売掛債権を活用して資金調達する方法としてABL(動産担保融資)とファクタリングという方法があります。

どちらも売掛債権などの動産を活用して資金化することができるという点は共通していますが、その他の部分では全く異なる資金調達方法です。

それぞれの違いをよく理解して、適切に使い分けることによって円滑な資金調達をすることができます。

ABLとファクタリングの違いと、最適な使い分け方法について詳しく解説していきます。

 

ABLとは

ABLとは、Asset-based Lendingの略称で、日本語訳で「動産担保融資」となります。

その名の通り、ABLでは売掛債権・棚卸資産・機械設備などの動産を担保に融資を受ける方法です。

従来、銀行融資を受ける際に担保となるものと言えば不動産でしたが、不動産しか担保として活用しない場合には、不動産を保有していない企業は融資を受けることが難しいという問題点がありました。

このような問題点を解消し、不動産を保有していない企業でも融資を受けやすくすることができるのがABLです。

ABLでは従来は担保として活用することが難しかった売掛債権や棚卸資産などの流動資産を担保として融資を受けることができます。

ABLについて、まずは詳しく解説していきます。

売掛債権と棚卸資産を担保にした融資

ABLとは動産を担保にした融資です。

企業には、様々な動産がありますが、ABLで主に担保とすることができる資産は売掛債権と棚卸資産になります。

取引先に対して保有している売掛金などの売掛債権と、会社で所有している商品在庫などを担保として融資を受けることができるのがABLの特徴です。

売掛債権と棚卸資産などが担保物件として金融機関から評価され、その評価額の一定範囲内に関して融資を受けることができます。

不動産を保有していなくても、売掛債権や棚卸資産さえ保有していれば融資を受けることができます。

動産登記・債権譲渡登記によって担保物件を利用可能

ABLは棚卸資産であれば動産譲渡登記、売掛債権であれば債権譲渡登記という登記を行い、動産に抵当権を設定します。

ABLという融資が取り扱い可能になったのは、債権譲渡登記という登記手続が平成10年から、動産譲渡登記という登記手続が平成17年からスタートしたためです。

債権譲渡登記とは、法人がする金銭債権の譲渡などについて,簡便に債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度です。

つまり、債権譲渡登記があることによって譲渡や担保設定した動産が万が一第三者へ譲渡された場合「この動産は自社が譲渡を受けたものだ」と対抗することができる制度です。

動産譲渡登記についても、第三者への対応要件を備えることができます。

これによって、動産を担保にしても債権者の保全は確保されることとなります。

ABLでは担保として棚卸資産や売掛債権を担保として提供しますが、事業に支障はありません。

動産は事業に利用できるので棚卸資産を販売することが可能です。

また、売掛債権は借り手側が自ら回収し、運転資金として活用することができます。

ABLの融資条件

ABLは銀行融資ですので、低い金利で資金調達することができるのが特徴です。

ABLの融資条件等について、具体的に見ていきましょう。

金利

ABLの金利はそれほど高くありません。

信用保証協会の保証を付けて行う融資では審査によって決定するものの凡そ2%〜4%程度です。

一方、金利が高く比較的審査の甘いABLも存在します。

例えば、東京スター銀行のABLはパッケージ商品になっており、金利は5.50%~14.60%と比較的高金利に設計されており、金融機関によって審査難易度も金利も様々です。

ただし、一般的にはABLの金利はそれほど高くはなく、基本的に取引のある金融機関へ「ABLを利用したい」と相談士した場合には信用保証協会の保証を付けて利用することになるので、基本的にABLは2%〜4%程度の金利が適用されるものと理解しておけばよいでしょう。

貸付方式

ABLの貸付方式は手形などの一括融資か、当座貸越枠を作成する方法を選択するのが基本です。

すぐにまとまったお金が必要なのであれば手形貸付で融資を受けることになりますし、「とりあえず枠だけ作成しておきたい」という場合には当座貸越枠を作成して必要なタイミングで必要なだけ借入をすることも可能です。

