売掛債権のデフォルトを防ぐための方法について解説していきます。
企業経営をしていれば、誰もが「取引先の倒産が心配」ということを考えます。
特にリーマンショックや新型コロナウィルスによる社会的な不況の時には、取引先が倒産して売掛債権げデフォルトしたことによって自社も支払不能に陥り倒産するという連鎖倒産に陥いることは珍しくありません。
また、実際に過去にも連鎖倒産は無数に起きています。
このようなリスクを防止する方法として、ファクタリングと取引信用保険という2つの方法があります。
しかし、取引信用保険という言葉を聞いたことがない人も多いのではないでしょうか?
取引信用保険はファクタリングと比較してマイナーな方法で、実際に利用している企業もほとんどありません。
それは取引信用保険がファクタリングと比較してメリットが少ないからです。
取引信用保険とファクタリングとの違いについて解説します。
双方の違いをよく理解して、自社に適切な方法と売掛債権のデフォルトリスクを排除することができるようになりましょう。
売掛債権のデフォルトに備える2つの方法
売掛債権がデフォルトしても、保障を受けることができる方法として以下の2つの方法があります。
ファクタリングと取引信用保険の概要についてまずは詳しく解説していきます。
ファクタリング
1つ目の方法がファクタリングです。
ファクタリングについては「期日前に早期資金化を図る資金調達手段」というイメージを持っている人がほとんどです。
しかし、ファクタリングの重要な役目として「売掛債権に保険をかける」というものがあります。
ファクタリングの効果について解説していきます。
ファクタリングとは
ファクタリングの特徴は以下の2つです。
- 期日前の売掛債権を早期資金化する
- 売掛債権のデフォルトリスクを手数料を支払って売却する
ファクタリングというと、早期資金化ばかりがフォーカスされますが、早期資金化であれば融資でも代用することができます。
ファクタリングの最大の特徴は売掛債権のデフォルトリスクの排除です。
ファクタリングによって売掛債権を売却した場合には、ファクタリングの回収リスクも一緒にファクターへ売却することができます。
つまり、ファクタリング後に取引先が倒産などを起こし、売掛債権が回収不能になった時の損失はファクターが背負ってくれるので、自社には一切責任が及びません。
売掛債権の担保にした融資である手形割引やABLにおいては、回収リスクは自社が負う必要があります。
これに対して、ファクタリングでは回収リスクも一緒に売却することができるので、ファクタリングをすることによって売掛債権に保険を掛けることと同じ効果があります。
ファクタリングの中には、売掛債権の買取はせずに保証だけを行う保証ファクタリングという形もあります。
早期資金化ばかりに目がいくファクタリングですが、実はファクタリングは売掛債権の保証が最も大きな機能になります。
取引信用保険
売掛債権を保証するものとして、取引信用保険を利用する方法もあります。
取引信用保険は損害保険会社が提供する保険です。
取引信用保険に加入しておくことによって、売掛債権がデフォルトした場合に損保会社から保証を得ることができます。
取引信用保険とは
取引信用保険は損害保険会社が提供する保険になります。
損害保険会社に保険料を支払って、自社が持っている売掛債権全体に対して保障を受けることができます。
こちらはあくまでも保障しか行なっていないので、ファクタリングのように債権の買取を受けることなどは不可能です。
ファクタリングと取引信用保険の5つの違い
ファクタリングと取引信用保険には主に以下の5つの違いがあります。
- 保障対象
