昨今、パソコンやスマートフォンから手軽に債権取引を行うことができる「でんさい」に注目が集まっています。

でんさいはファクタリングと並ぶ資金調達資金繰りに活用できるスキームのひとつですが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

今回はファクタリングとでんさいについて、利用前に身につけておくべき基礎知識と両者のスキームの違いを解説します。

この記事を監修した専門家

大橋 誠一

公認会計士・税理士 大橋誠一 事務所

公認会計士・税理士・国税審判官経験者。
有限責任監査法人トーマツ・デロイト トーマツ税理士法人を経て、国税専門の裁判官ともいうべき国税不服審判所の国税審判官に民間登用される実績を持つ。

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[この記事へのコメント]

資金は企業の血液といわれます。
たとえ黒字決算であっても、資金の供給が事業の拡大に追い付かず枯渇してしまった場合には、「黒字倒産」ということにもなりかねません。
一般消費者までが当たり前に用いるほど、電子決済は身近な資金決済手段となりました。
ファクタリングもでんさいも企業の資金繰りを安定させるための有力なツールですが、それぞれが持つ特徴とそれから生ずるリスクを見極めた上で、自社にとってメリットのある方法を選択する必要があるでしょう。

でんさい(電子記録債権)とは

でんさいとは

でんさいとは、手形や売掛債権を電子データで記録した電子記録債権の一種です。

従来の紙ベースの手形や売掛債権といった債権の公的書類を電子データ化し、全国銀行協会が設立した電子債権記録機関「でんさいネット」で管理することを可能にしています。

でんさいネットには、でんさいに参加する全国の都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合といった金融機関からアクセスすることができます。

https://www.densai.net/

でんさいのメリット

でんさいのメリット

でんさいは従来の紙ベースの手形や売掛債権の問題点を解決するために登場したという背景があります。

支払企業と納入企業でそれぞれのメリットを見てみましょう。

支払企業のメリット

  • 印紙税が課税されない

でんさいは従来の手形と異なり、印紙税の課税対象ではないため、節税対策ができます。

  • 事務作業の負担・搬送コストを削減

ペーパーレスのでんさいは、手形の発行、振込の準備といった支払いに関する面倒な事務作業の負担を軽減し、なおかつ手形の搬送コストも削減できます。

  • 支払い手段の一本化

手形や振込、一括決済など納入企業に対する複数の支払手段をでんさいで一本化、支払い作業の効率化を図ることができます。

受取(納入)企業のメリット

  • 紛失・盗難リスクがない

電子データ化により紛失や盗難のリスクがありません。管理コストも削減することができます。

  • 取立手続が不要

支払期日になると窓口金融機関の口座に自動的に入金されるため、取立手続が不要です。

  • 譲渡や割引が可能

従来の手形と違って、支払期日前に必要な分だけ「譲渡」や「割引」ができるため資金繰りに活用しやすくなります。

大橋

かつては「現物の方が安心・デジタルは不安」という意識がありましたが、ビジネスの世界でそう考える方は少なくなってきたようです。

また、経営の効率性の観点からも、デジタルであることによるメリットを重視される方が増加してきています。

もとむら

でんさいは全国銀行協会の「でんさいネット」で流通している電子記録債権です。三菱UFJ、三井住友、みずほの三大メガバンクもそれぞれ電子債権記録機関を有しており、でんさいとは異なる電子記録債権を提供しています。本記事で取り扱っている電子記録債権は、全国銀行協会が提供する「でんさい」です。

でんさいのデメリット

従来の手形や売掛債権の問題点を解決したでんさいにもデメリットはあります。

取引先がでんさいに対応している必要がある

当然ながら、取引先もでんさいに対応していないと支払いや受け取りができません。

複数の取引先のうち1社でもでんさいに対応していなければ、単純に支払い方法が増えて管理コストがかかるだけになってしまいます。

利用手数料がかかる

でんさいには発生記録手数料(支払企業)や決済手数料(受取企業)などの利用手数料がかかります。

手形をでんさいに切り替えることはコスト削減や作業効率化につながりますが、売掛債権の場合は利用料が上乗せされてしまうため、あまりでんさいに切り替える利点がありません。

大橋

デジタル化は相手方が対応していることが必須条件であり、対応していない取引先があると、現物とデジタルの2つの事務作業が併存することになります。

また、利用に当たっては、ある程度ボリュームのある債権を有している企業の方が手数料負けをしないでしょう。

もとむら

でんさいは手形や指定債権の替わりではなく、あくまでも新しい債権の1つです。でんさいの金額は2017年12月末時点で手形交換高の3.9%にとどまっており、今でも手形が中小企業の資金繰りに重要なことは変わりありません。

でんさいの活用方法

でんさいの活用方法

でんさいを「譲渡」や「割引」することで、資金繰りに活用できます。

でんさいの譲渡

でんさいの「譲渡記録請求」を行うことで、保有するでんさいを分割、他の受取企業への支払いに充てることができます。

譲渡人(支払企業)は金融機関に対し譲渡記録請求を行い、金融機関は「でんさいネット」を通じて譲渡記録の通知を行うことにより、譲受人(受取企業)へ譲渡が実行されます。