返済期間

ABLの返済期間は基本的には短期で、半年〜1年以内と決められていることが一般的です。

ABLは動産という数量や価値の変化が激しい資産を担保にするローンです。

借入期間が長期間であれば、担保価値が著しく低減してしまうリスクが高くなるので、ABLは短期資金がメインとなっています。

ファクタリングとは

ファクタリングとは売掛債権の売却です。

ABLと異なるファクタリングの主な特徴として以下の5点を挙げることができます。

  • 売掛債権の売却による資金調達方法
  • 償還請求権なし
  • 売掛先への通知不要
  • 債務ではない
  • 最短即日資金化可能

ABLと比較した場合のファクタリングの主な特徴を詳しく理解しておきましょう。

売掛債権の売却による資金調達方法

ABLは売掛債権などの動産を担保にした借入ですが、ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社へ売却して資金化する方法です。

ABLが借入であるのに対して、ファクタリングは資産の売却です。

従って、ファイナンスでは売掛先企業の信用に問題がなければ審査に通過できる可能性があります。

償還請求権なし

ファクタリングは償還請求権なしで行われるのが基本です。

償還請求権とは、ファクタリング後に売掛先が倒産するなどして代金が回収できなくなった場合、売掛債権を販売した会社にファクタリング会社が損害の補償を求めることができる権利です。

ファクタリングは償還請求権がないので、売掛債権が回収不能になったとしても、その損失はファクタリング会社が負ってくれます。

ファクタリングでは売掛債権売却時に売掛債権の回収リスクも売却しているため、万が一売掛債権が回収不能になったとしても、その損失は自社が背負う必要はありません。

売掛先への通知不要

ファクタリングには納入企業とファクタリング会社の2社だけで契約をする、2社間ファクタリングという形態があります。

2社間ファクタリングは売掛先企業に秘密でファクタリングすることが可能です。

外部から資金調達したことを、取引先などから知られることによって「資金繰りが危ない会社」などとネガティブに判断されることがあり、取引に悪影響してしまう可能性もあります。

しかし、ファクタリングであれば売掛先に秘密で取引できるので取引先に外部からの資金調達について知られたくないという人にはメリットがあります。

債務ではない

ファクタリングは売掛債権という資産の売却です。

資産を売却して現金という資産に換えているだけですので、借入金のように債務ではありません。

借入金を利用した場合には、貸借対照表の負債の欄が増加して自己資本比率などの指標は低下してしまいます。

ファクタリングは負債ではないので、貸借対照表の悪化を防ぐことができる効果があります。

最短即日資金化可能

2社間ファクタリングは最短即日に資金化することができます。

申込から契約まで非対面で手続きすることができるファクタリング会社も多いので、急いで資金が必要な時にファクタリングを利用することによって、申込日当日に必要な資金を調達することが可能です。

ちなみに、ファクタリング会社と納入企業と支払企業の3社で契約締結を行う、3社間ファクタリングも1週間程度で資金化できる場合もあり、ファクタリングは総じて資金化までの速度が早いという点が大きな特徴だと言えるでしょう。

ABLとファクタリング5つの違い

ABLとファクタリングは「売掛債権を活用して資金調達することができる」という点は共通していますが、その他は異なる点の方が多いのが実情です。

ABLとファクタリングの主な違いとして以下の5点を挙げることができます。

  1. 融資か否か
  2. 手数料(金利)
  3. 資金調達のスピード
  4. 売掛債権デフォルト時の責任
  5. 売掛先への通知

ABLとファクタリングがどのように異なるのか、詳しく見ていきましょう。

融資か否か

ABLは融資、ファクタリングは資産の売却です。

融資であるABLの方が、自社の与信をしっかりと審査される傾向にあります。

したがって、自社の信用に問題がある場合にはファクタリングの方が審査に通過しやすい可能性があります。

手数料(金利)

ABLの金利は2%〜4%程度で、ファクタリングの手数料は5%〜10%程度です。

なお、ABLの金利は年利ですが、ファクタリングは期間に関わらず上記の利率で手数料が控除されるので、ファクタリングの方が資金調達コストは利率の違い以上に大きくなってしまいます。