- 補填金額
- 手数料(保険料)の違い
- 買取の有無
- 取り扱い会社
ファクタリングと取引信用保険の5つの違いを詳しく見ていきましょう。
保障対象の違い
ファクタリングと取引信用保険の最も大きな違いは保障対象です。
- ファクタリング:個別保障
- 取引信用保険:包括保障
ファクタリングは売掛債権1つ1つを売却し、1つ1つの売掛債権に対してファクターから保障を受けることができます。
そのため「この会社は絶対安全だ」と思う会社の売掛債権については、ファクタリングをせずに期日を待つことも可能です。
一方、取引信用保険は会社が保有する売掛債権全てに対して保障を受けるので、リスクの低い債権もリスクの高い債権も含めた全ての債権に対して保険が効くという特徴があります。
ファクタリングは債権を個別に売却したり保障を受けることに対して、取引信用保険では全体に対してしか保障を受けることができないというのが最も大きな違いです。
補填される金額の違い
ファクタリングと取引信用保険では、売掛債権がデフォルトした場合に補填される金額についても違いがあります。
- ファクタリング:売掛債権の100%が保障される
- 取引信用保険:売掛債権の80%程度が保障される
例えば、100万円の売掛債権がデフォルトした場合には、ファクタリングではあれば100万円全額が保障されますが、取引信用保険では80万円程度しか保障されません。
その分、ファクタリングの方が手数料が高くなるという違いはありますが、債権全額の保障を受けることができるのはファクタリングの方になります。
手数料(保険料)の違い
ファクタリングの手数料は2社間と3社間それぞれで以下のようになります。
- 2社間ファクタリング:10%〜20%
- 3社間ファクタリング:3%〜10%
保証ファクタリングであれば2%前後の低い手数料が設定されることもあります。
一方、取引信用保険の保険料は、売掛債権金額の3%程度というのが相場です。
利率自体は取引信用保険の方が低くなっています。
債権の買取の有無の違い
債権の買取の有無についてもファクタリングと取引信用保険では違いがあります。
ファクタリングには買取ファクタリングがあるので、売掛債権を期日前に売却して現金化することが可能です。
一方、取引信用保険はあくまでも保険ですので、債権の買取は行なっていません。
あくまでも取り扱うのは売掛債権の保証のみとなっており、取引信用保険は売掛債権を譲渡して現金化することは不可能です。
売掛債権の現金化したいのであればファクタリングを選択すべきでしょう。
取り扱い会社の違い
ファクタリングと取引信用保険では取り扱い会社も異なります。
- ファクタリング:民間のファクタリング会社
- 取引信用保険:損害保険会社
ファクタリングには参入規制が何もありません。
国や都道府県に対して登録や許認可を得ることなく、どんな会社でも営業することができます。
そのため、ファクタリングを取り扱う会社の中には法外な手数料を設定する闇金のような悪徳業者も混じっており、安全な業者ばかりではありません。
一方、取引信用保険は存在保険会社しか取り扱うことができないので、安心して取引をすることができると言えます。
ファクタリング | 取引信用保険 | |
---|---|---|
保障対象 | 個別の売掛債権 | 包括(会社の売掛債権全て) |
補填金額 | 100% | 80%程度 |
手数料(保険料) | 売掛債権金額の3%~20%程度 | 売掛債権金額の3%程度 |
債権の買取 | 有り | 無し |
取扱会社 | ファクタリング会社 | 損害保険会社 |
取引信用保険を使う会社はほぼいない|その理由とは?
