ファクタリングが「偽装ファクタリングでは?」と指摘される場面は少なくありません。
ファクタリングについて、我が国では法律の整備がほとんど進んでいないこと、またファクタリングの認知が遅れていることなどから、「違法行為」と指摘される似非ファクタリング行為が多いのは事実です。
しかし、ファクタリング自体は合法な行為です。
民法では債権の譲渡は認められており、売買契約によって譲渡されたファクタリングは基本的に違法ではありません。
しかし、法律の抜け穴を利用して、ファクタリングを偽装した違法なファクタリングである「偽装ファクタリング」と判断されかねない取引を行っている業者が存在するのは事実です。
そして偽装ファクタリングに引っかかってしまうと、利用した業者は大きく金銭的な損失を被ることになってしまいます。
この記事では偽装ファクタリングが疑われる取引を判例から考えていきます。
ファクタリングは合法な業者取引すれば自社の資金繰りに寄与します。
偽装ファクタリングについて理解を深め、悪徳業者に引っかからないようになりましょう。
偽装ファクタリングとは何か?
偽装ファクタリングとは、簡単に言えば「実質的には金融取引であるにも関わらず、ファクタリングと称してリスクプレミアム以上の金利が設定された貸付」のことをさします。
偽装ファクタリングの定義について、まずはしっかりと理解していきましょう。
偽装ファクタリングは貸付と判断される
ファクタリングは、どんな場合に偽装ファクタリングと判断されるのでしょうか?
偽装(ぎそう)ファクタリングとは「ファクタリングを装った」という意味です。
似非(えせ)ファクタリングとは「ファクタリング似ているけれど異なる」という意味です。
つまり、「似ているけれどもファクタリングを装った、実質的には貸付と判断されるような取引」が偽装ファクタリングに該当するのです。
貸付である限りは利息制限法を遵守しなければなりません。
しかし、悪徳業者は「貸付ではなくファクタリングだから手数料は利息制限法の上限金利よりも高くなる」との理屈で高額な手数料を設定し、実際には貸付と変わらないような内容の取引を行います。
ファクタリングと称して利息制限法を超える金利を設定し、「実際には貸付と判断される行為を行なっている」のが偽装ファクタリングの定義と言えるでしょう。
偽装ファクタリングが利息制限法に抵触するのはなぜ?
ファクタリングとは売掛債権の譲渡、つまり手数料を支払って売掛金を売却するのがファクタリングです。
つまりファクタリングは債権の売買取引(資産取引)であり、金利を付けて返済を行う貸付(負債取引)とは本質的に異なるものです。
では、なぜ偽装ファクタリングに利息制限法が適用されるのでしょうか。
ここでは、本質的に異なものの「ファクタリング手数料」と「貸付金利」を同列に扱う事でわかりやすくご説明させていただきます。
ファクタリングでは、ノンリコース(売掛債権がデフォルトしても企業に支払い責任が発生しない)を前提に取引が行われます。
ファクタリングに、貸付金利の上限である利息制限法を超過する手数料を設定することが認められているのは、売掛債権をそのデフォルトリスクを含めてファクタリング会社が買い取っていることに対するリスクプレミアムが含まれているからです。
簡単に言えば、売掛金の買取に伴うすべてのリスクも買い取っているからこそ、貸付金利より高い手数料を設定することができるのです。
では、どんな取引が「偽造ファクタリング」つまり「貸付」として扱われるのでしょうか。
それは、ファクタリング会社が買い取った売掛金について、債券保全を取るかどうかということにつきます。
※債権保全とは、債権を確実に回収するための施策のこと
例えば、債権が支払われない場合に買戻し特約などがあるケースを考えてみましょう。
この場合、偽装ファクタリング業者は、債権が支払われた場合はその手数料を手に入れ、支払われなかった場合はファクタリング利用者にその買戻しを要求します。
契約時には一見リスクを負っているようですが、リスクプレミアムを受け取っているにもかかわらず、支払われなかった場合のリスクをファクタリング利用者に被せることでリスク回避をしています。
