手形と売掛金。取引先から現金で代金を受領しない限りは、必ずいずれかの売掛債権で売上を計上することになります。

しかしいずれの売掛債権もすぐに現金にならない資産ですので、資金繰りに余裕のない会社は何かしらの方法でこれらの資産を現金化しなければ資金繰りが苦しくなります。

手形を現金化する手段として代表的なのが手形割引。

売掛金を現金化する代表的な手段がファクタリングです。

それぞれの違いを理解して適切に使い分けることで企業の資金繰りは非常に楽になります。

手形割引とファクタリングの違いと使い分け方法について徹底解説していきます。

 

売掛金と手形の違い

まずは売掛金と手形の違いを理解しておきましょう。

売掛金と手形の違いは主に以下の3点です。

  • 回収に対する強制力の有無
  • 支払い手段として譲渡が可能かどうか
  • 信頼できる仲介者がいるか

手形の方が信用力が高く、資金化や支払手段としての活用が容易という特徴があります。

手形と売掛金の3つの違いについて詳しく解説していきます。

受取手形には強制力がある

売掛金は債務者に対する強制力が非常に弱い債権です。

当人同士で「〇月〇日に支払います」という約束に基づいているだけのものであり、もしも債務者が支払わない場合にも誰かが債務者にペナルティを与えるわけでも回収してくれるわけでもないため、債権者が泣き寝入りになってしまうこともあります。

売掛金をどうしても回収しようとした場合、裁判上の手続きなどによって回収するしか方法がないので、売掛金は回収に対する強制力が非常に弱い債権だと言うことができるでしょう。

一方、手形には強い強制力があります。

手形期日に手形が決済できない場合には不渡りになり銀行取引定処分などのペナルティが課せられます。

手形が不渡りになってしまうとほとんどの企業が実質的な倒産に追い込まれてしまうので、手形振出企業は「不渡りだけは出せない」と考え、手形代金は最優先で用意します。

手形はペナルティがあるので、ペナルティのない売掛金よりは回収に対する強制力が圧倒的に高くなります。

受取手形は裏書譲渡が可能

売掛金は債権ですが形がないため、取引先へ支払手段として譲渡することができません。

一方、受取手形は有価証券として形があるので、裏書譲渡することによって取引先への支払手段として利用することができます。

取引先へ「支払う現金がない」という状況においても、受取手形を持っていれば決済手段として活用することが可能です。

手形は銀行が仲介しているので信用力が高い

手形は銀行に当座預金を作成し、銀行から手形帳の発行を受けなければなりません。

銀行に当座預金口座を作るには一定以上の信用が必要になるので、手形を発行する企業は一応は信用できる企業だと言うことです。

一方、売掛金は当人同士の「支払います」という約束に過ぎず、この契約には誰も仲介者が存在しません。

そのため、銀行が仲介する手形よりも売掛金の方が圧倒的に信用力は低くなると言えるでしょう。

手形割引とは

手形割引とは簡単に言えば受取手形を期日前に現金化する方法で、主な特徴は以下の4点です。

  • 手形期日前に銀行で割引現金化
  • 償還請求権がある
  • 一部だけの割引はできない
  • 手形期日が銀行が取り立て回収する

手形割引の特徴について詳しく理解しておきましょう。

手形期日前に銀行で割り引き現金化

手形割引とは、手形の期日前に銀行で手形を割り引いて現金化する方法です。

保有する手形を銀行に担保として差し出し、手形の額面金額を銀行から借りるイメージです。

これによって、手形の期日前に手形金額相当額を銀行から調達することができます。

償還請求権がある

手形割引には償還請求権があります。

償還請求権とは、手形が期日に不渡りになった場合に、手形に裏書した者に支払を請求できる権利のことです。

例えばA社から受け取った受取手形を銀行で割り引いた後、A社が倒産し手形が不渡りになった場合、自社が手形代金を銀行へ保証しなければなりません。

手形割引にはデフォルトリスクがあるという点がデメリットです。

一部だけの割引はできない

手形割引は手形の額面金額全額に対して行わなければなりません。

例えば1,000万円の手形のうち、500万円だけを割り引いて現金化するということは不可能です。

手形の半分をちぎって、半分だけを銀行で割り引くというようなことはできません。

必要な金額が僅かであっても手形の金額が大きければ、全額を割り引くしかないという点にも注意しましょう。

手形期日に銀行が取り立てて回収する

手形の期日になると、銀行が当該手形を取り立てに出して回収を行います。

そのため、手形を割り引いた後には原則的に何もする必要がありません。

銀行が手形の取り立てを行うと、手形振出先企業が保有している当座預金から手形代金が引き落とされて回収されます。

そのため、手形割引を行ったことは手形振出企業に知られることもありません。

ファクタリングとは

ファクタリングとは簡単に言えば売掛金をファクタリング会社へ売却して資金化する方法です。

ファクタリングの主な特徴は以下の4点です,.

