銀行や投資家などの企業外部の機関が企業を評価する際には、収益や財務状況と同じように資金繰りが重視されます。
いくら黒字の企業であっても資金繰りができていない企業は、資金ショートによって倒産してしまう可能性があります。
資金繰りの管理は「赤字か黒字か」という問題以上に重要な問題です。
この記事では資金繰りの重要性と資金ショートのリスクや対処法について詳しく解説していきます。
せっかく売上があっても、資金ショートしてしまったら意味はありません。
資金繰りと資金ショートの対策についてしっかりと理解しておきましょう。
資金ショートとは?|支払いの資金が不足すること
資金ショートとは、手元の資金が枯渇し、支払いができなくなってしまうことです。
いくら利益があっても資金が枯渇してしまったら支払いはできません。
会社が利益を得るには、様々な支払いが必要です。
例えば、人件費を払えなければ従業員の雇用ができず、事業拡大どころか直近の業務遂行も叶いません。
資金ショートとは、会社の資金が枯渇し、本来的に支払わなければならない先へ支払いができずに事業継続が困難になる状況を示します。
資金ショートをしてしまうと、自社の営業継続が困難になるばかりか、会社の関係者に対して大きな迷惑になってしまうことになるので注意が必要です。
資金ショートの原因|資金繰りの管理不全
そもそも資金ショートはどのようにして起こるのでしょうか?
多くの人が資金ショートについて「売上が不足して資金が足りなくなる」と考えているのではないでしょうか?
しかし、資金ショートは売上がしっかりと確保されている状況下でも起こることです。
資金ショートは売上不足以外では以下の4つのケースで起こります。
- 資金繰りの管理不足による資金ショート
- 資金繰りの認識不足による資金ショート
- 黒字なのに資金ショート
- 不測の事態で資金ショート
資金ショートは売上があっても資金繰りを管理していないことによって起こってしまいます。
資金ショートが起こる4つの原因について詳しく解説していきます。
資金繰りの管理不足による資金ショート
資金繰り管理ができていないが故に資金ショートを起こしてしまうことがあります。
資金繰りに関してどんぶり勘定になっており、いつ資金が入ってくるのか、いくら出て行くのかについて把握していないケースで資金ショートが起こる可能性があります。
資金の流れを把握していないため「あると思っていた資金がない」「なんだか分からないけどお金が足りない」という状況になりかねません。
資金繰りの管理を疎かにしていることは資金ショートを起こす大きな原因になってしまいます。
資金繰りの認識不足による資金ショート
資金繰りに関して認識が甘いことから、資金ショートを起こしてしまう可能性があります。
「この取引先は月末までにお金を振り込んでくるだろう」とざっくりと判断してみたものの、実際には翌々月など先になってしまうことが考えられます。
また、資金繰りや入金サイトなどについて、いつ入金になりいつ支払うべきなのかという認識が甘く、結果的に支払いが先、入金が後となってしまうと資金繰りが苦しくてなってしまうことがあります。
やはり、資金繰り表をしっかりと作成し、取引先ごとの入金日と支払日を詳細に把握しておくようにしましょう。
黒字なのに資金ショート
損益計算書(P/L)上では黒字であっても資金ショートしてしまうことがあり、黒字の資金ショートによって倒産してしまうことを黒字倒産と言います。
売上は、入金前であっても商品やサービスを提供した時点で発生します。
例えば100万円の商品を掛けで販売した場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
売掛金 100万円 | 売上 100万円 |
この売掛金が入金になるまで3ヶ月あるとすると、3ヶ月間のうちに手元資金が枯渇してしまったら資金ショートを起こし、最悪の場合倒産してしまいます。
これが黒字倒産という現象で、損益計算書上は利益が出ていても、手元の資金が足りなくなってしまうことによって黒字なのに資金ショートを起こして倒産してしまうことがあります。
繰り返しとなりますが黒字倒産を防ぐためには、取引先ごとに「いつ入金になり」「いつ支払いなのか」ということを詳細に把握しておかなければなりません。
不測の事態で資金ショート
資金ショートでよくある原因の1つが、この不測の事態による資金ショートです。
不測の事態とは以下のようなケースです。
- 取引先の倒産
- 従業員などに会社のお金を持ち逃げされた
- 入金予定の銀行融資が遅れている
特に注意しなければ取引先の倒産です。