偽装ファクタリング業者が「リスクを回避する方法=債権の保全を取る方法」は、その他にも複数ありどれも巧妙で、一見だけではなかなかわからないことがあります。
この偽装ファクタリングについては、欧米圏の判例でも、債権の保全を取ったファクタリング契約は貸付と考えられるという判例が出ています。
こうしたことを踏まえ、しっかりと業者を見極める必要があります。
※ここで混同のないように、金利と手数料の違いについてご説明します。
- 貸付の金利=お金を貸し出している間、その経過時間に対して発生する対価
(金銭消費貸借契約=貸金) - ファクタリング手数料=買取対象となる未払い債権のリスクプレミアムとして売買1回につき1度だけ発生する対価
(債権譲渡契約=売買)
両方とも資金調達をするという点から見ると同じように感じられますが、そもそも「お金を借りる」と「債権を売る」という、契約方法に大きな違いがあるのです。
ファクタリングが合法である根拠
ファクタリングは貸付に該当しないのであれば合法な取引です。
そしてファクタリングと貸付の違いは、単に「売掛金を期日前に資金化すること」だけではありません。
ファクタリングは民法第555条(売買契約)第466条、第467条(債権譲渡)を根拠とした売掛債権の売買契約です。
そして手数料は、売掛債権のデフォルトリスクをファクターが背負うことに対するリスクプレミアムとして設定されています。
では、ファクタリングが貸付とどのように異なるのかを詳しく見ていきましょう。
ファクタリングはデフォルトリスクを負うから貸付とは異なる
ファクタリングの最も大きな特徴は、ファクタリングは売掛金のデフォルトリスクも売却するという点です。
ファクタリングでは売掛金を売買しますが、この際に売掛金がデフォルトした際のリスクまでもファクタリング会社が買い取ります。
一方、手形割引や売掛債権担保融資などの売掛債権を担保とした融資では、売掛金がデフォルトした場合の責任は自社が負わなければなりません。
融資を行う金融機関は、もしも売掛債権がデフォルトした場合の責任を債務者へ負わせることによって債権の保全を図っているのです。
ファクタリングでは、売掛債権がデフォルトした時に損失はファクタリング会社が被るため、ファクタリング後には自社に責任は及びません。
売掛債権がデフォルトした場合のリスクを、自社かファクタリング会社のどちらが負うのかという点が貸付とファクタリングの最も大きな違いです。
言い換えるならば、貸付では債権者が債権の保全を行なっているので債権者のリスクが低いが、ファクタリングでは債権の保全を行わないのでファクタリング会社にリスクが大きい、そのためファクタリングはリスクプレミアムとして高額な手数料を設定することができると言えます。
利用会社の倒産・使い込みリスク
2社間ファクタリングでは、売掛金代金を一度自社に支払うため、利用会社が倒産したり、売掛先から払い込まれた代金を他のことに使い込んでしまうリスクもあります。
ファクタリングは債権の保全がないというリスクに加え、納入企業の倒産・使い込みリスクも存在します。
高額な手数料を設定することができるのは、倒産・使い込みリスクのリスクプレミアム分も含まれているからと言えます。
そのため、支払いに遅れた際の違約金などを設定することもファクタリングではできません。
なぜなら、そもそも手数料設定の際に、支払遅延に対するリスクも含まれていると考えられるためです。
上記に該当しないと貸付であると判断される
このように、ファクタリングには貸付にはないリスクをファクタリング会社が背負わなければなりません。
ファクタリンクは貸付では負わなくてもよいリスクを負うからこそ、高額な手数料を設定しても違法性はないと判断されるのです。
融資であれば担保や債務者への償還請求(売掛金がデフォルトした場合に債権者に対して保証すること)などで債権の保全を行いますが、ファクタリングは債権の保全を行いません。
逆に言えば債権の保全を行なったのであれば、それはファクタリングではなく貸付と判断されます。
債権の保全を行い、回収リスクを負わないような取引は、ファクタリング会社が貸付と同じ程度のリスクしか負っていないと判断され実質的には貸付と判断されます。