  • 売掛債権期日前に売掛債権を売却する
  • 償還請求権がない
  • 一部だけの売却も可能
  • 回収方法は契約形態によって異なる

ファクタリングの特徴についても詳しく見ていきましょう。

売掛債権期日前に売掛債権を売却する

ファクタリングは売掛債権の期日前に売掛債権を売却して資金化する方法です。

売掛金は期日になるまで全く現金にならない資産です。

しかし売掛金の買取を行なっているファクタリング会社へ売却することによって現金化することが可能です。

売掛債権の納入企業は手数料を支払って売掛債権をファクタリング会社へ売却し、ファクタリング会社は売掛債権全額を回収する権利を獲得します。

償還請求権がない

ファクタリング最大の特徴が、原則的に償還請求権がないという点です。

もしも売上債権が回収不能になった場合には、ファクタリング会社が損失を負い、自社には何も責任が及びません。

ファクタリングは売掛債権の売却ですので、ファクタリング会社へ債権を売却する際に、売掛債権の回収リスクも売却しています。

そのため、万が一売掛債権が回収不能になった時も、ファクタリングをらすることによって回収リスクを排除することが可能です。

一部だけの売却も可能

ファクタリングは売掛債権の一部だけ売却することも可能です。

例えば「1,000万円の売掛金のうち、400万円だけ資金化したい」と考えた場合、一部だけを売却することができます。

ファクタリングは必要最低限の金額だけ資金化することができるという大きなメリットがあります。

回収方法は契約形態によって異なる

ファクタリングの回収方法は2社間ファクタリングと3社間ファクタリングによって異なります。

2社間ファクタリングとは納入企業とファクタリング会社の2社だけで契約するファクタリングです。

売掛先企業に秘密で契約するため、売掛金期日になると通常通り売掛先から自社へ入金があり、自社はその代金をスライドさせる形でファクタリング会社へ送金します。

3社間ファクタリングとは納入企業と支払企業(売掛先企業)とファクタリング会社の3社で契約するファクタリングです。

あらかじめ売掛先企業の同意を得て契約するため、売掛金期日になると売掛先企業が直接ファクタリング会社へ送金します。

このようにファクタリングの回収方法は2社間ファクタリングと3社間ファクタリングによって異なります。

手形割引とファクタリングの違い

手形割引とファクタリングは、「売掛債権を早期に資金化できる」という点は共通していますが、その他の部分に関しては異なる点の方が多いと言えるでしょう。

手形割引とファクタリングの主な違いとして以下の4点を挙げることができます。

  • 手数料
  • 資金化までの時間
  • 売掛債権デフォルト時のリスク
  • B/S上の扱い・区分

手形割引とファクタリングを適切に使い分けるため、両者の4つの違いについてしっかりと把握しておきましょう。

手数料

現金化の際に発生する手数料はファクタリングの方が高くなります

手形よりも売掛金の方が回収の強制力もなく、信用も低い上、ファクタリングには償還請求権がないのでファクタリングの方がリスクが高いためです。

手形割引の金利は年1%〜5%程度である一方、ファクタリングの手数料は買取金額の5%〜10%程度と、ファクタリングの方が手数料が高く資金調達コストが大きくなってしまう可能性があります。

資金化までの時間

資金化までの時間はファクタリングの方が早くなります。

多くのファクタリング会社は、最短即日資金化に対応しているので、資金化にかかる時間は非常にスピーディーです。

一方、手形割引は審査に数日程度の時間はかかってしまいます。

手形割引の極度枠をあらかじめ銀行に持っているのであれば、即日融資を受けられますが、そうでない場合には数日から1週間程度の時間がかかります。

基本的にはファクタリングの方が早期に資金化できると考えて、急ぎの時にはファクタリングに申し込んだ方が、資金が必要なタイミングに間に合う可能性が高いでしょう。

売掛債権デフォルト時のリスク

売掛債権がデフォルト(回収不能)になった場合のリスクは手形割引だけに存在します。

ファクタリングは償還請求権がないので、売掛債権がデフォルトしても、納入企業のリスクは全くありません。

ファクタリング会社がデフォルトした場合のリスクを負ってくれます。

一方、手形割引は償還請求権があるので、割引後に手形が不渡りになったら自社に支払義務が生じます。

「期日通りに支払ってくれるかどうか不安」という場合にはファクタリングを利用すべきです。

B/S上の扱い・区分

ファクタリングと手形割引では貸借対照表上の表示も異なります。

ファクタリングは売掛債権という資産を売却しているだけですので、特別に貸借対照表上に表示されるものはありません。

一方、手形割引は銀行からの借入金という扱いになるので手形割引を行えば、その分負債が増えてしまうことになります。

ファクタリングは資産の売却、手形割引は借入金という会計上の違いがあります。

手形割引とファクタリングの使い分け方法

「手形とファクタリングを具体的にどのように使い分けていいか分からない」という人も多いのではないでしょうか?

