中小企業の経営者や個人事業主にとって、自社の資金繰りを安定化させることは、経営上の最重要課題です。
しかし、経営をしていると、思わぬ原因により資金繰りが悪化する状況が訪れます。
資金繰りが悪化して赤字決算が続けば、新たな事業に着手することも、銀行からお金を借りることも難しくなります。
そのような状況に陥いる前に、資金繰りを安定化する方法の一つとして「つなぎ融資」を検討しましょう。
資金調達のめどが立っているにもかかわらず、手元の資金が不足しているときに、「つなぎ融資」が利用できれば、仕入れ費用や人件費、店舗の家賃などをまかなうことができます。
今回はつなぎ融資の活用方法やメリット、具体的な調達方法について解説します。
つなぎ融資とは
つなぎ融資とは、不動産関連の用語で、住宅が完成する前に利用できる融資のことです。
通常の住宅ローンは、建物が完成した後に融資が実行されますが、その前には土地の購入代金や住宅の着工金、中間金、竣工金など、さまざまな費用の支払いが必要となります。
これら費用の支払いを「住宅ローンとは別の融資でつなぐ」という意味合いから、「つなぎ融資」と呼ばれます。
金融の分野でも、次の売上入金や補助金・助成金交付までに必要な費用の支払いを、金融機関からの借入でまかなうことを、つなぎ融資やつなぎローンと呼ぶことがあります。
つなぎ融資は、半年~1年といった短期間で資金を借り入れるため、長期の融資と比較して、審査に通りやすくなっています。
すでに経営状況が思わしくない場合でも、返済原資や返済計画が明確で、根拠となる資料を提出すれば、融資を断られる可能性は低くなります。
つなぎ融資を利用すべき事業者
つなぎ融資はどのような事業者が利用すべきなのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
売上入金までの費用の支払い資金が不足している
企業同士の取引では、先に商品やサービスを納入、その後に支払いが行われる掛取引が一般的です。
売上は納入してから1~2ヶ月後、業種によっては半年から1年後に入金される場合もあります。
通常運転であれば、自社の資金だけでやりくりできても、売上が急に増えたタイミングでは、資金不足に陥る可能性がるため、外部から資金調達をしなければなりません。
つまり、売上入金までの間の資金不足を補填するために、「つなぎ融資」が必要となるのです。
銀行融資の入金待ちの間の運転資金
銀行融資は申し込みから融資実行まで、2週間~1ヶ月程度の時間がかかってしまうことも少なくありません。
資金的に苦しい状況では、入金が確認できるまで、つなぎ融資で運転資金を確保する必要があります。
補助金・助成金の対象事業の運転資金が必要
今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)や、
雇用調整助成金(新型コロナ特例)などを利用した事業者の方も多いのではないでしょうか?
補助金や助成金は返済不要の資金ですが、受給するには対象となる取組を行い、報告する必要があります。
たとえば、テレワークの導入で補助金を受ける場合は、指定のコンサルティングを受けたり、モバイルワークやサテライトオフィス勤務を行うための環境を構築したりなど、テレワーク導入のための先出しの費用が必要です。
補助金や助成金の対象事業を行うための資金も、つなぎ融資でまかなうことができます。
中小企業庁および金融庁は、助金交付までの間の事業資金に対するつなぎ融資を必要とする事業者に対し、支援・助言を行うよう、認定支援機関および金融機関に呼びかけ※ています。
※参考:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/2013/131106tunagi.pdf
つなぎ融資を活用するメリット
つなぎ融資には、以下のようなメリットがあります。
資金繰り改善に期待できる
つなぎ融資の最大のメリットは、資金繰りの改善や事業の立て直しができることです。
資金不足に陥ってしまうと、資金調達や銀行リスケなどの時間に追われ、本業に集中できない時間が多くなってしまいますが、資金的な余裕が生まれれば、事業の立て直しのための時間を設けることができます。
ただし、つなぎ融資で一時的に資金的な余裕ができてとしても、資金繰り悪化に陥った原因を解明せず、以前と同じ経営を続けていては、また同じような苦境に陥る可能性も出てきます。
つなぎ融資による資金調達と、資金繰り悪化の改善は並行して進めていくことが重要です。
企業価値が向上する
つなぎ融資で助成金や補助金の取組を行い、労務環境が整備されれば企業価値が向上します。