例えば金利4%でABLを1,000万円借りた場合の利息は1,000万円×4%÷12ヶ月×6ヶ月=20万円です。

ファクタリングで1,000万円を手数料5%で利用した場合の手数料は50万円です。

このようにわずか1ポイントの手数料の違いでも年利が適用されるABLの方が支払うコストは小さくなります

資金調達コストはファクタリングとABLで非常に大きな違いがあります。

資金調達のスピード

ABLとファクタリングは資金調達のスピードが異なります。

ABLは棚卸資産を評価する場合などは、外部の評価機関に評価を依頼するので審査にはどうしても時間がかかり、場合によっては融資までに1ヶ月程度の時間が必要です。

一方、ファクタリングは資金化まで最短即日で、時間のかかる3社間ファクタリングでも1週間から2週間程度で資金化することができるので、資金調達のスピードはファクタリングの方が圧倒的に早くなります。

売掛債権デフォルト時のリスク

売掛債権がデフォルトした場合のリスクはファクタリングであればファクタリング会社が負いますが、ABLであれば債務者が負わなければなりません。

ABLの場合には、融資途中で担保となっている売掛債権がデフォルトした場合、借りているお金の一括返済を求められる可能性が非常に高いので、借入企業に一定のリスクがあります。

一方、ファクタリングはファクタリングによって売却した売掛債権が回収不能になったとしてもその損失はファクタリング会社が背負うので自社には何もリスクがありません。

売掛先への通知

ABLでは原則として売掛先の同意が必要になります。

そのため、ABLによって資金調達することを売掛先に隠すことはできません

一方、ファクタリングであれば売掛先の同意が不要で資金調達することができるので、外部から資金調達したことを秘密にすることができます。

なお、売掛先の同意を得た上で契約手続が必要になる、3社間ファクタリングの場合にはあらかじめ売掛先企業へ通知した上で契約手続を行うので、売掛先に秘密にすることはできません。

ABLとファクタリングの使い分け方法

ABLとファクタリングは上手に使い分けることで、不動産を持っていない企業でも円滑に資金調達することができます。

主な使い分けの場面として以下の6つを挙げることができます。

  • 事前に準備するならABLで極度枠を作成
  • 即日で突然資金が必要ならファクタリング
  • 売掛先に秘密にしたいならファクタリング
  • 低いコストで資金調達したい時はABL
  • 売掛先の倒産が心配ならファクタリング
  • 自社の決算が悪いならファクタリング