たとえば、ある大手企業(支払企業)の下請企業(一次納入企業)が、孫請企業(二次納入企業)への支払いにでんさいを活用する場合、下請企業はでんさいネットに支払企業から受取ったでんさいの譲渡記録の請求を行います。

さらに、でんさいは分割して譲渡することもできます。

詳しくは後述しますが、売掛債権を支払期日前に受け取ることのできるファクタリングとは、同じ「譲渡」でも形態の異なる取引です。

譲受人は金融機関の5営業日以内であれば、単独で譲渡記録を取り消すことができます。

でんさい割引

でんさい割引は、でんさいの全部あるいは一部を金融機関に譲渡する(買い取ってもらう)ことにより、でんさいの債権金額を支払期日前に受け取る取引です。

従来の手形割引と違って、わざわざ金融機関に出向かなくても、でんさいネット経由で割引の申し込みを行うことができます。

ファクタリングと取引形態が似ているようですが、こちらは手形割引と同じ融資契約です。

したがって、でんさいの支払企業(債務者)が倒産したら、買戻しを要求されます(ウィズリコース契約)。

大橋

でんさいメリットとして、いったん資金化せずにそのまま支払に充てることができることが挙げられます。

また、早期に資金化して資金繰りに充てることもでき、この利用の柔軟さが特徴といって良いでしょう。

ファクタリングとでんさいの違い

ファクタリングとでんさいの違い

ファクタリングとでんさい(譲渡・割引)には、以下のような違いがあります。

取引 ファクタリング でんさい譲渡・でんさい割引
でんさいネットへの加入 不要
入金までの期間 【2社間】即日~3日
【3社間】1~2週間
即日
手数料率(割引率)の相場 【2社間】10%~20%
【3社間】1%~9%
+登記費用や印紙代など
【譲渡】手数料
【割引】年率15.0%以内
利用できるタイミング 仕事完了後、支払期日前
(請求書発行済)
支払期日が割引希望日の7営業日以降
償還請求権 なし あり
売掛先(受取企業)の関与 【2社間】なし
【3社間】あり
受取企業・納入企業ともに
でんさいネットへの加入要

両者の違いについて、とくに気をつけるべきポイントについて解説します。

譲渡の意味合い

でんさいの譲渡とは、前述の通り企業が保有するでんさいを他の企業への支払いに充てることです。

以下の例で挙げるB社ケースで考えてみましょう。

  • A社・・・B社の発注元、支払企業
  • B社・・・A社の下請け、受取企業
  • C社・・・A社の孫請け、受取企業

B社がA社に商品を納入した場合、債権(でんさい)が発生します。

さらに、B社がA社の孫請けのC社に仕事を発注し、商品が納入された場合は、C社にも支払いをする必要があります。

このときB社は、支払企業A社との間に発生した債権の一部をC社に譲渡して、支払いの代わりにすることができます。

でんさいの譲渡とファクタリングの譲渡は、同じ「譲渡」という言葉を使ってはいても、全く異なる取引なのです。

でんさいネットへの加入

でんさいを利用するためには、でんさいネットに参加している金融機関を通じて手続きをする必要があり、その際に所定の審査が行われます。また、でんさいの割引申込をする際にも審査があります。

債権の支払企業・受取企業は、金融機関のシステムを通じて「でんさいネット」にアクセスし、譲渡や割引を行います。

自社の口座を持っている金融機関がでんさいネットに参加していれば、新たな口座を作ることなく、なおかつ取引先が増えても契約を結び直す必要なく、でんさいを利用することができます。

ただし、支払企業・受取企業の両方がでんさいネットに登録している必要があり、どちらか一方だけ登録していてもでんさいで取引できないことに注意が必要です。

一方のファクタリングは、ファクタリング利用会社とファクタリング業者の2社間、あるいは売掛先を交えた3社間での取引となります。

3社間ファクタリングを選んだ場合、譲渡する債権の売掛先への通知および同意を得ることが必要です。

ファクタリングはファクタリング業者が納入企業の請求書を買い取るため、でんさいを利用していない企業でも利用できます。

銀行等の金融機関を介する必要はなく、手続きや審査等にも時間がかかりません。

入金までの期間

でんさい割引は、でんさいネットを通じて申し込みをしたその日のうちに資金の受け取りが可能です。

一方、ファクタリングは2社間と3社間で入金までの期間が異なります。

2社間ファクタリングは売掛先に同意を得るプロセスが不要なため、早ければその日のうちに資金化が可能です。

3社間ファクタリングは売掛先から同意を得るプロセスがあるため、即日の資金調達は難しく、場合によっては1週間から2週間程度かかることもあります。

手数料率(割引率)の相場

ファクタリングは2社間・3社間ともに手数料がかかり、また契約内容によっては登記費用や印紙代がかかる場合もあります。

2社間・3社間の手数料の相場は以下のとおりです。

  • 2社間ファクタリングの手数料・・・(売却した債権額面に対して)10%~20%
  • 3社間ファクタリングの手数料・・・(売却した債権額面に対して)1%~9%

