本記事では、勤務先の会社でお金を借りる「給料の前借り」や「社内貸付制度」について解説します。

厳密に言うと、「給料前払い」と「給料前借り」は資金源が異なります。

給料前払いは「すでに働いた分の賃金を、給料日前に受け取ること」で、給料前借りは「すでに働いた分の賃金以外のお金を借りること」です。前者は「給料前払いサービス」として、後者は「社内貸付制度」として、従業員の福利厚生として提供している会社もあります。

会社員の方など、突然お金が必要になった場合に備えて、サービスの概要や手続きの方法をご参考になさってください。

 

給料の前借りとは

給料前借りは「すでに働いた分の賃金以外」を資金源として、勤務先からお金を借りることです。

「社内貸付制度」で福利厚生サービスの一環として提供している会社もあれば、会社が従業員の申請に応じて個別に貸し付ける場合もあります。

給料前借りの資金源

給料前借りに関して労働基準法第17条では、給料の前借りそのものは禁止していませんが、次回以降の賃金と相殺することを禁止しています。

(前借金相殺の禁止)
第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

後の賃金を得るために労働すること(事前の前借り)は、労基法違反です。ただし、「次回の給料からの天引き」する場合は、会社と従業員の双方が同意したうえで「同意書」の作成すれば問題ありません。

給料前借りの資金源は会社があらかじめ用意している前借り用の準備金や、社長のポケットマネーであることがほとんどです。

給料前借りは従業員と会社の2者間契約

給料前借りは、原則として従業員と勤務先の2者間で個別に金銭消費貸借契約を結ぶもので、外部の個人や法人がサービスとして提供するものでありません。
「給料前借りサービス」と称して融資を持ちかけてくる個人や法人は、ヤミ金などの違法業者の可能性があります。

「給料前借り」と「給料前払い」の違い

制度 給料前借り 給料前払い
サービス内容 融資 前払い
資金源 前借り用の準備金
社長のポケットマネーなど
すでに働いた分の給料(債権)
サービス提供会社の立て替え
限度額 会社の規定による すでに働いた分の賃金の何割か

給料の前借りは、会社が従業員へお金を融資する制度です。借入の条件や限度額は社内規定によります。

一方、「給料の前払い」は「すでに働いた分の賃金」を資金源とした制度です。給料前借りとは異なり、会社とのお金の貸し借りではありません。

最近では給料前払いサービスとして、勤務先が外部のサービス事業者と提携し、従業員への福利厚生の一環として提供されています。

勤務先が給料前払いサービスを導入している場合、専用のアプリで申し込みをすれば口座から引き出し可能です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

勤務先から給料を前借りする方法

勤務先から給料前借りをする場合に必要となる一般的な手続きを解説します。

ただし、手続きの流れは会社ごとに異なるため、必ず担当者に確認することをおすすめします。

上司や担当部署に相談する|STEP1

まずは直属の上司か担当部署の窓口で給料を前借りしたい旨を相談しましょう。

勤務先に社内貸付制度など給料前借りの決まったルールがない場合は、担当者や役員などが協議する必要があるからです。

いきなり社長や役員に「給料前借りしたい」と相談することはマナー違反となります。

借用書を作成する|STEP2

給料の前借りをする場合は、借用書を作成するのが一般的です。

口頭だけでもお金の貸し借りは成立してますが、後のトラブルを避けるためにも、借用書を交わしておくと安全です。

会社に借用書の所定の書式がある場合は、そちらを利用します。無い場合は以下の項目を記載しましょう。

  • 借用書の作成日
  • 借入日
  • 借入金の金額
  • 返済方法
  • 支払期限
  • 借主の氏名・捺印
  • 会社名、代表者名
  • 返済方法について
  • 金利について
  • 遅延損害金について
  • 不払いの場合の処置

借用書はインターネットで調べると無料のテンプレートが配布されていますので、社内に所定の書式が無い場合は参考にすると良いでしょう。

会社側は従業員と金銭消費貸借契約書を交わし、所定の利息、支払期日を取り決めます。

給料を前借りする|STEP3

担当部署で借用書が受領され、処理が完了すると給料の前借りができます。会社が「社内貸付制度」を設けていない場合、給料の前借りはイレギュラーな対応となるため、2週間~1ヶ月ほどかかる場合もあります。

ルールに従って返済する|STEP4

給料を前借りした後は、返済期日や金利など勤務先と取り決めたルールに従って返済します。返済が遅れたり、滞納したりすると会社からの信頼を失うことになるため注意しましょう。

どうしても返済が遅れる場合は、早めに担当部署に相談して指示を仰ぐことが肝心です。

会社の給料前借りサービス「社内貸付制度」

勤務先によっては「社内貸付制度(従業員貸付制度)」として、公に給料前借りの制度を設けているところもあります。

社内貸付制度とは、会社が自社の従業員に向けて、人材獲得・定着の目的や信用トラブル対策として設けている制度です。会社によっては「社内融資」や「厚生資金貸付」という制度にしている場合もあります。

