事業者の方が銀行から融資を受ける方法として手形貸付と証書貸付という2つの融資のいずれかを選択しなければならないケースが大半です。
しかし、ほとんどの事業者の方が手形貸付と証書貸付の違いをよく分かっておらず、なんとなく銀行の提案したままの方法で融資を受け入れているという人がほとんどではないでしょうか?
手形貸付と証書貸付の違いを理解し適切に使い分けることで、企業の資金繰りは円滑になり、利息負担をできる限りミニマムにしていくことが可能です。
手形貸付と証書貸付の違い、適切な使い分け方法について詳しく解説していきます。
銀行から自社に最適な形で融資を受けることができるようになりましょう。
手形貸付とは
手形貸付とは、銀行に約束手形を差し出してお金を借りる方法で、基本的には短期間だけお金を借りて一括で返済するのが原則です。
手形貸付の特徴や定義について詳しく解説していきます。
借主から銀行宛の約束手形を振り出す融資
手形貸付とは、借主から銀行宛の約束手形を振り出させることによって、融資を実行するものです。
例えば100万円の手形貸付を受けるのであれば、銀行を受取人、借主を振出人とした約束手形を発行しなければなりません。
なお、手形は銀行に用意されているので、自社は署名、押印をするだけになります。
自社で手形を用意する必要はありません。
約束手形とは
約束手形とは、振出人が手形の受取人もしくは手形の所持人に対し、手形の期日に手形の額面金額を支払うことを約束する有価証券のことです。
約束手形は企業間の支払手段として利用されるもので、手形で支払いを行うと、期日に手形振出企業の当座預金から取り立てられた手形の代金が引き落とされる仕組みになっています。
つまり約束手形とは「期日に代金を受け取る(支払う)有価証券」です。
手形貸付の際に銀行へ約束手形を振り出すということは、お金を借りた企業は期日に手形金額を支払わなければならいとうことになります。
融資金は額面金額から利息が控除される
手形貸付では利息は前払いです。
自社で利息分の金額を用意する必要はなく、融資金から利息は控除されます。
そのため、貸付期間内に発生する利息を控除した金額が融資されることになります。
例えば200万円を金利5%で期間3ヶ月(90日)の手形貸付で借りた場合の融資金は以下のようになります。
- 支払利息:200万円×5%÷365日×90日=24,657円
- 入金額:200万円-24,657円=1,975,343円
このように、期間内の利息は借入時に前払いで支払います。
主に期間は1年以内
手形貸付は主に借入期間1年以内の短期資金で利用されるのが一般的です。
1年を超える期間を設定する場合には基本的に手形貸付は利用されません。
一括返済で行われるのが基本
手形貸付は一括返済で行われるのが基本です。
そもそも約束手形というものが、期日に一括で手形額面金額を決済しなければならないものであるため、手形貸付においても一括返済が基本です。
分割返済をするのではあれば、細かい返済条件まで指定することができる証書貸付で融資を受けなければなりません。
手形貸付とは借入期間1年以内で一括返済を基本とする融資だと理解しておきましょう。
証書貸付とは
証書貸付とは銀行に借用証書を差し出してお金を借りる方法です。
こちらは長期間の借入で複数回に分けて返済する融資という特徴があります。
証書貸付の定義や特徴について詳しく理解していきましょう。
銀行宛に借用証書を差し出す融資
証書貸付とは、銀行宛に借用証書を差し出す融資です。
例えば100万円を証書貸付で借りるのであれば、借入の際に100万円の借用書を銀行へ差し出さなければなりません。
手形貸付が約束手形を差し出す融資である一方、証書貸付は借用書を銀行へ差し出す融資だと理解しておきましょう。
借用証書とは
借用証書とは簡単に言えば「〇〇円借りたので金利〇〇%付けて、毎月〇〇円、〇〇年後まで返済します」という契約書です。
銀行融資において借用証書は「金銭消費貸借契約書」と呼ばれます。
銀行の証書貸付の場合はかなり詳細にできており、具体的には以下の内容が契約書に記載されます。
- 貸付金額
- 資金使途
- 最終期限
- 返済方法
- 返済口座
- 利率
- 利息の支払い方法
- 遅延損害金
- 期限の利益喪失事由
これらの記載事項に則って融資と返済が行われ、記載された通りに遅延損害金や期限の利益喪失などの罰則が課せられることになります。
融資金は額面金額が振り込まれる
融資金は額面金額から手数料などが控除された金額が振り込まれます。
証書貸付では毎月の返済日に直近1ヶ月分の利息を後払いで支払うので、手形貸付のように利息を前払いで控除されることはありません。
返済期間は1年超の長期になる
証書貸付は原則的に借入期間1年超の長期資金の融資で利用されることが一般的です。
証書貸付の方が返済方法が自由で、分割や元金据置やボーナス返済にも対応します。
