電子記録債権は、これまで銀行では不可能だった売掛金の譲渡などを可能とした画期的な仕組みです。

メガバンクをはじめとして多くの銀行が導入をはじめています。

売掛金を期日前に譲渡できる方法といえば、ファクタリングを連想する人も多いかと思います。

しかし電子記録債権とファクタリングは似ているようで、全く異なるものです。

電子記録債権とファクタリングの違いを理解し、適切に使い分けることで、企業の資金繰りはさらに円滑化させることも可能です。

電子記録債権の概要やファクタリングとの違い、おすすめ使い分け方法などについて詳しく解説していきます。

 

電子記録債権って何?

電子記録債権って何?

まずは電子記録債権(でんさい)の解説から行なっていきます。

電子記録債権とは、これまで請求書や帳簿ベースでしか管理できなかった売掛金のデメリットを劇的に改善したものです。

支払期日が来るまでには資金化も支払いもできなかった売掛金が電子記録債権になることで、圧倒的に流動的になりました。

電子記録債権の概要やメリットとデメリットについて解説していきます。

売掛金の電子化

電子記録債権は売掛金を電子化し、銀行の「全銀電子債権ネットワーク」(でんさいネット)上で管理、決済するものです。

請求書や帳簿ベースの通常の売掛金は、債権者と債務者双方で管理して、期日になったら支払いを行ないます。

このため、「期日前に売却できない」「手形の裏書譲渡のように他社への決済に使用できない」「管理が面倒」などのデメリットがありました。

しかし、売掛金のデータを全銀協のでんさいネット上で管理し、取引先への譲渡を可能としたことで、これまで取引先同士で行なっていた管理や売掛金回収の手間を削減したのです。

電子記録債権のメリット

電子記録債権のメリットは以下の通りです。

  • 売掛金の期日が来たら、債権者の口座へ自動送金される
  • 債権の譲渡が可能
  • 債権のうち一部の譲渡が可能
  • 印紙税が課税されない

でんさいネットに登録された売掛金は、期日になると紐つけされた口座から自動的に支払先へ送金されます。

このため、売掛金の決済でよくある「売掛金の期日になったのに、月末が忙しくて支払いができなかった」などのトラブルを解消できます。

また、売掛金は取引先へ決済のための譲渡ができませんでしたが、電子記録債権は手形のように第3者への譲渡が可能です。

さらに、電子記録債権は一部分だけの譲渡が可能な点で手形よりも扱いやすくなりました。

例えば、100万円の売掛債権のうち、40万円のみを取引先への支払いとして譲渡することが可能です。

手形の譲渡は全額譲渡のみであることを鑑みれば、電子記録債権は手形よりも流動性が高いことがわかります。

また、電子記録債権は通常の手形のように紙ではなくでんさいネット上で管理ができることが魅力です。

そのため、取引先ごとの売掛金台帳作成・管理の手間を削減し、さらに印紙税負担がなくなりました。

電子記録債権のデメリット

このように、これまでの売掛金に生じてきた不都合を大幅に改善することができる電子記録債権ですが、1つだけ大きなデメリットがあります。

それは、電子記録債権は、でんさいネットに加盟している会社同士でないと取引ができないことです。

例えば、自社がでんさいネットに加盟しているから電子記録債権で取引先に支払いをしようとしても、取引先がでんさいネットに加盟していなければ、電子記録債権で支払うことはできません。

