建設業は資金繰りが厳しい業種の1つです。
建設業は売上が数千万円〜数億円など金額的に大きくなることが多い業種ですが、その分手元には一定以上の資金を持っていないと、黒字なのに倒産してしまう「黒字倒産」に陥ってしまう可能性も高い業種です。
建設業が他の業種と比較して資金繰りが厳しいのはなぜでしょうか?
建設業の資金繰りが苦しい理由と、資金繰り管理のポイント・資金繰り改善方法について詳しく解説していきます。
建設業の資金繰りが大変なのはなぜ?
建設業の資金繰りが厳しいのは、他の業種とは資金繰りのサイクルが全く異なるためです。
建設業が他の業種と異なる点は主に以下の3つです。
- 代金の入金は長い工期の工事完成後
- 完成前に支払う費用が大きい
- 元請けの力が強い
まずは、建設業の資金繰りが他の業種よりも厳しい理由について詳しく解説していきます。
代金の入金は長い工期の工事完成後
建設業の工事代金が入金になるのは、工事完成後になるのが基本です。
建設業は当たり前のように工期が数ヶ月に及ぶものですし、工事によっては1年以上かかってしまうものもあります。
製造業など他の業種であれば、建設業はど受注から納品までの時間はかかりません。
建設業は他の業種と比較して、工事の受注から引き渡しまでの期間が長いことから、代金の入金も遅くなります。
完成前に支払う費用が大きい
建設業は、受注から引き渡しまでに支払う経費が大きいという特徴もあります。
工事の前には重機のリースや建設資材の仕入れをしなければなりません。
また、工事代金を受け取っていなくても従業員・作業員・外注費は毎月の支払っていかなければならないため、工期が長くなればなるほど先に支払わなければならない経費は大きくなります。
建設業は大きな工事であればあるほど、初期投資の費用やランニングコストが大きくなるので、資金の流出が大きくなり、資金繰りは苦しくなるでしょう。
元請けの力が強い
建設業は元請→下請→孫請という順番で仕事が発注されていきます。
仕事が縦関係で発注されていくため、元請企業などの上位に位置する企業の力が強いという特徴もあります。
上位企業の力が強いので、自社へ発注した下請企業に対して「着手金や中間金を支払ってほしい」などと言うことが難しく、現実的には元請の言いなりになっているのが実情です。
建設業は工事を請ける企業の立場が弱く、他の業種のように「発注企業と受注企業が同じ立場」というわけにはいかないので、受注企業は支払面で元請企業の言いなりになってしまうので、資金繰りもそれだけ厳しくなってしまいます。
建設業の資金繰りを悪化させない5つのポイント
建設業は常に資金繰りを悪化させないよう、管理を徹底する必要があります。
建設業の資金繰り管理をする上では、以下の5点を頭に入れておく必要があります。
- 資金繰り表を作成し資金繰り管理を徹底する
- 工事進捗基準で回収ができる受注を増やす
- 現場ごと利益を管理する
- 無理に大きな工事を受注しない
- 常に受注を確保しておく
建設業の資金繰り管理を行う上で重要になる5つのポイントを詳しく解説していきます。
資金繰り表を作成し資金繰り管理を徹底する
建設業では絶対に資金繰り表を作成してください。
建設業は入金前の支払いが多いので、支払いのスケジュールと、資金の残高を詳細に予測することが非常に重要になります。
資金繰りの管理を怠ってしまうと、支払いが多い建設業は工事完了前に資金ショートしやすくなるので要注意です。
工事の受注から工事完了後の入金までの支払いのスケジュールを網羅して、現金の残高を明確に予測するようにしましょう。
どのタイミングで資金繰りが危うくなるのかを事前に予測して、外部からの資金調達を計画的に行うことができるようになりましょう。
建設業は資金ギャップが大きいので、売上受注と同時に資金繰りを考えることが非常に重要です。
工事進捗基準で回収ができる受注を増やす
工事の完了をもって入金になる工事ばかりでなく、工事の進捗によって代金を回収することができる受注を増やしましょう。
工事の進捗に応じて入金を受けることを工事進捗基準と言います。
下請け工事を行っている建設業者の方は元請先に対して交渉することはなかなか難しいかもしれませんが、個人相手の工事であれば、進捗基準で代金回収することは可能です。
工事の進捗に応じて、着手金、中間金として、工事代金を少しずつ回収する契約とすることで資金繰りは円滑になります。
新規で工事を受注する際などは、できる限り工事進捗基準で代金を回収することができるような契約を締結するようにしましょう。
現場ごと利益を管理する
すべての現場で利益が出ていれば、絶対に赤字になることはあり得ません。
しかし、数多くの現場を抱える建設業において、実際に全ての現場で利益が出るように管理することができていない企業が多いのではないでしょうか?