なぜなら、国や自治体から、企業の取り組みが認められたということに他ならないからです。
自社の企業価値が向上すれば、金融機関や取引先からの信頼度が上がり、融資や商取引で有利になります。
つなぎ融資として有効な金融サービス
つなぎ融資(つなぎ資金)を受ける方法には、以下の5つが挙げられます。
それぞれ、調達までに要する期間や審査の難易度、調達コストについて解説していきます。
即日~1週間で資金調達可の「ビジネスローン」
ビジネスローンは銀行、信販会社、消費者金融会社など、さまざまな金融機関が取り扱う事業者向けローン商品です。
最初に一括で借りて後は返すだけの「事業融資型(証書貸付)」と、個人向けカードローンのように利用枠内で何度でも出し入れできる「カードローン型(極度貸付)」の2つのタイプに分けられます。
ビジネスローンはいわゆるメガバンクや地方銀行も取り扱っていますが、中小企業や個人事業主が利用しやすく、担保・保証人不要で即日融資もOKなのが、ノンバンクのビジネスローンです。
利用限度額は10万円~1,000万円まで、金利(年率)は6~18%とやや高めながら、融資までのスピードが早く、利便性の高いローンを利用できます。
この借りやすく、融資のスピードも早いという特性が、つなぎ融資に最適なのです。
さらに、企業として不動産担保を保有している場合は、不動産担保ローンに申し込むこともできます。
不動産担保ローンは無担保ローンと違い、担保があることから審査に通りやすく、高額融資が受けられるというメリットがあります。
低金利で借りられる日本政策金融公庫の「マル経融資」
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)とは、商工会議所や商工会などの経営指導を受けている商工業者が、無担保・無保証人で融資を受けられる制度です。
融資条件として、商工会・商工会議所に1年以上加入していて、なおかつ経営相談員から経営や資金繰りに関する指導を原則6ヶ月間受けいる必要があります。
マル経融資は、商工会・商工会議所の推薦を受けていれば、担保・保証人不要で融資限度額2,000万円、年利1.21%で融資が受けられます。
さらに、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により、最近1ヶ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少している事業者は、通常の融資額に当初3年間の年利0.31%で別枠1,000万円がプラスされる、実質無利子の融資制度もスタートしています。
融資実行までに2週間~1ヶ月程度の時間がかかりますが、つなぎ融資の中でも極めて低金利で、柔軟に活用できるという魅力があります。
公的補助金・助成金の「つなぎ融資」
国や自治体からの補助金・助成金で事業を行う場合、事業終了後、自治体から入金があるまでの間の資金が必要です。
そこで、地方労働局や信用金庫、労働金庫では、補助金・助成金の入金までをつなぐ「公的資金つなぎ融資」を取り扱っています。
たとえば、
- 東京労働局の「クイック(短期つなぎ特例)」
- 多摩信用金庫の「公的補助金つなぎ融資」
- 西武信用金庫の「公的補助金・助成金等つなぎ資金融資」
などが挙げられます。
これらつなぎ融資の特徴は、融資限度額500万円以内、返済期間最長2年、資金使途が運転資金であること、法人・個人ともに保証人が必要となることなどです。
当然ながら、融資が受けられるのは、補助金・助成金の交付が決定した事業者に限られます。
支払期日前に手形を現金化できる「手形割引」
商品売買などの取引の際に、現金ではなく手形で支払いを受けている場合は、手形割引をつなぎ融資に利用できます。
手形割引とは、企業が保有している支払期日前の手形を第三者へ譲渡して、融資を受けることです。
通常、取引手形は支払期日に額面の資金を支払ってもらえる仕組みですが、支払期日前に資金調達が必要になった場合は、期日前の手形を銀行や手形割引業者等に買い取ってもらい、資金化することができます。
ただし、振出先の倒産等により、譲渡した手形が不渡りになると、買取を行った業者から「買戻し請求」を受けることになります。
支払期日前の売掛債権を現金化「ファクタリング」
ファクタリングは未回収の売掛債権を売却、期日前に資金を受け取る、「借りない」資金調達方法です。
企業間の掛取引では、商品やサービスを納入した1~2ヶ月後に売上が入金されますが、ファクタリングを利用すれば、いくらかの手数料を支払ってファクタリング会社に売掛債権を買い取ってもらい、最短即日でつなぎ資金を調達できます。
