人材派遣業の資金調達について解説します。

人材派遣業は、恒常的にいつも大きな運転資金が必要なわけではありませんが、突如として多額の運転資金が必要になる可能性がある業種です。

また、国の人材派遣業に対する基準が厳しいので、そもそも手元にお金を持っていない業者は人材派遣業を営むことはできません。

人材派遣業には資金的にどのようなリスクがあるのかについて対処法とともに詳しく解説します。

これから人材派遣業を営むという人も、現在経営しているという人も人材派遣業の資金繰りに関する特殊性を理解して、いざという時に適切な対処をすることができるようにしておきましょう。

 

この記事を監修した専門家
工藤 崇

工藤 崇

ファイナンシャルプランナーとして様々な記事を執筆。
対応分野は多岐に渡り、相続・不動産・終活・キャリアマネジメントなど。FPとしてFintechに代表される金融×テック、お金×テックに関する考察やセミナー講師も多数。2017年からは自社サービスとして相続×テックのサービスを提供中、早期に相続の第一歩を考える機会を提供することにより、「争族」の解決を目指している。1982年北海道生まれ。

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人材派遣業にはファクタリングが向いています。事業が軌道に乗るまでのあいだ、油断せずにキャッシュフローの随時把握をしていきましょう。気が付いたらお金が無かったという状態は各種費用の未払にも繋がるだけではなく、それを起点として信用力の著しい低下を招きます。売掛債権の保証をしれくれる保証ファクタリングを上手に活用しながら、社会的意義の高い「働く」ことのビジネスを展開していきましょう。

人材派遣業の開業には法的に多額の資金が必要

人材派遣業の開業には法的に多額の資金が必要

人材派遣業を開業するためには多額の資金を用意しなければならないと法律によって決められています。

人材派遣業がもしも資金ショートして倒産してしまったら最も煽りを食うのは登録している派遣労働者になる可能性が高くなります。

人材派遣業が倒産して派遣労働者が痛い思いをすることがないよう、法律では派遣会社に対して厳しい資金の規制をかけています。

改正派遣法によって資本金2,000万円が必要に

人材派遣会社を営むには、資本金が2,000万円以上必要です。

2020年4月1日から労働者派遣法が変わりました。

この改正によって、これまでは最低資本金1,500万円と定められていたものが、2,000万円に引き上げられました。

つまり、人材派遣会社は最低でも2,000万円以上の資本金を持っていなければ派遣会社として営業することができません。

1,500万円×事業所数の預金額が必要

また、新規に派遣業の許可を取るためには、1,500万円×事業所数の預金額が必要になります。

これも法律によって決められているルールですので、仮に事業所が1つだけだとしても1,500万円以上の預金を持っていなければ派遣会社としての許可を得ることはできません。

つまり、派遣会社の許可を取得するためには、必ず資本金2,000万円以上かつ預貯金1,500万円以上の条件を満たしていなければ開業することはできません。

新規で開業する場合には、資本金を現金で2,000万円用意して法人を立ち上げれば基準を満たすことはできますが、個人で2,000万円もの大金を用意することはそれほど簡単なことではないでしょう。

工藤崇

コロナ禍で失業者が増えていることもあり、「人材派遣業はチャンスなのでは」と考えてしまいがちですが、「働く」という生活の根底部分をテーマとするため、ハードルは極めて高く設定されています。独り親方で展開するには難しいビジネスモデルです。