そこで、現場ごとに収支を計算し、できる限り全ての現場で利益を管理するように徹底してください。
無駄がなくなることで収益力が向上し、それによって資金繰りが円滑化する傾向にあります。
無理に大きな工事を受注しない
工事の規模が大きければ、確かに大きな売上を期待することが可能です。
しかし、工事の規模が大きければ大きいほど、仕入や重機の調達などのために流出する資金が大きくなります。
また、規模の大きな工事ほど工期が長くなるので、ランニングコストによって流出する資金も大きくなります。
売上や利益を拡大するためにできる限り規模の大きな工事を受注したいというのは経営者として当然です。
しかし、自社の身の丈に合わない大きな工事を受注したことによって、資金ショートしてしまうリスクが高まりますので、資金計画の立たないような大きな工事を無理に受注すべきではありません。
工事の受注は自社の資金力や資金調達力から考えて無理のない範囲に留めることが重要です。
常に受注を確保しておく
いくら大きな工事を受注しても、その工事の後に次の工事が続かないのであれば、建設業の経営は苦しくなってしまいます。
人件費などの支払いは工事がなくても毎月発生するので、常に受注を確保しておく必要があります。
目安として、工事の受注は毎月の売上の2~3ヶ月分程度は持っておいた方がよいでしょう。
2〜3ヶ月分の受注残があれば、急に入金がなくなって資金が流出していくという状態を防ぐことができ、受注〜工事〜入金といつサイクルを常に作り、毎月入金がある状態になります。
経営者は常に2〜3ヶ月分の受注を確保できるよう、受注残を意識して営業活動していきましょう。
建設業の資金繰りを改善する方法
建設業の資金繰りが悪化してしまったら、早急に資金繰りを改善する必要があります。
以下の4つの方法であればすぐに資金繰りを改善させることが可能です。
- 銀行で短期借入金を調達する
- 不要な資産を売却して手元資金を厚くする
- 手形で代金を支払ってもらう
- ファクタリングを利用する
早期に資金繰りを改善させる4つの方法を詳しく解説していきます。
銀行で短期借入金を調達する
基本的に建設業の資金調達は、銀行から工期に合わせた短期借入金を借りるのが原則になります。
例えば工事に必要な資金が2,000万円、工期が半年であれば6ヶ月期限の手形貸付の融資を受ける方法です。
この借入方法であれば、工事完了後に売上が入金になったタイミングで借入金を返済することができるので、最も無駄なく必要なタイミングで必要な資金だけを借りることができます。
工事を受注したら、工事にかかる経費と工期に合致した短期借入金を工事ごとに借りるというのが、建設業の基本的な資金調達方法です。
不要な資産を売却して手元資金を厚くする
手元にある程度潤沢な資金さえ保有していれば、資金繰りに悩まされることもありませんし、銀行から借入をする必要もありません。
会社に使っていない不動産などの資産があるのであれば、その資産を売却して手元資金を厚くすることも検討しましょう。
不要な資産を売却することによって、資金が潤沢になれば大きな工事を受注することができますし、固定資産税などの資産の管理コストも発生しません。
手元資金が充実→管理コスト削減・大きな工事を受注可能という好循環を作り出すことができるので、不要な資産があるのであれば、売却することを検討しましょう。
手形で代金を支払ってもらう
工事を発注した企業が工事進捗基準によって代金を支払うことができないのであれば、その分の金額を手形で受け取る交渉もしてみましょう。
手形で工事代金を一部受け取ることによって、銀行で手形割引を利用することができるためです。
手形割引を利用すれば、 手形の期日前でも資金を調達することが可能になります。
工事進捗基準によって代金を支払うことは全ての発注企業ができるわけではありません。
しかし、手形を切ってくれる企業は多数存在するはずですので、発注先に交渉してみましょう。
ファクタリングを利用する
ファクタリングを利用することでも建設業の資金繰りは改善します。
ファクタリングとは売掛債権の売却ですので、工事代金が入金になる前にファクタリング会社へ売掛債権を売却することによって早期に売上代金を受け取ることが可能です。
