多角化のための3つの資金調達方法
多角化によって事業拡大する場合には、主に以下の3つの方法によって資金調達することができます。
まずは、それぞれの手段が具体的にどのような方法なのか、詳しく解説していきます。
銀行融資
多角化による事業拡大の最も基本的な資金調達方法が銀行融資でしょう。
銀行から他の店舗を出店するための費用や、他業種へ投資するための費用などを借り入れて多角化を図る方法です。
冒頭述べたように、以前は一定程度儲かっている企業に対して、銀行の方から「資金と不動産はこちらで用意するから多角化してみないか?」と営業することが多々ありました。
今はそのような提案はありませんが、やはり中小企業が最も確実に資金調達できる可能性が高いのが銀行融資です。
そのため、銀行融資は多角化の最もポピュラーな手段であると言えるでしょう。
上場
株式を上場させて資金を集め、その資金を活用して多角化を図るという方法もあります。
もちろん、どんな企業でも上場できるわけではなく、上場するための一定以上の基準を満たす必要があります。
上場してしまえば、一度に数十億円程度の資金を集めることもできるので、地域限定だった店舗を一気に全国展開を図るなどの大規模な多角化が可能になります。
私募債の発行
私募債を発行して多角化のために必要な資金を集めるという方法もあります。
私募債とは、会社にお金を貸してくれる人を探し(集め)、その人たちに債券を発行してお金を借りる方法です。
銀行融資では事業計画を提出し、担保を要求され、などの厳しい審査を通過しなければ借りることができません。
しかし、私募債であれば債権者が貸付に同意すれば厳しい審査を通過しなくても借りることができます。
多角化による事業拡大計画に賛同する人を集めれば資金調達することができるので、銀行融資に通過することが難しい小規模の企業でも比較的資金調達しやすい方法だと言えます。
多角化のために銀行融資を利用するメリット・デメリット
多角化のために銀行融資を利用することはメリットとデメリットが大きく分かれます。
比較的簡単に資金調達することができるものの、失敗した場合のリスクは甚大です。
銀行融資を利用することのメリットデメリットについて詳しく解説していきます。
銀行融資のメリット
銀行融資のメリットは以下の通りです。
銀行融資は金利が低いというメリットがあります。
格付けなどによって異なるものの、銀行融資の金利は2%前後というのが相場です。
後述する私募債などと比較して低金利で借りることができます。
銀行は事業資金融資に関しては、地域経済を拡大・発展させるという公共的使命を負っているため、カードローンなどのような高金利を設定することはないためです。
また、多角化による事業拡大に必要な資金を借りるための時間は1ヶ月前後あれば借りることが可能です。
上場や私募債に比較すれば短時間で資金調達することができるので、「スピーディに出店し、他社との差別化を図りたい」というような場合には銀行融資が有効です。
銀行融資のデメリット
多角化による事業拡大の必要資金を銀行融資で調達することには、以下の3点のデメリットがある点にも注意が必要になります。
- 審査が厳しい
- 担保がないと借りられないことも
- 失敗した場合のリスクが大きい
多角化による事業拡大に必要な資金を銀行から借りる場合には、銀行による厳しい審査に通過する必要があります。
多角化による事業拡大の事業計画書を提出し、銀行を納得させることができなければお金を借りることはできません。
また、借入金額が高額になる場合には担保を要求されるので、不動産を持っていない会社は借りることが厳しくなります。
また、銀行から多角化による事業拡大に必要な資金を借りる場合には、ほとんどのケースで経営者が連帯保証人になる必要があります。
失敗した場合には、経営者個人に数億円にも及ぶ借金返済義務が生じてしまうことになります。
実際に多角化による事業拡大に失敗して、自己破産してしまった経営者が少なくありません。
経営者の個人保証を必ずと言っていいほど要求する銀行融資は、最もリスクが高い資金調達方法だということができます。
多角化のために上場するメリット・デメリット
多角化のために上場するという会社も存在します。
上場することによって多額の資金を借金せずに集めることができるため、一気に会社を大きくしたいという場合には間違いなく有効な方法です。
しかし、会社を上場するということはメリットばかりではありません。
上場によって多角化による事業拡大に必要な資金を集めることのメリット・デメリットを詳しく解説していきます。
上場のメリット
