輸出をする企業にとってみれば、輸入先からの代金回収リスクは常に考慮しておかなければなりません。

国内の企業のように、販売先企業の与信を調べることもできなければ、取り立てに行くことも裁判を起こすことも海外の企業に対しては困難になるためです。

そこで、これまで輸出入の決済を円滑化してきたのが信用状(L/C)です。

輸出企業、輸入企業の双方の銀行が関与して支払いを保証するという仕組みで、どこにあるかも分からないような海外の企業とも安心して取引することができるのが信用状(L/C)での取引の特徴です。

しかし信用状(L/C)の取引は書類ののやり取りに時間がかかるので、取引が円滑に進まないと不満を感じている人も多いのではないでしょうか?

このような問題を解決するのが国際ファクタリングです。

国際ファクタリングは信用状(L/C)のような面倒で時間のかかる書類のやり取りがないのでスムーズに取引をすることが可能です。

国際ファクタリングについて解説するとともに信用状(L/C)との比較もしていきます。

現在、信用状(L/C)で決済している輸出企業も国際ファクタリングを利用することで輸出がスムーズになりますので、ぜひ国際ファクタリングについて理解しておきましょう。

 

国際ファクタリングって何?

国際ファクタリングとはどのようなものなのでしょうか?

私たちがイメージしているファクタリングとは売掛債権の早期資金化ですが、国際ファクタリングは全く異なります。

むしろ、輸出企業の契約通りの船積みを保証して、輸出企業の入金を保証するもので、早期資金化するものではありません。

まずは国際ファクタリングの仕組みから、国際ファクタリングの概要について理解を深めておきましょう。

国際ファクタリングの仕組み

国際ファクタリングの仕組み

国際ファクタリングの取引の流れは以下の通りです。

  1. 輸出企業と輸入企業が売買契約の締結
  2. 輸出企業が輸入企業へ国際ファクタリングを利用することについて承諾を得る
  3. 輸出企業から国内のファクタリング会社へ信用保証の引受依頼(国際ファクタリング申込)
  4. 国内のファクタリング会社から海外のファクタリング会社へ信用保証の引受依頼
  5. 海外のファクタリング会社が、輸入企業の信用調査を行う
  6. 輸入企業の信用調査が問題なければ、海外のファクタリング会社は信用保証の引受受領を国内のファクタリング会社へ伝える
  7. 国内のファクタリング会社から輸出企業へ信用保証の引受受領を伝える
  8. 輸出企業が契約通りに商品船積
  9. 輸出企業が契約通りに船積みをしたことの証明である「B/L等」を国内ファクターへ提出し、国内のファクタリング会社へファクタリングを依頼する
  10. 輸入企業から海外のファクタリング会社へ支払い
  11. 海外のファクタリング会社から国内のファクタリング会社へ支払い
  12. 国内のファクタリング会社から輸出企業へ代金支払

簡単に言えば、輸出企業が国内のファクターへ国際ファクタリングの申し込みをすると、国内ファクターが海外ファクターへ依頼を行い、海外ファクターが海外企業の審査をして問題なければ保証を行い、船積みを完了して代金を国内ファクターから受領できるという仕組みです。

後述する信用状での取引と比べて圧倒的にスピーディーに取引が可能になります。

国内ファクターと海外ファクターでやりとりをしてくれるので、スムーズに輸出代金の保証を受けることができるという特徴があります。

国際ファクタリングのメリット

国際ファクタリングのメリット

国際ファクタリングのメリットは簡単に言えば信用状(L/C)での決済による不都合を解決して、よりスムーズかつ安心に輸入企業から代金回収をすることができるという点です。

具体的には以下の4点をメリットとして挙げることができます。

  • 輸出企業は支払いを保証されるので安心
  • 信用情報を開設する必要がない
  • 書類送付に関する遅れやトラブルがない
  • 輸入企業の与信をプロが行なってくれる

国際ファクタリングのこれらのメリットをもう少し詳しく解説していきます。

輸出企業は支払いを保証されるので安心

輸出企業はファクターから支払いを保証してもらうことができます。

見たことも聞いたこともない海外の企業から仕事の発注を受けた時は、支払いが契約通りに成されるかどうかが懸念されますが、国際ファクタリングを利用すれば輸入先の企業がどんな企業だろうとファクターから支払いを保証してもらうことができます。

「海外企業は支払いが心配だから取引をしない」という考えで、海外企業とは代理店を通してしか取引をしないという企業も数多く存在します。

国際ファクタリングを利用すればこのような懸念は払拭できますので、海外企業とも直接取引ができるようになります。

ビジネスの幅が大きく広がるのが国際ファクタリングのメリットです。

信用状(L/C)を開設する必要がない

これまでの海外企業との取引では、信用状(L/C)を利用しないと支払いが保証されませんでした。

信用状(L/C)の仕組みについては後ほど詳しく解説しますが、信用状(L/C)を開設するまでには銀行の審査を時間をかけて受ける必要がありますし、書類のやり取りに非常に長い時間がかかってしまいます。

