個人事業主・法人の節税方法について、一般的なものから脱税と見做される可能性のあるものまで、3つのレベルに分け、ご紹介します。

「できることなら 必要以上に税金を払いたくない」

個人事業主でも会社経営者でも、こうした本音は少なからずあると思います。

しかし納税は、憲法により「勤労の義務」「教育の義務」「納税の義務」という国民の三大義務として国民に義務づけられています。
この税金は、国や地方公共団体が提供する、私たちの生活に欠かせない様々な公共サービスの財源になります。
つまり、自分が払った税金は、巡り巡って自分や他の人に再分配され、社会的厚生に役立てられるという仕組みです。

一方、見方を変えれば、法律で定められた税額を納める義務を負っていると同時に、法律で定められた税額を上回っては課税されないという権利も持っているとも言えます。

参考:国税庁/点字広報誌「私たちの税金」/納税の義務

税金を納める額を減らして、少しでも多くお金を残すために、節税対策があります。

節税対策とは?

節税と脱税の違いは?

個人事業主や法人の節税対策はどのような方法があるのか?

この記事を読めば以上がわかりますので、ぜひ参考にしてください。

 

節税対策とは?

節税対策とは、正しくかつ法律に違反せずに(「適法」といいます)納税額を節約する方法のことです。
その方法には、一般に知られ多くの個人事業主や法人が実行している方法以外にも、あまり知られていない裏ワザ的なものまでさまざまです。

共通しているのは、繰り返しになりますが「正しくかつ適法であること」という点です。
不正な手段を使って税金から免れたとしても、悪いことをすれば、いずれは発覚します。
そのときに受けるペナルティやダメージは大きいので、注意が必要です。

節税と脱税の違いとは?

節税は正しく税金を節約することです。

節税または租税節約とは、租税法の想定する範囲で租税負担を軽減・排除する行為である。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/節税

逆に違法に税金を誤魔化すのが脱税です。

日本では、脱税は「偽りその他不正な行為」により納税を免れる行為のことである。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/脱税

脱税は税額計算の基礎となるべき事実を隠蔽したり、誤魔化したりすることの総称で、もちろん違法な行為であり、その程度により重加算税や最悪の場合は罪に問われることもあります。

参考:国税庁/法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

ではここで、節税になること、脱税と判断されてしまうことの具体例を紹介します。

節税の方法には、大きく分け2つの方法があります。

控除による節税と脱税

節税:損失による控除

事業の中で損失が発生すれば、利益から控除ができます。

たとえば在庫品が長期間売れ残ったので処分すれば、廃棄損利益から控除できるので節税効果があります。

脱税:帳簿上のみの廃棄

しかしながら、もしここで、実際には行っていない在庫の処分(帳簿上の廃棄)をしたことにするなど偽装すれば、これは脱税です。
疑わしいと判断されると、税務署の担当者による訪問調査を受けることもあります。
在庫調整は脱税や粉飾決算でよく使われる手口ですが、もちろんやってはいけません。

経費計上による節税と脱税

節税:決算月完成の請負工事

決算を前にして、このままでは利益が大きく税金も発生するので、急いで事務所の改装をして経費計上するのも節税対策です。
目的は異なるものの、年度末になると予算消化のためか、道路など公共工事が多くなりますが、イメージは似ていますね。

脱税:決算月未完の請負工事

しかしこの場合でも、事務所改装が決算時までに完成しなければ工事代金を支払うこともなく、したがってその期では経費計上できません。ところが税金を払いたくないからと言って、支払ったことにして領収書などの日付を改ざんすれば、これは脱税になってしまいます。

領収書など証拠資料の偽装や日付の改ざんは、脱税でよく利用される手口ですが、こちらももちろん絶対にやってはいけません。

節税と脱税が違うのは、もちろん誰でも知っていることですが、節税を考える時には意図していなかったのに脱税をしてしまうリスクもはらんでいます。
この点はぜひ覚えておいて下さい。

節税対策3つレベル

節税対策を具体的に説明していきます。
ひとくちに節税対策といっても、その方法は多種多様で、中には脱税になるのでは?といった「ギリギリのライン」もあります。
そこで、ここから説明する具体例も以下の3つに分けています。

 <節税対策のレベル>

  1. 「一般的な方法」
    一般によく知られている方法で、多くが取り入れているもの
  2. 「あまり知られていない方法」
    あまり知られていない方法で、活用できるもの
  3. 「おすすめできない方法」
    適法かどうか疑問な方法、脱税の恐れがある方法など

なお税金に関する正しい情報は、必ず税務署や税理士などの専門家に確認してください。

  