手形とファクタリングは資金調達が必要なタイミングや許容できるコストなどに基づいて適切に使い分けをする必要があります。

それぞれに適した使い分けのタイミングを詳しくご紹介していきます。

即日でお金が必要な時はファクタリング

即日でお金が必要な時は、即日資金化に対応した2社間ファクタリングがよいでしょう。

手形割引は数日から1週間程度の時間がかかってしまいます。

ただし、手形割引の極度枠を銀行に所有している場合には、低コストで資金調達ができる手形割引の方がメリットがあります。

借入金を増やしたくない時はファクタリング

借入金を増やしたくない場合にはファクタリングを選択すべきです。

ファクタリングは借入金ではありませんが、手形割引は借入金になるためです。

今は不要な資産も負債も持たない、貸借対照表のオフバランス化が評価される時代です。

外部から貸借対照表を評価されたい場合は、手形割引よりもファクタリングの方がメリットがあるでしょう。

一部だけ資金化したい時はファクタリング

手持ちの売掛債権の一部だけを資金化したいときもファクタリングの方が向いています。

ファクタリングは売上債権の一部だけを売却することができますが、手形割引は手形の全額を割り引くしかできないためです。

「全部を現金化する必要はない」という場合にはファクタリングを利用しましょう。

自社の与信に自信がない時はファクタリング

赤字や債務超過などによって、自社の信用に自信がない場合もファクタリングが向いています。

償還請求権のある手形割引は自社の審査もしっかりと行われ、自社が赤字や債務超過だった場合には、どんなに手形振出先企業が優良企業でも審査に通らないことがあります。

一方、ファクタリングは償還請求権がないので自社の与信はそれほど問題になりません。

赤字や債務超過でも売掛先企業の与信に問題がなければ審査に通過できます。

自社の信用に自信がない場合や、銀行の審査に落ちてしまった場合はファクタリングがおすすめです。

低いコストで資金調達したい時は手形割引

手形割引のメリットはコスト面です。

手形割引の金利は1%〜5%と非常に低金利で利用することができます。

一方、ファクタリングの手数料は債権価額の5%〜10%程度です。

ファクタリングは手形割引にはないメリットが多数ありますが、その分、資金調達コストが高くなってしまうのがデメリットです。

「できる限り低いコストで資金調達したい」と考える方はファクタリングよりも手形割引の方が向いています。

手形割引とファクタリングに関してよくある質問

時間的に余裕がある時は手形割引とファクタリングどちらを利用すべきでしょうか?
資金が必要になるタイミングまでに時間的な余裕が多少なりともあるのであれば、ファクタリングよりも金利の低い手形割引の方がよいでしょう。
ただし、「売掛債権のデフォルトリスクを排除したい」「借入金は嫌」という人は、ファクタリングの方が向いています。
自社が「何を重視するのか」ということをに基づいて、ファクタリングと手形割引を適切に使い分けることが重要です。
手形割引とファクタリングの審査はどちらが厳しいでしょうか?
一般的に審査は手形割引の方が厳しいと考えられます。
手形割引の方が金利が低いので、金融機関が許容できるリスクが少ないためです。
また、償還請求権のある手形割引では、自社に対しても厳しい目線で審査が行われるので総合的には手形割引の方が審査が厳しくなるでしょう。
手形割引の審査に落ちた後にファクタリングを利用するなど、適切に使い分ける方法がおすすめです。
取引先が売掛金ではなく手形で払いたいという時はこの申し出を受けるべきでしょうか?
手形の方が回収に対する強制力が高いので、取引先が「手形で払いたい」という時には受けるべきでしょう。
ただし、売掛金の平均的な入金サイトが1ヶ月程度であることに対して、手形の場合には入金サイトが3ヶ月程度先になることは珍しくありません。
入金サイトが長くなりすぎてしまうと、自社の資金繰りが悪化するので、事前に「サイトはどの程度になるのか」ということを確認し、あまりにもサイトが長くなりすぎないように注意してください。

手形割引・ファクタリングをご検討の方へ

手形割引とファクタリングの違いは以下の4つです。

  • 手数料
  • 資金化までの時間
  • 売掛債権デフォルト時のリスク
  • B/S上の扱い・区分

基本的にはファクタリングはスピードや審査難易度やデフォルトリスクなどの面で、手形割引よりも優れています。

ただし、手数料面だけがファクタリングのデメリットです。

「手形割引よりも高い手数料を支払って、何を得たいのか」ということを明確にして、ファクタリングと手形割引を使い分けましょう。