取引信用保険とは、企業が保有する売掛債権(売上代金)に保険をかけて、取引先の倒産や支払遅延に備えるサービスです。

BtoBの掛取引では、納入企業側は常に支払企業側から代金回収ができなくなる貸し倒れリスクを負っています。

万が一の貸し倒れリスクに備え、あらかじめ売掛債権に保険をかけておくサービスが「取引信用保険」です。

今回は取引信用保険の概要、および取引信用保険とファクタリングの違いを解説します。

 

取引信用保険とは

取引信用保険は、取引先の倒産等で商品やサービスの代金が回収できない場合に、自社が被る損害に対して保険金を支払うサービスです。

取引信用保険の補償内容

取引信用保険の補償対象は、営業上で取得した売掛債権や手形債権などです。万が一、売掛債権が回収不能となった場合、取引先ごとに個別設定される支払限度額の範囲内で保険金が支払われます。

保険金が支払われる事由は、以下のとおりです。

  • 債務者が破産や倒産状態にあるとき
  • 債務者が手形交換所の取引停止
    処分を受けたとき
  • 債務者が一定期間を経過しても債務を履行しなかったとき

取引信用保険にかかる手数料等

取引信用保険では、支払限度額に対して「保険料」がかかります。また、実際に保険金が支払われる場合には、損害額に「縮小支払割合(縮小率)」がかけられます。

保険料

取引信用保険の保険料は、取引先ごとの信用力に応じて保険会社が設定した支払限度額の総額に所定の年間保険料率を乗じて算出されます。

保険会社における保険料率は年1~3%程度です。

縮小率

縮小率とは、 支払われる保険金額を算出する際に使われる数値です。「実際の損害額に縮小率を乗じた金額」か「支払限度額」かのどちらか小さい方が保険金額として支払われます。

したがって、取引信用保険の支払限度額内の債権が100%補償されるとは限りません。

保険会社における一般的な縮小率は90%~95%程度です。

 

 

取引信用保険のメリット

取引信用保険を利用することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 資金繰りの安定化
  • 与信調査・与信管理のアウトソーシング
  • 取引先(金融機関含む)からの信用が向上する
  • 積極的に取引拡大に打って出ることができる

それぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。

資金繰りの安定化

取引信用保険の最大のメリットが、取引先の貸し倒れによる資金繰り悪化のリスクを回避できることです。

債権が回収不能となった場合の損失は、保険会社から保険金が支払われます。そのため、不測の事態が起きても資金繰りを安定化させることができます。

与信調査・与信管理のアウトソーシング

取引信用保険の対象となっている取引先の与信審査は、自社に代わって保険会社が行います。

保険会社から取引先の信用情報が定期的に得られ、各取引先に対する与信管理が強化されます。さらに、取引先に信用不安が起こる前に、取引縮小などの対策を講じることが可能です。

取引先の与信管理をする余裕がないという中小企業は、保険会社に与信調査・与信管理を外注化して、本業に注力できます。

取引先(金融機関含む)からの信用が向上する

取引先が倒産して債権回収ができなくなると、他の取引先や取引金融機関から「あの会社は資金繰りが悪化しているのではないか?」と良からぬ詮索を受けることがあります。

取引信用保険を活用して売掛債権を保全していれば、金融機関を含む全ての取引先に対する信用力が向上します。

積極的に取引拡大に打って出ることができる

信用不安を理由にこれまで取引額を抑えていたり、取引自体を断ったりしていた相手でも、保険をかけて売掛債権を保全すれば、より積極的に取引拡大や新規取引に打って出ることができます。

取引信用保険のデメリット

取引信用保険を利用するにあたっては、以下のようなデメリットにも留意しておく必要があります。

必ずしも保険が掛けられるとは限らない

保険を掛ける取引先を選べない

すでに発生した債権の保全ができない

それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。

必ずしも保険が掛けられるとは限らない

取引信用保険を利用するにあたっては、保険会社による取引先の与信調査が実施されます。取引先によっては保険が掛からない、もしくは希望通りの支払限度額にならない場合があります。

保険を掛ける取引先を選べない

取引信用保険は、貸し倒れリスクの高そうな取引先だけを選んで保険を掛けるということができません。

引受可否は、各保険会社が設定している取引先選定基準で決定します。

おもな取引選定基準は、以下のとおりです。

取引選定基準

・全取引先

・売上高上位〇社

・売上高〇~〇位

・債権残高上位〇社

・特定部門の全取引先

 