上場によって資金調達することのメリットは大きく分けて以下の3つです。
- 多額の資金を集めることができる
- 会社の社会的信用度が飛躍的にアップする
- 経営者の個人資産も激増する
株式市場に上場することによって、投資家から広く多額の資金を集めることができます。
一度に数億円単位の資金を自己資本として集めることができます。
返済不要の自己資本を多額に集めることができるので、多角化による事業拡大に必要な資金を集める方法としては最も効率的な方法だと言えるでしょう。
また、上場することによって当該企業は「上場企業」になります。
上場企業になれば社会的信用度は飛躍的にアップするため、これまで以上に仕事をしやすくなるでしょう。
さらに、経営者個人が持っていた会社の株式の価値も数十倍〜数百倍にアップするので、場合によっては経営者の個人資産が数十億円から数百億円になることもあります。
上場のデメリット
よいことばかりに見える上場による資金調達ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 上場すること自体が簡単ではない
- 会社を買収されるリスクがある
前述したように、会社を株式上場させるためには厳しい基準をクリアしなければなりません。
例えば、ベンチャー企業の市場である東証マザーズの上場基準は以下のようになっています。
対象企業 |
高い成長の可能性を持つと認められる企業 |
時価総額(上場時見込み) |
10億円以上 |
株主数(上場時見込み) |
200人以上 |
最も難しいのは時価総額10億円以上という条件です。
株式の総額が10億円以上ですので、そもそも自己資本が10億円程度はある会社でないと上場することは不可能で、中小企業が多角化による事業拡大に必要な資金を集めるために気軽にできる手法ではありません。
また、上場した株式は誰もが購入することができます。
場合によっては会社を買収する目的で株式を購入する企業などが存在する可能性もあり、上場することによって会社を買収されるリスクもあります。
多角化のために私募債を発行するメリット・デメリット
私募債を発行することでも多角化のための必要資金を集めることは可能です。
しかし、私募債はこの3つの方法の中で最もコストが高い方法で、銀行融資と比較して手続きが煩雑というデメリットもあります。
私募債を活用して資金調達を行うメリットデメリットについて解説します。
私募債のメリット
多角化による事業拡大に必要な資金を私募債によって調達するメリットは以下の3つです。
- 銀行のように厳しい審査がない
- 会社や商品の強みをアピールできる
- 債権者が見つかればすぐに資金調達できる
自社で資金を提供してくれる人を探し、債券を発行するのが私募債による資金調達です。
そのため審査は債権者が同意するかどうかですので、銀行のように画一的で厳しい審査は行われません。
自社が強みをしっかりとアピールして、債権者が多角化の理念や計画に納得することができれば資金調達可能です。
資金を提供してくれる人が見つかれば、すぐに私募債を発行して資金調達することができるので、場合によっては最も早く資金調達することができる方法です。
私募債のデメリット
私募債には以下の2つのデメリットもあります。
私募債は一般的には銀行融資よりも金利が高くなります。
債権者は投資目的で債券を購入するので、ある程度の利回りを付けないと投資家は債権を購入してくれません。
少なくとも銀行融資の2%前後の利回りでは投資家にとって魅力がないため、 5%前後の金利を設定することが一般的になっています。
そのため、資金調達コストは銀行融資よりも高くなります。
また、一般的な中小企業が私募債を発行しようとしても、購入してくれる債権者を探すのは容易ではなく、基本的には知人や親戚などからお金を借りる手段になっているのが現実で、広くお金を集めることは難しいと考えた方がよいかもしれません。
多角化によって事業拡大すると運転資金も増大する
多角化によって事業を拡大することによって運転資金が増大するという点にはかなり注意を払う必要があります。
多角化が成功すれば問題ありませんが、多角化が失敗した場合には、運転資金の枯渇によって会社の経営が一気に傾くことはよくあります。
実際に、1店舗目が順調だった店舗が2店舗目を出店したことによって倒産してしまうということはかなりよくあるケースです。
これは、多角化による運転資金の増大を全く考慮に入れていなかったことを理由としてあげることができます。
多角化による運転資金の課題と対処法について解説していきます。
銀行借入は不可能になる可能性がある