また「節税方法が適法か?脱税にならないか?」といった判断や、節税できる税額などを税理士資格がない者が扱うと、税理士法などに違反する恐れもありますので注意して下さい。
(この記事でも断定的な表現は使わず「一般的な方法」「おすすめできない方法」と表現しています)

  個人事業主の節税対策

個人ができる節税対策も様々で、以下はサラリーマンの節税対策ですが、個人事業主にも共通するものがありますので、後半で詳しく説明します。

 <サラリーマンの節税対策~個人事業主にも当てはまる>

  • 住宅ローン控除:
    住宅ローンの残高に応じて一定額の税額控除を受けられる仕組みです。サラリーマンは年末調整、個人事業主は申告により控除を申請します。
  • 医療費控除:
    年間で一定額の医療費(自己負担)は、申告することで税額控除が受けられます。
  • iDecoやNISAを始める:
    確定拠出年金の個人版(iDeco)や個人投資に対する税額控除(NISA)により、拠出(投資)した金額に応じた税額控除が受けられます。

1.個人事業主の節税対策「一般的な方法」

個人事業主の節税対策で最も一般的なのが、青色申告で確定申告することです。
青色申告することで、各種の控除など節税効果がありますので、まだ青色申告で無い人は導入を検討すべきでしょう。
その他の一般的な方法には次のような対策があげられます。

 <個人事業主の節税対策 その他の一般的な方法>

  • 少額減価償却資産の一括償却:
    原則として30万円未満の業務に使う固定資産はその年の必要経費に一括算入できます。
  • 短期前払い費用の特例:
    継続して発生する費用を一括して費用計上することが可能です。
    例)業務用車両の自動車保険など

2.個人事業主の節税対策「あまり知られていない方法」

裏ワザとまでは言えませんが、共済の加入は知らない人も多い節税対策です。

代表的な共済は以下の2つで、掛け金が経費算入できます。

  • 小規模企業共済:
    個人事業主が自分で自分の退職金を積み立てる制度
  • 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済):
    取引相手の倒産に巻込まれる連鎖倒産などに備える共済制度

その他の方法は次のような対策があります。

 <個人事業主の節税対策 その他のあまり知られていない方法>

  • 生命保険、介護医療保険などへの加入:
    生命保険料控除で節税できます。
  • ふるさと納税:
    寄付金控除で節税ができます。

3.個人事業主の節税対策「おすすめできない方法」

交際費は経費として認められていますが、その内容には適用される条件があり交際費で「やり過ぎ」や「無理なこじつけ」をするのはおすすめできません。

たとえば接待とはいえ、風俗店や接待を伴う飲食店(キャバクラなど)が本当に業務に必要な接待と認めてもらえるか?には疑問が残ります。
自分たちの享楽で使ったお金を経費にできないのは言うまでも無いことですが、常識に照らし合わせて考える必要があります。

その他のおすすめできない方法は、次のようなやり方です。

 

 <個人事業主の節税対策 その他のおすすめできない方法>

  • 事業とは関係の無い生活費まで経費にする:
    説明ができない生活費は認めてもらえないおそれがあります。
  • 事業に従事していない家族を従業員として、給料を支払う:
    労働の実態がなければ経費として認められない場合もあります。

法人の節税対策術

法人の節税対策で代表的なものは以下のとおりです。

<法人の節税対策~代表的なもの>

  • 長期未回収になっている売掛金の処理:
    何年も未回収の売掛金は、利益が多くなりそうな決算時に損金処理(貸倒損失)することで、利益が圧縮sれ節税効果があります。 
  • 家賃など継続的な支払いを年払いにする:
    毎月支払う家賃や諸経費などを、良く年以降の前倒しとして、一括年払いで支払えば経費算入できる金額が増え節税効果が期待できます。 
  • 消耗品の一括購入:
    日常的に使用する消耗品を、一括購入で割引き効果があるなどとしてまとめ買いするものです。経費算入額が大きくなるので節税効果があります。

1.法人の節税対策「一般的な方法」

法人の節税対策として一般的に行われるのは役員報酬を増額する方法です。
役員報酬の額を見直して、適正な範囲で増額できるなら経費が増え利益を圧縮できるので、節税対策になります。
役員報酬の変更は期首(決算年度がスタートして)から3か月以内に行うように定められています。
また役員報酬など給与関連の変更は、社会保険や失業保険などの手続きも必要になります。

そして、役員報酬の増額で法人に節税効果があっても、収入が増えた役員個人の税金が増加することも考えられますので、バランスを考えて対処する必要があります。

その他の一般的な方法には次のような対策があげられます。

 

