弁護士法違反を理由に「ファクタリングは違法行為なのではないか?」という意見がしばしば聞かれます。
弁護士法とファクタリング、一見して関係ないように感じますが、実はファクタリングの業務である「債権回収」は弁護士しか行えない業務です。
しかし、世の中にはファクタリング業者が多数存在し、安心できるメガバンクもファクタリング会社を傘下として所有しています。
本記事では、ファクタリングと弁護士法の関係性・ファクタリング会社が合法に存在する理由・違法業者と取引するリスクなどについて詳しく解説していきます。
ファクタリングが弁護士法に関係する理由
売掛金などの売掛債権を売却するファクタリングは、実は弁護士法という法律に密接な行為です。
弁護士法というと、弁護士しか関係しない法律のように思えますが、実は弁護士以外の人も知っておくべき法律です。
まずは、ファクタリングと弁護士法の関係を解説していきます。
弁護士法とは
弁護士法とは、弁護士の職務や使命、権利や義務関係について定めた法律です。これだけ読むと、弁護士法とファクタリングは関係ないように思えるでしょう。
しかし、弁護士法は弁護士以外の者が法律に関わる業務を営利目的で行うことを制限している法律でもあり、弁護士法では弁護士しかできない営利目的の業務に関する記載があります。
その中の1つが、ファクタリングで行われる債権回収なのです。
ファクタリングに関係する弁護士法
ファクタリングに関係する弁護士法として、第72条と第73条が挙げられます。
まずは、条文から「なぜファクタリングと弁護士法が関係するのか」ということを解説していきます。
弁護士法第72条
弁護士法第72条には、以下のように記載されています。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない
条文だけ読むと難しいですが、ファクタリングに関係するのは条文の「法律事務」という部分です。
法律事務とは、ファクタリングでは以下のような行為を指します。
- 債権者の相談
- 催告書や裁判所への提出書類の作成
- 債務者との交渉
弁護士法では、弁護士でないものが債権者との相談や債務者との交渉など、ファクタリングでは当たり前に行われる行為を営利目的で行ってはならないと定められています。
しかし、ファクタリング業者も譲渡された売掛債権の支払いが履行されない場合には債務者との交渉を行いますし、ファクタリングの前には債権者との相談も行なっています。
ファクタリングでは弁護士法第72条で規定された行為を行うので、このような行為が「弁護士法違反なのではないか?」という解釈があるのです。
弁護士法第73条
弁護士法第73条には、以下のように記載されています。
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない
この条文をファクタリングに置き換えた場合に着目したいのが、債権という他人の権利を譲り受け、回収している行為です。
弁護士法では弁護士以外の者が営利目的で債権回収を行なってはならないとしているので、やはり「ファクタリング業者は弁護士法違反なのではないか」という意見があります。
弁護士以外に債権回収ができる業者
上記のように、弁護士法では、弁護士以外は債権回収を利益目的で行えないと規定されています。
では「ファクタリングは違法なのではないか?」と思ってしまいますが、ファクタリングは合法です。
それは「債権管理回収業における特別措置法」という法律によって、弁護士以外にも債権回収ができるようになっているためです。
弁護士以外に債権回収ができる業者と、その業者が合法である根拠について見ていきましょう。
債権管理回収業における特別措置法
「債権管理回収業における特別措置法」は、不良債権の処理を行うことで経済の活性化を図る目的で制定された法律です。
この法律では、法務大臣の認可を受けた株式会社のみが特定金銭債権を回収できるようになっています。
この法務大臣の認可を受けて特定金銭債権を回収できる業者が「サービサー」です。ファクタリング会社は特定金銭債権を回収できないので、サービサーとは異なります。
特定金銭債権とは
特定金銭債権とは、特別措置法で定められた債権で、主に対象になるのは金融機関が有する債権です。
そのほかには、以下のような債権が挙げられます。
- リース債権
- クレジット債権
- 資産の流動化に関わる金銭債権
- 法的倒産手続きの者が有する金銭債権
- ファクタリング業者が有する金銭債権
このように、ファクタリング業者が有する金銭債権も特定金銭債権とされているため、ファクタリング会社は法律で認められた業者と言えるのです。
ファクタリング会社が合法である理由
ファクタリング業者は、特別措置法で規定されているサービサーが行うような業務ができるわけではありません。
では、なぜファクタリング会社の有する債権が特定金銭債権に加えられているのでしょうか?