国際ファクタリングは、信用状(L/C)開設の手間や費用が一切かかりませんので、よりスムーズかつ簡単に海外企業からの支払いを確実に保証してもらうことができます

書類送付に関する遅れやトラブルがない

信用状(L/C)は書類の到着が遅れると船積できなかったり、書類の内容に少しでも不備があると保証を受けることができません。

また、商品を船積したことを証明する「B/L等」が輸入企業に届かないと、輸入企業は商品を引き取ることができません。

さらに意地の悪い企業の中には「.」や「-」の位置が少し違うというだけで、書類の受付を拒否して、支払いをしてくれないというトラブルがあります。

国際ファクタリングであれば、このような書類の遅れやトラブルがありません。

より安心に早く海外企業との取引を行うことができるようになります。

輸入企業の与信をプロが行なってくれる

国際ファクタリングに申し込みをすると、海外のファクターが輸入企業の審査を行います。

日本国内では分からない海外企業の与信管理を審査のプロである海外のファクターが行ってくれるので安心です。

ファクターの審査によって「安心できる企業」ということが分かったのであれば、2回目以降からは、直接資金を振り込むなどのよりコストがかからない取引をすることも可能です。

海外企業の審査を海外の審査のプロが行ってくれるというのが国際ファクタリングの大きな強みです。

国際ファクタリングのデメリット

国際ファクタリングのデメリット

国際ファクタリングのデメリットはそれほどありません。

信用状(L/C)と比較して優れている点は多いですが、強いて言えば

  • 手数料が高い
  • 取り扱うファクターが少ない

という点です。

これら国際ファクタリングのデメリットについても一応確認しておきましょう。

ファクタリングの手数料は高い

国際ファクタリングは信用状(L/C)を利用した場合よりも手数料は高くなる傾向があります。

  • 信用調査費用が1万円程度
  • インボイス金額(輸出者が貨物に付ける輸出品の価格明細書)に対して0.7%〜2.0%(月)

買取ファクタリングと比較すれば手数料は低いですが、0.5%〜1.0%(年)の費用しかかからない信用状(L/C)と比較すれば、コストは高くなってしまいます

とは言え、国際ファクタリングのスピード感を考慮すれば十分な費用対効果はあると言えます。

取り扱いは銀行系の大手だけ

国際ファクタリングを扱っている会社の数はそれほど多くありません。

国際ファクタリングは海外のファクターとも連携しないと業務を行うことができないので、買取ファクタリングを専門に扱っている中小規模のファクターでは取り扱うことができないのです。

そのため、取り扱いをしている企業は銀行系の大手ファクターだけです。

日本では三菱UFJファクターとみずほファクターなどの銀行系の大手くらいしか扱っていないので、取り扱い企業の少なさは国際ファクタリングの大きなデメリットです。

競争がないので手数料が下がりにくいというデメリットがあります。

信用状(L/C)の仕組み

次にこれまで貿易の際に利用されてきた、信用状(L/C)の仕組みについて詳しく見ていきましょう。

取引の流れは以下のようになります。

  1. 輸入企業が現地の銀行に信用状(L/C)発行依頼
  2. 現地の銀行から日本の銀行に信用状(L/C)発行・送付
  3. 日本の銀行から輸出企業に信用状(L/C)通知
  4. 輸出企業が契約書通りに船積
  5. 輸出企業が「B/L」(出荷を証明する書類)を日本の銀行に提示
  6. 輸出企業の銀行経由で「B/L」を輸入企業へ送付
  7. 日本の銀行から輸出企業に支払い
  8. 輸入企業は「B/L」到着後に商品を受け取り

信用状(L/C)を利用すると、契約通りの輸出をしないと代金を得られないので、輸入企業が契約通りの輸出を促すことができ、さらに輸入企業にとっては代金を前払いする必要がないというメリットがあります。

しかし、輸出企業は信用状が到着しなければ商品の発送はできませんし、輸入企業は「B/L」が到着しなれば、商品が到着しているのに商品を受け取ることがないなど、時間的には輸出企業・輸入企業ともにデメリットがあります。

国際ファクタリングと信用状(L/C)との違い

国際ファクタリングと信用状(L/C)との違い

最後に国際ファクタリングと信用状(L/C)との違いについて解説します。
主な違いは以下の4点です。

  • 信用状(L/C)の方が手数料は安い
  • 国際ファクタリングは書類の到着待ちの時間がかからない
  • 国際ファクタリングは書類の不備リスクがない
  • 国際ファクタリングは信用状(L/C)開設の待ち時間がない

貿易をスムーズに行うという点では、国際ファクタリングが信用状(L/C)よりも劣っている点はあまりありませんが、コストは国際ファクタリングの方が高くなります。

今後の貿易時の決済手段選定のためにも、国際ファクタリングと信用状(L/C)との違いをよく理解しておきましょう。

信用状(L/C)の方が手数料は安い

信用状(L/C)の方が手数料は安くなります。

国際ファクタリングの手数料

  • 信用調査費用:1万円程度
  • インボイス金額(輸出者が貨物に付ける輸出品の価格明細書)に対して0.7%〜2.0%(月)

