会社経営においては「年収〇〇億円」「年商〇〇万円」などの売上や収入がフォーカスされる場面が多く、ほとんどの経営者の方が「いくら儲けた」という収益の管理ばかりに目がいっているというのが実情なのではないでしょうか?

しかし、企業経営において収益管理以上に大事なことが資金繰り管理です。

企業は赤字でも存続できますが、資金が枯渇してしまうと存続することができません。

そのため、企業経営においては資金繰りの管理が最も重要になると言っても過言ではありません。

資金繰りの意味と資金繰りを円滑にする方法について解説します。

「利益があるはずなのに、なぜかいつも資金繰りが苦しい」と感じている経営者の方は必見です。

 

資金繰りとは?

 

資金繰りとは現金の入出金を管理し「今、手元にいくらの現金が残っているのか」ということを示すものです。

資金繰りを管理すれば経営状態が良好でない時も倒産を免れることができます。

資金繰りの管理は会社の管理の中で最も重要なミッションの1つだと理解しておきましょう。

現金の流れ

資金繰りとは現金の管理のことを指します。

現金の残高がどの程度あり、「入金がいくら」「支払いがいくら」というように、現金の出入りを把握し、残高の推移を管理することです。

商売においては仕入れや売上があっても現金が動かないことは当たり前です。

一般的には買掛金や売掛金で処理しますので、売上や仕入れの都度現金が動くわけではありません。

そこで、売上や仕入れを管理する収支管理とは別に、現金の流れである資金繰り管理を行う必要があります

企業は赤字でも倒産しないが資金繰りの悪化で倒産する

倒産の原因

企業は赤字になっても倒産するわけではありません。

赤字になっても取引先や従業員や金融機関へ支払うキャッシュさえあれば絶対に倒産することはありません。

しかし、資金繰りが悪化し手元に現金が無くなると、例えば金融機関への支払いができなくなれば金融機関から財産の差し押さえなどが行われるので、倒産してしまう可能性が高くなります。

つまりいくら利益が出ていても、資金繰り管理を怠った結果として、支払いができなくなってしまえば、企業は倒産してしまいます

この意味では資金繰り管理は収支管理よりも重要だとも言えるでしょう。

資金と利益はどう違う?

そもそも資金と利益はなぜ違うのでしょうか?

この違いを理解することによって企業経営における売掛債権の管理がいかに重要なのかということについて知ることができます。

資金と利益の違いについて詳しく解説してきます。

利益は発生主義

利益は発生主義に基づいて計上されます。

発生主義とは、経済的事象の発生によって売上や支出を計上するという考え方です。

例えば「取引先に商品を販売した。代金は後日振り込む」という取引をした場合、発生主義では商品を引き渡した時点で売上を計上しなければなりません。

そのため、仕訳は以下のようになります。

借方 貸方
売掛金 100万円 売上 100万円

発生主義においては、商品やサービスを提供した段階で売上が計上されるので、現金が入金される前には、借方に売掛金などの売掛債権勘定を使用して売上を計上します。

発生主義の反対の言葉として現金主義という考えがありますが、現金主義の場合には現金が入金になった時に売上を計上します。

そのため、資金繰りと収益がずれることはありませんが、会計は発生主義で行われるので、収益管理と資金繰り管理は別々に行う必要があります。

資金繰りはリアルな現金の動き

資金繰りとはリアルな現金の動きです。

売上や仕入れの発生とは無関係に、いくら現金が出入りしたのかだけを計算して管理します。

資金の出入りは日々起こるものですので、毎日お金の出入りを記録し、「手元に現金がいくらあるのか」「月末の支払いのためのキャッシュは足りるのか」ということを日次で管理していくことが非常に重要になります。

黒字でも資金繰りが悪化することはある

収支の管理がしっかりできており、黒字になっているのであれば資金繰りは悪化しないのでは?と考えている人も多いのではないでしょうか?

