年末調整と確定申告はどちらも所得税の過不足を清算する手続きです。
その違いは会社がするか、個人がするかにあります。また受けられる控除についても違いがあります。
会社に勤めていれば多くの場合、年末調整だけでよく確定申告は不要です。
この記事では年末調整と確定申告の違いや両方が必要になるケースについて紹介します。
あわせて確定申告をした方が得になるケースや手続きのやり方についても解説します。
会社からの給与以外に収入があった方やフリーランスで稼いでいる方、年末調整や確定申告について詳しく知りたい方はぜひ最後までお読みください。
年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告の違いは「会社がするか個人がするか」にあります。
年末調整と確定申告はどちらも1年間の所得に対する税金の過不足を清算する手続きです。
ただし年末調整は会社が労働者に代わって税務署へ申告するのに対し、確定申告は個人による税務署への申告が必要です。
他にも対象となる人、控除できる内容にも違いがあります。場合によっては年末調整と確定申告の両方が必要になることもあります。
年末調整と確定申告では受けられる控除が違う
年末調整と確定申告では受けられる控除に違いがあります。
それぞれについて理解して、状況に合わせて所得税を申告することで節税につながります。
以下がは年末調整と確定申告のそれぞれで受けられる控除の一覧です。
受けられる控除 | |
年末調整 |
|
---|---|
確定申告 |
|
寄附金控除にはふるさと納税も含まれるため、確定申告をすることで返礼品を受け取りつつ節税ができます。
またふるさと納税ではワンストップ特例制度を利用することで5自治体以内へのふるさと納税なら確定申告は不要です。
ワンストップ特例制度:ふるさと納税を行った自治体に申請することで確定申告が不要になる制度(上限は5自治体)
住宅借入金等特別控除は住宅ローンとも呼ばれ、1年目に確定申告をすれば2年目以降は会社での年末調整でも控除を受けられます。
年末調整とは
年末調整とは毎月の源泉徴収によって控除された税額と最終的に確定した所得税の過不足を精算するために会社が行う手続きです。
通常、会社に勤めていれば保険料などと同じように所得税が毎月の給料から天引きされます(源泉徴収)。
毎月の天引き額はあくまでも前年の所得に基づいて計算され、その計算には住宅ローン控除などは考慮されていないため、源泉徴収額と実際に納めなければならない所得税にはズレが生じます。このズレを会社に申告して調整するのが年末調整です。
年末調整の結果、所得税を払いすぎていれば還付、不足していれば追加徴収という形で過不足が清算されます。
以降では年末調整に関する次の内容を解説します。
- 年末調整が必要な人と対象外の人は?
- 年末調整と確定申告を両方する人は?
- 年末調整はいつまで?期間とやり方
- 年末調整をしないとどうなる?
年末調整が必要な人と対象外の人は?
年末調整は12月に行うものと年の途中で行うものがあります。
12月に行う年末調整の対象になる人は、会社などに1年を通じて勤務している人や、年の中途で就職し、年末まで勤務している人(青色事業専従者も含む)です。
ただし次の2つの該当する人は対象外となります。
- 1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人
- 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税及び復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
年の途中で行う年末調整の対象となるのは以下の人です。
- 海外支店等に転勤したことにより非居住者となった人
- 死亡によって退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人(退職した後に再就職をし給与を受け取る見込みのある人は除きます。)
- 12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
- いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除きます。)
年の途中に退職した人で、上記の1.~5.に当てはまらない人は年末調整の対象外です。
「年末調整が必要な人は?還付や控除を最大化する方法(内部リンク)」では対象となる人・ならない人の違いに加えて、年末調整の利益を最大限使う方法を解説しています。
年末調整と確定申告を両方する人は?
