売掛債権には契約後に不渡りがあったり、販売先が倒産してしまうリスクがつきものです。

このような事態になってしまうと、自社が予定していた入金がなくなってしまうので自社の資金繰りも危うくなってしまいます。

売掛債権の不渡りや倒産のリスクに備える方法は多数用意されていますが、最も認知されている方法がファクタリングでしょう。

ファクタリングについては「売掛債権の期日前に早期に資金化する」資金調達のための手段だと考えている人がほとんどです。

しかし、ファクタリングの最大の特徴は「売掛債権売却と同時に回収リスクも売却することができる」という点にあります

売掛債権の不渡りや倒産のリスクをファクタリングによって排除するメリットや、ファクタリング以外のリスクヘッジの方法について解説していきます。

掛売りがメインの日本の商慣習においてはいかに売掛債権のデフォルトリスクを排除するかは非常に重要ですので、しっかりと理解しておきましょう。

 

ファクタリング契約後に不渡りや倒産した場合はどうなる?

ファクタリング契約後に売掛先が不渡りや倒産を起こした場合には、基本的には自社には何も責任が及びません。

しかし、ファクタリング契約の内容によっては自社に責任が生じる可能性も十分にあります。

まずは、どのようなケースで自社に責任が及ばないのかについて理解しておきましょう。

納入企業には責任が及ばないのが基本

ノンリコースとは?