でんさいネットは2013年に開始したサービスで、認知度は高まっているものの加盟している企業はそれほど多くありません。

電子記録債権を利用しようと思っても、対応していない取引先が多い点はデメリットでしょう。

電子記録債権の取引の流れ

でんさいとは

電子記録債権で取引する場合には、どのような流れで支払いや入金が発生するのか見ていきましょう。

この例では、B社から商品を購入したA社が、B社に対して電子記録債権で支払いを行い、B社は取引先C社にその売掛債権の譲渡で支払いを行なったという例で考えましょう。

①A社がB社から商品を購入し取引発生

A社が B社から商品を購入すると取引が発生し、支払い行わなければなりません。

A社は B社に対して、「翌月末に電子記録債権で支払いを行う」とします。

この後、買った方か売った方のどちらかが、でんさいネット上で発生記録請求を行います

ここではA社がでんさいネットに買掛金の発生記録請求を行なった場合を考えていきます。

②A社がでんさいネットに通知

商品を購入したら、A社はでんさいネットに対して買掛金の発生記録請求を行います。

発生記録請求とは、でんさいネットに対して「売掛金(買掛金)が発生しました」と申告をするようなイメージです。

発生記録請求は商品を買った方・売った方のどちらが行なっても問題ありません。

例えば「A社がでんさいネットに対して買掛金の発生記録請求を行う」または「B社がでんさいネットに対して売掛金の発生記録請求を行う」の、どちらかの方法で発生記録の請求ができます。

③でんさいネットがB社に通知

A社が発生記録請求を行なうと、でんさいネットがB社に対して「A社から発生記録請求があったことの通知」を行ないます。

通知が届いたら、B社は内容を確認します。

その際に不備等が見つかれば、発生日から起算して5銀行営業日以内であれば単独で取り消すことも可能です。

④B社に売掛債権が発生

これで、B社にはでんさいネット上に売上債権が発生し、A社には買掛金が発生することになります。

このまま売掛金の期日になると、自動的にA社口座から売掛金の金額が引き落とされ、B社口座に自動送金されます。

⑤債権譲渡する場合には譲渡記録請求を行う

電子記録債権は、決済のために第3者への譲渡が可能で、譲渡をする場合はでんさいネット上で譲渡記録請求を行ないます

B社が売掛債権を取引先C社へ譲渡する場合、B社がでんさいネットに対して譲渡記録請求を行ないます。

要するに「自社の売掛債権をC社に譲渡します」とでんさいネットに申し出ているようなイメージです。

この通知はA社にもC社にも通知されるので、債務者であるA社は「C社に債権が譲渡された」ことを知り、C社は「A社から入金がある」ことを知れるようになります。

⑥期日がきたらA社がC社へ支払い

売掛金の期日が来たら、A社の口座からC社に対して売掛債権の金額が自動送金されて、決済は完了します。

このように、電子記録債権は、期日になったら自動送金されるのでわざわざ支払いに行く必要はありません。

さらに他社へ譲渡が可能なため、従来の売掛金よりも圧倒的に利便性が向上し、流動性が高くなっているのです。

ファクタリングと電子記録債権の違い

ファクタリングと電子記録債権の違い

このように電子記録債権は、手形のように他の取引先に譲渡可能です。

さらに債権の一部だけを譲渡できる点で、手形よりも優れています。

しかし、ファクタリングも売掛債権の期日前に資金化できる点で、どこか似ているようにも感じるでしょう。

ファクタリングと電子記録債権の違いはどのような点にあるのでしょうか?

ファクタリングは売掛債権の買い取り

ファクタリングとは期日前の売掛金などの売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうことです。

つまり、ファクタリングを利用することで、期日を待たずに売掛金を現金化できるのです。

電子記録債権の活用方法としては、譲渡もしくは割引であり、売買にはなりません。

電子記録債権はファクタリングのような売買ではないことが、後述する決定的な違いをもたらすことになります。

ファクタリングは回収リスクから免れることができる

ファクタリングは売掛債権の売買であるため、原則として売掛債権がデフォルト(債務不履行)した場合のリスクはすべてファクタリング会社が負うことになります。

例えば B社が、売掛先A社との間で発生した売掛債権100万円をファクタリングし、その後A社が倒産してしまったとします。

この場合、ファクタリング会社は売掛金が回収できずに損害を被りますが、B社の責任は問われません。

ファクタリングは売掛債権の売却であるため、売掛金がデフォルトした場合のリスクも一緒にファクタリング会社へ売却しているためです。

しかし、電子記録債権の債権譲渡の場合には  B社がC社に譲渡した後に、売掛金の支払人A社が倒産してしまったら、 B社はC社に対して損害を補填しなければなりません。