そして、貸付であるならば利息制限法の上限金利を超える手数料を設定していることに合理性が認められないことになります。
債権の保全を行なっているにも関わらずファクタリングと自称している取引は「偽装ファクタリング」と判断されるのです。
偽装ファクタリングの違法性
偽装ファクタリングは利息制限法違反や貸金業法違反に該当する可能性があります。
貸付と看做される取引を行なっていたのにも関わらず、利息制限法を超えるような高金利でファクタリングを行なっていた場合には利息制限法違反となり、過払金の支払い義務が発生する可能性があります。
また、ファクタリングが実質的な融資であるならば、貸付を行なった業者は貸金業者として登録をせずに営業をしていたことになり無登録営業ということになります。
そして無登録営業は貸金業法違反になります。
過去には実際に偽装ファクタリングと判断された事例で利息制限法違反となり、過払金の返還を命じられた判例があります。
以下、判例から具体的にどのような事例が偽装ファクタリングとして認定される可能性が高いのかについて解説していきたいと思います。
利息制限法違反で偽装ファクタリングになった判例
ファクタリングが利息制限法で違反となった事例として、平成29年3月3日判決の判例があまりにも有名です。
この判例では、被告・原告間の取引が「形式上のファクタリング」であるものの、実質的には貸付契約であると判断され、偽装ファクタリング会社が受け取った手数料のうち、利息制限法の上限利率を超える部分に関しては「過払金」として原告に返還するように命じられました。
この事件の概要は以下の通りです。
- 120万円の売掛金を20万円の手数料を支払って100万円で偽装ファクタリング会社に売却した
- 代金100万円に対して内金として60万円を買取時に支払った
- 残金は売掛金回収後に精算するという契約を締結した
- この取引が繰り返し行われた
ここからは、判例でどのような取引がファクタリングではなく貸付で、貸付の場合には利息制限法を適用しなければならないと判断されたのかについて、具体的に解説していきます。
契約時に一括で代金を支払わない
この事件では、売掛債権売却時に買取代金全額を支払わずに、内金以外のお金は売掛債権回収後に支払うこととしています。
売掛債権の回収を待ってから代金を支払うのであれば、ファクタリング会社が売掛債権の回収リスクを負っているとは到底言えません。
未払い分の回収リスクを負っていないため、債権の保全を行なっています。
仮に、売掛金がデフォルトした場合には、ファクタリング会社は内金の60万円しか損失がないことになり、これでは納入企業も売掛先のデフォルトリスクを大きく負わなければならないことになってしまうので、実質的にはファクタリングではなく、売掛金を担保とした融資と変わらないことになってしまいます。
債権の一部だけ買取対象とした
またこの事例では、偽装ファクタリング会社が希望する金額だけである債権の一部を買取対象としています。
そもそも売掛金は分割することができないため、売掛金を差し押さえる時には、売掛債権全額を差し押さえることになります。
やはり、偽装ファクタリング会社の売掛債権の回収リスクが著しく低くなっており、実質的には債権の保全を行なっていた考えられるため、実質的には売掛金を担保にとった貸付であると判断され、偽装ファクタリングと見なされるのです。
利用会社の支払い遅延に対して違約金を支払わせた
さらに、利用会社が2社間ファクタリングの支払期日に支払いを行わなかったことに対して違約金を支払わせたケースでも、貸金行為と判断されて過払金の返還を命じられた判例も存在します。
- 支払日に支払いを怠った場合には違約金が発生する旨の契約をする
- 支払期日に全額の支払いをさせずに違約金をとり、後日全額支払わせる
2社間ファクタリングでは、支払期日に遅延した場合の違約金を支払わせることも認められていません。
支払遅延のリスクも当初のリスクとしてリスクプレミアムに含まれているはずと判断されるためです。