取引信用保険は確かに売掛債権のデフォルトリスクを排除できるという効果があります。
しかし、実際のところ取引信用保険を使っている企業はほとんど存在しないと言われています。
それは、取引信用保険が以下の3つの点でファクタリングよりも劣っているからです。
- 保険料が高くなる
- 債権の買取を行わない
- 保障金額がファクタリングよりも小さい
多くの会社で取引信用保険を利用しない3つの理由を詳しく解説していきます。
取引信用保険は包括的な保障になり保険料が高くなる
取引信用保険は包括保証しか行なっていません。
包括保証とは、会社が保有する全ての売掛債権を保障するものです。
例えば、会社が総額で3,000万円の売掛債権を持っていた場合には、3,000万円全ての売掛債権を保障し、3,000万円全ての保障に対して保険料が発生します。
保険料が3%だった場合には90万円が保険料として必要になります。
仮に、3,000万円の中に「絶対に倒産しない」と思われる大企業や官公庁の売掛債権が入っていた場合も、取引信用保険では保障を受ける必要もない債権に対しても保険料を支払わなければならなくなってしまいます。
この点、個別で債権を選択することができるファクタリングは保障を受ける必要がない債権に対してまで手数料を払う必要はありません。
ファクタリングの方が手数料率は高くなってしまうものの、個別で保障を受けることができる分、取引信用保険の方がコストが高くなることが一般的です。
取引信用保険は包括保障しか受けることができないという点が、取引信用保険を利用する企業が少ないという最大の理由になります。
債権の買取をしていない
取引信用保険では売掛債権に対する保障を行うだけで債権の買取は行なっていません。
この点も取引信用保険が選ばれない理由です。
ファクタリングは保障を受けることができる上に、売掛債権を期日前に現金化することもできます。
資金繰りが苦しい中小事業者にとってはこの点は大きな魅力です。
取引信用保険は単に保険というだけで企業の資金繰りには寄与しないので、資金繰りが苦しい中小企業の多くがファクタリングを選択しています。
保障される金額がファクタリングよりも小さい
取引信用保険で保障される金額は売掛債権金額の80%程度です。
ファクタリングが売掛債権金額の100%を保障することと比較するとこちらもデメリットと言えるでしょう。
保険料を支払って取引信用保険に加入しても、売掛債権全額を保障してくれるわけではないというのも、取引信用保険がファクタリングと比較して選ばれていない理由の1つと言われています。
取引信用保険よりファクタリングを利用すべき3つの状況
取引信用保険よりもファクタリングを使用した方がよい場面としては以下の3つのケースを挙げることができます。
- 急いで資金が必要
- 取引先の倒産が心配
- 新規取引先の与信に不安がある
特にファクタリングは「個別の取引先のデフォルトが心配」という時に効果を発揮します。
ファクタリングを使用すべき場面について詳しく解説します。
急いで資金が必要
急いで資金が必要な場合には、間違いなくファクタリング一択です。
そもそも取引信用保険は売掛債権の買取はしていないためです。
また、ファクターの中には最短即日での資金化に対応しているところもあるので、急ぎで資金が必要な場合にはファクタリングは銀行融資よりも重宝します。
売掛債権の保障を受けつつ、売掛債権を利用した資金調達までできるのがファクタリングの大きな強いです。
売掛債権の保障だけでなく、資金調達を受けたいのであればファクタリングを利用しましょう。
取引先の倒産が心配
取引先の中に倒産や未払いが心配な会社があるのであれば、取引信用保険よりもファクタリングを利用した方がよいでしょう。
ファクタリングは、個別の債権を譲渡することができます。
数ある取引先の中で「この会社のデフォルトが心配」という場合には、ファクタリングだけが特定の売掛債権を譲渡することができます。
取引信用保険では、特定の債権だけを保険に掛けるということができないので、取引先の中にデフォルトの心配がある会社があるのであればファクタリングを利用した方がよいでしょう。
新規取引先の与信が不安
新規取引先の与信が心配という時にもファクタリングの方が有効です。
既存取引先はこれまでの取引実績から「支払いに問題ないだろう」ということが分かっていたとしても、新規取引先は海のものとも山のものとも分かりません。
このような時にも個別の債権を譲渡することができるファクタリングは有効です。
取引信用保険であれば、全ての債権に対して保障を受けなければなりませんので、保障が必要ない既存取引先の分の保険料を負担しなければならないためです。