でんさい譲渡はシステム利用料、でんさい割引は割引率+システム利用料がかかります。

割引率はでんさいの振出人(支払企業)の信用力や割引額面、残存日数などの要因によって決定します。

ただし、システム利用料を含めた実質年率(金利)は15.0%以下となります。

利用できるタイミング

ファクタリングは売掛先(受注企業)から受注した仕事を完了して、請求書を発行した後に利用可能です。

また、ファクタリングで売却する請求書(売掛債権)は、支払期日前である必要があります。

このような債権を「確定債権」といいます。すでに支払期日を過ぎている債権(不良債権)は、ファクタリングに利用できません。

でんさい譲渡およびでんさい割引は、でんさいネットが管理する記録原簿に債権情報を記録すること(記録請求)により、債権の権利内容が確定され、譲渡や割引ができるようになります。

つまり、でんさいのサービスも受注した仕事が完了して、譲渡記録請求をしたあとに利用可能です。

もとむら

なお、新たなファクタリングサービスとして、受注企業から送付される注文書を売却して資金化する「注文書ファクタリング」が登場しています。こちらは仕事を受注した直後から仕事を完了する前に資金化が可能です。

貸し倒れリスク

ファクタリングとでんさいの譲渡・割引の最大の違いは「貸し倒れリスクの有無」です。

でんさいを譲渡・割引する場合、譲渡する企業は支払企業に対する保証人になります。

万が一、支払企業が倒産等により当該の債権を支払うことができなかった(債権を履行できなかった)場合には、譲渡した企業は保証人として支払い義務を負わなければなりません。これを貸し倒れリスクと呼びます。

一方のファクタリングは債権ごとファクタリング業者が買い取るため、支払企業が支払い不能になった場合でもファクタリング業者がリスクを負うことになり、譲渡した企業に支払い義務は一切発生しません。

つまり、ファクタリングは貸倒れのリスクを負わずに支払期日前に現金を調達することができます。

財務諸表の健全化という面では、ファクタリングのメリットの方が大きいということになります。

ただし、貸し倒れリスクを負うファクタリング業者はリスクの許容度を債権の買取手数料に反映させるため、支払企業の倒産リスクが高いほど手数料が高くなります。

でんさい一括ファクタリング

最近では、銀行子会社のファクタリング会社がでんさいのサービスにファクタリングサービスを組み合わせた「でんさい一括ファクタリング」を提供しています。

でんさい一括ファクタリングは、でんさいネットに登録されている納入企業(ファクタリング利用会社)の債権を銀行が買い取り、買取代金を入金するサービスです。

こちらはでんさい割引と違って貸し倒れリスクがないため、いわば銀行が提供するファクタリングと言えます。

でんさい一括ファクタリングは登場して5年程度が経過し、次第に認知されつつありますが、提供している銀行やシステムによってスキームが異なります。

なお、ファクタリングを専門とするファクタリング業者はでんさいネットに参加していないため、でんさい一括ファクタリングを提供していません。

大橋

でんさいは手形の電子化のようなもので、貸し倒れ時の遡及義務が残存します。

一方、ファクタリングには遡及義務がないものの、ファクタリング業者が自身の負う貸し倒れリスクを買取手数料の増加によって吸収するため、買取時の手取りが少なくなります。

もとむら

調達コストだけに着目すると、【2社間ファクタリング>3社間ファクタリング>でんさい割引】となります。ファクタリングは買取を依頼したファクタリング業者によって手数料が異なるため、なるべく複数の業者から見積もりをとって、手数料や契約条件を比較検討することが大切です。

債権による効率良い資金調達をお考えの方へ

でんさいは、でんさいに加入している企業・個人事業主のみが利用できます。

でんさいを利用するには、支払企業が受取企業に対して、あらかじめ債権者の情報(利用者番号、口座情報)を聴いておく必要があります。

その後、発生記録請求(振り出し)をすることで受取企業の管理画面に通知されます。

受取企業は指定の支払期日の15時までに承認をしなければならず、しない場合は発生記録請求が取り消しになります。

承認された時点ででんさいは受取企業に移り、このでんさいを異なる企業に「譲渡」をして支払いにあてたり、「割引」をして資金化したりすることができます。

「譲渡」はでんさいネットが中間に入るため、銀行・全銀電子債権ネットワーク・利用会社の3社間契約になります。

「割引」で支払期日前に現金化したい場合、銀行・利用会社の2社間契約により、早期に現金を調達することができますが、この場合は銀行が「融資」と同様の審査を行います。

あくまでもでんさいは従来の紙ベースの手引に近いもので、でんさい譲渡・割引とファクタリングは似て非なるものです。

ただし、ファクタリングはでんさいネットへの加入が不要で、利用会社とファクタリング会社の2社間契約により、支払期日前の請求書を早期に現金化できます。

債権譲渡を活用した資金調達方法の選択肢であるファクタリングとでんさい割引、いずれの資金調達方法が自社にとってベストな選択肢となるか、それぞれのメリットやデメリットも考慮して検討しましょう。