すでに発生した債権の保全ができない

すでに発生している売掛債権や手形債権を、取引信用保険で保全することはできません。

取引信用保険は契約日から効力を発するため、保険契約日以前からすでに貸し倒れリスクが高い取引先に保険かけようとしても、保険会社がその先を対象に入れない可能性があります。

取引信用保険と買取ファクタリングとの違い

買取ファクタリングとは、いわゆる一般的な「ファクタリング」で、入金前の売掛債権(請求書)を早期に現金化するサービスです。

取引信用保険もファクタリングも債権(売掛債権)を対象とするサービスですが、以下のような違いがあります。

取引信用保険 ファクタリング
取扱事業者 保険会社 ・銀行
・ノンバンク
・ファクタリング専門会社
引受(買取)できる債権 保険会社の取引先選定基準をクリアした債権 法人あての売掛債権
保険料・手数料 保険料率:年1%~3%
縮小率:保険金額の90~95%
2社間取引:5%~20%
3社間取引:2%~9%
取引先への通知の有無 無し 2社間取引:不要
3社間取引:必須

それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。

取扱事業者

取引信用保険は明治安田生命保険や東京海上日動火災保険など、おもに保険会社が取り扱うサービスです。

一方のファクタリングは債権買取を主たる業務とするファクタリング会社が取り扱っています。

保険会社がファクタリングを取り扱うこと、またはファクタリング会社が取引信用保険を取り扱うことはありません。

引受(買取)できる債権

取引信用保険で保険を掛ける取引先は、保険会社の条件に合致する複数社であり、自社が任意に選ぶことはできません。

ファクタリングは入金前の法人あて売掛債権(請求書)であれば、基本的に現金化が可能です。ただし、事前にファクタリング会社の審査が実施され、その結果により買取可否や手数料が提示されます。

保険料・手数料

取引信用保険を利用するにあたっては保険料と縮小率が、ファクタリングを利用するにあたっては買取手数料がそれぞれかかります。

取引信用保険の保険料は平均して年1%~3%で、縮小率は支払われる保険金額に対して90~95%が相場となっています。

一方ファクタリングの手数料は、ファクタリング会社が買い取る債権の額面に対し、2社間取引で5%~20%、3社間取引で2%~9%です。

取引先への通知の有無

取引信用保険の場合、債権に保険を掛けた事実を取引先に知られることがありません。

ファクタリングの場合、3社間取引は取引先に対して債権譲渡の事実の通知が必須ですが、2社間取引は通知そのものが不要です。

取引信用保険に関するQ&A

取引信用保険に関して、よくある質問とその回答をQ&Aにまとめました。

Q.個人事業主は取引信用保険を利用できますか?また個人事業主に対する債権に保険は掛けられますか?
A.数は多くありませんが、個人事業主でも利用できる取引信用保険はあります。たとえば、三井住友海上の取引信用保険は、個人事業主でも利用できます。また個人事業主に対する債権に保険をかけることもできますが、法人に対する債権よりも支払限度額は低くなる傾向にあります。
Q.取引信用保険が効力を発するのは具体的にどんなときですか?
A.保険をかけた取引先が以下の状態になった場合に、保険金が支払われます。
①法的整理の申請(破産・特別清算・民事再生・会社更生)
②銀行取引停止処分
③任意整理
④夜逃げ
また、保険商品によっては「支払遅延」にも対応して保険金を支払うものもあります。
>>補償内容について詳しく見る
Q.取引信用保険とファクタリングはどのように使い分ければ良いですか?
A.取引信用保険は任意で取引先を選ぶことができず、またすでに発生している債権を保全することができません。ファクタリングは複数の取引先あての債権がある場合、任意に選んで売却することができます。たとえば、「取引先Aが不渡りを起こしたという情報を得たから、今ある債権をファクタリングで資金化しておこう」といった使い方ができます。ただし、ファクタリングの手数料は2社間取引で5%~20%、3社間取引で2%~9%と、取引信用保険の保険料より割高です。
>>「取引信用保険とファクタリングの違い」を詳しく見る

まとめ

取引信用保険の概要、および取引信用保険とファクタリングの違いを解説しました。

2つのサービスの大きな違いは、

  • 取引信用保険は、まだ発生していない債権にあらじかじめ保険をかける
  • ファクタリングは、発生している債権(確定債権)を資金化する

と捉えることができます。

取引信用保険は取引先の貸し倒れに備えて保険をかけておくことが目的であり、ファクタリングは債権の早期資金化による資金調達が目的です。

どちらのサービスを利用すれば自社の資金繰りを安定化させることができるか、現在の経営状況を見て判断しましょう。