企業の資金繰りの健全性を知るための指標として「売上債権回転期間」というものがあります。
売上債権回転期間とは、売上債権がどの程度のサイクルで現金化しているかを示すもので、企業の資金繰りが健全かどうかを客観的に知ることができます。
企業は赤字で倒産するのではなく、資金繰りが悪化して倒産します。
資金繰りの健全化を図るため、売上債権回転期間の計算方法や目安などをしっかりと理解しておきましょう。
売上債権回転期間の見方や計算方法について詳しく解説していきます。
売上債権回転期間とは
売上債権回転期間(売上債権回転期間)とは、売上に対してどの程度の売上債権があるのかという割合を示す指標で、売上債権がどの程度のスパンで現金化しているのかを知ることができる重要な指標です。
売上債権回転期間が短いほど、売上債権が短期間で回収できていることとなり、資金繰りの状態が良いと判断されます。
企業の資金繰りの健全性を知ることができるので、計算方法についてまずはしっかりと把握しておきましょう。
売上高に対する売上債権の割合
売上債権回転期間とは売上高に対する売上債権の割合を示す指標です。
売上に対してどの程度の売上債権が残っているのかということを計算することによって、売上債権がどの程度の期間で現金化をすることができるのかを知ることができます。
売上高に対して売上債権が少なければ売上債権回転期間は短くなり、反対に、売上高に対して売上債権が多ければ売上債権回転期間は長くなります。
売上債権回転期間の計算方法
売上債権回転期間は以下のように計算します。
「売上債権回転期間とは、売上債権を平均月商で割ったもの」
月数の計算式
売上債権回転期間=売上債権(売掛金+受取手形)÷(年間売上÷12カ月)
1ヶ月あたりの回転期間を計算する場合には上記の式になり、1日あたりの回転期間を計算する場合には以下の式になります。
日数の計算式
売上債権回転期間=売上債権(売掛金+受取手形)÷(年間売上÷365日)
例えば年間売上高2億円、手元に保有している売上債権が2,000万円だった場合の売上債権回転期間は以下のようになります。
2,000万円÷(2億円÷12ヶ月)=1.2ヶ月
1日あたりの売上債権回転期間は以下のようになります。
2,000万円÷(2億円÷365日)=36.5日
売上債権がどの程度のスパンで現金化しているのか簡単に計算することができます。
資金繰りの健全性を測る指標
売上債権回転期間は資金繰りの健全性を簡単に知ることができる指標です。
受取手形も売掛金も売上発生と同時に取得できる資産ですが、すぐに現金化できるものではありません。
そこで売上債権回転期間を計算することによって、どのくらいの期間で現金化できるのかということを知ることができます。
例えば、売上債権回転期間が36日の会社の売上債権は平均的に36日で現金化しているということが分かります。
売上債権が長く現金化できなければ、その分その企業の資金繰りは苦しくなり、すぐに現金化できれば資金繰りは容易です。
つまり
- 売上債権回転期間が短い→資金繰りが健全
- 売上債権回転期間が長い→資金繰りに課題あり
と客観的に判断することができます。
売上債権回転期間の見方
では自社の売上債権回転期間が長いのか短いのかということはどのように判断すべきなのでしょうか?
売上債権回転期間の見方は2つです。
- 同業他社との比較
- 過去の自社との比較
この2つの比較軸で売上債権回転期間を見ることによって、他社と比較して資金繰りが健全か否か、自社の資金繰りが悪化しているのか良化しているのかを知ることができます。
売上債権回転期間の2つの見方について詳しく解説します。
自社と同業他社の回転期間と比較する
自社の売上債権回転期間の長短を客観的に判断する方法が、同業他社の売上債権回転期間と比較することです。
売上債権の回転期間は業種によって大きく異なります。
例えば、個人顧客を抱える小売業のような業種の回転期間は短いですが、法人相手の卸売業は長くなる傾向があるので、売上債権回転期間が長いのか短いのかは業種別に客観的に判断する必要があるでしょう。
業種別の売上債権回転期間はEDIUNETなどで簡単に調べることができます。
例えばEDIUNETによると建設業の売上債権回転期間は107.88日です。
参考:EDIUNET
自社の売上債権回転期間は同業他社と比較して、同業他社よりも長いのであれば、改善する必要がある可能性があります。資金繰りに改善余地がないか、いま一度見直してみるとよいでしょう。
自社の過去の回転期間と比較する
自社の売上債権回転期間を定点観測し、長くなっているのか短くなっているのかということを調べて見ることでも自社の資金繰りの健全性を測ることができます。