取引先が突然倒産してしまうことによって手形や小切手が不渡りになったり、売掛債権がデフォルトしたりするケースは珍しくありません。
このような不測の事態を避けるためには、売掛先の与信管理を徹底しておく必要があります。
売掛先の景気が急に悪化していないかどうかを定期的に確認し「売掛先が急に倒産した」という事態になることがないよう、売掛先に定期的に訪問したり、銀行などから情報を集めたりなどして、不測の事態を避けるようにしてください。
資金ショートを防ぐ6つの方法
資金ショートを防ぐためには、日頃から以下の6つの点に注意して経営を行なっていくだけで十分な効果を期待することができます。
- 請求漏れや未入金の確認を怠らない
- 営業管理を見直す
- 不要な在庫を売却する
- 遊休資産の見直す
- 外部から資金調達して手元資金を潤沢にしておく
- 支払いを遅らせて入金を早める
資金ショートを予防するための6つの方策について詳しく解説していきます。
請求漏れや未入金の確認を怠らない
まずは、請求漏れがないか、もしくは請求したのに未入金のものがないか、確認を怠らないようにしましょう。
せっかく売上があっても請求しなければほとんどの売掛先は入金してくれませんし、未入金でもこちら側から請求しなければ入金しないまま放置されてしまうこともあります。
このような事態にならないよう、請求漏れや未入金がないかどうかは定期的に確認する必要があります。
営業管理を見直す
営業管理を見直すことも重要です。
多くの会社の営業は販売ノルマを抱えているため、当該取引先が「入金できるかどうか」という財務的な視点を軽んじていることはよくあります。
「とにかく数字をとって来れればいい」と考え危ない会社とも契約をしてしまうことがよくあるのです。
営業管理を徹底し「安全な取引先しかノルマにはカウントしない」「売掛金回収に関しても営業が責任を持つ」などして、ある程度営業も販売先の支払いに対して責任を持たせる体制を構築する必要があります。
また、取引先の言いなりになるのではなく、入金サイトについても「月末締め翌月10日払い」など、できる限り自社に有利な支払条件となるように徹底させましょう。
営業は数字だけではなく「入金になった時点で初めて会社の利益になる」ことを社内の共通認識となるように意識改革が必要です。
不要な在庫を売却する
不要な在庫を売却することでも資金繰り管理は円滑化します。
在庫には倉庫の経費などの管理コストがかかります。
また、在庫を多く抱えれば抱えるほど在庫の劣化やロスが大きくなります。
さらに、多くの在庫を抱えていることは、それだけ仕入のために資金を流出させていることであり、資金繰り的にはマイナスになっている可能性もあります。
自社にとって適正な在庫の量はどの程度なのかを把握し、できる限り不要な在庫を持たないことによって資金繰りはかなり改善できます。
遊休資産を見直す
会社に遊休資産がないかどうかを確認し、不要な資産は手放してしまったほうがよいでしょう。
不要な資産を売却することによって、手元に資金を確保できますし、何よりもほとんどの資産は保有していることによって固定資産税や管理費などのコストが発生します。
不要な資金流出を防ぐためには遊休資産を見直して、できる限り少ない資産で最大の利益をあげることが重要です。
売っても問題ない資産はないか、無駄な資産はないかを確認し、売っても問題のない資産は売却してしまうようにしましょう。
外部から資金調達して手元資金を潤沢にしておく
外部から資金調達しておき手元資金を潤沢にしておくことも資金ショートを防ぐ方法の1つです。
基本的な方法として、銀行から長期資金を借りて、手元に数ヶ月分の運転資金を用意しておくことがあげられます。
また、ファクタリングによって、売掛債権の入金サイトを短縮させてしまうのもよいでしょう。
このように、外部から資金調達をしておき、手元資金を潤沢にしておけば、不測の事態になったときでも急に資金ショートしてしまうことはありません。
支払いを遅らせて入金を早める
資金ショートを防ぐ方法として、税金や社会保険料等の公的な支払い、または取引先との買掛金の支払いを遅らせてもらうと同時に、入金を早める方法もあげられます。
税金や社会保険料といった公的な支払いは、事業者の状況や事業環境の変化に応じて支払いに猶予をもらえる可能性があります。
資金繰りが難航し資金ショートに陥る可能性がある場合は、はやめに税務署等に足を運び、支払いを遅らせてもらえるか相談しましょう。
また、どうしても資金繰りが厳しいときは、取引先へ買掛金の支払いを待ってもらうように交渉することも検討しましょう。
交渉の際に、ただこちらの都合を押し付けてお願いするようでは、これまで培った信頼関係が崩れてしまう可能性があります。
