借りたお金を返済するための原資として、資金繰り償還と利益償還という2つの方法があります。
企業の資金繰りの状態が健全かどうかは、「債務を資金繰り償還で返済しているのか」、「利益償還で返済しているのか」を確認すれば一目瞭然です。
この記事では資金繰り償還と利益償還の違いや、債務の償還方法の違いによって企業の資金繰りにどのようなダメージを及ぼすのかということについて詳しく解説していきます。
自社の借金返済の原資が何なのかということは、多くの企業は意識していませんが、資金繰り償還と利益償還の違いを知ることで、償還原資を日頃から意識できるようになりましょう。
利益償還とは
利益償還とは、簡単に言えば借入金の返済を利益から行なっている状態です。
借入金は利益向上の目的で行うものであることから、債務の返済を利益償還できているのであれば企業の資金繰りは健全な状態にあると言えます。
まずは、利益償還について詳しく解説していきます。
借入金の返済を利益から行うこと
利益償還とは借入金の返済を会社の営業活動から生み出した利益から行うことです。
例えば、毎月の返済額10万円の借入金がある会社が、毎月30万円生じる利益の中から借入金の返済を行うことができれば、それは利益償還をしているということになります。
利益なら返済を行うので会社の現金は減らない
利益から借入金の返済を行う利益償還を行うと、会社の現金は減りません。
むしろ、利益の分だけキャッシュが増えていきます。
毎月利益が出ている会社が月10万円ずつ利益する場合の資金の動きは以下のようになります。
利益 | 借入金返済額 | 現金残高 | |
---|---|---|---|
前月繰越額 | ー | ー | 100万円 |
1月 | 30万円 | 10万円 | 120万円 |
2月 | 20万円 | 10万円 | 130万円 |
3月 | 40万円 | 10万円 | 160万円 |
4月 | 15万円 | 10万円 | 165万円 |
このように、借入金の返済を利益償還することができれば、現金の残高は増加して、手元の現金は潤沢になっていきます。
利益償還できているのであれば借入金は問題ない
「借入金=資金繰りを圧迫する」というイメージがありますが、借入金によって必要な設備投資を行うことによって利益が増大することはよくあります。
このような借入金の返済は利益償還となるので、利益から借入金が返済できている状態は極めて健全な状態だといえます。
借入金が全て資金繰りを圧迫するわけではなく、利益償還できているのであれば、その借入金は企業にとってプラスになる借入金であると言えるでしょう。
資金繰り償還とは
一方、資金繰り償還とは利益償還とは対照的に利益以外のお金から債務の返済を行うことです。
本来的な返済原資である利益から返済を行わずに別のお金を使うのですから、資金繰り償還は企業にとって健全な状態とは言えません。
資金繰り償還について詳しく解説していきます。
利益以外の現金から返済を行うこと
資金繰り償還とは利益以外の現金を使用して返済を行うことです。
手元に残してある運転資金などによって返済を行うので、資金繰り償還を行うことによって手元の現金は少なくなり、翌月以降の仕入れなどに使用する現金が無くなってしまいます。
毎月10万円の資金繰り償還をした場合は以下のように現金が減少していきます。
利益 | 借入金返済額 | 現金残高 | |
---|---|---|---|
前月繰越額 | ー | ー | 100万円 |
1月 | 0万円 | 10万円 | 90万円 |
2月 | -10万円 | 10万円 | 70万円 |
3月 | -20万円 | 10万円 | 40万円 |
4月 | 5万円 | 10万円 | 35万円 |
5月 | 0万円 | 10万円 | 25万円 |
6月 | -15万円 | 10万円 | 0万円 |
上記の事例では6月に手元の現金が枯渇してしまったため、7月には仕入れ資金確保のために銀行から借入を行わなければなりません。すると借入金返済額がさらに増えてより一層資金繰りは苦しくなる・・・という悪循環を繰り返すことになってしまいます。
資金繰り償還は危険な状態
資金繰り償還は企業の現金を枯渇させる返済ですので、企業にとっては危険な状態です。
資金繰り償還によって仕入れなどに必要な現金がなくなるので、企業規模もミニマムになっていきますし、新たな資金繰りのために追加で借入をすると返済金が増えるので資金繰りはさらに苦しくなります。
長期の借入金は利益から償還すべきもので、資金繰り償還になってしまうと企業の体力をどんどん奪ってしまうと理解しておきましょう。
借入金の償還原資
利益から返済を行う利益償還であれば健全な借入金だが、資金繰り償還になるのは企業にとって危険
資金繰り償還の3つのリスク
資金繰り償還は企業の資金繰りにとって健全な状態とは言えません。
資金繰り償還を継続していくと、企業にとっては以下の3つのリスクが生じるおそれがあります。