すべての会社が導入しているわけではありませんが、従業員が安心して働けるように福利厚生の一環として取り入れる会社が増えています。

社内貸付制度の条件

社内貸付制度は、労基法第25条に基づく緊急時に限り利用できる場合がほとんどです。

(非常時払)
第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

労基法第25条は「給料前払い」についての規定ですが、多くの社内貸付制度もこの労基法に準拠しています。

また、社内貸付制度の審査は会社役員による社内審査で行われます。審査では借入条件に該当するかどうかや、勤続年数、勤務態度などが判断されます。

社内貸付制度の借入金額や金利

社内貸付制度の借入限度額や金利は法律で定められているわけではなく、あくまでも会社の裁量次第で決められています。たとえば勤続5年なら50万円まで、勤続10年だと100万円までというように、勤続年数で変動する仕組みを採用している会社が多いようです。

金利についても会社の裁量次第ですが、従業員に重い返済負担とならないよう、銀行や消費者金融よりも低金利の設定です。

給料前借りサービス(社内貸付制度)の注意点

給料前借りサービスとしての「社内貸付制度」について、その注意点を解説します。

すべての会社が導入しているわけではない

給料前借りは、すべての会社が導入しているわけではありません。制度として存在しない場合は利用できないため、代替手段として民間企業のローンやキャッシングを使うしかないでしょう。

ただし、小規模な会社によっては個別の貸付の相談に応じてくれる場合があります。

社内貸付制度は条件や借入目的が厳しい

会社が従業員に貸付をする社内貸付制度を利用するには、厳しい条件をクリアする必要があります。

まず、原則として制度を利用できるのは正規雇用者(正社員)のみです。また制度によっては勤続1年以上、一定の役職以上といった条件が設けられている場合もあります。

さらに、借入の目的は以下のいずれかに限定されていることがほとんどです。

  • 冠婚葬祭や出産にかかる費用
  • 医療費
  • その他特別な事情がある場合

会社によっては、貸付の条件として連帯保証人の設定を求められる場合があります。当然ながら、返済中に会社を辞めた場合は、退職時に借入額を一括返済しなければなりません。

実際にお金を借りられるまでに時間がかかる

社内貸付制度の利用は、人事担当者を介して申込みを行います。

担当者から上司に申請、承認が下りて実際に融資が実行されるまでには、2週間~1ヶ月程度の時間を要する場合がほとんどです。融資実行まで1ヶ月以上かかるとなれば、わざわざ借金をするよりも、次の給料日やボーナス支給日を待ったほうが良い場合もあります。

給料前借りサービスに関するQ&A

Q.会社に勤めている従業員なら、誰でも給料の前借りはできますか?
A.会社の貸付制度のルールによります。たとえば、社内規定で制度の利用対象が「正社員」「社会保険への加入対象者」であれば、パートやアルバイトでは利用できない場合があります。
Q.給料を前借りする場合に連帯保証人は必要となりますか?
A.社内規定によります。たとえば1ヶ月分の給料を超えるような高額の借入の場合、会社の同僚や家族など連帯保証人を付けなければならない場合もあります。
Q.退職・退職する際に前借り分の返済が残っていたらどうなりますか?
A.完済していない状態で退職や転職をすると、借入残高の一括返済を求められるので注意しましょう。
Q.給料前借りで得たお金は自由に使えますか?
A.社内規定によりますが、多くの場合は労基法第25条の「非常時払」に該当する理由で必要になったお金を補填するよう決められています。あくまで従業員の緊急事態を救済する目的の融資であるため、自由に使えるわけではありません。
Q.信用ブラックでも給料前借りはできますか?
A.勤務先が金融機関でもない限り、社内審査で信用情報機関を照会するわけではないため、信用ブラックでも給料前借りはできます。同様に、借入額を年収の3分の1までとする総量規制についても、会社が従業員の借入総額や借入件数の事実を把握することはできないため、給料前借りは総量規制適用外となります。

「給料の前借りサービス」まとめ

給料前借りサービスは緊急時に限り、金融機関よりも低金利で会社からお金を借りる制度です。

どうしても近日中にお金が必要な状況になったら、消費者金融会社等に駆け込む前に、まずは勤務先が「給料前払いサービス」を提供しているか確認しましょう。

一方、給料前払いは「すでに働いた分の賃金」から必要な分だけを前払いしてもらうサービスです。あくまで前払いなので、借金ではありません。ただし、給料日には1ヶ月分の給料から前払いしてもらった分が差し引かれます。

給料前借りも給料前払いも、あくまでも緊急時の手段として、計画的に利用しましょう。