人材派遣の事務所を開設するために必要な資金

人材派遣の事務所を開設するために必要な資金

人材派遣の事務所を開設するためには様々な支出が必要になります。

開業時に主に必要になる資金としては以下の3つのような支出があります。

  • 事務所保証金
  • 事務所内装費
  • 広告宣伝費

開業時にそれぞれの支出でいくらくらい必要になるのか、詳しく見ていきましょう。

事務所保証金

事務所を借りる際の保証金が多額に発生します。

一般的には賃貸物件の保証金は家賃の10ヶ月程度必要になるので仮に家賃30万円の事務所を借りたとしても、保証金だけで300万円になります。

この他、不動産会社へ支払う仲介手数料などを考えると事務所を借りるだけで家賃の1年分は用意しなければならないという点を理解しておきましょう。

事務所内装費

事務所の内装や家具を購入するのにもお金がかかります。

内装工事をするのであれば、壁紙を変えるなどの簡単な工事でも、広さによっては100万円程度は出て行ってしまいます。

また、事務所の机、椅子、応接セット、パーテーションなどの必要な家具を揃えるだけで200万円〜300万円程度はかかってしまいます。

つまり、事務所の内装費だけで200万円〜400万円程度はかかるものと考えておいた方がよいかもしれません。

広告宣伝費

開業当初は広告宣伝費も必要になるでしょう。

まずは、一般の方に派遣会社に登録してもらう必要があるので、人材派遣会社の強みや給与条件や登録フォームのURLを記載したチラシを作成し、新聞折り込みやポスティングなどで周知を図ります。

ちなみに、1つの自治体全戸にポスティングする場合には、地域によるものの業者に依頼すると50万円〜100万円程度のお金が必要になります。

この他ネット広告などを利用する場合にもある程度のお金がかかるので、広告宣伝費として200万円程度は見ておいた方がよいでしょう。

人材派遣会社を開業するためには、諸々の費用を合わせて1,000万円程度の現金は流出すると考えておいた方がよいでしょう。

工藤崇

人材派遣業を展開するリスクはレッドオーシャンであるほか、ブランドの圧倒的な強さが際立ちます。CMを打ち誰しもが知っている競合と派遣紹介の質がたとえ変わらなくても、新規客はまず有名な派遣会社の門を叩きます。そのなかでどうやって存在感を出していくのか。セオリー通りではない戦い方が必要です。

人材派遣業が資金調達のリスクに晒される3つの理由

人材派遣業が資金調達のリスクに晒される3つの理由

人材派遣業は、経営が安定していれば経常運転資金はそれほどかかる業種ではありません。

事務所の固定費や人材管理、また支払いサイトの管理などにもコストはかかりますが、仕入れというリスクを負わなくて済むからです。

しかし、人材派遣業は以下の3つのケースで突然お金が必要になったり、お金が不足することがあります。

  • 派遣先の経営状態の悪化
  • 他社との競合に敗れた
  • 派遣社員の不足による売上不足

人材派遣会社の資金調達における3つのリスクについて対処法とともに詳しく解説します。

派遣先の経営状態の悪化

人材派遣会社にとって、最大のリスクが派遣先企業の経営状態の悪化です。

派遣先の企業が、万が一倒産や資金ショートしてしまった場合には、派遣労働者を派遣した対価を受け取ることができないためです。

しかし、労働者は派遣会社と契約しているのですから、仮に派遣先の企業が倒産したとしても、派遣会社は労働者に対してすでに働いた分の賃金は支払わなければなりません。

このような事態になってしまうと、登録している労働者に対する1ヶ月分の人件費数百万円〜数千万円がただ損失となって会社から流出してしまう可能性があります。

もしも労働者に賃金を払うことができなければ派遣会社も倒産してしまう可能性があり、契約違反として法的なリスクを背負う可能性があります。

派遣会社にとっては、派遣先企業の倒産や経営悪化は最大のリスクだと言えるでしょう。

常日頃から与信管理を行い、突然デフォルトした場合のリスクに備えておく必要があります。

他社との競合に敗れた

他社との競合に敗れて、派遣先企業を失ってしまうというケースです。

今や派遣会社は多数あるので、企業に対しては多くの派遣会社から営業があり、派遣会社の競争は熾烈です。

場合によっては長く付き合ってきた派遣先の企業が他の派遣会社に乗り換えてしまう可能性があります。

そうなってしまうと、たった1ヶ月で数百万円〜数千万円の売上を失ってしまうことになります。

事務所家賃や事務員の人件費などの固定費を支払うことができなくなってしまう可能性もあります。

派遣会社にとってはクライアントである派遣先企業との関係は最重要です。

常日頃からコミュニケーションを取り、突然契約を切られてしまうという事態を回避する必要があります。

派遣社員の不足による売上不足

派遣社員の登録が不足して、企業が要求する人員を企業に送ることができずに売上が立たないというケースもあります。

特に地方都市においては労働者の人口が不足しているので、小さな派遣会社はクライアントよりも労働者の不足に悩んでいます。

労働者が足りなければ企業に対して人を送ることができないので、売上を作ることができません

売上がなければ家賃や人件費などの固定費を支払うことができないので、資金的には非常に厳しくなってしまいます。

派遣労働者にとっても魅力的な派遣会社になれるように、労働者の待遇改善を行うなどの付加価値をつけて、他の派遣会社よりも魅力あるものにする努力が大切になります。

工藤崇

人材派遣業は前述したとおり登録に多大なイニシャルがかかるうえ、安定的な売上が入るまでのタイムラグもあります。とはいえ売上が見えるまでは銀行からの融資も期待しづらく、当初の資金繰りは苦労します。その時の対応法としてファクタリングは最適です。

