ヘルパーの資格を持っている人は、自分で訪問介護事業を始めることは実はそれほど難しいことではありません。
しかし、事業所を開業するということは一定の開業資金が必要ですし、ある程度の運転資金も用意しておく必要があります。
また、訪問介護のような介護ビジネスは、資金繰りが他の業種と比較して独特ですので、様々な資金調達手段も把握しておく必要があります。
この記事では、訪問介護のタイプごとの開業資金の違いや、訪問介護が抱える資金調達の課題と解決法について解説していきます。
ホームヘルパー2つの開業方法
ヘルパーの資格を持っていれば、自分で介護事業を開業することができます。
ホームヘルパーとして開業するのであれば、フランチャイズに加盟する方法と独力で開業するという2つの方法があります。
それぞれの方法の特徴や資金調達の必要性の違いなどについて詳しく解説していきます。
フランチャイズに加盟する
最も簡単に開業することができる方法はフランチャイズに加盟する方法です。
ホームヘルパー業界には様々なフランチャイズが存在します。
例えば、マッサージをメインにしたホームヘルパーチェーンとしては以下のような会社があります。
- 訪問医療マッサージ「みんなの笑顔治療院」
- まごころ治療院
- さくらモンデックス
- フレアス在宅マッサージ
この他、食事の提供をメインに行う「まごころ弁当」などのフランチャイズも存在します。
介護対象者の代理業務を行う「身元保証サービス パートナー代理店」などのフランチャイズもあり、ホームヘルパー業界は、様々なジャンルで多様なフランチャイズが存在します。
必要な資格を取得し、フランチャイズ契約を締結するだけですので、比較的簡単に開業することができるのが、フランチャイズの特徴です。
独力で開業する
フランチャイズを利用せずに独力で開業するという方法もあります。
介護事業は事業規模などの配置基準が詳細に決められているため、申請前に確認することが山ほどあります。
一般の人が1人で開業基準を満たすための基準をクリアすることは簡単ではないでしょう。
ただし厳しい基準をクリアして開業することができれば、フランチャイズよりも高い利益率を獲得することができます。
フランチャイズに加盟して開業するメリット・デメリット
フランチャイズに加盟して開業すると、知名度が高いので売上を確保しやすい反面、ロイヤリティという大きなコストが発生するデメリットがあります。
フランチャイズでホームヘルパーを開業するメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。
メリット
フランチャイズに加盟して開業するメリットとデメリットは以下の通りです。
- 介護事業開設に必要な「法人設立手続き」「介護事業指定申請」「助成金申請」「各種保険・年金手続き」「労働保険手続き」などの手続きのサポートをしてもらえる
- 介護事業経営のノウハウをサポートしてもらえる
- 運営に必要なマニュアルやツールなどをもらうことができる
- フランチャイズチェーンとしてのブランド力や営業力があるので売上の確保が比較的容易
介護事業所は開業する時に、法的な基準をクリアするのが非常に大変です。
しかし、フランチャイズに加盟することによって法的基準をクリアするための様々なサポートを受けることができます。
また、運営や業務に必要なノウハウのサポートを受けることができるので、未経験でも一定以上のサービススキルを顧客に提供することが可能です。
また、フランチャイズチェーンにはブランド力があるので、名前を聞いたことがない事業所よりも顧客にとって安心感があります。
営業がしやすく売上の確保が簡単です。
デメリット
フランチャイズの介護事業所最大のデメリットが、ロイヤイリティが発生するという点です。
まずは開業時に加盟金として200万円〜300万円程度を支払わなければなりません。
さらに、研修費やサポート費用として50万円程度の経費が必要になります。
開業後は、毎月ロイヤリティが発生することが一般的で、ロイヤリティは事業所によって「固定」か「売上の何割」というように発生することが一般的です。
頑張って働いてもロイヤリティで取られてしまう分が大きいので、事業者の中には「本部のために働いているようなもの」と感じる人も多いようです。
また、本部からの制約が多いので、経営者が自由に介護事業を営むことができないというデメリットもあります。
独力で開業するメリット・デメリット
フランチャイズではなく、独力で開業することは売上を確保するのが大変というデメリットがある一方、軌道に乗ってしまえば利益率が高くなるというメリットがあります。