例えば、過去5年くらいの決算書から売上債権回転期間を計算することで、この5年間の売上債権回転期間の推移を知ることができます。
売上債権回転期間が過去よりも長くなっているのであれば、資金繰りが悪化しているということであり、売上債権回転期間が短くなっているのであれば資金繰りが向上しているということになります。
同業他社との比較と同時に、自社の過去からの推移を調べることで、売上債権回転期間の現状と、改善の余地を探るようにしましょう。
売掛金回転期間の目安は1.5ヶ月
売掛金の回収期間は短いほどよく、短ければ資金繰りも楽になります。
通常は1.5ヵ月以内とされていますが、これより長期であったり、前期と比べて長期化している場合には、次のような原因が考えられます。
(ただし、回収期間は業界によって違いがあるので注意が必要)
- 不良債権の発生
- 押込販売
- 商品代金以外の長期の債権の存在
- 粉飾
受取手形回転期間の目安は2.5ヶ月
受取手形の期間(サイト)は何ヵ月になっているのかをみていきます。
受取手形は売掛金の支払い期間より長期になることが通常ではあるものの、売掛金と同様で短い方が好ましい指標です。
この回転期間が長期であったり、前期に比べて長期化している場合には、次のような可能性が考えられます。
- 不渡手形や 手形ジャンプ の発生
- 融通手形 の存在(
- 回収条件の悪化
- 粉飾
次に、どんな業種の売上債権回転期間は長くなるのかを解説します。
卸売業などの法人相手の商売の方が長くなる
取引先が個人消費者の業種は現金決済かカード決済になるので売上債権回転期間は短くなる傾向にあります。
しかし、法人相手に商売する卸売業などは売上債権回転期間が長くなってしまう傾向があります。
- 卸売業は
- メーカーから仕入れる
- 取引先の小売店に販売する
- 小売店が顧客へ販売する
- 卸売業へ小売店が支払う
という順番でお金が流れていきます。
そのため、自社にお金が入るのは一番最後になるので、小売業よりも売上債権回転期間は長くなってしまいます。
卸売業など企業向けの業種の売上債権回転期間は2ヶ月〜3ヶ月かかってしまうことも珍しくありません。
建設業では回転期間はさらに長くなる
建設業などの工期が長い業種では売上債権回転期間がさらに長くなってしまう傾向があります。
建設業は、工事の受注から工事の完了までの期間が長く、場合によっては1年以上かかってしまうこともあり、工事が完了しない限り売上は入金になりません。
そのため売上債権回転期間は長くなり、建設業で30日以内に入金になるようなことはほとんどないと言っても過言ではなく、やはり平均的に売上債権回転期間は100日を超えてしまいます。
同じように、製品の製造に時間がかかってしまう機械製造業なども売上債権回転期間が長くなってしまう業種です。
このように、業種によっては30日よりも圧倒的に回転期間が長くなってしまうので、同業他社との比較も考慮して自社の資金繰りの良し悪しを検討するようにしてください。
回転期間の推移を観察することが重要
売上債権回転期間は業種によって異なるので、回転期間の推移を観察することが非常に重要です。
「数年前と比較して長くなっているのか、短くなっているのか」ということを常に定点観測して、資金繰りが悪化していないかどうかということを継続的に確認する癖をつけるようにしましょう。
売上債権回転期間を継続的に定点観測することは資金繰りの管理に大きく寄与します。
収益管理や資金繰り管理と同様に、定期的に売上債権回転期間をモニタリングするようにしてください。
売上債権回転期間が長い時の対処法4選
売上債権回転期間が他社よりも長い場合や、過去と比較して悪化している場合には、問題を解決しなければ資金ショートしてしまう可能性があります。
売上債権回転期間が長い場合の対処法として以下の4つの方法をあげることができます。
- 売掛先と交渉し入金サイトを短縮する
- 現金払いへ変更してもらう
- 手形決済が多いなら手形割引を利用する
- 売掛金が多いならファクタリングを利用する
売上債権回転期間を改善する4つの方法について詳しく理解しておきましょう。
売掛先と交渉し入金サイトを短縮する
売上債権回転期間を短くするための最も基本的な方法が売掛先と交渉して、入金サイトを短縮してもらうことです。
取引先の中に交渉できる企業があるかどうかをまずは確認し、例えば2ヶ月先の入金となっている取引先へ「1ヶ月先にしてもらえないか」ということを交渉してみましょう。
売上債権の一部だけでもサイトを短くすることができれば、売上債権回転期間は短縮し、資金繰りは非常に楽になります。
交渉できる取引先がないかどうかをまずは確認してみましょう。
現金払いへ変更してもらう