ファクタリングでは契約後に不渡りや倒産があった場合でも納入企業には責任が及ばないのが基本です。

ファクタリングは基本的にノンリコースで行われます。

ノンリコースとは、ファクタリングの際に売掛債権の回収リスクまでファクターへ売却して、ファクターは売掛債権がデフォルトした場合のリスクも買い取るというものです。

そのため、ファクタリング契約後に不渡りや倒産があったとしても、ファクターと契約した納入企業には責任は及びません。

ファクタリングが融資よりも手数料が高いのは、売掛債権の回収リスクまで売却することができ、手数料は回収リスクに対するリスクプレミアムとして設定されるためです。

そのため、契約後に不渡りや倒産があった場合にはその損失はファクターが負い、自社には何も責任が生じないのが基本です。

償還請求権の有無によっても異なる

実質的な融資と判断されれば利息制限法が適用される

ファクタリング契約後に不渡りや倒産があった場合には、自社には責任が及ばないのが基本です。

ただし、実際にはファクタリング契約に償還請求権があるかないかということによって大きく異なります。

償還請求権とは、ファクタリング契約後に不渡りや倒産があった場合に、納入企業に対してその損失を請求できる権利のことです。

ほとんどのファクタリング契約はノンリコースで行われるので償還請求権はありません。

しかし、ごく稀に償還請求権ありで契約しているファクタリングも存在します。

このような契約では、契約後に不渡りや倒産によって売掛債権がデフォルトした場合の損失を自社が負わなければなりません。

ファクタリング契約に償還請求権があるかないかは非常に重要です。

契約時にしっかりと確認しておきましょう。

なお、前述したように、ファクタリングの手数料は売掛債権の回収リスクに対するリスクプレミアムとして貸付よりも高く設定することができます。

償還請求権ありのファクタリングではファクターが売掛債権の回収リスクを背負っていません。

にも関わらず、高額な手数料を設定していることには合理性が何もなく、そのような業者は悪徳業者ですので、取引をしない方が無難です。

基本的にファクタリングは償還請求権なしの業者と契約するようにしてください。

連鎖倒産を避けるために|契約後の不渡り・倒産することに備える方法

連鎖倒産を避けるために|契約後の不渡り・倒産することに備える方法

連鎖倒産を避けるためには、売掛債権のデフォルトリスクに備える必要があります。

売掛債権のデフォルトリスクを排除することができる方法としては以下の4つの方法があります。

  • 償還請求権なしのファクタリングを利用する
  • 保証ファクタリングを利用する
  • 取引信用保険を利用する
  • 共済を利用する

連鎖倒産を避けるための契約後の不渡り・倒産することに備える4つの方法について詳しく解説していきます。

償還請求権なしのファクタリングを利用する

先ほど説明したように、償還請求権なしのファクタリングでは、契約後に不渡りや倒産によって売掛債権がデフォルトしてもその損失はファクターが背負ってくれます。

万が一売掛先が倒産した場合にも非常に安心ですので、償還請求権なしのファクタリングを契約して売掛先の不渡りや倒産に備え、連鎖倒産を予防しましょう。

保証ファクタリングを利用する

保証ファクタリングを利用することでも売掛債権のデフォルトリスクを排除することができます。

保証ファクタリングとは、売掛債権に対してファクターからの保証をつけることです。

保証ファクタリングを利用した売掛債権の支払企業が不渡りや倒産を起こしたとしても、その金額はファクターが保証してくれるので自社には何も損失は発生しません。

通常のファクタリングのように早期に資金化することはできませんが、売掛債権の回収リスクだけを排除することができ、個別の売掛債権に対して保険をかけるイメージです。

保証ファクタリングの方が通常の買取ファクタリングよりも手数料が低くなる傾向があるので「資金繰りには困っていないが、取引先の不渡りや倒産が怖い」という場合に活用しましょう。

取引を始めるにあたって「信頼できる企業かどうか分からない」新規取引先に対する売掛債権に対して保証ファクタリングを利用するのも有効です。

取引信用保険を利用する

取引信用保険を利用することでも不渡りや倒産に備えて、連鎖倒産を防ぐことができます。

取引信用保険とは、会社の持っている売掛債権全体に対して保険を掛け、取引先に不渡りや倒産があった場合には、その保険からデフォルトした金額の8割程度を補償してもらうことができるというものです。

保証ファクタリングと似ていますが、個別の売掛債権の保証を受けるのか、会社が持っている売掛債権全体に対して保険を掛けるのかという違いがあります。

取引信用保険は、会社が持っている売掛債権全体に対して保険を掛けるため保険料は高くなります。

しかし、取引信用保険を取り扱うのは信頼できる損害保険会社であるので、保証ファクタリングよりも契約時の安心感は高いと言えるかもしれません。

共済を利用する

取引先が、不渡りや倒産することに備えて独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している経営セーフティー共済に加入しておくことでも連鎖倒産を防ぐことができます。

経営セーフティー共済は保険的な機能ではなく借入です。

以下の条件下で取引先が不渡りや倒産した際に借入をすることができます。

借入ができる条件 取引先の法的整理
取引先の取引停止処分
取引先の私的整理
取引先の災害のよる不渡り
特定非常災害による支払不能
借入可能額 被害額と掛金総額の10倍に相当する額のいずれか少ない額
(50万円から8,000万円で5万円単位)
返済期間 5,000万円未満:5年
5,000万円以上6,500万円未満:6年
6,500万円以上8,000万円以下:7年

経営セーフティー共済は掛け金を損金算入することができるので節税効果が高く、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば掛金全額が戻るので、掛けていることで損になることもありません

積み立ても行いながら不渡り倒産リスクに備えることができるので、デメリットがほとんどありません。

取引先の不渡りや倒産に備えて加入を検討するとよいでしょう。

参考:中小機構|経営セーフティー共済

契約後の不渡り・倒産に請求してくるファクターも存在する

悪徳業者に要注意!こんなケースでは貸付に当たる

ファクタリングをしているからと言って、必ずしも契約後の不渡りや倒産のリスクがないかと言えばそのようなことはありません。
契約後の不渡りや倒産に対して請求されるケースも存在します。

どのようなケースではファクタリング契約後の倒産や不渡りに対して請求が行われるのか詳しく見ていきましょう。

償還請求権ありのファクタリングは請求される

償還請求権ありのファクタリングでは、売掛債権の不渡り・倒産に対するリスクは自社が負わなければなりません

そのため、売掛先が不渡り・倒産などを起こし、売掛債権がデフォルトした場合には当然、自社がファクターから請求を受け、法的にも自社が支払いをしなければなりません。

この際には自社に支払いができない場合には、最悪のケースとして倒産してしまうこともあります。

償還請求権なしのファクタリングで請求するファクターは悪徳業者

償還請求権なしのファクリング契約であるにも関わらず売掛先が不渡り・倒産した場合に請求してくる業者は間違いなく悪徳業者です。

償還請求権なしと契約しているにも関わらず、「少しでも取り返したい」という思いから、支払企業に請求するケースが稀にあります。

しかし、償還請求権なしだからこそ高い手数料を支払い、「売掛債権がデフォルトした場合のリスクはファクターが背負う」という内容の契約を締結しているのですから、自社は1円もファクターへ支払いをする必要はありません。

