中小企業が銀行などから融資を受けようと考えた際に、申し込む先として多くの事業者の方が連想するのが、銀行か信用金庫です。
しかし、銀行と信用金庫について「違いがよく分からない」という人も多いのではないでしょうか?
銀行と信用金庫は、融資対象とする企業規模に大きな違いがあります。
また、担当者の対応や得意とする融資金額など、細かい部分で違いがあります。
そのため、企業が金融機関に求めるものに応じて、信用金庫と銀行を適切に使い分けた方がよいでしょう。
銀行と信用金庫の借入時の違いについて詳しく解説していきます。
銀行借入の特徴
まずは銀行での借入の特徴について詳しく解説していきます。
銀行や銀行の借入の信用金庫と比較した際の特徴としては以下の2点を挙げることができますす。
- 株式会社組織の営利法人
- 誰にでも融資を行うことができる
銀行は株式会社ですので、営利目的として誰にでも融資をすることができるという点に特徴があります。
詳しく見ていきましょう。
株式会社組織の営利法人
銀行は株式会社であり、営利目的の法人です。
株式会社である以上は、株主の利益を最大化するために収益を追求しなければなりません。
顧客から預かった預金を融資として幅広く運用し、利益を獲得することを目的としているのが銀行です。
そのため、法律の範囲内で高金利の融資や金額の大きな融資を実行して利息収入を得ています。
誰にでも融資を行うことができる
銀行は幅広い人に対して融資を行っています。
営利企業ですので、融資対象の門戸を広げて多くの人に融資を実行し、利益を獲得しなければなりません。
そのため、銀行の審査に通過しさえすれば誰でも融資を受けることができます。
銀行によって、「営業エリアの範囲内」だけ融資を行うなど、内規が設けられていることはありますが、基本的に誰に融資を行うか、どこから預金を預かるかは自由で、法律の範囲内であれば自由に預金を預かり融資によって運用することができます。
利用者側はこれまで取引したことがない銀行からも審査に通過すれば、自由にお金を借りることが可能です。
信用金庫の借入の特徴
信用金庫の銀行と比較した場合の特徴は以下の2点です。
- 会員の出資による協同組織の非営利法人
- 融資は会員を対象としたもののみ
信用金庫は会員の互助組織ですので会員のみへの融資が原則です。
しかし実際には誰でも信用金庫から融資を受けることができます。
これは一体どのような理由でしょうか?
詳しく解説していきます。
会員の出資による協同組織の非営利法人
信用金庫は会員の出資によって成り立っている共同組織の非営利法人です。
- 会員の相互扶助を目的とした組織
- 非営利法人なので利益の追求はしない
この2点が信用金庫の大前提です。
そのため、銀行のように幅広い人へ融資を行い、利益を追求することはしないというのが信用金庫の建前です。
融資は会員を対象としたもののみ
信用金庫は会員に対してしか融資を行いません。
会員相互の互助組織ですので、会員以外には融資を行うことができません。
そのため、限られた人しか信用金庫でお金を借りることができないのですが、実は誰でも出資を行うことですぐに会員になることが可能です。
信用金庫の会員になるには出資金を払い込むだけです。最低出資金は信用金庫によって異なりますが、大抵5,000円〜10,000円程度で、たったこれだけの出資で誰でも会員になることができます。
また、融資の相談や申し込みは会員でなくても可能です。
信用金庫へ「融資を受けたい」と相談に行くと、会員でない人も審査を受けることができます。
そして、審査に通過した場合のみ、融資実行前に出資金を払い込み会員になるという流れで融資が実行されるのが一般的ですので、実際には誰でも信用金庫からお金を借りることが可能です。
信用金庫は非営利組織ですので融資商品の金利が低いですが、今は銀行も低金利商品を投入して双方が競合しています。
そのため、顧客からすると信用金庫と銀行の違いはほとんどないというのが実際のところでしょう。
実務上の銀行借入と信用金庫の融資の共通点
銀行と信用金庫は原則的には融資対象などは異なりますが、実際には信用金庫が誰にでも融資できてしまっているため、共通点が非常に多くなっています。
事業資金融資における銀行と信用金庫の主な共通点は以下の通りです。
- 信用保証協会の保証をつけて融資をする
- 同じ枠で融資をしている
- 審査するのも信用保証協会
銀行も信用金庫も信用保証協会の保証を付けて融資をするのが基本となっているため、審査をしている人すら同じであるとも言えます。