ファクタリングには、売掛先(取引会社、クライアント等)の承諾が必要な3社間ファクタリングと、承諾が不要な2社間ファクタリングがあります。
3社間ファクタリングは手数料が債権額面の2~9%で、売掛先の承諾を得る必要があるため、即日の資金化はできません。
一方の2社間ファクタリングは、手数料が債権額面の10~20%とやや高めではあるものの、ファクタリング会社の審査に通過すれば、最短即日で現金を受け取ることができます。
また、ファクタリングには買い戻し請求がないため、買い取ってもらった売掛債権が回収不能となっても、利用者に一切の負担はありません。
つなぎ融資の審査に通らなかった場合や、売掛債権の支払サイトが遅い場合に、ファクタリングによる資金調達、および資金繰り改善を検討してみましょう。
つなぎ融資を利用する場合の注意点
つなぎ資金を利用するにあたって、以下の注意点をよく確認しましょう。
短期間での返済が前提であること
つなぎ融資はあくまでも、次の売上入金や補助金・助成金の受給までの資金不足を補うための、短期的な対処法であることを忘れてはなりません。
借入金で事業資金の不足分を補填して、なおかつ資金繰りを改善するところまでが、つなぎ融資の役割です。
借入条件によっては利率が高めに設定されていることもあるため、長期間の返済は大きな負担となります。
返済原資と返済計画を明確にすること
銀行融資に比べると、比較的借りやすいつなぎ融資ですが、短期間の借り入れだからこそ、返済原資と返済計画を明確にすることが重要です。
返済原資となる売上の見込みが全く立っていなかったり、「借りては返す」を繰り返す慢性的な資金ショート状態になっていたりすると、返済が滞ってしまうリスクがあることはもちろん、審査に通過することすら難しくなります。
つなぎ融資に関するQ&A
つなぎ融資に関して、よくある質問とその回答をQ&Aにまとめました。
- Q.銀行のビジネスローンは即日で融資を受けられますか?
- A.最短即日の融資が可能なビジネスローンは一部の信販会社、消費者金融会社で、銀行で即日融資が可能なビジネスローンはほとんどありません。また、ノンバンクのビジネスローンであっても、即日で融資を受けるのであれば、あらかじめ提出資料を揃えたうえで、午前中までに申し込んでおく必要があります。
- Q.売掛債権を担保にする融資とファクタリングはどのように違うのですか?
- A.売掛債権を担保にする融資は、ABL(売掛債権担保融資)と呼ばれ、担保に入れられる不動産を持たない企業に対し、回収前の売掛債権を担保に貸し付けるサービスです。一方のファクタリングは、ファクタリング会社と売掛債権を売買するサービスで、融資ではありません。
- Q.信用ブラックでビジネスローンが利用できなくても、ファクタリングは利用できますか?
- A.ファクタリングは売掛債権を買い取るサービスなので、経営者の信用情報よりも、売掛先の信用力が重視されます。たとえ信用ブラックで融資を受けられなくても、信用力の高い売掛先と良好な取引が継続されていれば、ファクタリング会社は売掛債権を高く買い取ります。
- Q.「マル経融資」以外に、つなぎ融資として活用できる日本政策金融公庫の融資制度はありますか?
- A.社会的、経済的な理由で業況が悪化している場合は、通称「セーフティーネット貸付」と呼ばれる、経営環境変化対応資金が利用できます。担保設定の有無、担保の種類などについては、要相談です。
つなぎ融資はビジネスローンorファクタリングを推奨
中小企業や個人事業主のつなぎ融資は、いざ資金が必要になってから動くのではなく、「転ばぬ先の杖」として、余裕があるときにこそ対策を講じておくことが大切です。
また、つなぎ融資は資金ショートを回避して本業の立て直しを図る「守り経営」としてだけではなく、ビジネスチャンスが到来した際にリソースを集中して事業拡大を図る「攻めの経営」にも活用できます。
つなぎ融資には、入金までのスピード、使途自由度の高さから、ビジネスローンが最適です。
経営が安定しているときに契約だけしておいて、いざというときに必要なだけ借りるという利用方法もあります。
一方、より緊急性の高い資金ニーズには、ファクタリングも有効です。
ファクタリングは資金が必要になったその日のうちに、本人確認書類や請求書、決算書(確定申告書)があれば、2社間ファクタリングで申し込み~入金まで済ませることもできます。
ビジネスローンとファクタリングの二段構えで、攻守に渡って十分な備えをしておきましょう。