取引先の中に現金決済へと変更できる会社がないかどうかも確認してみましょう。
売上債権での支払いか現金での支払いへ変更するということは、現金へ変更した分だけ売上債権が減少するということで、その分売上債権回転期間は短くなります。
毎月1回の取引しかないような取引先は、「納品の都度、現金で代金をいただきたい」などと交渉することができるでしょう。
まずは取引先の中に現金払いへの変更を交渉できる会社がないか確認してください。
新規取引先との契約は売上債権回転期間を意識する
既存取引先へ入金サイトの短縮や現金払いへの変更を交渉することは難しいのが実情です。
大手企業の下請けなどの企業は、元請けに対して交渉することができる企業はそれほど多くありません。
そのため、新規取引先が増えた時に、入金サイトを短くして契約するか、現金払いで契約するなどして、新規取引先が増える都度、売上債権回転期間は短くできるように営業するのも資金繰り改善のための非常に有効な方法です。
手形決済が多いなら手形割引を利用する
取引先から受取手形で代金を受け取っているのであれば、手形割引を利用しましょう。
手形割引とは、受取手形を銀行で割り引いてもらうことで、期日前に資金化をする方法です。
簡単に言えば受取手形を担保に銀行からお金を借りる方法で、ある程度信頼できる取引先の受取手形を保有していれば高い確率で融資を受けることができます。
銀行に極度枠を保有していれば最短即日で資金化することもできるので、急いでいる時には非常に有効な資金調達方法です。
売掛金が多いならファクタリングを利用する
取引先からの売上を売掛金で受け取る機会が多いのであれば、ファクタリングを利用して資金繰りを改善しましょう。
ファクタリングとは、売上債権をファクタリング会社へ売却して期日前に早期に資金化する方法です。
最短即日で資金化に応じてくれる業者も多く、急ぎの入用にも最適です。
また、ファクタリングには売上債権の回収リスクを排除するというメリットもあります。
ファクタリングした売上債権がデフォルトした場合、損失を被るのはのはファクタリング会社です。
そのため、もしも取引先がデフォルトした場合にも自社に損失が及ぶことはありません。
ファクタリングは売上債権回転期間を短縮するだけでなく、リスクを補填する効果もあります。
売上債権回転期間についてよくある質問
- 取引先と交渉できない場合はどのようにして売掛債権回転期間を短縮すべきでしょうか?
- 取引先との関係上、売掛債権の入金サイトを短くする交渉に成功できないことや、そもそも交渉すらできないことも中小企業にとっては珍しくありません。
このような時には、新規取引先と現金での取引を依頼したり、1ヶ月以内のサイトで契約するなどして、売掛債権回転期間の短縮に努めましょう。
それでも短縮できない場合にはファクタリングなどを利用して資金化するのがよいでしょう。
- 売掛債権回転期間が長いことは必ずしも企業経営上の問題になるのでしょうか?
- 必ずしも経営上の問題になるわけねはありません。
回転期間が長くても、毎月しっかりも以前の売上が入金になるのであれば、何も問題なく資金繰りは可能です。
ただし、取引先の入金が遅れたり、急に業況が悪化した場合には回転期間が長い方が資金繰りが悪化しやすいので、手元には潤沢な資金を確保しておく必要があります。
- 資金繰りが健全な場合でも売掛債権回転期間の短縮化を図るべきでしょうか?
- 手元の資金が潤沢で、回毎月安定的に入金がある場合には売掛債権回転期間が長くても資金繰りは安定します2
しかし、売掛債権回転期間が長いと、急に支出が増大したり、売上が激減した場合などに資金繰りが苦しくなるリスクは高くなりますし、売掛債権債権のデフォルトリスクも高くなります。
今は資金繰りが健全でも、将来的なリスクに備えてやはり売掛債権回転期間は短くする努力はすべきでしょう。
売上債権回転期間の短縮をご検討の方へ
売上債権回転期間とは、売上債権がどのくらいの期間で現金化するかを測る指標です。
売上債権回転期間が短いほど資金繰りは健全で、長ければ資金繰りは悪いと判断することができます。
売上債権回転期間を短縮し、資金繰りを改善するためには以下の4つの方法が考えられます。
- 売掛先と交渉し入金サイトを短縮する
- 現金払いへ変更してもらう
- 手形決済が多いなら手形割引を利用する
- 売掛金が多いならファクタリングを利用する
今は資金繰りに問題がなくても、将来的に景気が悪くなった時に備えて、売上債権回転期間を短くしておくことに越したことはありません。
継続的に売上債権回転期間をモニタリングし、同業他社と比較して資金繰りが悪化していないかどうかなどの確認を怠らないようにしましょう。