独力でホームヘルパーを開業するメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット
独力開業するメリットは以下の3点です。
- 自分がやりたいようにできる
- 売上がそのまま利益になる
- やりがいがある
フランチャイズとは異なり、独力での開業には何も制約がないので、自分がやりたいようにできるという点が最大のメリットです。
また、売上がそのまま利益になるので、働けば働くほど自分に還元することができます。
安定したフランチャイズ経営よりも、努力した分だけ自分に返ってくることや、地域で少しずつそのブランドが根付いていくことには、やりがいを大きく感じることになるでしょう。
デメリット
デメリットは開業前にも開業後も不安定な位置に置かれるということでしょう。
- 開業前:介護事業開設に必要な煩雑な法的手続きを自分でクリアしなければならない
- 開業後:運営ノウハウがない、事業所としてのブランドがないので売上確保が難しい
フランチャイズであれば開業に向けてサポートを受けることができます。
開業前には、様々な法的手続きを自分でクリアする必要があるので、介護施設は一般人が独力で開業するだけでも至難の業です。
また、開業後も運営や施術などのノウハウがフランチャイズのように構築されているわけではないので、顧客の満足度を得られるようなサービスを行うことは簡単ではありません。
成功すれば利益率が高い独力での開業ですが、成功するまでにはフランチャイズよりも高いリスクを負わなければなりません。
訪問介護(ホームヘルパー)が開業時に必要な資金
訪問介護事業を開業するためには、一定の開業資金が必要になります。
どんな形態のホームヘルパーにするのかによって必要な開業資金は大きな違いがあります。
開業時に必要な資金はどの程度なのか、詳しく解説していきます。
訪問介護事業は外部からの資金調達なしで開業できる可能も
訪問介護事業は、営業所は自宅とすることができ、自動車もマイカーを利用することも可能です。
そのため、大きな設備投資なしで、外部から資金調達することをせずに開業できる可能性があります。
通所介護では開業資金がかかる
一方、通所介護事業を始めるためには開業資金がかかります。
通所介護の場合には施設を介護保険法の設備基準に満たすように作る必要があるので、リフォーム費用が必要になることが一般的です。
また、高齢者送迎車両の導入も必要になります。
10名程度のデイサービスを利用するのであれば、改装費用で200万円〜300万円程度は少なくとも必要ですし、高齢者送迎車両の購入にも同程度の金額は必要になります。
運転資金も含めて1,000万円程度は用意しておく必要があるでしょう。
訪問介護(ホームヘルパー)の資金調達の3つの課題
訪問介護事業は恒常的に以下の3つの資金調達の課題を抱えています。
- 介護事業は人件費がかかる
- 介護保険は入金まで最大3ヶ月
- 開業間も無くは融資を受けることが難しい
訪問介護事業の資金調達における3つの課題について詳しく理解しておきましょう。
介護事業は人件費がかかる
介護事業は人手ありきの業界です。
高齢者の様々なサポートをするための人手は必要不可欠です。
そのため、事業所の規模に見合った人員を雇用する必要があり、人件費として常勤18万円程度、パート8万円程度の1人あたり人件費を算定しておきましょう。
主な運転資金は人件費だけと言っても過言ではないほど、介護事業では運転資金に占める人件費が大きなコストになります。
介護サービスがそれほど多く発生しない月でも、人件費は固定費として発生するため、人件費を賄うために常に安定した売上を確保するとともに、適切な人員管理を行うことが求められます。
介護保険は入金まで最大3ヶ月
介護保険は介護サービスの提供から最大3ヶ月間入金になりません。
ここが介護事業所の資金繰りが厳しくなる大きな原因の1つです。
介護保険の入金は売上の発生から入金まで、通常は以下のような流れで行われます。
例えば4月1日に介護サービスを提供した場合の入金までの流れを見ていきましょう。
- 4/1:介護サービス提供
- 5/1~5/10:介護保険請求
- 6/25前後:介護保険の入金
介護保険は、前月に提供したサービスを翌月10日くらいまでに請求し、審査を行った上で請求月の翌月末に入金になります。
つまり、4月に提供した介護サービスの代金が入金になるのは6月末ということになるので、サービス提供から最大で3ヶ月間は自己負担分以外の入金がないことになります。
開業時には手元に3ヶ月分以上の運転資金を確保しておかなければ運転していくことが困難になってしまいます。