たとえば、綿密な支払計画のもと今月の支払いを待ってもらう代わりに次月の取引量を増やしてもらうなど、お互いにメリットのある交渉を行いましょう。
支払いを遅らせると同時に、売掛金の入金を早めるように手を打つことも必要です。
ファクタリングで保有する売掛債権を売却すると、本来なら入金までに数カ月あった入金サイトを最短即日まで短縮できます。
公的な支払いを一時的に遅らせて、ファクタリングで入金を早めることにより、手元資金が充足するため資金ショートを防げるでしょう。
ファクタリングが資金繰りの改善に活用できる4つの理由
ファクタリングとは、保有している売掛債権をファクタリング会社に売却することで、数か月後に入金される予定だった売掛金を最短即日で得られる資金調達手段です。
ファクタリングは資金繰り改善のために非常に有効な手段といえます。
ファクタリングによって外部から資金を確保することができる以上に、ファクタリングは根本的に企業の資金繰りの悩みを解決できる以下の3つの効果があるためです。
- 売掛債権のサイトを短縮できる
- 売掛債権のデフォルトリスクを排除できる
- 売掛先に秘密にできる
- 負債にならず利用できる
ファクタリングの資金繰り改善への4つの効果について詳しく解説していきます。
売掛債権のサイトを短縮できる
ファクタリングとは、売掛債権を期日前に売却して資金化する方法です。
例えば、3ヶ月先に入金予定の100万円分の売掛債権をファクタリングして資金化すると、3ヶ月先に入金されるはずだった100万円から手数料を差し引いた額を最短即日で得られます。
入金が売上発生よりもかなり先になることによる資金ショートリスクを、ファクタリングであれば解決できます。
売上発生と入金までの時間的なズレである資金ギャップに悩まされている事業者は、ファクタリングを活用することで資金繰りを改善可能です。
売掛債権のデフォルトリスクを排除できる
ファクタリングは、売掛債権のデフォルトリスクも一緒に買取してくれます。
売掛債権は、売掛先企業の予期せぬ倒産などの事情による未払いリスクを抱えています。
しかし、売掛債権をファクタリングに売却することで、万が一売掛先が倒産してもそのリスクはファクタリング会社が背負ってくれます。
ファクタリングであれば、予期せぬ事態にも備えられます。
売掛先に秘密にできる
2社間ファクタリングは、売掛先に秘密で資金調達できます。
2社間ファクタリングの契約主体は、利用者とファクタリング会社のみで完結するため、売掛先へ債権譲渡の通知・同意を得るステップが不要です。
一方で、3社間ファクタリグは売掛先への債権譲渡通知が必要になるので、売掛先にファクタリングの事実を秘密にしておくことができません。
いくら資金繰りのためとはいえ、売掛先にファクタリングしたことがばれてしまったら、取引先からの印象が悪くなり、今後の取引に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。
2社間ファクタリングで資金調達すれば、売掛先に秘密にしつつ必要な資金繰りを行うことができます。
負債にならず利用できる
ファクタリングは借入ではなく売掛債権の売買であるため、負債になりません。
例えば、銀行融資やカードローンで資金調達をしようとすると、借入なので決算書上で負債となってしまいます。
負債が増えると、取引先や金融機関からの信用が失われ、取引を中断されたり融資を受けられなかったりと悪影響を及ぼします。
また、すでに銀行融資を受けている場合は、それ以上の融資を断られる可能性も高いです。
資金ショートは防ぎたいものの、負債を抱えたくない場合や融資枠を温存しておきたい場合に、ファクタリングは有効活用できます。
資金ショートの影響
資金ショートを起こした場合の事業に与える影響も把握しておくことが大切です。
資金ショートをすることによって以下の4つのうちいずれかの影響が出るため、事業継続が困難になると考えておきましょう。
- 従業員に給料が払えずに事業継続が困難になる
- 取引先へ支払いができずに事業継続が困難になる
- 手形や小切手が決済できずに銀行取引停止処分になる
- 借金が返済できずに期限の利益を喪失する
資金ショートを起こすことの4つの影響について詳しく解説していきます。
従業員に給料が払えずに事業継続が困難になる
資金ショートを起こすと、従業員へ給料の支払いができなくなってしまいます。
たとえ会社に利益があっても手元の資金がなければ、月々の人件費の捻出すらもできなくなるからです。
給料を支払えなければ、従業員の雇用を継続はできないため、現実的に事業の継続は困難です。