そのため、高額の融資金を長期間かけて返済する借入に向いている融資方法です。
基本的には1年超の時間をかけて返済する場合に証書貸付が利用されます。
分割返済で行われる
証書貸付は分割返済で行われるのが基本です。
細かな返済条件を明記して手形貸付よりも高い収入印紙代を支払うのが証書貸付ですので、証書貸付は様々な返済条件を付すことができ、分割返済に向いています。
証書貸付でも一括返済の契約にすることは可能ですが、一括返済にするのであれば収入印紙代の安い手形貸付の方がメリットがあるので証書貸付で一括返済の融資を実行することはほとんどありません。
証書貸付は分割返済で行われるのが基本です。
手形貸付と証書貸付の違い
ここで手形貸付と証書貸付の違いをまとめておきましょう。
両者の違いは主に以下の4点です。
- 借入期間
- 融資金額
- 返済回数
これら4点の違いを理解しておくことで、適宜適切に手形貸付と証書貸付を使い分けることができるようになります。
借入の種類 | 借入期間 | 融資金額 | 返済回数 |
---|---|---|---|
手形貸付 | 1年以内 | 少額 | 1回 |
証書貸付 | 1年超 | 高額 | 複数回の分割返済 |
手形貸付と証書貸付の違いについて詳細に解説していきます。
借入期間
手形貸付の借入期間は1年以内、証書貸付の借入期間は1年超で証書貸付は数十年の長期の借入が行われることもあります。
借入期間が1年以内の資金を短期資金、借入期間が1年以上の資金を長期資金と言いますが手形貸付は短期資金、証書貸付は長期資金でそれぞれ利用されます。
融資金額
融資金額にはどちらも制限がありません。
ただし、手形貸付は一括返済、証書貸付は分割返済ですので、高額の借入をする場合には分割返済に対応した証書貸付の方がよいでしょう。
手形貸付は一括で返済できる程度の金額でなければならないので、借入金額は少額であることが一般的です。
返済回数
返済回数は手形貸付が期日に一括、証書貸付が分割返済が基本です。
証書貸付の場合には、最終期日に完済できるように計算された返済額を毎月1回返済していくのが基本的な返済方法です。
ただし、証書貸付は返済方法が自由ですので、半年に1回とか一定期間は利息のみの支払いとするなど、返済方法や返済回数に関してはかなり柔軟に決定することができます。
手形貸付が活用される3つの場面
手形貸付が活用される場面として、以下の3つの場面が想定されます。
- 建設業などの短期運転資金
- つなぎ融資
- 長期間借りっぱなし「短コロ」
短期運転資金やつなぎ資金のように「短期間だけお金を借りる」という場面で活用されるのはもちろん、長期間借りっぱなしにする場合にも手形貸付は利用されます。
手形貸付が利用される場面について詳しく理解していきましょう。
建設業などの短期運転資金
手形貸付は建設業などの短期運転資金に利用されることが多い貸付です。
建設業などは工事の最初に人件費や仕入代金やリース代金などの経費の支払いが多く、売上は工事完了後です。
そのため、着工前に工事にかかる必要経費を手形貸付で借りており、工事完了後に一括で返済するというように利用されることが一般的です。
例えば、工事にかかる経費が500万円、工事完了が6ヶ月後の場合には期間6ヶ月の手形貸付を500万円借りることで、工事に必要な経費を調達し、工事完了後に返済することができます。
手形貸付で借りることによって期日までには何も返済がないので、工事完了にならなければ入金のない建設業には最適な借入手段だと言えるでしょう。
つなぎ融資
住宅ローンのつなぎ融資などでも手形貸付が利用されます。
住宅の工事は、土地売買時、基礎着工時、棟上げ時など工事の進捗に応じて少しずつ代金を支払っていくのが一般的です。
この支払いの都度、手形貸付で必要資金を借りておき、最終的に証書貸付に借り換えを行い長期返済していくという方法で利用します。
住宅ローンだけでなく、建物建築時には手形貸付によるつなぎ融資が利用されるのが一般的です。
長期間借りっぱなしの「短コロ」
手形貸付は長期間企業がお金を借りっぱなしにすることでも利用されます。
1年程度の期間を設定した手形貸付を運転資金として企業へ融資し、期日がきたら手形を書き替える(更新する)方法で企業は運転資金を借りっぱなしにすることがあります。
この方法は短期資金を転がすので「短コロ」と呼ばれています。
企業にとっては返済する必要がないので擬似的な自己資金になるのでメリットがある一方、金融機関にとっても融資量を確保できるのでメリットがあるため以前は盛んに行われていました。
バブル崩壊以降、短コロは貸し剥がしなどによって少なくなりましたが、最近では中小事業者の資金繰りを支える有効な手段として見直されています。
銀行から擬似的な資本を注入してもらうことができる方法として、短コロという方法があるということを頭に入れておいて損はないでしょう。