信用状(L/C)の手数料

  • 0.5%〜1.0%(年)

信用状(L/C)の方が手数料は低くなります。

ただし、金額が大きくなり、信頼できる企業であれば国際ファクタリングの手数料も低くなる可能性があります。

基本的には信用状(L/C)の方がコストは低くなりますが、国際ファクタリングの利便性とスピード感を考えればこの点はそれほど大きな問題ではないと感じる企業も多いでしょう。

ただし「時間や手間はかかっても、少しでもコストを削減したい」という人には信用状(L/C)の方がよいでしょう。

国際ファクタリングは書類の到着待ちの時間がかからない

信用状(L/C)は銀行経由で信用状(L/C)を開設、送付するので商品を輸出することができるまでに時間がかかります。

そして、船積後も銀行経由で「B/L」を輸出企業から輸入企業へ発送しなければ輸入企業は例え商品が到着しても商品を引き取ることができません。

銀行の手続きには時間がかかるものですし、これが海外の銀行になるとさらに長い時間がかかってしまいます。

書類を銀行経由でやりとりするので、輸出企業にとっても輸入企業にとっても時間がかかってしまうというのが、信用状(L/C)のデメリットです。

国際ファクタリングの場合にはわざわざ海外と書類をやりとりする必要がないので

「信用状(L/C)が来ないから輸出できない」

「「B/L」が来ないので商品の引き取りができない」

などの時間的なロスを排除することができます

国際ファクタリングは書類の不備リスクがない

書類ベースで信用状(L/C)をやりとりするのが信用状(L/C)の取引ですが、輸入企業に悪意がある場合には、書類に少しでも不備があると代金の支払いを拒否されるケースもあります。

書類でのやりとりがない国際ファクタリングではこのようなリスクがないので、信用状(L/C)よりもより確実に代金を受け取ることが可能です。

輸出企業発で国際ファクタリングは利用できる

信用状(L/C)は輸入企業が取引銀行へ信用状(L/C)の開設を依頼しなければ取引がスタートできません。

信用状(L/C)は輸入企業が契約通りの輸入を担保するための制度だからです。

そのため、輸入企業が信用状(L/C)の発行を拒絶した場合には、直接振込しか決済方法がなく、これでは本当に海外企業が代金を振り込んでくれるかが不透明になってしまいます。

国際ファクタリングであれば輸出企業発でファクターへ代金回収の保証を依頼することができます

輸入企業が信用状(L/C)の開設を拒絶した場合でも国際ファクタリングによって代金回収をすることができるというのは、輸出企業にとっては大きなメリットと言えます。

国際ファクタリングは信用状(L/C)開設の待ち時間がない

国際ファクタリングは信用状(L/C)開設のために銀行の審査を受けなければなりません。

審査は海外銀行が海外企業に対して行うので、銀行によっては1ヶ月程度の時間がかかってしまうことがあります。

これでは、輸出企業も商品の製造や仕入れを調整しなければならなくなってしまうので、非常に不安定な立場に置かれてしまうことになります。

国際ファクタリングであれば審査にこれほどの時間はかからないのでスムーズに輸出入を行うことができます。

国際ファクタリングのよくある質問

国際ファクタリングの手数料を下げることはできますか?
インボイス価格が大きくなれば手数料を引き下げてもファクターの収益の確保が見込まれるため手数料は下がることがあります。
また、複数回の取引になるとファクターから信用を得られるため手数料が下がることもあります。
輸入企業が国際ファクタリングの同意を断った場合はどうすればよいですか?
国際ファクタリングの同意を断り、信用状の開設も断るのであれば、輸出企業の代金回収を保証する手段はありません。それでも取引をしたいのであればリスクを覚悟で直接振込にするか、前払いでの請求をすべきでしょう。
前払いすら拒絶するのであれば、取引をしない方が安全かもしれません。
近くに国際ファクタリングを扱うファクターがない場合はどうすればよいでしょうか?
国際ファクタリングを扱う銀行系の大手ファクターは面談が基本になりますが、どうしても会社が遠方にある場合には郵送によるやり取りをしてくれることもあります。
「面談ができないが郵送での契約はできないか?」ということをまずはファクターへ確認してみましょう。

まとめ

国際ファクタリングとは、国内のファクターと海外のファクターが連携して、輸出品に対する代金回収をファクターが保証するものです。

信用状(L/C)による取引のように、銀行を経由して何通もの書類のやり取りがないので、商品の輸出入はスムーズに進みます。

また、信用状(L/C)よりも確実に代金回収をすることができます。

信用状(L/C)よりも多少は手数料が高くなるものの、その時間的なメリットな圧倒的に国際ファクタリングの方がスムーズになります。

海外企業への輸出手続や決済手段に頭を悩ませている人は国際ファクタリングの利用を検討してみてはいかがでしょう?