破産というと、個人の借金を清算する方法である自己破産を連想する人が非常に多いのではないでしょうか?
しかし、企業も債務超過などによって事業継続が困難な場合には破産という手続きによって会社を清算することがあります。
法人の清算は個人の破産と比較して手続きが若干複雑で費用もかかります。
法人の破産の概要や流れ、コストなどについて解説していきます。
破産する前に資金繰りの円滑化を図る方法についても解説していますので、ぜひご覧ください。
法人の破産とは
法人における破産とは法律に則った破産手続きです。
主なポイントは以下の3点です。
- 全ての資産・債務が清算される
- 破産後は法人格が消滅する
- 債務超過などで継続困難な会社が利用する
法人の破産手続の特徴や概要について詳しく解説していきます。
全ての資産・債務が清算される
法人の破産は個人の破産と同様に、全ての資産と債務が清算されます。
破産は法的な手続きで、裁判所に申し立てを行い裁判所の許可を得て、裁判所から選任された管財人が財産の整理を行います。
破産をしなければ債務の請求から免れることはできませんが、破産をすることによって法的に借金は無くなるので債務の請求を受けることはありません。
一方、債権者に対しては清算した会社の財産が公平に分配されます。
破産後は法人格が消滅する
破産手続を終えると法人格が消滅します。
苦労して育ててきた会社も破産をすると存続することは不可能になってしまうので、以後その法人格で営業することは不可能です。
個人の破産では、個人は破産後も存在し続けるのに対し、法人の場合には破産すると消滅するという大きな特徴があります。
債務超過などで継続困難な会社が利用する
破産手続は債務超過などが理由で借金返済に終われ、事業の継続が困難な会社が利用するものです。
破産すると法人格が消滅し、代表者が連帯保証人となっている場合には代表者個人の生活も破綻する可能性があるものです。
そのため、会社が順調な時に破産はしません。
継続困難な会社が資金繰りと督促に追われる日々から解放するためのリセット装置が破産手続きだと言えます。
破産の3つの注意点
破産は借金をリセットできるというメリットがありますが、非常に重要な注意点が3つあります。
- 代表者個人も破産に至る可能性がある
- 全従業員が職を失う
- しばらくの間再起は不可能
破産という選択をする前にこれらの注意点についてもよく理解した上で破産手続を進めるようにしてください。
破産の注意点について詳しく解説していきます。
代表者個人も破産に至る可能性がある
中小企業においては法人の債務に対して、代表者個人が連帯保証人となっていることが一般的です。
そのため、法人が破産すると、連帯保証人である代表者個人に債務の返済義務が生じることになってしまいます。
法人が返済できない借金を代表者個人が返済することはほぼ不可能ですので、ほとんどのケースで法人が破産すると代表者も破産しなければならないことを覚悟しなければなりません。
個人が破産すると自宅をはじめとした個人財産が失われ、家族にも大きな悪影響を及ぼすことになってしまいます。
全従業員が職を失う
破産をすると法人格が消滅するため、当然ながら全従業員が職を失ってしまうことになります。
債権者との交渉によって再建手続をすることができるのであれば、一部のリストラが行われる可能性があっても全従業員の雇用が失われることはまずありません。
しかし、破産の場合には確実に全従業員の雇用が失われるので、従業員とその家族へ与える影響は非常に深刻なものがあります。
しばらくの間再起は不可能
一度破産をするとしばらくの間は再起することが非常に難しくなってしまいます。
代表者個人も破産をした場合には、信用情報がブラックになるので以後10年間は金融機関からお金を借りることができません。
新しく法人を設立したとしても、借入は難しいでしょう。
また、破産によって取引先や金融機関へ多大な迷惑をかけ社会経済上の損失を負わせてしまっているので、同じ地域で商売を再興するには難しいのが実情です。
「借金が増えたら破産したやり直せばいい」と言われることが多いですが、やり直すことはそれほど簡単ではありません。
破産をした方がいいケース
破産手続をしなくても任意整理によって借金を減額するなどの方法をとれば、法人格は消滅しませんし、全従業員の雇用が失われることもありません。
破産はできる限り避けて、最後の手段として選択すべき方法です。
それでも破産を選択した方がよいケースとはどのような状況でしょうか?