また、従業員にも生活があるので、給料を払ってもらえないと従業員の生活が破綻してしまう可能性もあるという点を考慮しておきましょう。
取引先へ支払いができずに事業継続が困難になる
資金ショートしてしまうと取引先に対する支払いがストップし、事業継続ができない可能性もあります。
例えば仕入れ先へ支払いができなければ、次の仕入れを入れてもらうことが難しくなってしまいます。
販売する商品や、原材料の仕入れができなければ事業の継続は困難です。
取引先へ支払いができなければ販売する商品も確保できず事業を継続することは難しくなり、結果的に会社を閉じることになってしまいます。
手形や小切手が決済できずに銀行取引停止処分になる
資金ショートでもっとも恐ろしいのが、銀行取引停止処分です。
小切手や手形の期日までにお金を用意できないと、小切手や手形が不渡りになってしまいます。
そして、不渡りを6ヶ月以内に2度起こしてしまうと銀行取引停止処分となります。
銀行取引停止処分になると、貸出や当座勘定の利用できなくなるため、事業者としては絶対に避けたいところでしょう。
借入をしていた場合には、融資取引の継続が不可能になるので一括返済しなければなりません。
また、手形や小切手の発行もできなくなるので、実質的には多くの企業が倒産に追い込まれることになります。
借金が返済できずに期限の利益を喪失する
資金ショートしてしまうと借金の返済も困難になります。
借金の期日になっても長期間返済できない状態が続くと、期限の利益を喪失し「貸しているお金を一括で全て返済せよ」と請求されてしまうことになります。
返済するお金がなければ財産の差し押さえなどが行われ、最悪の場合には経営者個人が自己破産に至る可能性もあります。
資金ショートしてしまうと以下のような事態になってしまいます。
- 給料を払えない
- 取引先へ支払いができない
- 手形や小切手が決済できない
- 借金が返済できない
いずれかの事象になっても事業を継続することは非常に困難になります。
資金繰りと資金ショートに関するよくある質問
- 黒字倒産を防ぐためには販売先を絞るべきでしょうか?
- 売上は入金にならなければ損失の方が大きくなってしまいます。
そのため、黒字倒産を防ぐためには「販売しても入金されない」と判断できるような、業況が悪い企業とは取引すべきではないでしょう。
もしも取引する場合には保証ファクタリングや取引信用保険などを利用し、入金を担保した上で利用した方がよいでしょう。
- 資金繰り徹底のために回収代行サービスを利用すべきでしょうか?
- 回収代行サービスを利用すれば、毎月決まったタイミングで確実に入金がありますし、もしも売掛先が支払いをしない場合でも代金を受け取ることができる会社も存在します。
非常に便利で資金繰りにも有利なサービスですが、手数料がかかります。
手数料と勘案し、「手数料がかかったとしても資金繰りを安定させたい」という場合には回収代行サービスを利用しましょう。
- 手元にどの程度の資金を持っていれば資金ショートを防止できますか?
- 3ヶ月分程度の運転資金を手元に持っていれば、予期せぬ事態によって資金が不足した場合も、急な景気変動によって売上が大きく減少した場合もすぐに資金ショートを起こす心配はないでしょう。
また、3ヶ月分の資金があれば経営を立て直すことも外部から資金調達を検討することも可能です。
自社にとって必要な運転資金の3ヶ月分程度は手元に持っていた方が安心です。
- 販売先から支払サイトを延ばしてくれと言われた場合は取引の継続を再検討すべきですか?
- 販売先への販売額や個別の事情によって検討すべきですが、販売先の資金繰りが苦しくなっていることは間違いないかもしれません。
ファクタリングや保証ファクタリングを利用して、販売先の与信に問題がないかどうかを確認した方がよいでしょう。
与信に問題ないのであれば、入金サイトが延びた分の資金を手元に用意した上で取引の継続を検討しても問題ないでしょう。
まとめ
資金繰りは収支以上に重要です。
資金が足りないと、会社は様々な取引先へ支払いができずに倒産してしまう可能性が高くなります。
資金ショートによって黒字でも倒産してしまケースは珍しくありません。
資金ショートを避けるためには、以下の6つの方法で資金繰りを改善するように努めましょう。
- 請求漏れや未入金の確認を怠らない
- 営業管理を見直す
- 不要な在庫を売却する
- 遊休資産の見直す
- 外部から資金調達して手元資金を潤沢にしておく
- 支払いを遅らせて入金を早める
資金繰りは経営努力で改善できる課題ですので、日頃から資金繰り管理を意識した経営を行うように努めましょう。