このような請求は無視して構いません。

ただし、償還請求権なしであるにも関わらず請求してくるような業者は悪徳業者で、悪徳業者の実態は反社会的勢力の可能性もあります。

あまりにも督促がひどい場合には警察や弁護士などに相談した方がよいでしょう。

ファクタリングの利用は事前の見通しが肝心

ファクタリングの利用はとにかく事前の見通しが肝心です。

「この会社は危うい」と誰の目で見ても分かる状況になってからファクタリングを利用しようとしてもファクタリング審査には通らないか、非常に高い手数料を請求されることになってしまいます。

どのタイミングでファクタリングを利用するのかについて、自社がしっかりと売掛先の状況を注視して適切に判断する必要があります。

ファクタリングの利用を検討すべきタイミングについて詳しく解説していきます。

不良債権化してからではファクタリングできない

大前提として、不良債権化してしまった売掛債権はファクタリングで買い取ってもらうことはできません

ファクタリングで買い取ってもらうことができるのは期日前の売掛債権だけで、すでに期日をすぎてしまった売掛債権はファクタリングで買い取ってもらうことは不可能です。

そのため、売掛先が不渡り・倒産してから「この売掛債権をどうにかしよう」と考えても、それは手遅れになってしまうのです。

売掛債権の期日が到来する前には、売掛先企業の状況に変化や危険を察知して、ファクタリングなどによってリスクをヘッジしておく必要があります。

また、期日を過ぎた売掛債権はファクタリングでファクターへ売却することはできませんが、不良債権の回収を専門に行うサービサーなら買い取ってもらうことも可能です。

しかし、一般的な売掛債権はサービサーから二束三文でしか買い取ってもらうことはできないのが相場ですので、売掛債権は一度不良債権化してしまったら、額面金額に近い金額すら回収することは不可能だということを理解しておきましょう。