ABLとファクタリング、上手な使い分け方法について詳しく見ていきましょう。

事前に資金を準備するならABLで極度枠を作成

売掛債権を活用して、事前に「いざお金が必要になった時のために資金を準備しておきたい」という場合には、早めに銀行へ相談してABLを利用するのがよいでしょう。

ABLは「〇〇万円まで借入できる」という極度枠を作成することが可能です。

この枠の範囲内で自由に借入をすることができるので、あらかじめABLで極度枠を作成しておくことによって、いざお金が必要になった時にすぐに借入をすることができます。

ファクタリングなどよりも低金利ですぐにお金を借りることができるので、いざという時のために事前に備えるのであれば、ABLで極度枠を作成しておくとよいでしょう。

即日で突然資金が必要ならファクタリング

極度枠もない、銀行融資も間に合わないという状況であれば、即日資金化に対応した2社間ファクタリングを利用するのがおすすめです。

2社間ファクタリングであれば申込日当日に売掛債権を資金化することができるので、お金が必要なタイミングですぐに資金調達することができます。

ただし、契約に対面が必要な場合は申込日当日中にファクタリング会社の窓口に行き、契約手続をしなければ資金化することはできません。

即日で資金化したい場合には非対面で契約することができるファクタリング会社を選択した方がよいでしょう。

売掛先に秘密にしたいならファクタリング

売掛先企業へ秘密にしたいのであれば、ファクタリングを選択すべきです。

ABLは原則的に売掛先企業への通知が必要になるので、売掛先企業に秘密で資金調達することはできません。

一方、2社間ファクタリングは売掛先企業への通知が不要であるため、売掛先企業に秘密で資金調達することが可能です。

外部からの資金調達を売掛先に秘密にしたいのであれば、ファクタリングを選択しましょう。

低いコストで資金調達したい時はABL

低コストで資金調達したい場合はABLを選択すべきです。

ABLの金利は2%〜4%程度ですが、ファクタリングは5%〜10%程度と、資金調達コストは基本的にABLの方が低くなります。

低コストで資金調達したいのであればABLへ先に申し込みをするようにしましょう。

売掛先の倒産が心配ならファクタリング

売掛先の倒産や未払いが心配なのであればファクタリングを利用すべきです。

ファクタリングは売掛債権の回収リスクも一緒にファクタリング会社へ売却するので、売掛債権が回収不能になったとしても自社には損失が及びません。

一方、ABLは担保利用している売掛債権がデフォルトした場合の損失は自社が負わなければなりませんし、借入金の一括返済を求められる可能性もあります。

売掛先の倒産が心配なのであれば、ABLを利用しましょう。

自社の決算が悪いならファクタリング

自社の決算の状況が悪く、銀行融資を受けることができない状態であるのであればファクタリングを利用しましょう。

ファクタリングは売掛債権の売却ですので、審査をされるのは売掛先企業で、自社の業況は審査であまり関係がありません。

自社の決算内容が悪く銀行融資すら借りることができない状態であったとしても、ファクタリングであれば審査に通過して資金調達することができる可能性があります。

一方、ABLは自社の業況も審査されるので、あまりにも決算内容が悪い場合には審査に通過することは不可能です。

ABLとファクタリング関してよくある質問

ABLにおいて棚卸資産の評価はどのように行うのですか?
ABLでは棚卸資産の評価は基本的には銀行の審査担当者が行います。
ただし、専門性の高い在庫の場合には、銀行員が評価することは不可能ですので、多くの場合、外部の評価機関に評価を依頼することが多いようです。
外部の評価期間が評価すると審査に時間がかかるのでABLは審査完了までに数週間程度の時間がかかってしまいます。
商品在庫ファクタリングとABLの違いを教えてください
商品在庫ファクタリングとは、商品の在庫をファクタリング会社へ売却して資金化する方法ですが、基本的には在庫を専門の業者へ売却しているだけで、リサイクルショップへモノを売却することとそれほど大きな違いはありません。
買取価格は棚卸資産の価格の3割〜半分程度で、安価でしか買い取ってもらうことができません。
一方、ABLは在庫を担保として評価額の半分程度の金額の融資を受けることが可能です。
同じく在庫を活用して資金化できる方法ですが、コスト負担や資金調達額はABLの方が大きくなります。
先にABLへの申し込みをした方がよいでしょう。
ABLの審査で断られた売掛債権をファクタリングできるでしょうか?
ABLの審査で断られた売掛債権もファクタリングであれば資金調達することができる可能性もあります。
ABLはファクタリングよりも審査基準が厳しいのでABLではリスク許容度オーバーで否決になった売掛債権でも審査に通過できる可能性があります。
また、ABLでは自社の与信もしっかりと審査されますが、ファクタリングでは自社の与信は重視されません。
自社の信用の問題でABLの審査に通過することができない場合も、ファクタリングであれば資金調達することができる可能性もあります。
ABLの審査に落ちたからと言って資金調達を諦めるのではなく、ファクタリングの利用も検討するとよいでしょう。

ABL/ファクタリングを検討されている方へ

ABLは売掛債権などの動産を担保にした借入、ファクタリングは売掛債権の売却です。
両者の主な違いは以下の5つです。

  1. 融資か否か
  2. 手数料(金利)
  3. 資金調達のスピード
  4. 売掛債権デフォルト時の責任
  5. 売掛先への通知

資金が必要なタイミングや、自社の決算内容、許容できる資金調達コストなど、状況に応じてABLとファクタリングを使い分けることによって企業の資金調達の幅は広がります。

不動産を持っていなくても資金調達は不可能ではないので積極的に売掛債権を活用した資金調達を行うようにしてください。