以下の人は年末調整と確定申告の両方が必要です。
- 複数の勤め先から給与を受け取っている
- 年末調整をしない所得が20万円を超える
- 年末調整でミスがあり、会社から確定申告をするように言われた
また年末調整だけでも問題はないが、確定申告を行うことでお得になるケースもあります。
具体的には以下のケースです。
- 医療費を支払った(医療費控除)
- 災害や盗難などで損害が発生した(雑損控除)
- 6ヶ所以上の自治体にふるさと納税をした
- 住宅ローンの1年目
- 年の途中で退職し、そのまま就職しなかった
- 退職金を受け取ったが「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
- 赤字を出した個人事業主
- 複数の勤め先から源泉徴収を受けている
上記のケースは確定申告をしなくてもペナルティなどはありません。しかし確定申告をすることで還付を受けられるなどの節税効果が得られます。
年末調整はいつまで?期間とやり方
年末調整の期日は1月31日・源泉所得税の納付期限は翌年1月10日です。
しかし1月31日は最終期日であるため、余裕をもって12月末から1月の1週目までに年末調整を終わらせる会社が多いです。
そのため多くの会社では11月中頃から従業員へ書類を配布し、手続きに入る傾向にあります。
年末調整の対象となる人は、勤務先の会社が定めている年末調整書類の提出期限までに年末調整に必要な書類を用意しておきましょう。
年末調整をしないとどうなる?
年末調整は会社の義務です。
年末調整をしないと最悪の場合、脱税として刑事罰に発展することもあります。
労働者への罰則はありませんが、労働者は次のようなデメリットを受ける可能性があります。
- 払い過ぎた税金が還付されない
- 確定申告が必要になり手間がかかる
- 受けられる控除が受けられない
年末調整をしないことによるデメリットについては「年末調整をしないとどうなる?(内部リンク)」で詳しく解説しています。
確定申告とは
確定申告とは1月1日から12月31日までに得た所得と所得税と復興特別所得税を計算し、税務署に申告、過不足を精算する手続きです。
会社が行う年末調整とは違い、税額や控除額の計算を全て自分で行うため手間がかかります。
その代わりに確定申告では年末調整では得られない控除を受けられるのがメリットです。
最近ではfreeeなどの会計ソフトの登場により確定申告は簡略されています。
以降では確定申告に関する次の内容を解説します。
- 確定申告が必要な人と対象外の人は?
- 確定申告はいつまで?期間とやり方
- 確定申告をしないとどうなる?
確定申告が必要な人と対象外の人は?
給与所得がある方で確定申告の対象となるのは以下の人です。
- 給与所得が2,000万円を超える
- 2ヶ所以上から所得があり、源泉徴収されていない所得の合計が20万円を超える
- 災害減免法により徴収猶予や還付を受けた
- 外国公館や家事使用人で源泉徴収されていない
- 退職金を受け取った
- 公的年金を受給している
- その他の各種所得(事業所得や山林所得など)がある
その他にも給与所得がある方以外で確定申告の対象となるのは以下の人です。
- 事業所得のあるフリーランスや個人事業主
- 不動産所得や株取引による所得がある
- 懸賞や競輪、競馬の払戻による一時所得がある
ただし公的年金、その他の各種所得については控除を差し引いて残額がある場合に限ります。
「【2022年版】確定申告とは?必要な人・不要な人、変更点を解説」では確定申告の対象となる条件に加えて、2022年からの変更点について解説しています。
確定申告はいつまで?期間とやり方
確定申告の期限は2月16日から3月15日です。
つまり2020年1月1日から12月31日分の確定申告は2021年2月16日から3月15日の間に行います。
期限に遅れると延滞税などのペナルティを受けることがあるので必ず期限内に行いましょう。
確定申告は以下の手順で行われます。
- 源泉徴収票や控除を受けるのに必要な書類の準備
- 申告書を作成
- 郵送、直接、e-Taxのいずれかで提出
確定申告に必要な申告書は国税庁の公式サイト「確定申告書等作成コーナー」から印刷、作成できます。スマホで完結させたい方はe-Taxがおすすめです。
確定申告をしないとどうなる?
必要に応じて確定申告をしなかった場合、ペナルティを受けることになります。
確定申告をしないことによるペナルティは過少申告課税・無申告課税・延滞税・刑事罰の大きく4種類です。
それぞれのペナルティの詳細や要件については「確定申告をしないとどうなる?(内部リンク)」をご覧ください。
年末調整時によくある2つの控除とは?