銀行と信用金庫の審査の違いについて詳しく解説していきます。
信用保証協会の保証をつけて融資をする
銀行も信用金庫も基本的に中小企業に対しては信用保証協会の保証を付けて融資を実行しています。
あまり信用のない中小事業者に対して何も保証を付けないプロパー融資を実行することは、銀行にとっても信用金庫にとってもリスクの高い行為だと言えます。
そのため、万が一貸し倒れたとしても融資金残金の保証を得ることができる、信用保証協会の保証付融資で中小事業者に対して融資を実行するのが基本です。
同じ枠で融資をしている
銀行と信用金庫は実は同じ融資枠の中で融資を行っています。
双方ともに信用保証協会の保証を付けて融資を実行しているためです。
1つの地域に金融機関はたくさんありますが、信用保証協会は1つしかありません。
そして、信用保証協会は企業に対して「〇〇万円まで保証する」という保証枠というものを設けており、基本的にはこの保証枠の範囲内までしか保証を行いません。
例えば「A生花店」に対する信用保証協会の保証枠が1,000万円の場合、B銀行が600万円の信用保証協会の保証付融資を実行すると、残りの保証枠は400万円です。
A生花店が追加の融資を借りるためにC信用金庫へ相談に行った場合、残りの保証枠である400万円の範囲内でしか融資を受けることができません。
C信用金庫から400万円借りた後、さらにB銀行へ相談へ行ったとしても、保証協会の保証枠を使い切ってしまっているのでこれ以上融資を受けることは難しくなります。
銀行も信用金庫も信用保証協会の保証を付けて融資を実行している以上は、同じ融資枠の中で融資を行っているのが実情です。
審査するのも信用保証協会
銀行も信用金庫も実は審査をしている人も同じです。
信用保証協会の保証を付けて融資を実行する場合、銀行も信用金庫も信用保証協会の保証さえ付けばリスクがありません。
そのため、保証協会の保証さえ付けばほぼ確実に融資を実行します。
つまり、実際に「お金を貸していいかどうか」という審査を行っているのは、銀行に申し込んでも信用金庫へ申し込んでも信用保証協会が行っていることになります。
銀行と信用金庫は異なる金融機関ですが、同じ枠の中で融資を行い審査の主体も同じだというのが実態です。
実務上の銀行借入と信用金庫の融資の相違点
銀行と信用金庫の借入は信用保証協会の保証を付けて融資をするという点では共通していますが、以下の4点に関しては相違点があります。
- 契約手続等を行う場所
- 担当者の知識
- 融資金額の規模
- 不良債権化した時の対応
信用金庫の方が小回りがきき、銀行の方が大きな対応をしてくれると言えるでしょう。
銀行借入と信用金庫の融資の相違点について詳しく解説していきます。
契約手続等を行う場所
融資の申し込みや契約手続を行う場所は、銀行と信用金庫では異なります。
- 信用金庫:会社や自宅
- 銀行:銀行窓口
信用金庫は小回りがきいて、担当者が取引先を訪問するのが仕事です。
そのため、融資の際の手続きも会社や自宅で行うことができるので、わざわざ金融機関窓口へ行く必要がありません。
契約に必要な印鑑証明書等の公的書類も、信金職員が役所まで行って取得してくれることもあります。
一方、銀行と契約する場合には、基本的に銀行窓口へ行かなければなりません。
必要書類は自分で用意して銀行へ持参し、契約するというのが基本です。
銀行は信用金庫ほどこまめに取引先を訪問しないので、よほどの大口先でない限り銀行が来社して手続きをするということはありません。
「忙しい時に銀行に行っている時間がない」という人は、小回りのきく信用金庫へ申し込んだ方がよいでしょう。
担当者の知識
担当者の知識レベルに銀行と信用金庫では違いがある場合があります。
銀行の担当者は決算書や融資に対する知識が深いので、例えば決算書を見せた時に、「いくらまでなら融資ができそう」「どの商品に申し込んだら最適」などの融資に関する疑問に関してその場である程度は答えることができます。
一方、信用金庫の担当者はそれほど知識が深くありません。
何か疑問点を聞いても「上司に確認します」と一度支店に持ち帰って、上司の指示を仰ぐのが一般的です。
話や手続きがワンストップでスムーズに進むのは銀行でしょう。
会社の財務状況などについてもアドバイスを受けることができるので「金融機関にコンサルティング的な役割を求めたい」と感じている人は、信用金庫ではなく銀行と取引する方が向いているでしょう。