開業間もない人材派遣業にファクタリングが有効な理由

開業間もない人材派遣業にファクタリングが有効な理由

人材派遣会社は上記のように「急にお金が必要になってしまう」という状況になるケースが想定されます。

急にお金が必要になったタイミングでは、銀行借入では資金が間に合いません。

このような場合にはファクタリングを有効活用した方がよいでしょう。

ファクタリングが人材派遣業の資金繰りに有効な理由として以下の5点が挙げられます。

  • 開業当初は銀行から融資を受けにくい
  • 派遣業は運転資金を借りにくい
  • 資金化までの時間が早い
  • 派遣先企業の信用で資金調達できる
  • 派遣先企業に秘密にできる

ファクタリングが人材派遣業の資金繰りに有効利用できる理由について詳しく解説していきます。

開業当初は銀行から融資を受けにくい

開業当初は銀行から融資を受けにくいものです。

開業当初は何も実績がない状態ですし、開業資金を銀行から借りている派遣会社も多いからです。

一般的に、前回の融資から1ヶ月以上は期間が空いていないと次の融資を受けることができません。

そのため、開業資金をすでに借りてしまっている場合には、運転資金を借りることは簡単ではありません。

派遣業は運転資金を借りにくい

また、派遣業が運転資金を借りにくいという事情もあります。

基本的に派遣会社は、派遣労働者を派遣して、その対価として派遣先企業から売上を受け取り、そこから派遣労働者に対して賃金を支払うというサイクルで業務を行なっています。

先行して仕入れるものも、大きな固定費もないので、銀行からすると「派遣会社は運転資金を必要としていない業種」と判断できます。

そのため、銀行へ運転資金の申し込みを行なっても「資金使途がない」と言って融資を断られてしまうこともあります。

資金化までの時間が早い

ファクタリングは申込日当日に資金化できる場合があるほど、資金化までの時間が早い資金調達手段です。

人材派遣会社は、派遣先企業へ従業員を派遣して、従業員が所定の期間労働を完了した後に派遣先企業から売上が入金になります。

場合によっては派遣労働者への賃金支払が売上の入金よりも早くなることもあります。

そのため、手元に資金が枯渇しているような状況では外部から資金調達をしなければなりませんが、銀行融資の審査は厳しく時間もかかります。

このような時に、ファクタリングを利用すれば最短即日で資金調達することができるので、派遣労働者への賃金支払や急な資金の流出にも余裕をもって対応することが可能です。

派遣先企業の信用で資金調達できる

ファクタリングは派遣先企業の信用で資金調達することができます。

ファクタリングにおいて、売掛債権の信用がリスク判定で最も重視されるので「売掛先が期日通りに資金を払うことができるかどうか」という点が非常に重視されるためです。

派遣の世界において、小さな派遣会社が地元の大規模製造業に従業員を派遣しているという事例は数多く存在します。

このような場合には、小さな派遣会社は大きな派遣先企業の信用で審査を受けることができ、自社の信用で審査を受けるよりも、かなり有利に審査を受けることができるでしょう。

派遣先企業に秘密にできる

2社間ファクタリングであれば、派遣先企業に秘密でファクタリングすることが可能です。

2社間ファクタリングは自社とファクターだけの契約で、売掛先は契約に関与しないためです。

派遣会社が2社間ファクタリングを利用すれば、派遣先企業に秘密で資金調達することができるので、「資金繰りが苦しいのか」などと訝しがられることはありません。

競争が熾烈な派遣業界においては、派遣先の企業は「経営が安定している」ということは派遣先企業から選ばれる大切な要素です。

派遣先に秘密で資金調達できるという点は、派遣先企業に対して立場が弱い人材派遣会社にとっては大きなメリットでしょう。

人材派遣会社は保証ファクタリングも活用できる

人材派遣会社は保証ファクタリングも活用することができます。

保証ファクタリングとは、売掛債権の保証を行うもので、もしも売掛債権がデフォルトした場合でも、ファクターから代金を保証してもらうことができます。

人材派遣会社の大きなリスクの1つとして、派遣先企業の倒産や経営悪化をあげることができますが、保証ファクタリングを利用しておけば、経営悪化して売掛債権がデフォルトしたとしても自社の損失はありません。