開業間も無くは融資を受けることが難しい
開業間も無くの介護事業者が運転資金を銀行から借りることは簡単ではありません。
- 営業実績が何もない
- 開業時に銀行から融資を受けてしまっている
開業間もない時というのは上記いずれかの状態であるため、銀行から運転資金を借りることが容易ではありません。
特に、開業時に必要な資金を銀行から借りてしまっている場合、その借入から1年以上の間隔が空いていないと借入は難しいと考えた方がよいでしょう。
銀行は前回融資から1年未満の会社には融資をしないのが原則だからです。
そのため、開業に必要な設備資金を借りた後に「やはり運転資金も足りないから貸してほしい」と言っても借入は難しいのが実情です。
開業間も無くの状態では、銀行から借入を行うことが難しいというのも訪問介護が抱える資金調達の問題点だと言えるでしょう。
介護保険外(自費)サービスは入金サイトが短い
資金繰りを円滑にするために、介護保険外のサービスを充実されるというのは1つの有効な方法です。
介護保険はサービス提供から入金になるまで最大3ヶ月かかってしまいます。
しかし、介護保険外のサービスは介護保険よりもかなり入金サイトが短くなります。
介護保険適用外のサービスとしては以下のようなものがあります。
- 大掃除
- ワックスがけ
- 部屋の模様替え
- 庭の手入れ
- 本人の居室以外の部屋の掃除
- 特別な配慮が必要な衣服の洗濯(家庭用洗濯機以外を要する洗濯)
- おせちや年越しそばなどの行事食の調理
- 家族の食事の調理
- 趣味、嗜好品、贈答品の購入
- 法事やお墓参り
- 行事の参加
- 趣味のための外出
- 自立生活支援を目的としない単なる散歩
このように、高齢者の生活とは無関係なサービスについては介護保険適用外となります。
介護保険適用外のサービスは利用者対して直接請求を行います。
通常は、月末に請求して年金日の翌月15日までに支払うなどという流れになるので、介護保険外のサービスは入金サイトが1ヶ月〜2ヶ月程度となります。
訪問介護の資金繰りを円滑にしたいのであれば、介護保険外のサービスを積極的に行なっていくという方法も検討すべきかもしれません。
訪問介護(ホームヘルパー)の資金調達方法
訪問介護施設が開業後に運転資金を調達する方法は銀行借入かファクタリングです。
ただし銀行借入は開業後1年未満では借りることが難しい場合があるので、状況によってはファクタリングしか利用することができない可能性もあります。
訪問介護の2つの資金調達方法や審査の特徴について詳しく解説していきます。
銀行から3ヶ月分程度の運転資金を借りておく
自己資金がない場合に運転資金を確保するための最適な方法は、銀行から3ヶ月分程度の運転資金を借りておくという方法です。
保険適用の訪問介護事業所は本来は銀行からお金を借りやすい属性です。
ただし、設備資金を借りた直後に運転資金を借りることは難しくなってしまいます。
そのため開業前に設備資金借入と同時に運転資金の申し込みをすれば高い確率で審査に通過することができるでしょう。
開業前にはしっかりと資金繰りの計画をたて「介護保険が入金になるまでに必要な運転資金はいくらか」「手元の運転資金を比較していくら足りないのか」ということを把握し、不足分があるのであれば、「開業前に」借りておきましょう。
保険適用の事業所というのは、他の企業よりも銀行は「安定している」という目線で判断します。
そのため、開業前でも融資は受けやすいので、開業後に3ヶ月分の運転資金を確保できるように銀行から借入をしておくのがよいでしょう。
金利も1%〜2%前後の低金利で借りることができる可能性があります。
介護報酬ファクタリングを利用する
銀行から開業時に運転資金を借りておらず、手元に資金もない場合には介護報酬ファクタリングを利用するというのも有効な方法です。
介護報酬ファクタリングとは、請求済みで未入金の介護報酬をファクターへ売却して早期資金化する方法です。
最大3ヶ月の入金サイトを介護報酬ファクタリングを利用すれば1ヶ月半程度に短縮することができます。
介護報酬という債権はファクターにとってはデフォルトリスクが非常に少ない債権です。
そのため手数料が非常に低く、2%を切ることは当たり前で、中には1%を切るファクターも存在します。
開業時だけでなく「まとまったお金が急に必要になった」という時にも介護報酬ファクタリングは有効ですので、訪問介護事業所の有効な資金調達手段として頭に入れておくとよいでしょう。
訪問介護(ホームヘルパー)の資金調達についてよくある質問
- 自己資金なしでも独立開業できますか?