<法人の節税対策 その他の一般的な方法>

  • 従業員教育を実施する:
    従業員教育の費用(書籍や講師の費用、教材購入費など)は経費計上できるので節税効果があり、同時に従業員の知識向上も可能です。
  • 自社ホームページの開設、運営:
    自社ホームページの作成を専門会社に委託すれば、開設費用や継続費用は経費として計上できます。これと同様にホームページ用のレンタルサーバ費用やドメイン取得費なども費用として節税対策になります。

2.法人の節税対策「あまり知られていない方法」

法人の節税対策であまり知られていない方法として、自宅を社宅として賃貸することがあげられます。
自宅で起業するところからはじめた場合などでも、自宅を会社に社宅として賃貸しているわけなので、会社が他賃を支払うことで経費計上できて、節税効果が期待できます。

上記は社長の持ち家の場合ですが、これが賃貸マンションの場合でも、家賃を社長個人から会社の支払に変えて会社が社宅を賃貸している形態に変えれば、支払う家賃も経費計上できます。

その他のあまり知られていない方法には次のような対策があげられます。

 <法人の節税対策 その他のあまり知られていない方法>

  • 別会社を作る:
    会社が異なる部門の事業を営んでいる場合(例 フランス料理店と中華料理店 広告宣伝業と人材派遣業など)に、部門の異なる会社を子会社として独立させることで、税額控除など節税効果があります。
  • 会社で保険に加入する:
    賠償責任保険(会社が賠償を求められた場合に備える)、生命保険や損害保険(社長や社員が死亡、ケガをした場合の補償)に加入すれば、会社が支払った保険料は経費として計上が可能です。

3.法人の節税対策「おすすめできない方法」

社長が個人で使用する自動車を社用車とするのはおすすめできません。

購入費用や燃料費などを経費として計上するものですが(リースならリース料を経費計上)たしかに社長のプライベート用なのか?社用なのか?という線引きはむずかしい面もあります。
しかしながら、たとえば不動産会社の社長が乗る社用車が国産や外国の高級車なら問題はないでしょうが、これがオフロード車なら相応しいとは言えません。
同様に、IT関連企業の長の社用車がキャンピングカー使用で、社内には釣り道具やキャンプ用具が詰まっていたら、これを社用車とは言いにくいでしょう。

やはりなにごとも「やり過ぎ」や「無理なこじつけ」は認めてもらえない恐れがあるのです。

その他のおすすめできない方法は、次のようなやり方です。

 

 <法人の節税対策 その他のおすすめできない方法>

  • 決算期を変える:
    決算期を変えることで納税額を抑えることも可能です。しかしながら、変更したあとの決算期までに節税対策を講じられなければ全く無意味になるので注意が必要です。
  • 売上の計上基準(※)を変える:
    売上の計上基準を変えることで、大きな収入も決算期に未入金なら支払税額が抑えられる可能性があるのですが、その後に節税できなければやはり無駄な対策となってしまう恐れがあります。
    ※売上の計上基準~仕事の対価として売上をどのタイミングで計上するか?という基準

たとえば建設業で、工事を請け負った時点で契約額をすべて売上計上する場合があれば、工事代金が入金されたときに売上とする場合があるなど、業種や企業により基準が異なります。
上記した例では、それまだ契約時に売上としていたものを、代金入金時に変更することで売上=収入を繰り延べすることが可能です。)

「節税してお金を残す」2つのメリット

ここまで説明してきた節税対策をすることで、2つのメリットが生まれます。
1つめは言うまでも無く、節税によりお金を手もとに残せることです。

説明のとおり「節税は正しく適法に税金を節約すること」なので、当然ながら払うべき税金はキチンと支払い、納税の義務はしっかり果たせています。
そして2つめのメリットは、納税の義務を果たしながら、自分(自社)の未来に投資できるという点です。
たとえば企業を評価する指標として「ROE」「ROA」という言葉があります。
これは「会社が自分の持つ資産を活用して、いかに効率的な利益を上げているのか?」という点を測るものです。

ROAは「総資産(借入やその他の負債といった「他人資本」も含めた資産全体)」で、ROEは「純資産」(資本金や増資などの「自己資本」だけで)算定するといった違いはありますが、どちらも効率的な経営ができているか?推し量る指標になっています。
そして、これらの指標は投資家が企業への投資を検討する際に重視するものであり、ここまで説明してきた節税対策を講じることで、指標を向上させることもできるのです。

自社を発展させ、将来上場など投資家からの直接投資を受けられるステージにまで引き上げられるように、この記事が参考になれば幸いです。