証書貸付が利用される3つの場面
証書貸付が利用される場面は主に以下の3つのケースです。
- 借入金額が高額になる設備資金
- 数ヶ月分の運転資金をまとめて借りる長期運転資金
- 複数の債務をまとめるための借り換え融資
設備資金や長期運転資金のように、高額のお金を長期間かけて返済していく場面で利用されるのはもちろん、おまとめにも活用できます。
証書貸付が利用される3つの場面についても詳しく理解していきましょう。
借入金額が高額になる設備資金
借入金額が高額になることが多い設備資金は長期資金で借りることが一般的です。
そもそも企業が導入する設備は今後数年間にわたって利益を出すという前提があり、その調達のための借入金は設備から生み出す利益から均等に返済していくのが原則です。
そのため、設備資金は当該設備の償却期間内で長期間にわたり返済していく必要があります。
例えば調達価格1億円、償却期間10年の設備を購入するのであれば年間1,000万円×10年となるような返済計画で証書貸付で借入を行います。
数ヶ月分の運転資金をまとめて借りる長期運転資金
数ヶ月分の運転資金をまとめて借りる場合には、証書貸付によって長期運転資金を借りるのが一般的です。
例えば、創業時の運転資金を借りる場合には、事業の起動が乗るまでの半年から1年程度の運転資金を一括で借りるのが基本です。
数ヶ月分の運転資金を一括で返済するのは不可能ですので、長期間かけて返済する証書貸付で借入を行います。
複数の債務をまとめるための借り換え融資
複数の借入金をまとめるための借り換え融資は証書貸付で行われます。
複数の借入金をまとめて一括返済するのは不可能で、むしろ借り換え前よりも期間を延ばしておまとめをすることが一般的です。
分割にて長期間かけて返済していくことができる証書貸付にて借入を行うのがおまとめや借り換えローンの方法になります。
手形貸付と証書貸付についてよくある質問
- 自社で手形貸付の借入を希望することはできますか?
- 銀行に対して「短期資金で融資して欲しい」ということ自体は全く問題ありません。
しかし銀行は一括融資の短期資金はリスクが高いと考えていることと、信用保証協会が長期資金の保証を好むなどの理由によって、長期資金を勧めてくる傾向があります。
建設業の運転資金など、どう考えても手形貸付で借りた方がメリットがある場合などは、粘り強く「短期資金の方がメリットがあるから短期資金を借りたい」と交渉してみましょう。
どうしても長期資金しか応じてくれない場合には他の金融機関へ相談した方がよいかもしれません。
- 信用保証協会は手形貸付についても保証してくれるのでしょうか?
- 信用保証協会は手形貸付についても保証は行なってくれます。
ただし、基本的には銀行も信用保証協会も長期資金を好む傾向があるので、短期資金の融資を受けたい場合には、「短期資金でなければならない理由」を明確にして交渉してみましょう。
- 手形貸付と証書貸付はどちらが融資までに時間がかかりませんか?
- 融資にかかる時間は基本的に同じです。
ただし金融機関に極度内手形貸付の枠を作成してある場合には、極度枠内で実質的に審査んしで自由に手形貸付を借りることができるので融資に時間はかかりません。
なお、契約書作成の手続きは証書貸付の方が面倒ですので、契約手続には証書貸付の方が時間がかかってしまうでしょう。
- 手形貸付の期日に返済金が用意できないとどうなるのでしょうか?
- 原則的には期限の利益を喪失し、一括返済請求となってしまいます。
しかし数日であれば銀行は返済を待ってくれるのが一般的ですので、どうしても返済金を用意することができない場合には、前もって銀行へ相談し「〇〇日には入金になるので返済を〇〇日まで待ってほしい」とできる限り具体的な期日を提示した上で相談してみましょう。
なお、銀行によってはどうしても返済に遅れることを認めてくれないケースも考えられます。
もしも銀行が返済の遅れを認めてくれない場合には、即日資金調達可能なファクタリングなどの方法で資金調達することも検討すべきかもしれません。
まとめ
手形貸付と証書貸付は約束手形で融資をするのか、借用証書によって融資をするのかという違いがありますが、この違いは以下の3つの具体的な借入方法の違いを生むことになります。
- 借入期間
- 融資金額
- 返済回数
手形貸付と証書貸付の違いを明確にして、短期間だけ借りたい場合は手形貸付、分割で長期間かけて返済していきたい場合には証書貸付を利用するとよいでしょう。
それぞれの借入方法は企業の形態や場面によって最適な手段が異なります。
銀行は長期資金を勧めてくる傾向がありますが、自社にとってどちらが最適な借入方法かをあらかじめ明確にして、自社が主導して手形か証書のいずれかで借入をするのか銀行と交渉するようにしましょう。