融資金額の規模
融資金額の規模は信用保証協会の保証を付けている限りは銀行と信用金庫では同じです。
しかし、ある程度信用を獲得して、保証を付けないプロパー融資を受けることができるようになると、銀行と信用金庫では融資金額の規模が異なるようになります。
それほど資金的な規模を持っていない信用金庫は1億円を超えるような融資を得意としていません。
一方、幅広い人から預金を集めている銀行は億を超えるような融資に対してもしっかりと対応することが可能です。
企業規模が小さい時には信用金庫で十分に対応できますが、会社が成長して必要金額が大きくなった時には銀行でないと対応することができないケースも多いでしょう。
不良債権化した時の対応
業績が悪化し、融資金を返済することができなくなり、金融機関にとって融資金が不良債権となってしまった場合の対応も銀行と信用金庫では異なるものになることがあるようです。
営利を目的としている銀行は、企業にとっての損失である不良債権を長期間そのままにしておくようなことはありません。
再建する見込みが難しいのであれば、財産の差し押さえやサービサーへの債権売却などによって比較的早期に不良債権処理を行います。
一方、非営利の組織である信用金庫は比較的長い目で不良債権の面倒を見てくれる傾向があるようです。
企業が再建できるまで、繰り返しリスケジュールを行いなど、返済が難しくなった企業も長い目でサポートしてもらうことができます。
借入金が返済不能になった時の対応は信用金庫の方が企業に寄り添ったものになる傾向があるでしょう。
銀行と信用金庫の借入についてよくある質問
- 事業規模が小さいので信用金庫へ融資を申し込んだ方がよいでしょうか?
- 信用金庫であれば例え10万円の事業資金融資にもある程度快く対応してもらうことができます。
100万円未満の金額であれば信用金庫へ申し込んだ方がよいでしょう。
銀行でも少額の対応をしてもらうことはできますが、「希望額が少なくて気が引ける」というような場合には信用金庫へ申し込んだ方が気楽かもしれません。
- 小規模事業者ですがメガバンクと取引することはできますか?
- 事業規模が小さくてもメガバンクと取引することは可能です。
「今後、事業を大いに大きくするからメガバンクと取引したい」と考える人は、創業融資の相談からメガバンクに行った方がよいでしょう。
なお、決算内容がある程度悪くなってからメガバンクに相談に行っても相手にしてもらうことができない場合もあります。
ただし、メガバンクは小規模企業への訪問などは基本的に行わないので手続き面では面倒ですし、中小企業に対しては信用保証協会の保証を付けて融資を行います。
規模の小さな事業者にとって、メガバンクと取引するメリットはあまりないと言えるのが実情です。
- 地方銀行と都市銀行のどちらがよいでしょうか?
- 規模の小さなうちは、地域に密着した地方銀行の方がよいでしょう。
どちらも信用保証協会の保証を付けて融資をすることは同じですが、地方銀行の方が機動力が高いため手続きが便利です。
また、地方銀行は地域の経済に精通しているため、取引をすることによって地域の経済に関わる様々な情報を得ることができるのが最大のメリットです。
都市銀行はプロパー融資で対応できる金額の桁が圧倒的に大きいという点がメリットですので、ある程度規模が大きくなってきたら付き合いを始めるとよいでしょう。
- 信用金庫であれば最初からプロパーで融資してくれますか?
- 信用金庫も銀行も最初からプロパー融資に応じることはほとんどありません。
すでに会社の規模が大きく、地元でも有名な企業で、財務内容も業績も良好であれば、最初からプロパー融資を受けることも可能ですが、そうでない場合には最初は信用保証協会の保証を付けて融資を行います。
プロパー融資は金融機関のリスクが高いので、信用金庫であってもある程度信頼を得てからでないと借りることが難しいと理解しておきましょう。
銀行と信用金庫から借り入れを検討されている方へ
銀行と信用金庫は今は利用者にとってほどんど違いはありません。
双方、信用保証協会の保証を付けて融資を行うのが基本ですので、同じ枠の中の融資で、同じ人が審査するためです。
ただし、実務面では以下の4点で違いがあるのも事実です。
- 契約手続等を行う場所
- 担当者の知識
- 融資金額の規模
- 不良債権化した時の対応
小回りのきく対応をして欲しい場合には信用金庫、コンサル機能を期待したいのであれば銀行というように、自社のニーズに応じて使い分けるとよいでしょう。