考えられるケースとしては以下の3つのパターンです。
- 債権者が強硬な姿勢を崩さない
- 独善的な大口債権者など任意整理を妨げる存在がいる
- 債権者から破産が申し立てられた
債権者が強硬な姿勢を崩さない
債権者が強制執行を行うなど、強硬な姿勢で回収を行うケースです。
このケースでは、債権者との話し合いができないので、任意整理という選択ができません。
任意整理ができないのであれば、止むを得ず破産という選択をすることになります。
独善的な大口債権者など任意整理を妨げる存在がいる
大口債権者が自己の利益だけを考えて任意整理に応じようとしないケースでは、破産手続を選択するしかありません。
また、整理屋などに騙されてしまうと、いつまでたっても債務整理が進まずにむしろ借金が増えてしまうので、このようなケースでも破産を選択します。
破産を選択すべき状況
債権者の対応によって私的整理ができない時に、破産を選択する
債権者から破産が申し立てられた
債権者から破産を申し立てられた場合には、裁判所が破産を認められば強制的に破産となってしまいます。
債権者は債務者の財産処分権を剥奪し、債権の回収に充てる目的で、裁判所へ破産を申し立てることがあります。
このケースでは自社が破産を希望していなくても、破産せざるを得ません。
法人の破産にかかる費用
法人の破産には決して少なくない費用が必要になってしまいます。
主な費用としては裁判所に収める必要と弁護士へ収める費用で、手元にお金がない企業でもこれらの資金を調達して破産することは可能です。
具体的にどの程度の費用がかかるのか、詳しく解説していきます。
裁判所に納める破産費用
破産する場合には、裁判所へ予納金という費用が必要になります。
予納金とは破産管財人として選任する弁護士へ支払う費用などに充てられる破産手続のために必要な経費です。
予納金は破産事件の種類によって以下のように異なります。
- 少額管財:20万円
- 通常管財事件:70万円程度
予納金の少ない少額管財として認められるためには原則として以下の条件を満たしている必要があります。
- 代理人(弁護士)申立の破産事件であること
- 破産管財業務において、収集・換価すべき財産がない、若しくは少額でまたは短期間で処分する見込み
- 債権者が300名未満
中小企業が破産する場合にはほとんどケースで少額管財となります。
そのため、破産の際の予納金は20万円。この他に官報掲載費用として2万円必要になります。
弁護士費用
弁護士費用は債権者の数などに応じて大きく異なりますが、おおよそ50万円〜150万円程度です。
少額管財であれば上記の範囲内で費用は収まりますが、通常管財事件になってしまった場合にはさらに費用が高額になる可能性があります。
手元に現金がない場合には着手金なしという弁護士事務所を選択すると、破産後に分割で弁護士事務所へ支払うことができます。
弁護士事務所によっては必要な資金の貸付を行なってくれることも。
事業継続をすることによって借金が膨らんでいくだけであれば「お金がない」という理由で破産を諦めるのではなくまずは相談してみるとよいでしょう。
破産の手続き
破産の申し立てを行なってから手続きが数量するまでの流れは具体的に以下の通りです。
- 債権者または債務者が裁判所へ申し立てる
- 裁判所の確認
- 破産手続開始決定
- 管財人が選定
- 債権者集会にて資産の分配
- 手続の終了
それぞれの流れで具体的にどのようなことが行われるのか、詳しく見ていきましょう。
債権者または債務者が裁判所に申し立てる
まずは弁護士に破産手続を依頼します。
依頼を受けた弁護士は債権者へ受任通知を送り、この時点で債権者からの督促はストップします。これで債務者は督促から解放されることが可能です。
弁護士は会社の財産や債務を調査し、社内の人間や債権者が勝手に財産を処分できないよう財産の保全を行います。
その後、弁護士が申立書を作成し、裁判所へ破産の申し立てを行います。
破産の申し立ては債権者も債務者も行うことができます。
債務者の申し立てによる破産が自己破産
債務者から申し立てて破産手続をすることを自己破産と言います。
債務者は債務の返済から逃れるために自己破産を申し立て、債権者は回収のために破産を申し立てます。
このように、破産の申し立ては債権者・債務者双方が行うことが可能です。
裁判所の確認
申し立てを行うと、裁判所が債務者の財産や債務の状況を確認し、「破産を認めることが適切かどうか」ということを審査します。
破産の要件としては形式的要件と実体的要件があり、それぞれの要件は以下の通りです。
①形式的要件
- 申立ての方式が適式であること
- 申立人に申立権があること
- 債務者に破産能力があること
- 手数料を納付したこと
- 裁判所の管轄が正しいこと
破産能力とは破産する資格のことで、自然人、法人、法人でない社団、相続財産に破産能力が認められます。
②実体的要件
- 債務者に破産手続開始原因(支払不能または債務超過)があること
- 破産障害事由が無いこと
破産障害事由とは、「予納金の納付がない」ことや「破産することを予定した借入(計画倒産)」「会社更生や特別清算などの破産以外の倒産手続」などです。