工期の長い建設業においてファクタリングはよく利用されている資金調達方法です。
元請先企業も下請先がファクタリングを利用することには慣れているため、手数料の低い3社間ファクタリングに応じてもらうことができる可能性が高くなるでしょう。
メガバンク傘下の銀行系のファクタリング会社も建設業のファクタリングを積極的に取り扱っているので気軽に相談してみるとよいでしょう。
建設業は保証ファクタリングを有利に利用できる
また、国は連鎖倒産を防ぐために保証ファクタリングの利用を積極的に支援しています。
建設業においては元請先が倒産すると、下請け先も倒産し、孫請け先も倒産するという連鎖倒産が起こりやすい業種です。
このようなリスクを回避するためには、売掛債権がデフォルトした場合のリスクを保証してもらうことができる保証ファクタリングが有効です。
そこで、国は「下請債権保全支援事業」という事業を行っています。
下請債権保全支援事業では、下請建設企業等が保証を利用しやすくできるように保証料負担を助成するとともに、ファクタリング会社のリスクを軽減するために損失補償を行っています。
建設業は保証ファクタリングを低いコストで利用しやすくなっているので、連鎖倒産が心配な方は保証ファクタリングの利用も検討するとよいでしょう。
建設業の資金繰りに関するよくある質問
- Q.手元の資金に余裕がないので支払手形を切ることを資金繰り的に正しいでしょうか?
- A.手元に資金がないからと言って苦し紛れで支払手形を切ることは非常にリスクの高い行為だと言えます。
工事代金の入金期日に支払期日が到来するように手形を切るのであれば問題ありませんが、入金予定日の前なのに、適当「3ヶ月先」などの期日で手形を切るのは危険です。
手形は決済できないと銀行取引停止処分となり、企業は倒産に追い込まれる可能性が高くなります。
資金的な計画が立っていない状態での苦し紛れに手形を切ることは絶対にやめましょう。
- Q.銀行から長期借入金を借りることは資金繰りにプラスですか?
- A.建設業が銀行から長期借入金を借りることはリスクの高い行為です。
長期借入金は「この会社の運転資金は大体このくらい」という感覚でざっくりと必要資金を計算して融資を行うものですので、不必要な金額まで借りてしまうことが多くなります。
また、長期借入金は1年以上の期間をかけて分割返済していくものです。
したがって、工事が終わって入金が完了した後も何年も返済が継続していくので、長期的には返済によって資金繰りは悪化します。
建設業でなくても運転資金は短期で借りるのが基本で、最も無駄がありません。
銀行は信用保証協会が保証する長期借入金を推奨してくることが多いですが、建設業の場合は特に短期運転資金を借りるようにしましょう。
- Q.大口工事を受注したので節税のために車両の買い替えをすることは問題ないでしょうか?
- A.節税のための投資はくれぐれも資金繰り計画を立てて、余裕がある時だけ行うようにしてください。
利益が出ているタイミングで車両等の買い替えに投資することで、確かに利益を圧縮することは可能です。
しかし、投資することによって多額の現金が流出してしまい、資金繰り的にはマイナスになる行為です。
投資を行う前には「投資によって現金が流出しても、その後の資金繰りに影響はないか」という資金繰り計画をしっかりと立てた上で意思決定をするようにしてください。
資金繰り改善を検討される建設業の方へ
建設業は「工期が長い」「工事開始前と工事中に必要な資金が多い」という2つの理由から、他の業種よりも資金繰りが厳しい業種です。
資金繰りに困窮しないよう、普段から以下の5点を意識して経営していきましょう。
- 資金繰り表を作成し資金繰り管理を徹底する
- 工事進捗基準で回収ができる受注を増やす
- 現場ごと利益を管理する
- 無理に大きな工事を受注しない
- 常に受注を確保しておく
また、資金繰りに困ったら、短期借入金やファクタリングなどによって早期に資金調達するようにしましょう。
建設業は黒字倒産に陥りやすい業種ですので、資金繰り管理を徹底するとともに、早めの資金調達を心がけてください。