売掛債権の期日が到来する前に、売掛先の状況の変化に気づき、適切に対処することが大切になります。

リスクの高い債権は手数料が高くなる

また、リスクの高い売掛債権は手数料が高くなるということも理解しておきましょう。

ファクタリングの手数料は売掛債権のリスクに対するリスクプレミアムとして設定されるので、リスクが高ければ高いほど手数料も高くなります。

ファクターは帝国データバンクや東京商工リサーチの企業の情報から売掛先企業の財務状況を分析してリスクに見合った手数料を設定しています。

つまり、帝国データバンクや東京商工リサーチが把握しているくらいの業績悪化になってからファクタリングに申し込んだら手数料が高くなるということです。

外部の機関よりも早めに取引先の業況悪化の兆しを掴んでファクタリングに申し込むことによって、より低い手数料でファクタリングを利用することができます。

やはり、取引先の業況を注視して早めにファクタリングを利用することによって、より低いコストでファクタリングを活用することが可能になります。

契約後の不渡り・倒産についてよくある質問

ファクタリングを利用する前提で危険な企業と契約することはありでしょうか?
「どうせファクタリングを利用するから」といって、危険な企業と取引することはおすすめできません。
ファクタリングには審査があるので、その危険な企業の売掛債権がファクタリング審査に通過できない可能性が十二分にあるためです。
審査に通過できなかったら取引金額は全て損失になってしまうリスクがあるので、危険だと分かっている企業とあえて取引をすることはおすすめできません。
しかし、新規開拓をファクタリングとセットにしてどんどん行なっていくのはありでしょう。
新規取引先はどのような会社か分からないので、最初の取引だけはファクタリングを利用して支払いに関するリスクヘッジをすることができます。
危険だと分かっていて取引をすることはおすすめできませんが、ファクタリングを活用して新規開拓を行うのはよいでしょう。
契約後に倒産した場合には確実に自社には責任は及びませんか?
償還請求権ありのファクタリングでは自社に責任及びます。そのため、まずはファクタリング契約に償還請求権があるのかないのかを確認するようにしてください。
また、契約時に虚偽などがあった場合も自社に責任が及ぶことがあります。
特にファクターはできる限り売掛債権のデフォルトリスクを負いたくないと考えているため、契約内容に虚偽や間違いを見つけ、それを理由に自社に支払いを求めてくることもあります。
このような事態にならないように、絶対に虚偽申込はしないことと、申込内容に間違いがないこともよく確認するようにしてください。
償還請求権ありのファクタリングの活用方法について教えてください
償還請求権ありのファクタリングは手形割引と基本的には同じです。対象になる売掛債権が手形なのか売掛金なのかの違いだと考えておけばよいでしょう。
償還請求権ありのファクタリングは売掛先の不渡りや倒産リスクを回避することはできませんが、早期資金化には役立ちます。
また、償還請求権がなしのファクタリングと比較してファクターのリスクが圧倒的に低くなるので、非常に安価な手数料で資金調達することができます。
できる限り低い手数料で早期に売掛債権を資金化したいという場合には償還請求権ありのファクタリングが活用できます。
ファクタリング以外で契約後の不渡り・倒産に備える方法はありますか?
ご紹介したような取引信用保険や経営セーフティー共済などがファクタリング以外で契約後の不渡りや倒産に備えることができます。
ただし、ファクタリングを含めたこれらの方法は手数料や保険料などのコストがかかります。
最も確実な方法は「現金で決済する」という方法です。
現金決済が難しいのであれば、取引先の管理をしっかりと行うために、年に1回くらいは個別の取引先に対して保証ファクタリングを利用するとよいでしょう。
保証ファクタリングは買取ファクタリングよりも手数料が低く、審査のプロが取引先を審査してくれるので、取引先が安全かどうかを客観的に知ることができます。
取引先の与信管理の意味合いで、保証ファクタリングを年に1回程度利用するとよいでしょう。
手形割引やABL契約後に不渡りや倒産があった場合はどうなりますか?
手形割引やABLなど売掛債権を担保に借入をした場合には、借入後に不渡りや倒産があると、銀行に対して借りているお金を返済しなければなりません。
担保に入っている売掛債権がデフォルトすると、銀行から一括返済の請求が届き、返済できない場合には、最悪のケースとして倒産してしまう可能性もあります。
手形割引やABLは償還請求権なしのファクタリングよりも金利は非常に低くなりますが、借りた後に不渡りや倒産した場合のリスクは非常に大きくなってしまいます。
売掛債権の不渡りや倒産の損失を被ったファクターが倒産することはないのでしょうか?
売掛債権の不渡りや倒産の損失を大きく受けたファクターが倒産してしまう可能性はあります。
特に、ファクタリングはどんな会社でも営業することができるので、規模の小さな会社が大口の不渡りの損失を被った場合には一発で倒産してしまう可能性があります。
しかし、償還請求権なしでファクタリングしておけば、自社はすでにファクターから資金を受け取っていますので、売掛先の倒産や不渡りによってファクターが倒産したとしても自社には全く関係ありません。
規模の小さな悪徳業者は、このようなリスクを回避するために代金を一括で払わないようなケースがありますが、必ずファクタリングの代金は契約時に一括で受け取るようにして、分割での支払いを提案してくる業者とは取引をしないようにしましょう。
ファクタリングは、ファクターも大きなリスクを背負うからこそ、手数料が高いということをしっかりと認識しておきましょう。

まとめ

償還請求権なしのノンリコースのファクタリングであれば、ファクタリング契約後に売掛先が不渡りや倒産を起こしても自社には全く損失が及びません。

ファクタリングは売掛債権のデフォルトリスクを大きく回避することができるものですので、リスクのありそうな取引先や財務状況などが全く不明の取引先と取引する際には利用しておくと安心です。

ただし、ファクタリングは売掛債権が不良債権化してからでは利用することができませんし、業況が悪い企業のファクタリングも手数料は高くなってしまいます。

日々、取引先の業況を注視して、おかしいと感じたら早めにファクタリングで対処するとよいでしょう。

なお、資金繰りに窮していないのであれば買取ファクタリングではなく保証ファクタリングを利用することによって売掛債権のデフォルトリスクを低い手数料で回避することができます。

保証ファクタリングを上手に活用して売掛先の不渡りや倒産のリスクに備えるようにしましょう。