- 仕入れ等に使える現金が少なくなる
- 借入金が増えていく
- 資金ショートのリスクが高い
資金繰り償還が企業に及ぼす3つのリスクについて詳しく解説していきます。
仕入れ等に使える現金が少なくなる
資金繰り償還を行うと、利益以外の企業の内部留保の部分で返済を行うことになります。
例えば、翌月の仕入れ資金として確保しておいた100万円から10万円の資金繰り償還を行なった場合、翌月には90万円しか残りません。
本来であれば100万円分の仕入れ計画のはずですが、90万円分しか仕入れることができなくなってしまうので、売上の規模も必然的に小さくなってしまいます。
翌月も資金繰り償還を行うのであれば、さらに翌々月以降の仕入れ規模は小さくなり、企業経営は少しずつ小さくなってしまいます。
借入金が増えていく
資金繰り償還によって手元の資金が流出し、やがて会社の運転に困窮するようになるとほとんどの企業が外部からの借入を検討します。
手元の資金が不足したからと言って外部からの借入金を行なっても、そもそも資金繰り償還しなければならないほど収益力がないので、新たな借入金もいずれは枯渇します。
すると、また新たない借入をする・・というように、資金繰り償還を繰り返していると、どんどん借入金が増えていき、やがては債務超過に陥ってしまう可能性があります。
資金ショートのリスクが高い
資金繰り償還を行うと手元の資金が足りなくなるので、外部からの借入金に頼らざるを得なくなります。
そして借入金の本数が増えれば毎月の返済金も多くなっていくので、どこかで利益償還に転じることができなければ、さらに資金が枯渇するスピードは早くなり、また次の借入金に手を出さなければなりません。
しかし、銀行も未来永劫お金を貸し続けてくれるわけではありません。
このような会社は銀行からの融資がストップした段階で取引先や従業員や借入金の返済などの支払いができなくなり、資金ショートして倒産してしまう可能性が高くなります。
資金繰りのための借入を行い、さらに資金繰り償還をすると、資金ショートのリスクは加速度的に高まってしまうので、必ずどこからで利益償還に転じる努力をすべきでしょう。
資金繰り償還のリスク
資金の枯渇→借入金の調達→さらに枯渇の速度が早くなる→銀行からの借入がストップしたら資金ショートとなるリスクが非常に高い
設備資金と運転資金の償還方法の違い
資金繰り償還がすべて企業の資金繰りにとって問題なのかといえばそんなことはありません。
設備資金を借りるのか、運転資金を借りるのかによって最適な償還原資は異なります。
どの資金はどんな方法で償還をすべきなのか、詳しく解説していきます。
設備資金は利益償還
設備資金は必ず利益償還で行いましょう。
設備資金は高額な設備導入のための資金を長期間かけて分割で返済する方法です。
また、設備は新たな利益を生み出すという前提条件の元で導入するのですから、そもそも利益を生み出すという見込みでないと銀行から借入をすることはできません。
「Aという設備を導入したら、毎月20万円の利益増加が見込める」という前提の設備導入のための設備資金の返済が毎月10万円であれば利益償還ができるという見込みになります。
設備資金を資金繰り償還するようであれば、その設備投資は完全に失敗ということですので、早急に設備の売却を検討した方がよいでしょう。
バブル期には、銀行に乗せられて必要もない工場などを銀行から融資を受けて建設し、その返済ができずに倒産したという企業が相次ぎましたが、これは設備資金を資金繰り償還した典型的な失敗例だと言えます。
運転資金は資金繰り償還
一方、運転資金の返済は資金繰り償還で問題ありません。
そもそも資金繰り償還とは運転資金を返済に回すことですが、運転資金の借入は将来的な運転資金を前もって借りておくためのものだからです。
例えば、「売上の入金が3ヶ月後になるため、手元に運転資金がない企業が、3ヶ月分の運転資金を期間3ヶ月だけ銀行から借りる」というケースを考えてみましょう。
この借入金の返済は3ヶ月後に入金になる売上から行います。
利益から返済しているわけではないので資金繰り償還となりますが、そもそも運転資金を借りるためのものですので、このケースでは資金繰り償還でも手元にストックしてある現金が減少することにはなりません。
例えば、売上が100万円、運転資金として借りた運転資金が60万円であれば、この会社には借入金を返済しても40万円の利益はしっかりと確保することができます。
短期運転資金の借入は、手元に運転資金があればそもそも借りる必要がなかったお金で、入金が先になるか後になるかという時間的なギャップを埋めているだけですので、資金繰り償還でも問題ありません。
資金繰り償還を避けるために
運転資金では資金繰り償還が行われるとは言え、長期資金の返済においては基本的に利益償還で行われるべきです。
資金繰り償還を避けて、資金繰りの管理を円滑にしていくためにはどのような方法があるでしょうか?