また、派遣先企業の与信審査を審査のプロに任せることもできるので、「この取引先と取引して安全かどうか分からない」と判断に悩む新規取引先に対しても、保証ファクタリングを利用することによって安心して取引をすることが可能です。

工藤崇

開業当初は「ちょっと怪しいかな」という売上も獲得していきたいもの(反社は論外ですが)。そこで活用できるのが保証ファクタリングです。派遣先企業の倒産や経営悪化が自社の業績に降りかかり、連鎖倒産してしまうリスクを軽減します。かつ与信審査をプロに任せることで客観的に見た取引先のジャッジが可能となります。

人材派遣業の資金調達についてよくある質問

人材派遣業の資金ギャップはどの程度ありますか?
人材派遣業の資金ギャップは派遣労働者に対して給料を支払ってから、派遣先企業から入金があるまでの間の期間です。
派遣先との契約にもよるものの、会社によっては1ヶ月から2ヶ月先になることもあるので、派遣労働者に賃金を払ってから入金になるまで、1ヶ月〜2ヶ月分の運転資金を確保しておく必要はあるでしょう。
派遣先企業との契約によって入金サイトは異なるので、資金繰り表を作成して、資金管理を怠らないようにしましょう。
人材派遣業はどの程度の資金を手元に確保しておくべきでしょうか?
人材派遣業は1ヶ月〜2ヶ月分の人件費の支払いと、家賃や事務員の固定費、借金返済の資金を手元に確保しておく必要があります。
また、派遣先企業がいつ倒産するかは分からないので、できる限り多くの資金を手元に確保しておいたほうがよいでしょう。
人材派遣業は融資を受けにくいと聞きましたファクタリング手数料も高くなりますか?
人材派遣業は基本的に派遣先企業からの売上を派遣労働者へ支払っているだけの構造ですので、運転資金の融資が必要ないと言われる業種です。
そのため、融資が受けにくいのは事実ですが、ファクタリングの手数料とは無関係です。
ファクタリングの手数料はあくまでも売掛先のリスクに応じて決定するものであるため、売掛先企業の業績がよければ低い手数料が適用されます。
大口派遣先に対する売掛債権数億円でも買い取ってもらえるのでしょうか?
ファクターの規模によります。
小さなファクターは1,000万円くらいまでが買取限度額ですが、大手ファクターは数億円の買取にも対応しています。
金額が大きな時には、最初に「いくらの買取まで対応しているのか」ということを確認した方がよいでしょう。
小規模企業へ派遣しました。売掛債権をファクタリングできるのでしょうか?
派遣先企業の業況を審査して「期日通りの支払いには問題ない」と判断できるのであれば、企業の規模が小さくても、その売掛債権をファクタリングすることは可能です。
ただし、派遣した事業所が法人ではなく個人事業主だった場合にはファクタリングは不可能です。
ファクタリングは法人に対する債権を売却するもので、個人に対する債権を売却することはできないためです。

まとめ

人材派遣業は、開業時に多額の現金を用意しなければ開業することができません。

それだけ、人材派遣業には派遣先企業の倒産などによって、突然資金が必要になるリスクがあるということです。

人材派遣業は銀行からお金を借りにくい業種ですし、開業資金を借りてから1年以内はさらに融資を受けにくくなります。

そのため、人材派遣業の資金調達にはファクタリングか合っています。

ファクタリングは派遣先企業の与信で資金調達でき、最短即日で現金を手に入れることができます。

また、ファクタリングには売掛債権の保証を受けることができる保証ファクタリングも存在します。

早期資金化したい場合には買取ファクタリング、派遣先のデフォルトが怖い場合には保証ファクタリングというように、適切に使い分けるようにしましょう。