それは、債務者の財務状況が悪くなったときに、ファクタリング会社が回収リスクを背負うことを条件とされているからです(売掛債権に限る)。
このため、ファクタリング会社の中にはサービサーに債権回収業務を委託しているところもあります。
また、ファクタリング業務は債務者の回収リスクをファクタリング会社が背負うことで「経済の活性化に寄与する」という特別措置法の本旨にも合致することから、法律に認められた行為です。
弁護士法違反のファクタリング業者と取引するリスク
ファクタリングは現在のところ、弁護士法違反にならない合法の業者です。しかし、中には弁護士法違反のファクタリング業者が存在するのも事実です。
弁護士法違反のファクタリング業者と取引してしまうと、手数料などの金銭的なリスクのほか、自社が罪に問われる恐れもあるので、絶対に利用してはなりません。
弁護士法違反のファクタリング業者と取引するとどのようなリスクがあるのか、詳しく見ていきましょう。
自社も罪に問われる可能性がある
弁護士法に違反したファクタリング業者に債権を売却すると、自社も罪に問われてしまう可能性があります。
ここが最大のデメリットで、弁護士法第77条の3号には「弁護士法に違反している業者に依頼した側にも2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が課される」とされています。
弁護士法に違反している業者に依頼することは自社にとっても非常にリスクが大きい行為ですので、業者選びは慎重に行う必要があるのです。
高額な手数料が取られてしまう
ファクタリングの手数料相場は、2者間の場合は20%前後、安いところでは10%を切るような業者も存在します。
しかし、弁護士法違反の疑いがある違法業者は30%程度の手数料を当たり前のように設定します。ファクタリングはただでさえ手数料が高く、長期的に見れば資金繰りを悪化させるサービスです。
また、ファクタリングを希望する業者はそもそも資金繰りが苦しいためにファクタリングを利用しているのに、違法業者から法外な手数料を取られてしまったら、さらに資金繰りは苦しくなってしまいます。
少ない金額でしか買い取らない
違法業者は譲渡した債権について、以下のいずれかのような買取方法を提案してくる可能性があります。
- 債権の一部しか買い取らない
- 債権譲渡時には全額の支払いに応じず、残りは回収後に払う
- 債権金額の30%以上の高額手数料を設定し、自社への入金額が少ない
このように、違法業者と取引してしまうと単純に高額な手数料を取られるだけで、長期的には資金繰りの大きなマイナスになってしまいます。
違法行為を行うファクタリング会社の特徴
あらゆるリスクを回避するためには、弁護士法違反に限らず、違法行為を行うファクタリング会社の特徴を知っておくことが重要です。
違法行為が疑われる業者の特徴をよく理解し、違法業者とは取引しないようにしましょう。
契約書や見積書などの基本的な書類を作成しない
契約書や見積書など、契約において基本中の基本とも言える書類作成を行わない業者は、違法業者である可能性が高いと言えます。
このような業者は契約内容を書類に記し、証拠が残るのを嫌がるため、契約書を作成していない可能性があります。
入金を手渡しで行うような業者
当たり前かもしれませんが、ファクタリングを行う場合には基本的に振込での入金になります。
ファクタリング会社も売主も「いくらで買ったのか、売ったのか」ということが明確になり、後々のトラブルを防げるためです。
しかし、違法業者はあえて入金を手渡しで行おうとする傾向があります。なぜなら、入金を手渡しで行ったほうが証拠が残らないためです。
このような申し出をする業者は、最初から「安い金額でしか買い取らない」「代金を買取時に一括で支払わない」というような意図があるかもしれません。
手数料が法外に高く現金化できる金額が極端に少ない業者
例えば、100万円の売掛債権を売却したのに60万円しか入金がないなど、あまりにも手数料が高すぎる場合は、違法行為を行うファクタリング会社の可能性があります。
ファクタリングが弁護士でもサービサーでも貸金業者でもないのに合法とされているのは、前述したように、売掛債権の回収リスクをファクタリング会社が背負い、経済の活性化に寄与しているからです。
しかし、あまりにも法外な手数料を設定し、回収リスク以上の利益を得ている業者は、特別措置法の本旨とはかけ離れています。
このような業者は「経済の活性化に寄与している」とは言い難いことから、違反業者と判断されても仕方がありません。
同じように「売掛債権譲渡時は代金の一部だけ支払い、残金は債権回収後に支払う」「売掛債権の一部しか買取に応じない」などの行為をする業者も要注意です。
債務者の回収リスクを背負っているとは言えないので、特別措置法の趣旨から外れている違法業者である可能性が高いと言えるでしょう。
安心できる業者の見極め方
違法業者と取引するのは、自社が大きな損害を被ることになりかねません。最悪の場合、さらなる資金繰りの悪化によって、財務状況を立て直せなくなる可能性もあります。
とはいえ、検討しているファクタリング会社が安心できる業者かどうかを確認する手段は存在します。
最後に、安心できる業者を確認する方法についてご紹介するので、業者選びに失敗したくない方は目を通してみてください。
サービサーは法務省に確認
サービサーは、そもそも法務省の認可が下りなければ行えない業種です。
したがって、取引しようとしているサービサーが合法業者か確認するためには、法務省に問い合わせるのが最も簡単で確実です。
法務省ホームページには「債権管理回収業の営業を許可した株式会社一覧」が掲載されているので、そこから取引しようとしているサービサーが法務省の許可を得ている会社かどうかを確認するようにしましょう。
ファクタリング会社は日本貸金業協会に確認
ファクタリング会社は、貸金業者やサービサーのように国の許可・登録が必要ではありません。そのため、違法業者かどうかの確認が非常に難しい業種と言えます。
そして、ファクタリング業者の中には、ファクタリングを偽装した闇金も相当数混じっていると言われています。
このような情報は日本貸金業協会が多く集めていますので、名前を聞いたことがない業者と取引する前には日本貸金業協会へ確認してみるのもよいでしょう。
ただし、日本貸金業協会から得られる情報は限定的であるため、基本的には複数の業者から相見積もりを取るなどして、自分の目で違法業者を見分ける必要があります。
ファクタリングと弁護士法に関するよくある質問
- ファクタリングは貸金業法違反にはあたりませんか?