企業の資金繰りを円滑にする方法について詳しく解説していきます。
資金繰り表で日々の資金繰りを管理する
資金繰り償還を避けるためには、日々の資金繰り管理を厳格にすることです。
資金繰り表を必ず作成し、日々の資金繰りを把握しておきましょう。
一般的に借入金の返済をする時には、その償還原資が利益償還なのか資金繰り償還なのじゃということは意識しません。
しかし、資金繰り表を作成しておくことによってその返済が利益からのものなのか、資金繰り償還となってしまっているのかを把握することができるので、できる限り日次で資金繰り表を作成しましょう。
また、いくら忙しくても月次では資金繰り表を作るようにしてください。
据置期間を活用する
設備資金や開業資金を借りる時には据置期間を活用し、資金繰り償還ではなく、利益償還となるように返済計画を立てましょう。
創業間も無くや、設備導入後すぐには利益は出ないのが一般的です。
創業してからしばらくは顧客が少ない状態ですので利益は出しにくいですし、設備導入後しばらくは従業員に機械設備などの使い方を教える期間が必要になるので、その設備から利益をすぐに出すことはできません。
そのため、一般的には数ヶ月間の期間を置いて利益が出るようになります。
利益が出るようになるまで据置期間を設けることで、利益から借入金を償還できるようになります。
なお据置期間とは、元本を返済せずに利息だけ支払えばよい期間のことで、例えば2020年1月に据置期間6ヶ月で借入を行なった場合には、元金返済のスタートは6ヶ月後である2020年7月からということになります。
お金を借りた企業とすれば、この6ヶ月の間に営業活動などに専念して、利益が出る体制を構築することで、元金返済が始まる頃には利益償還をすることが可能です。
反対に、据置期間を設けないと、利益を出すことが難しい時期から資金繰り償還をしなければならず、企業の体力はどんどん少なくなっていきます。
創業時や設備投資の際には「いつから利益を出すことができるのか」ということを冷静に検討し、利益を出すことができない期間は据置期間とするうように借入を行いましょう。
利益償還と資金繰り償還に関してよくある質問
- 運転資金と設備資金の借りやすさの違いを教えてください
- 運転資金は企業にとって必要だと客観的に判断でき、現在の決算書や資金繰りの状況から「問題なく返済することができる」と判断できる程度の金額までしか借りることができません。小規模の運転資金であれば、多くの企業が返済可能だと判断されるので審査には比較的簡単に通過できます。
一方、設備資金は当該設備を導入することによってどの程度の利益が見込めるか、設備がもたらす利益から利益償還することができるかという点が重視されます。
そのため、計画に対して融資されるのが設備資金ですので、設備投資の計画性が重視されます。
ただし、設備資金の方が一般的に高額になるので、ある程度規模が大きく収益力がある企業でないと借入をすることは簡単ではありません。
- 運転資金の長期償還を勧められたのですが受けるべきでしょうか?
- 銀行も信用保証協会も運転資金の返済を長期で行うように勧めてくる傾向があります。
信用保証協会が短期資金よりも長期資金を好む傾向がありますし、銀行も長く貸し付けることができる長期資金の方が融資量を多く確保できるためです。
しかし、いくら銀行が勧めるからと言っても基本的に運転資金は長期で借りるべきではありません。
運転資金は3ヶ月先に入金になるのであれば3ヶ月だけ借りて、またお金が足りなくなったら短期資金の借入をするというように、該当する期間に必要な運転資金を該当する期間だけ借りてしまうのがベストです。
どうしても長期しか融資をしてくれない場合を除いて原則的に短期資金で借りるようにしてください。
- 資金繰りが苦しく資金繰り償還しなければなりません。当社は大丈夫でしょうか?
- どうしても資金繰りが苦しいのであれば資金繰り返済はやむを得ません。リーマンショックやコロナ禍などの社会的な不況時には利益ではないストックの部分から資金繰り償還するのは正しい行為ですので、いざという時のためにある程度の内部留保は蓄えておいた方がよいでしょう。
ただし、毎月のように資金繰り償還になり、手元の資金が枯渇し、新たな借入をしなければ会社が回っていかないような状態になってしまうことでは会社の継続性が危ぶまれます。
毎月のように資金繰り償還が続いているのであれば、コストカットなどの経営改善に努めるようにしてください。
まとめ
借入金の返済は返済原資によって利益償還と資金繰り償還に分かれます。
利益から借入金を返済するのが利益償還で、利益償還ができている会社は正常な企業だということができます。
一方、資金繰り償還とは利益以外の資金で借入金を返済することですので、資金繰り償還を行うことによって手元の資金が流出し、経営規模がミニマムになり、場合によっては借金が膨らんでいくのがリスクです。
日頃から収益管理と資金繰り管理を徹底し、長期借入金は利益償還ができるよう徹底してください。
また、資金繰り償還を行なっている企業は早急に経営改善を図るようにしましょう。