を健全に継続するためにも、資金管理を徹底して不渡りを起こさないように注意が必要です。

不渡りの回避方法5選

不渡りの発生を回避する方法として、以下の5通りが挙げられます。

  • 手形取引を利用しない
  • 手形の支払い延期
  • 過振り
  • ファクタリングでの資金回収
  • 不渡り発生前なら銀行融資やビジネスローンを利用

支払い延期や過振りに加えて、不渡りの回避方法としてファクタリングなどの資金調達を選択肢に持っておき、自社の信用低下を防ぎましょう。

手形取引を利用しない

不渡りを起こさないためには、そもそも手形取引を利用しないのが有効です。

インターネットでの決済が普及している現在は、従来のように手形取引が主流ではありません。約束手形の交換高はピークだった1990年時点で4,797兆2,906億円であるのに対して、2020年は134兆2,534億円とわずか3%にまで減少しています。また、経済産業省は2026年を目安に約束手形の利用廃止を求める方針を示しています。

期日での支払いが行われる手形取引ではなく、ネットバンキングであれば即日での決済が可能です。手形取引を避ければ必然的に不渡りは起こり得ないため、自社の信用低下を防止するにはまず利用を回避するのが最善です。

手形に代わる手段として、金融庁は「でんさい」と呼ばれる電子記録債権を推進しています。電子記録債権とは、手形や売掛債権の欠点を克服した金銭債権です。電子記録債権の利用により、手形で発生していた事務負担の軽減やコストの削減が可能な点がメリットです。

国の方針として約束手形の廃止を目指しているため、電子記録債権の利用を検討しましょう。

手形の支払い延期

手形の支払いを延期すれば、不渡りを回避できる「手形のジャンプ」と呼ばれる回避方法があります。

支払い期日を延期するには、受取人から承諾を得て新しく期日を延期した手形を発行します。

しかし、支払い延期を図るためには当然ながら手形の所有者からの了承を得る必要があります。特に手形の支払い延期は受取人にとっては回収不能な可能性を高めるため、合意を得るのが難しい場合が多いです。

手形の支払い延期を考慮する際は、一時的な資金不足を理由にまず受取人に相談を持ちかけてみましょう。

過振り

応急処置として、金融機関の「過振り」を利用して不渡りを回避可能です。

過振りとは、当座預金の残高を上回る手形や小切手に対して、一時的に金融機関が支払いを立て替える措置です。金融機関からの信用力などを認められれば、過振りによる立て替え払いが実施されます。

過振りによって不渡りを回避しつつ、一時的な資金繰りの改善を実現しましょう。

ファクタリングでの資金回収

ファクタリングサービスを利用した資金回収によって、不渡りを回避可能です。

自社の保有する売掛債権を売却し、現金化する調達方法を「ファクタリング」と呼びます。

ファクタリングを利用すれば、手形や小切手に必要な支払い分の資金を決済期日前に調達可能です。また、ファクタリングは融資と比較して審査時間が短く、最短数十分~即日で申し込みから入金まで完了します。

一方で、ファクタリングサービスはほかの方法より資金調達コストが割高なため、費用負担が大きくなりすぎないようコスト管理にも注意しましょう。

ファクタリングサービスを探すなら、簡単な比較や情報収集が魅力の「ファクタリング会社の口コミ」がおすすめです。多数のファクタリング会社の中から最適な利用先を選んで、不渡りに備えた資金回収を実現しましょう。

不渡り発生前なら銀行融資やビジネスローンを利用

不渡りが起きて銀行取引停止処分になる前の段階であれば、銀行融資やビジネスローンで資金を調達できる可能性があります。

資金調達方法を選ぶポイントとして、手形の支払期日までにどれくらいの時間的余裕があるかを検討しましょう。資金調達方法によって、現金化までに即日の場合もあれば2週間程度の期間を要する場合もあるためです。

支払期日まで1週間未満など可能な限り迅速な資金捻出が必要な場合は、即日で調達できるビジネスローンがおすすめです。その反面、支払期日までに2週間以上の余裕がある場合は、融資実行までに時間がかかる銀行融資なども利用できます。

銀行融資の場合は金利が2%程度と、ファクタリングと比べてもコストを抑えて資金調達できる点もメリットです。ただし、ファクタリングとは異なり銀行融資やビジネスローンは信用状況が審査されます。財務状況が悪化している事業者にとっては審査が厳格な銀行融資を受けられない可能性もあるため、自社に見合った方法を選択しましょう。

不渡りを出さないよう資金管理に注意しよう

本記事では、手形や小切手で起こる不渡りの意味や種類、会社に与える影響などをわかりやすくご紹介しました。

口座の残高不足などにより手形や小切手の不渡りを起こすと、会社の信用が著しく下落してしまいます。不渡りの種類の中でも、1号不渡りは会社の信用に大きな悪影響を及ぼすため、回避しなければなりません。会社の信用低下に伴って融資取引が停止され、事業の継続は非常に困難となり、倒産状態に陥る可能性が高くなります。

廃業のリスクが高まる不渡りを避けるためにも、安定した資金繰りやキャッシュフローの改善には資金管理の徹底が必要不可欠です。

手形取引は不渡りを引き起こすリスクがある点を理解し、あらかじめ対策や回避する手立てを取れるように実践しましょう。