これらのいずれかに該当すると破産障害事由があると判断され、破産が認められません。
破産手続開始決定
裁判所の確認が完了して、特に問題がなければ破産手続開始決定の命令が裁判所から下ります。
破産手続開始決定とは、破産者の破産手続きを開始する旨の裁判のことです。
破産手続開始決定により、破産の手続きを開始することができます。
管財人が選定
破産手続開始決定の命令が下りると、裁判所から破産手続を指揮する管財人が選任されます。
管財人は債権者・債務者と利害関係のない弁護士が選任されます。
破産手続は破産者の財産を債権者へ公平に配分するものですが、破産者自ら財産を処分することはできません。
裁判所から選任された管財人が処分を行うので、裁判所が管理及び処分する権利を有する破産管財人を選任し、以後は管財人が破産手続を進めていくことになります。
債権者集会にて資産の分配
次に、裁判所が定めた期日に債権者集会が行います。
債権者集会とは、債権者に対して破産者が破産に至った事情や財産の換価状況などの破産手続に関する情報を報告・開示し、債権者の意見を破産手続に反映させる目的で裁判所によって開催される集会のことです。
債権者集会における管財人の調査についての結果報告や、債権者の意見に応じて裁判所が財産の分配などについて必要な決定を行います。
手続の終了
裁判所の決定に基づき管財業務が終了すると破産の手続きは終了します。
破産手続終了と同時に法人も消滅します。
個人の破産との違い
破産といって多くの人が連想するのが、多重債務者の個人などが行う自己破産です。
同じ「破産」という文言でも、個人の破産と法人の破産は大きく異なり、主な違いとして以下の4点をあげることができます。
- 法人は消滅するが個人は消滅しない
- 免責手続の有無
- 財産・資産の処分
- 費用の違い
個人と法人の破産の違いを詳しく解説していきます。
法人は消滅するが個人は消滅しない
法人が破産すると破産手続終了と同時にその法人は消滅します。
しかし、個人は破産しても自然人としての人格は存在し続けることになります。
ここが法人と個人の破産の最も大きな違いです。
免責手続の有無
破産をすることによって法人が消滅するので、財産を清算した後にも債務が残っていたとしても、債務者である法人格は消滅するので残りの債務も消滅することになります。
一方、個人の場合には人格が消滅することはありません。
そのため、財産を清算した後に債務が残っていた場合に法人における破産のように債務が消滅することはありません。
この場合、債務を無くすために「免責」という制度が適用されます。
免責とは、借金などの債務の支払義務を免除させるという法律的な制度で、裁判所から免責が許可されると債務者は債務を支払う義務から免れることになるのです。
法人は破産によって債務が消滅するのに対して、個人は破産によって免責が適用され、債務の支払いから解放されます。
財産・資産の処分
法人が破産すると、法人は最終的に消滅するため、原則的に全ての財産が処分されます。
一方、個人の場合は破産後も生活を営んでいかなければなりません。
そのため、破産後も最低限の生活を営んでいくことができるよう、必要最低限の財産を処分せずに残すことができ、この制度を自由財産制度と言います。
自由財産に該当するものとして以下のようなものがあります。
- 新得財産:破産手続開始後に破産者が新たに取得した財産
- 差押禁止財産:生活必需品などの差押禁止動産
- 99万円以下の現金
- 自由財産拡張が認められた財産:破産者の最低限度の生活を維持するため裁判所が許可した財産
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産:換価処分が不可能ないし困難な財産
個人の破産の場合には上記の自由財産は破産後も残すことができますが、法人の場合には原則として破産した後は手元に何も残りません。
費用の違い
個人の破産の場合には、破産手続開始決定と同時に破産手続が終了する同時廃止となるのが一般的です。
同時廃止の場合には、管財人の選任などが必要ないため、費用は非常に安く、東京地裁の場合の費用は以下の通りです。
- 予納金:1500円
- 官報公告費:1万584円
- 郵券:4100円
ここに弁護士費用が20万円~50万円程度上乗せになるだけで、手続きが簡易なので費用も安くなります。
一方、法人の破産で同時廃止となることはほとんどないので、費用は法人の破産の方が大きくなることはほぼ確実です。
法人と個人では破産にかかる費用面が大きく異なります。
破産と倒産の違い
破産と似た言葉として倒産という言葉があります。
破産は法律上の手続きで、全ての資産・債務を消滅させ最終的に法人を消滅させることです。
一方、倒産には明確な定義はありません。
会社が資金ショートなどによって営業不能になるというような意味でしょう。
なお、東京商工リサーチは倒産について以下のように明記しています。
「倒産」は正式な法律用語でなく、東京商工リサーチが1952年から「全国倒産動向」の集計を開始したことで一般に知られるようになった。特に、1964年11月9日衆議院商工委員会で中小企業の倒産問題を東京商工リサーチの倒産データに基づいた国会質疑が行われ、「倒産」という言葉が普及した。