確かに基本的に収支管理がしっかりとできているに越したことはありません。

しかし、黒字でも資金繰りが悪化してしまうことは十二分にあるので注意が必要になります。

例えば、大口の売上があってもその入金が数ヶ月後になるのであれば、入金になる前に高額な経費の支払いをしなければなりません。

手元資金が100万円、1月10日発生の売上が300万円(入金予定日3月31日)、1月5日発生の売上にかかる経費が200万円(支払予定日2月28日)という場合を考えてみましょう。

収支 キャッシュフロー 現金残高
1月10日 100万円 100万円
2月28日 ▲200万円 ▲100万円
3月31日 +300万円 100万円

1月10日時点では、利益を100万円(売上300-経費200万円)を計上することができます。

しかし、3月31日まで売上金の入金がないので、経費の支払期限である2月28日には手元資金と経費の差額分の100万円は不足することになってしまいます。

この間、銀行への返済ができなかったり手形が不渡りになってしまえば、実質的な倒産になります。

このように、会社には利益が出ているのにも関わらず、資金が不足し、倒産になってしまうことなどいくらでもあります。

収支は黒字であるにも関わらず、資金が不足して倒産してしまうことを黒字倒産と言います。

黒字倒産はほとんどの中小企業にとって他山の石ではありません。

中小企業庁によると2015年の倒産企業のうち、黒字状態で倒産した企業の割合50.5%と実に半分以上となっています。

多くの企業が黒字で倒産している現実を認識し収支管理と同様に、資金繰り管理も徹底していきましょう。

参考:中小企業庁|廃業企業の現状

資金繰りが悪化する5つの理由

個人事業主が運転資金融資を受ける際の注意点

 

企業の資金繰りが悪化してしまう原因として、以下の5つのポイントをあげることができます。

  • 売掛債権のサイトが長い
  • 買掛金のサイトが短い
  • 売掛先の未払い
  • 赤字
  • 借入金の返済が多すぎる

それぞれの資金繰り悪化の原因を解説していきます。

自社に当てはまる点がないか、確認していきましょう。

売掛債権のサイトが長い

売掛債権のサイトが長いと資金繰りは悪化します。

売掛債権のサイトとは、売上発生から入金になるまでの時間のことです。

例えば3ヶ月先まで売掛債権が現金化しないのであれば、入金になるまでの3ヶ月分の運転資金は手元に保有しておかなければなりません。

いくら売上があっても入金になるまでの時間が長くなってしまうと経費の支払いによって会社の資金繰りはむしろ悪化してしまうことになります。

売上拡大のために、得意先の言いなりになってしまうと、入金までに時間がかかることから資金繰りは悪化してしまうことがあります。

買掛金のサイトが短い

買掛金の支払サイトが短いことでも資金繰りは悪化します。

仕入発生から入金までの時間が短ければ短いほど、自社から現金が早く流出してしまうためです。

資金は1日でも長く自社に留まるようにサイトを調整するのが資金繰りの基本になるので、できれば売掛債権の入金サイトと同じ程度の期間にしておいた方がよいでしょう。

支払いは先に済ませてしまいたいものかもしれませんが、買掛金のサイトが短いと資金繰りは圧迫されるので注意しましょう。

売掛先の未払い

売掛先が売掛金を支払わないケースでは資金繰りは大きく圧迫されます。

このケースでは、入金になる予定の現金が入金にならないので資金繰りは大きく悪化してしまうことになります。

例えば、月末に入金を当てにしていた売掛債権が入金にならなかったら、自社も取引先や金融機関に対する支払いも難しくなってしまいます。

場合によっては支払いができずに倒産に至ってしまうこともあり、このような倒産を連鎖倒産と言います。

また、売掛金が未払いのままになると、当該売掛債権を損失計上しなければならないので、資金繰りだけでなく、収益まで圧迫されることもあるので、売掛先の与信管理だけは非常に重要になります。