住宅ローン控除
住宅ローン控除は正式には「住宅借入金等特別控除」と呼ばれます。
住宅ローンを利用して個人がマイホームの新築や取得、リフォームを行う際に要件を満たすことで、住宅ローンの金額の一部が所得税から控除されます。
年末調整で住宅ローン控除を受けられるのは2年目以降であり、1年目は確定申告が必要です。
控除額は年末時点のローン残高の1%、控除期間は最大10年間です。
2021年12月28日現在、長期化する低金利の影響を受け与党により控除率を0.7%、控除期間を4年間延長する調整が行われています。
住宅ローン控除を受けるためには次の要件を全て満たす必要があります。
新築
- 住宅の取得から6ヶ月以内に居住し、控除を受ける年の12月31日まで引き続き住んでいる
- 取得した住宅の床面性が50平方メートル以上かつ床面積の1/2以上が居住用として使われる
- 住宅ローン控除を受ける年の合計所得が3,000万円以下
- 住宅の取得のために返済期間が10年以上の住宅ローン等(借入金や債務)がある
- 住宅を取得した個人が次の一定の期間で居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例などを受けていない
- 令和2年4月1日以降に譲渡:居住用として利用した年とその前2年間、その後3年間の合計6年間
- 令和2年3月31日以前に譲渡:居住用として利用した年とその前後2年間の合計5年間
中古
- 新築の要件全て
- 取得した中古住宅が次のいずれかに該当する
- 取得した住宅の建築から取得までの期間が20年(耐火建築物なら25年)以下
- 耐震基準をクリアしている
- 上記の2つに該当しない住宅のうち、居住までに耐震改修をを受け、耐震基準をクリアすることが証明されている
- 生計を一緒にする親族や特別な関係者からの取得ではない
- 贈与による取得ではない
リフォーム
- 新築をリフォームに置き換えた新築の要件の1.〜4.
- 居住用の住宅についてのリフォーム
- 次のいずれかに該当するリフォームである
- 増築、改築、建築基準法に規定する大規模
- マンションなどでその人が所有する部分の床や壁について行う
- 居室、調理室、浴室、便所、洗面所、納戸、玄関又は廊下の一室の床または壁の全部について行う
- 安全基準を建築基準法などに適合させる
- 一定のバリアフリー、省エネ改修のため
- リフォームに必要な費用が補助金等などの控除後で100万円以上かつ、半分以上が居住用部分に使われる
生命保険料控除
生命保険に加入している場合、支払った保険料の一部が控除されます。
年末調整の書類と合わせて生命保険会社の発行する「生命保険料控除証明書」を提出することで控除が受けられます。
生命保険料控除には新制度(2012年4月1日以降)と旧制度(2011年3月11日以前)があり、控除の内容や額が異なります。
新制度
控除の対象:生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料
控除を受ける年に支払った保険料 | 控除額 |
---|---|
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
旧制度
控除の対象:生命保険料と旧個人年金保険料
控除を受ける年に支払った保険料 | 控除額 |
---|---|
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,000円超 50,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,000円超 100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
確定申告の具体例4パターン
確定申告をしなければならない具体的な4つのパターンを解説します。
会社からの給与500万円+副業で30万円のサラリーマン
会社からの給与500万円に加えて、副業でWebデザインを行い30万円を稼ぐサラリーマンの例に考えます。
会社からの給与に加えて20万円を超える副収入がある場合、確定申告が必要です。
この場合の確定申告の内訳は給与所得500万円+雑所得30万円となります。
ここから各控除やWebデザインにかかった経費が差し引かれ、確定申告によって所得税の過不足が精算されます。
役員報酬2,200万円を受け取る経営者
役員報酬で年に2,200万円を受け取る経営者の場合は給与所得の確定申告が必要です。
一般の労働者と同じように2,200万円から各控除が差し引かれ、確定申告によって所得税を清算します。