「倒産」とは、企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態を指す。「法的倒産」と「私的倒産」の2つに大別され、「法的倒産」では再建型の「会社更生法」と「民事再生法」、清算型の「破産」と「特別清算」に4分類される。「私的倒産」は、「銀行取引停止」と「内整理」に分けられる。
このように、倒産という言葉の定義は曖昧で、企業が経済活動の継続が困難になった状態を示すというような意味でしょう。
東京商工リサーチによると、破産は法的倒産に分類されます。
手形の不渡りなどによって銀行取引停止となった場合には、私的倒産に分類されます。
破産に至る前に資金繰りの管理を
破産してしまうと法人格は消滅してしまいますので、2度とその会社で事業を営むことはできません。
もちろん、傷が浅いうちに破産してしまうというのは1つの有効な方法ですが、破産に至る前に資金繰りの改善を図ることができれば会社を再建することができる可能性もあります。
資金繰りの改善を図ることができる方法として、以下の3つの方法が考えられます。
- 収支を管理する
- 売掛債権の回転期間を短縮する
- ファクタリングの利用も検討する
資金繰り管理の3つの方法を詳しく解説していきます。
収支を管理する
倒産の大きな原因の1つが、赤字を垂れ流し続け、この赤字を借金によって埋めているケースです。
このようなケースでは、赤字体質を改善して収支を厳格に管理する必要があります。
収益を上げる方法としては「売上を拡大する」「コストを削減する」といういずれかの方法で経営改善を図る必要があります。
新規の販路開拓などによって売上拡大を目指すのは基本中の基本ですが、売上の拡大は誰もが成功できるわけではありません。
継続的な営業活動を行なっていく一方で、コスト削減にも取り組むべきでしょう。
コスト削減を行う方法として以下の2点を挙げることができます。
- 仕入れ価格などの売上原価の削減を検討する
- 人件費や家賃や水道光熱費などの固定費を削減する
売上原価を削減すると商品・製品の質が下落する可能性があるので、安易に原価を引き下げるべきではありません。
まずは、不要な人件費や家賃などの固定費を払っていないかどうかを検討しましょう。
固定費は売上があってもなくても発生するコストですので、大きく企業収益を圧迫することになります。
できる限り不要な固定費を削減し、スリムな経営になるように努めましょう。
売掛債権の回転期間を短縮する
資金繰りを改善するためには売掛債権の回転期間を短縮することも重要です。
売掛債権の回転期間とは、売掛債権がどの程度の期間で資金化しているのかという指標で、「売上÷売掛債権残高」で計算します。
一般的には30日程度が良いとされているので、あまりにも売掛債権回転期間が長いのであれば、以下のような方法で短縮する努力をしましょう。
- 現金や小切手の決済を増やす
- 取引先へ入金サイトの短縮を交渉する
いくら商品やサービスを売り上げてもすぐに現金化しないのであれば企業の資金繰りには全く寄与しません。
企業は資金がないために倒産するからです。
そのため、できる限り会社の中に売掛債権がプールされている時間を減らす努力をすることによって資金繰りは非常に楽になります。
売掛債権のサイトを短くするか、売掛債権そのものを少なくすることによって売掛債権回転期間は短くなるので取引先と交渉して資金繰りを優良なものにするように努めましょう。
ファクタリングの利用も検討する
ファクタリングを効率的に活用することでも企業の資金繰りは円滑になります。
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社へ売却して早期に資金化する方法です。
期日になるまで支払手段として活用することができない売掛債権ですが、ファクタリングによって資金化することによって売掛債権が現金化するので企業の資金繰りは円滑になります。
さらに、2社間ファクタリングであれば最短で申込日当日に現金化することもできるので急いでお金が必要な時にも最適です。
手数料は少々高くなりますが、資金繰りに困った時には有効に活用することで資金繰りの悪化から倒産に至ってしまうまでの時間を稼ぐことはできます。
まとめ
破産とは、債務超過などによって企業経営が困難になった時に裁判所の許可を得て資産と負債を清算して法人を消滅させる方法です。
任意整理などの方法で会社の再建を図ることができない場合に採られる最後の最後の手段だと言えるでしょう。
しかし破産には以下の3つのデメリットがあります。
- 代表者個人も破産に至る可能性がある
- 全従業員が職を失う
- しばらくの間再起は不可能
また費用も100万円以上かかることもあることから、できれば私的整理を行なった方がよいでしょう。
どのような方法で借金を整理すべきなのかは債務者の対応や債務の状況に応じて異なるので、まずは弁護士などの専門家は相談しましょう。
また、破産に至ってしまうことがないよう、日頃から資金繰り管理と収益管理は厳格に行うようにしてください。