債権がデフォルトした後の責任が及ぶかどうかという点が、ファクタリングと電子記録債権の最も大きな違いです。

ファクタリングは取引先に秘密で売却できる

電子記録債権を譲渡するときには、譲渡先にも売掛先にも通知がいく仕組みのため、売掛先に譲渡したことが知られてしまいます

一方で、2社間契約のファクタリングであれば、売掛先に知られることなく売掛債権の資金化ができます

取引先に売掛債権を譲渡したり、資金化したりしたことを知られると「あの会社は資金繰りが苦しいのかもしれない」と思われ、今後の取引に支障が出る可能性もあります。

しかし、取引先に秘密で売却できる2社間ファクタリングであれば取引先に勘繰られる心配はありません。

ファクタリングは一般売掛債権を期日前に資金化できる

ファクタリングは通常の売掛債権があれば売掛金の期日前に資金化できます。また、最短即日で資金化ができるファクタリング会社も存在します。

一方で、電子記録債権の場合は従来の手形のように「割引(でんさい割引)」を利用すれば資金化が可能ですが、でんさいネットに登録している債権のみに限られます。

でんさい割引とは、でんさいを銀行子会社に譲渡して、手数料を差し引いた金額を支払期日前に現金化する仕組みです。

しかし、譲渡対象はでんさいであるため、でんさいネットに登録されている債権しか利用できません。

ここもファクタリングと電子記録債権の大きな違いです。

でんさいは口座開設不要

ファクタリングは利用時に都度契約が必要です。

一方で、でんさいは契約も口座開設も不要で、でんさいネットへの加盟手続きのみでその後は何度でも利用可能です。

ファクタリングはファクタリング会社との個別の取引になりますので、利用するたびにファクタリング会社と契約を交わす必要があります。

しかし、電子記録債権は、取引のある金融機関ででんさいネットに加盟してしまえば、その後はでんさいネットであらゆる金融機関との取引が可能です。

でんさいネットに最初に加盟すること時の手続きは少々面倒ですが、一度手続きさえ行ってしまえば、その後は面倒な手続き一切不要で、電子記録債権を利用できます。

でんさいは割引料や高額な手数料がかからない

でんさいは数百円程度の手数料のみが発生し、ファクタリングのように高い手数料を気にすることなく利用ができます。

2社間ファクタリングの場合は、売掛債権金額の10%〜20%程度の手数料が必要になり、借入よりも高額な費用が必要になります。

しかし、電子記録債権は発生記録や送金の際に数百円程度の手数料がかかるだけで、その他に大きな費用は必要ありません

コスト面だけで見れば、間違いなくファクタリングよりも電子記録債権の方が安くなります

でんさいとファクタリングの共通点

電子記録債権とファクタリングは、売掛債権を早期資金化できる点は共通しています。

なお、電子記録債権はそのままでは資金化できません。

電子記録債権を資金化するにはでんさい割引を利用する必要があるため注意しましょう。

また、資金化する際には電子記録債権はでんさいネット、ファクタリングはファクタリング会社が仲介して取引をします。

このように第3者の介入が必要である点も共通点といえるでしょう。

でんさいとファクタリングどちらを使うべき?

でんさいとファクタリングどちらを使うべき?

ファクタリングと電子記録債権は似ているようで全く異なる資金調達方法であることが分かりました。

では、どのようなタイミングでファクタリングと電子記録債権は使い分けるべきなのでしょうか?