そのためファクタリングであるにも関わらず違約金を設定した場合にはファクタリングではなく、実質的には売掛金を担保にした融資であるABLを行なっていると判断されて、利息制限法違反となり過払金の返還を命じられる可能性もあります。
手数料とリスクの妥当性
平成29年3月3日の判例では、「ファクタリングの手数料はリスクに見合ったものにしなければならない」と手数料とリスクの妥当性について次のように定義しています。
- 原告・被告間の金銭の授受が、仮に金銭消費貸借契約であれば、被告は利息制限法で定められた制限利率の限度でしか利息を収受することができない
- 債権の売買契約という名において、利息制限法に定められた制限利率による利息を上回る差額を取得するのならば、これを正当化できる事情があるべき。
要するに、利息制限法の上限の金利を超える手数料設定をするのであれば、その利率を正当化できる事情が必要になるということです。
そして、利息制限法を超える手数料を正当化することができる事情というのは、貸付では背負うことができないリスクをファクタリング事業者が背負っているかどうかが判断基準になります。
上記の事例では以下の点で債権の保全を行なっているかリスクプレミアムに見合った取引ではないことになり、ファクタリングではなく実質的な貸付を行なっている偽装ファクタリングと判断することができます。
- 代金の一部しか買取時に支払わない→債権の保全を行なっている
- 売掛債権の一部しか買い取っていない→債権の保全を多なっている
- 支払遅延の違約金が発生した→リスクプレミアムを逸脱している
このような取引を持ちかけてくる業者は偽装ファクタリング業者の可能性が非常に高いと言えます。
くれぐれも取引をしないように注意してください。
偽装(似非)ファクタリングに関するよくある質問
- 売掛先が官公庁の売掛債権に対して20%以上の手数料が設定されるのは偽装ファクタリングですか?
- 手数料はリスクに対するリスクプレミアムとして設定されるので、官公庁という回収リスクがほぼない債権に高額な手数料を設定する行為は偽装ファクタリングの可能性があります。
- 偽装ファクタリング業者を見抜く方法を教えてください。
- ネットの口コミを参考にする、取引形態がおかしい(分割での買取や一部の買取など)場合は偽装ファクタリングの可能性が高いと言えますが、最も確実な方法は複数の業者から相見積をとる方法です。偽装ファクタリング業者だけが手数料が高いはずですので、そのような業者とは取引をしない方が無難です。
- 明らかに貸付であるにも関わらず手数料が高額でした。過払金請求はできますか?
- 自分でも過払金請求はできますが、偽装ファクタリング業者が一般人から請求を受けてもまず相手にしてもらえません。おかしいと思ったら早めに弁護士や司法書士などの専門家へ相談した方がよいでしょう。
まとめ
2社間ファクタリングでは、利息制限法を超える手数料が設定されることが多々あります。
そして、手数料がリスクプレミアムに見合ったものであれば違法性はありません。
しかし、ファクタリング会社が債権の保全を図っている取引の場合には、実質的には売掛金を担保とした融資と同じと判断される可能性が高くなります。
融資である限りは利息制限法を遵守した手数料設定でなければなりません。
つまり、偽装ファクタリングの定義は以下の2点を満たしたものです。
- リスクプレミアムを超える手数料を設定している
- 売掛金の回収リスクをファクタリング会社が負っていない(債権の保全を行なっている)
この2つの条件を満たしたいる業者は偽装ファクタリング業者です。
実際に、偽装ファクタリングによって過払金の返還を命じられている判例もあります。
ファクタリングは国や都道府県への登録も許認可も必要なく、業務を規定した法律もないため、残念ながら偽装ファクタリングの可能性が高い悪徳業者も多数混在しています。
ファクタリングは期日前に売掛債権を資金化することができる、企業の資金繰りに有力な選択になりうるものですが、有効に活用するためには業者選びが非常に重要になります。
守ってくれる法律がない以上は自分の目で安心できる業者を選択するしかありません。
急ぎでお金が必要な時でも、偽装ファクタリング業者に引っかからないよう、業者選びは慎重に行うようにしましょう。