赤字

赤字の場合には資金繰りが苦しくなって当然です。

売上よりも支出の方が多い状況ですので、入金額よりも支払額の方が多くなります。

当然ながら、現金が足りなくなり資金繰りも悪化します。

資金繰り管理ばかり考え、収益管理が疎かになると赤字になってしまうことがあります。

赤字になったら元も子もありませんで、資金繰り管理と同様に収益管理もしっかりと行うようにしましょう。

借入金の返済が多すぎる

借入金の返済が多すぎるケースでも資金繰りが苦しくなります。

借入金の返済を行うと現金が流出するため、いくら収益が上がっていても、現金の入金額が(経費の支払額+借入金返済額)を下回ってしまうと、資金繰りではマイナスです。

借入金の返済は経費ではありませんので、いくら多くの借金を返済したとしても収益には全く影響しません。

しかし、確実に現金は流出します。

このケースは黒字倒産になってしまう典型的なケースですので、借入金は資金繰り計画を立てた上で、無理のない範囲で利用するようにしましょう。

資金繰りを改善4つの方法

資金繰りを改善4つの方法

企業の資金繰りを改善するためには以下の4つの方法があります。

  • 入金サイトを短くする
  • 支払サイトを長くする
  • 現金決済を多くする
  • ファクタリングを利用する

いずれの方法の取引先と交渉するなど、企業努力で比較的簡単にできることです。

資金繰り改善のための4つの方法について詳しく解説していきます。

入金サイトを短くする

入金サイトを短くすれば、売上発生から入金までの時間が短くなるので、その分資金繰りは楽になります。

例えば、これまでは3ヶ月先に入金になっていた取引先に対して「2ヶ月先の入金として欲しい」と交渉して、取引先が交渉に応じれば、この会社は入金までも時間が1ヶ月短くなり、その分、手元に多くの資金を確保することが可能です。

取引先の中に、入金サイトの短縮に応じてくれる会社がないかどうか確認し、入金サイト短縮の交渉を行なってみましょう。

支払サイトを長くする

支払サイトを長くするということも資金繰り改善の有効な手段です。

例えば、1ヶ月先が支払期限だった仕入先への支払期限を2ヶ月先にすることができれば、1ヶ月長く手元に資金を確保しておくことができます。

やはり、仕入先の中に交渉することができる会社がないかどうか確認し、交渉できるのであれば、支払サイトの短縮を依頼するようにしましょう。

現金決済を多くする

売掛債権ではなく、現金での決済を多くしていくのも資金繰り円滑化のための有効な方法です。

現金で売上を受け取ることができれば、入金と支払いまでの時間的な差である資金ギャップは全く生じないので、収益が出ている状態は資金繰りがプラスな状態になります。

取引先の中でも、毎月1回や2回しか商品やサービスを提供しない会社が存在するのであれば、「振り込みではなく、現金で受け取ることができませんか?」と交渉してみましょう。

取引先の中には「金額が少ないのに手数料を払って振り込みをするのは面倒」と考えている企業も存在するので、取引数量や金額が少ない取引先へ現金決済への変更を交渉してみる価値はあるでしょう。

ファクタリングを利用する

売掛先へ交渉しても多くの企業で入金サイトが短くなるわけではないというのが現実です。

また、大切な取引先を入金サイトの短縮という交渉を行うことによって失ってしまう可能性も否定できません。

交渉しても売掛債権の入金サイトが短くならない場合や、そもそも交渉できる売掛先企業が存在しない場合には、ファクタリングを利用しましょう。

ファクタリングとは売掛債権の売却です。

期日前の売掛債権をファクタリング会社へ売却することによって、期日が到来する前に売掛債権を現金に換えることができるので、資金繰りは改善します。

2社間ファクタリングであれば最短即日で資金化することもできるので、入金サイトを劇的に短縮できます。

また、ファクタリングによって売掛債権を売却すると、その売掛債権の回収リスクも一緒に売却することが可能です。

つまり、もしも売掛先が倒産したとしても、その損失を自社が背負う必要はありません。

企業の資金繰りが悪化する原因の1つとして「売掛先の未払い」というものがありますが、ファクタリングを利用することによって、売掛先のデフォルトリスクも排除することができます。

まとめ

資金繰りとは現金の流れということです。

会計は発生主義に基づいて行われるので、収益の管理=現金の管理とはなりません。

現金の管理と収益管理は別々に行う必要があります

企業は赤字だから倒産するのではなく、支払いに回す現金がないから倒産します。

実際に倒産件数の半数は黒字倒産となっているので、資金繰りの管理は収益管理と同じくらい重要です。

日々、資金繰り表を作成し、現金を管理して現金が手元から枯渇することがないようにしてください。