年収が400万円のフリーランス・個人事業主
開業届を提出て、Webライターとして活動する年収400万円のフリーランス・個人事業主を例に考えます。
フリーランスのWebライターとして活動する場合、事業所得として確定申告が必要です。
ここから各控除や経費が差し引かれ、確定申告によって所得税を清算します。
赤字が発生した年があれば青色申告をすることで、最長で3年間赤字を繰り越せます。
ふるさと納税をした
ふるさと納税は住んでいる地域以外の地域に寄付ができる仕組みです。ふるさと納税をすることで所得税や住民税の一部が控除されます。
ふるさと納税における控除額の計算方法は次の通りです。
- 所得税:(ふるさと納税額-2,000円)×「所得税の税率」
- 住民税:(ふるさと納税額-2,000円)×10%
ただし5つの地方自治体まではワンストップ特例制度を利用することで確定申告は必要なくなります。
税理士に依頼・相談した方がいいケース
年末調整や確定申告について税理士に相談した方がいいのは次の2つのケースです。
- 個人事業主としての売り上げが1,000万円を超える
- 複数の所得・控除がある
上記以外の人は得られる節税効果に比べて、税理士への依頼・相談費用の方が大きくなりがちです。
そのため会計ソフトなどを使い、自身で書類を作成するのがいいでしょう。また税務署に相談するのも方法の1つです。
個人事業主としての売り上げが1,000万円を超える
個人事業主が税理士を利用する売り上げの目安は1,000万円と言われています。
その理由の1つに「売り上げが1,000万円を超えると消費税の課税事業者に分類されること」があげられます。
簡単にまとめると、1,000万円を基準に税務署に申告・納付する税金(消費税)が増えるということです。
税理士に依頼することで、新たに考える必要のある消費税についても丸投げでき、正確な納税が行えます。
仕分けを含む青色申告を税理士に依頼した場合の費用の目安は以下の通りです。
売り上げ | 費用目安 |
---|---|
500万円未満 | 10万円 |
500〜1,000万円未満 | 15万円 |
1,000万円〜 | 20万円 |
また確定申告書の作成だけなら数万円で済むこともあります。
個人事業主が収める消費税について気をつけたいのが2023年10月1日から始まる「インボイス制度」です。
インボイス制度が導入されると、売り上げが1,000万円以下でも消費税の納付が必要になる場合があります。
複数の所得・控除がある
複数の所得や控除がある場合は税理士に依頼・相談をすることで年末調整や確定申告でのミスを防ぐことができます。
所得が会社からの給与と副業の2つだけ、受けたい控除が住宅ローン控除だけなどの場合は自身で手続きをする方がいいでしょう。
税理士への相談料の相場は30分5,000円です。簡単な相談であれば無料としている税理士事務所も多いため、気軽に利用できます。
複数の所得や控除がある人は税理士に相談をすることで手続きのミスを防ぎ、やり直しなどの手間を確実に減らせます。
確定申告についてのFAQ
年末調整や確定申告についてよくある質問に回答します。
- 年の途中で退職し個人事業主として働いた場合の確定申告はどうなりますか?
- 退職した会社から支払われた給与所得、個人事業主として稼いだ事業所得について確定申告が必要です。
確定申告にあたり、源泉徴収票が必要になるため確定申告をするまでに退職した会社から源泉徴収票を送付してもらいましょう。
- サラリーマンをしながら副業としてFXをしているのですが、確定申告は必要ですか?
- FXで得た所得に応じて確定申告が必要です。
副業としてFXを行う場合、その所得が年に20万円を超えているなら雑所得として確定申告が必要です。
年末調整と確定申告は必要に応じて必ず行いましょう
年末調整と確定申告はどちらも所得税の清算のための手続きであり、その違いは「会社がするか、個人がするか」です。
- 年末調整:会社が行う労働者の給与所得にかかる所得税の清算
- 確定申告:個人が行う所得税の清算
受けられる控除や対象となる人に違いがあるため、収入の状況によっては両方が必要です。
また年末調整だけでも問題はありませんが、確定申告をすることでお得になることもあります。
それぞれ対象となる人が行わなければ最悪の場合、刑事罰に発展します。
年末調整や確定申告は必要に応じて必ず行いましょう。
2022年の確定申告における変更点や、詳しい手続きの方法は「【2022年版】確定申告とは?必要な人・不要な人、変更点を解説」をご覧ください。