多角化による事業拡大に必要な資金を銀行借入によって調達してしまうと、その後すぐに運転資金を借りることは難しくなると考えた方がよいでしょう。
銀行は1年以内に複数回融資はしないためです。
多角化に必要な設備資金を借りてからすぐに運転資金を借りることは非常に難しくなります。
特に、多角化が上手くいかず、予測していたよりも売上が少なかった場合の資金を借りることはさらに簡単ではありません。
多角化が失敗している企業に融資をしたとしても、銀行へ返済される可能性は著しく低くなってしまうと判断されるためです。
多角化した分だけ運転資金が増大しますが、経営が上手くいかない場合には不足分を借入によって調達することが難しいので、資金繰りのリスクが非常に大きいと理解しておく必要があります。
運転資金調達はファクタリングで可能
借入によって調達することができない多角化後まもなくの運転資金ですが、ファクタリングによって調達することは可能です。
ファクタリングとは、売掛債権をファクターと呼ばれる会社へ売却して売掛債権期日よりも早く資金化する方法です。
借入ではないので、銀行融資を借りることができない企業でも資金調達できる可能性があります。
また、多角化が上手く行っていない状況下でも、ファクタリングは売掛先の信用で審査を受けることができるので審査に通過できる可能性があります。
借入での調達が難しい、多角化後の運転資金はファクタリングであれば比較的簡単に資金調達できる可能性があります。
多角化による事業拡大時の資金調達についてよくある質問
- 多角化に必要な資金を銀行から借りることが難しいのはなぜですか?
- 多角化が上手くいくかどうかが不透明だからです。
多角化は場合によっては当該企業に何もノウハウがない分野に進出するケースもあります。
そのような場合には失敗するリスクも高く、銀行を説得できるようなロジックを組み立てることも難しいため、多角化による事業拡大に必要な資金を銀行から借りることは簡単ではありません。
なお銀行によっては本業とは無関係の資金は融資しない方針としている場合もあります。
- クラウドファンディングで多角化に必要な資金調達は可能ですか?
- クラウドファンディングは自社の理念やビジョンに支援者が賛同するかどうかが支援を受けることができるかどうかがポイントになります。
そのため、自社の多角化戦略が「応援したい」「参加したい」と思えるようなものであれば必要資金をクラウドファクタリングで調達することができる可能性はあるでしょう。
ただし、クラウドファンディングというものは基本的には社会貢献をミッションとする事業に投資を行うものです。
そのため、単純に営利目的の事業拡大の資金をクラウドファンディングで集めるのは難しく、プラットフォーム側も案件の掲載を断る可能性もあります。
- ファクタリングでは多角化に必要な資金を調達できませんか?
- ファクタリングで調達することができる資金は売掛債権の金額が限度です。
多角化に必要な資金が少額であるならば、ファクタリングで調達した資金で多角化することができるかもしれません。
しかし、一般的に多角化に必要な資金は数千万円単位になるので、そのような高額な資金をファクタリングで調達することは現実的ではないと言えるでしょう。
ファクタリングで調達する資金は運転資金に活用するのが基本だと考えておきましょう。
- 多角化による事業拡大の注意点について教えてください
- 多角化による事業拡大の注意点はとにかく見通しをシビアに持つことです。
「上手くいくだろう」とやいう程度の甘い見通しで多角化を行った結果として失敗してしまうというケースは後を断ちません。
入念なマーケティングを行うのはもちろん、失敗した場合の資金的なリスクも十分に考慮した上で事業拡大を行いましょう。
多角化は失敗すると、これまで上手く行っていた本業の収益を食い尽くし、本業もダメにしてしまうリスクの高い手段です。
意思決定はくれぐれも慎重に行うようにしましょう。
まとめ
多角化に必要な資金は銀行や信用金庫などからの借り入れ、株式上場、私募債発行などによって調達することができます。
私募債も株式上場も中小企業にとっては簡単な手段ではないので、基本的には金融機関からの借入がメインになるでしよう。
金融機関から事業拡大に必要な資金を借りるには、とにかく事業計画が重要になります。
「うまくいくだろう」という程度の甘い見通しでは融資を受けることは難しく、失敗した場合のリスクも甚大です。
入念な調査と計画を立てた上で多角化による事業拡大を行うことで、資金調達もしやすくなります。
自社の将来のためにも資金調達のためにも、多角化の計画は入念に立てるようにしてください。