- ファクタリングは貸付ではなく買取ですので、貸金業者の業務を規定した貸金業法の対象業種ではありません。ただし、売掛債権の回収リスクを超えた手数料を徹底している業者や債権の保全を図っている業者は「実質的な貸付」と判断されるため、手数料によっては貸金業法違反になる可能性もあります。
- ファクタリングに申し込んだら融資を提案されました。お金を借りても安全でしょうか?
- ファクタリングを申し込んだのに融資を提案する業者は闇金の可能性が高いと言えます。そのような業者とは絶対に取引をしてはなりません。
- ファクターとサービサーの違いを教えてください。
- サービサーは不良債権を買い取る業者であり、ファクターは正常な債権を買い取る業者です。一般的な企業が売掛債権の売却によって資金を得たい場合には、ファクターにファクタリングを申し込むことになります。
- 弁護士はファクタリングをしてくれますか?
- 弁護士法で債権の譲渡は認められていますが、営利目的で不特定手数の顧客を対象にファクタリングサービスを提供している弁護士は基本的に存在しません。民間のファクターに申し込んだほうが確実です。
- ファクタリングの取り立てがやばいって本当ですか?
- ファクタリングの取り立ては、基本的に調査・督促・訴訟と段階を踏んで対処されます。ただ、ファクタリングは貸金業法が適用されないことから、取り立ての自由度が高いのも事実です。時間を問わない電話による督促や事務所・営業所への押しかけなどが違法とは断言できず「やばい」と囁かれています。
- 審査なしのファクタリングはありますか?
- 審査なしのファクタリングがあったとしても、それは違法業者の可能性が高いため、利用するのは控えましょう。
一般的に、健全なファクタリング業者は、回収リスクの把握・手数料の設定・トラブル回避など、さまざまな観点から審査を設けています。
- 個人事業主でも利用できるファクタリングはありますか?
- ファクタリング業者によりけりですが、個人事業主でも利用できるファクタリングはあります。ファクタリングは売掛先の信用性が重視されるため、取引先の企業が優良・大手であれば、個人事業主でも利用できる可能性はグッと高まるでしょう。反対に、売掛先が個人の場合は利用できないケースがほとんどです。
- 給料ファクタリングは危険ですか?
- 給料日前に給与を現金化できる「給料ファクタリング」は、金融庁から注意喚起されているファクタリングサービスです。というのも、給料ファクタリングは貸金業に該当しており、本来であれば貸金業登録が必要となります。しかし、ファクタリングは国への許可・登録が必要ない業者なので、仮にサービスが提供されていた場合、無許可・無登録で行っている違法業者の可能性が高いでしょう。法外な手数料を請求されたり、執拗な取り立てを受けたりするリスクがあるため、絶対に利用してはいけません。
まとめ
弁護士法に基づき、弁護士以外が営利目的で債権回収を行うことはできません。
しかし、債権管理回収業における特別措置法という法律では、ファクタリング会社の金銭債権も特定金銭債権とされています。
買取対象が売掛債権であり、債務者のリスクを背負うのであれば、ファクタリング会社は特別措置法によって認められた合法業者です。
ポイントは「債務者の回収リスク」という部分で、あまりにも手数料が高い場合や一部の買取にしか応じない場合には、特別措置法の趣旨に反することから違法業者となる可能性が強くなります。
特に危険なのは、違法業者に引っかかってしまうと自社にまで罪がおよぶ可能性があることです。
ファクタリング会社は国への許可・登録が必要ない業者ですので、弁護士法違反が疑われる業者も相当数混じっています。ファクタリングを利用する前には業者選びを慎重に行うことが重要です。