- 訪問介護は自己資金なしでも独立することは可能です。訪問型の場合には、そもそも開業時の初期投資がかかりません。また、自己資金がなくても借入によって開業資金を調達することは可能です。資格取得や交通費などの実費は自分で負担する必要がありますが、その他の開業資金は自己資金なしでも調達することが可能です。
- 月末に資金が足りなくなった時にすぐにお金を借りることはできますか?
- 銀行からお金を借りる場合には申し込みから融資まで2週間程度の時間がかかってしまいます。そのため、月末すぐにお金を借りることは不可能です。
月末すぐにお金を借りたいのであればノンバンクのビジネスローンを利用するか、2社間ファクタリングを利用しましょう。2社間ファクタリングとは介護報酬ファクタリングではなく、介護報酬を通常の債権としてファクターへ売却することです。介護報酬ファクタリングよりも手数料は高くなりますが、最短即日で資金化することは可能です。
介護報酬ファクタリングと比較して手数料は高くなってしまうので、利用するのは本当に緊急でお金が必要になった時だけとするようにしてください。
- 施設が手狭になってきました。新しい施設に移る資金を借りることはできるでしょうか?
- 設備資金を銀行から借りることで新しい施設に移る資金を確保することは可能です。
設備が手狭になるだけのこれまでに売上の実績があるのであれば、高い確率で銀行から融資を受けることができるものと思われます。決算書3期分を持参して銀行へ融資の相談に行きましょう。
- 介護報酬以外の売掛債権もファクタリング可能ですか?
- 介護報酬以外の自己負担分や介護保険外のサービスにかかる売掛債権は基本的にファクタリングすることができません。
介護報酬以外の自己負担分は個人に対する売掛債権になるためです。ファクターが買い取る債権は基本的に法人に対する債権のみとなっているので「〇〇さんの自己負担分」というような個人に対する債権をファクタリングすることは不可能です。
ただし、個人に対する請求について収納代行業者やクレジットカード決済を利用している分に関しては、収納代行業者やクレジットカード会社への債権になるので、こちらはファクタリングで早期資金化することは可能です。
- おすすめのファクタリング会社を教えてください
- 介護報酬ファクタリングは大手企業が参入していることが多く、悪徳業者はほとんど存在しません。
そのため診療報酬や介護報酬を専門にファクタリングしている業者がよいでしょう。
リコーやシャープなど上場企業傘下の業者が介護報酬ファクタリングを行なっているため、そのような大手企業傘下のファクターを利用することをおすすめします。
まとめ
訪問介護(ホームヘルパー)サービスは資格さえ取得しておけば比較的誰でも独立開業することができる、開業のためのハードルが低い業界です。
ノウハウがなくてもフランチャイズも充実しているため、オペレーションも知識も手に入れることが可能です。
ただし、資金だけは自分で責任を持って確保する必要があります。
開業時に大きなお金がかかることもありますし、介護保険という特性上、売上の発生から入金までには最大3ヶ月もの資金ギャップが生じてしまいます。
開業前から資金繰りの計画をしっかりと立てて、資金が不足している場合にはできる限り低金利の銀行融資を前もって利用しましょう。
開業後に資金が足りなくなった場合には介護報酬ファクタリングも上手に活用し、介護事業の資金繰りの円滑化に務めるようにしてください。