急いで高額なお金が必要な時はファクタリング

急いで高額なお金が必要な場面ではファクタリングを活用するのがおすすめです。

電子記録債権を期日前に資金化するには、でんさい割引をしなければなりません。

でんさい割引は、でんさいネット上に登録されている債権を選び、さらに所定の申込・審査を経て銀行子会社へ譲渡後に資金化されます。

資金化自体は可能ですが、急な場面かつ高額なお金が必要な場合は、時間・金額ともに用意が間に合わない可能性もあります。

一方でファクタリングは通常の売掛債権であれば資金化できる可能性が高く、高額なお金が必要な場合でも比較的資金を調達しやすいです。

さらに最短即日で資金化する業者もあります。

「とにかく急いで高額な現金が必要になった」という場合には電子記録債権よりも、ファクタリングの方がメリットがあるでしょう。

秘密で資金化したい場合にはファクタリング

取引先に秘密で資金化したい場合もファクタリングしか利用できません

電子記録債権の譲渡では、売掛先にも通知が行くためです。

なお、ファクタリングでも3社間契約の場合は取引先に知られることになります。

取引先に秘密で資金化するなら、必ず2社間契約であることを確認しなければなりません。

期日前の売掛債権を、売掛先に秘密で資金調達したい場合にはファクタリングを利用しましょう。

売掛金の管理事務を簡素化したいだけならでんさい

ファクタリングは回収リスクを負うことなく、短期間で資金化が可能です。

しかしファクタリングは手数料が高いのがデメリットです。

ファクタリングを「売掛金回収事務のアウトソーシング」と捉えて利用している企業も少なくありませんが、これだけの理由であれば電子記録債権の利用した方が多くのメリットがあります。

電子記録債権は、売掛金管理を電子化して期日になれば自動送金されるので、売掛先からの入金の確認事務などが削減されます。

「期日前に資金化したい」ニーズがない限りは、高い手数料を支払ってファクタリングをする必要性はないでしょう。

でんさいファクタリングとは

でんさいファクタリングは、保有している電子記録債権を、でんさいネットに参加する銀行子会社に売却して期日前に資金化するサービスです。

つまり、でんさいネット内でのみ利用できるファクタリングといえます。

でんさいファクタリングは、でんさいネットに加入している企業しか利用できないため注意が必要です。

しかし、買い取り相手が銀行子会社であることから利用者としても安心ですし、でんさいネットを通した売掛債権の信用性の高さから、非常に安い手数料で利用できます。

でんさいネットに加入しているなら、一般的なファクタリングよりも安い手数料で支払期日前の資金化が可能なでんさいファクタリングを利用するのもおすすめです。

ファクタリングと電子記録債権に関するよくある質問

でんさいネットに加入したい時はどうすればよいですか?
でんさいネットに加盟している銀行窓口で申し込みをしましょう。基本的にはほぼ全ての銀行がでんさいに加盟していますので、取引銀行へ申し出れば問題ありません。
でんさいと一括ファクタリングの違いを教えてください。
一括ファクタリングとは、一括ファクタリングシステム上で支払企業が納入企業へ売掛債権を支払い、納入企業はいつでも資金化することができるという仕組みです。最も大きな違いは、万が一資金ショートや倒産等で支払いが行なわれなかった場合、でんさいは納入企業が肩代わりをしなければなりませんが、一括ファクタリングの場合、納入企業は責任を負わない点です。
電子記録債権はファクタリングすることはできますか?
電子記録債権はファクタリングが可能で、でんさいファクタリングと呼ばれています。電子記録債権を、でんさいネットに参加している銀行子会社に売却することで資金化する仕組みです。

まとめ

電子記録債権とファクタリングは質としては全くの別物であるため、一概にどちらがよいと言うことはできません。

それぞれの特徴をしっかりと理解して、上手に使い分けることが重要です。

ファクタリングは手数料が高いので、突然お金が必要になった時に臨時的に利用するようにしたほうがよいでしょう。

電子記録債権は期日前の譲渡・割引ができるので、ファクタリングをしなくても資金繰りは多少なりとも円滑化します。

電子記録債権とファクタリングのどちはが適切なのか、状況に応じて使い分けることが大切です。