新規取引先の債権に対してのみ保障を受けたいという場合には、ファクタリングを利用した方がよいでしょう。
ファクタリングであれば、支払いが心配な初回だけ利用して、信用が確認できた2回目からは利用しないことも可能です。
ファクタリングより取引信用保険を利用した方がよいケース
一方、取引信用保険を利用した方がよいケースも存在します。
- 取引先の与信管理を丸投げしたい
- 絶対に安全な会社から保障を受けたい
これらの場合には、取引信用保険の方がメリットがあるでしょう。
取引信用保険を利用するべき2つのケースについて詳しく解説します。
取引先の与信管理を丸投げしたい
取引信用保険は、取引先の与信管理を全て丸投げしたい時などに有効です。
取引信用保険は、会社が保有する全ての売掛債権について保障を受けることができるので、取引信用保険に加入しておけば自社は全ての取引先に対して与信管理について何にもする必要がありません。
自社は売上拡大だけを考えることができるので、これまで与信管理にかけていた人手や時間を売上拡大などの分野へ投入することができます。
一般的に会社が行う与信管理は専門的なものでなく「近所や他の取引先の評判」や「銀行からこっそり業況を聞く」程度が関の山です。
取引信用保険に加入すれば、保険会社が専門的な審査をしてくれるので、すべての債権に対してプロの手による与信管理を行うことができます。
「絶対に安全」と考えていた企業が突然倒産することは決して珍しい話ではありません。
取引信用保険に加入しておけば、安全と考えていた取引先の予期せぬ倒産にも備えることができます。
絶対に安全な会社から保障を受けたい
取引信用保険を扱っているのは、公共的な使命を負った損害保険会社です。
会社とすれば間違いなく取引をしても安全な会社ですし、損害保険会社が反社会的勢力と繋がっている可能性は皆無です。
そのため、取引信用保険は「絶対に安全な会社と取引したい」という場合も有効です。
ファクタリングは参入規制が何もないので、闇金や悪徳業者も混じっており、全ての業者が安全なわけではありません。
この点、取引信用保険を取り扱う損害保険会社は絶対に安全な企業ですので、「安全な企業と取引したい」という場合には取引信用保険が有効です。
ファクタリングと取引信用保険についてよくある質問
- ファクタリングの手数料と取引信用保険の保険料はどちらも経費にできますか?
- どちらも経費にすることができます。ファクタリングと取引信用保険にかかる経費はいずれも全額損金参入することができるので、会社の利益が出ている時には節税の効果もあります。
- 保証ファクタリングと取引信用保険はどちらを利用すればよいでしょう?
- 保証ファクタリングも個別の債権に対して保障を受けることができます。特定の債権だけの保障を受けたいのであれば、保証ファクタリング、債権全体を保障したいのであれば取引信用保険の方がよいでしょう。
- 取引信用保険の審査は厳しいですか?
- 審査基準は公表されていません。しかし、一般論として取引信用保険の方が審査は甘いでしょう。取引信用保険は会社が保有する債権全額に対して審査を行います。その中にはリスクの高い債権もリスクの低い債権も混じっていますので、多少リスクが高い債権も、リスクの低い債権と相殺することができるので取引信用保険の方が審査は甘いことが予想されます。
- ファクタリング会社が倒産した場合にはどうなりますか?
- ファクタリング後にファクタリング会社が倒産しても、自社には何も影響が及びません。すでにファクタリングによって債権ば売却済ですので、一度売却したものを返還する必要な度は一切ありません。ただし、保証ファクタリングの場合にはファクタリング会社が倒産した後は保障を受けることができませんし、保証料もほとんどの場合で返還されないでしょう。
- ファクタリングで悪徳業者を避ける方法を教えてください。
- 悪徳業者を避けるためには、複数の業者から見積もりを取る方法が最も有効です。悪徳業者は手数料が相場よりもかなり高くなるので、複数の業者から見積もりをとって、異常に高い手数料を取る業者があればその業者は悪徳業者です。少しでも「手数料が高いな」と感じたら、他の業者からも見積もりを取るようにしましょう。
まとめ
売掛債権を保障するものとして、ファクタリングと取引信用保険という2つの方法があります。
どちらも売掛債権の保障を受けることができますが
- 個別保障ができる
- 売掛債権の買取ができる
という2つの点で取引信用保険よりもファクタリングの方が優っています。
取引信用保険は会社の売掛債権全体の保障を受けたい時に有効な方法ですので、それぞれのメリットとデメリットをよく理解して、自社にとって最適な方法で売掛債権のデフォルトリスクを排除するようにしましょう。