ファクタリングは金融サービスのひとつでありながら、開業するのに免許や登録が不要です。
開業したばかりの新しいファクタリング会社も、10年以上の実績があるファクタリング会社も、貸金業登録のようなわかりやすい物差しがないため、利用者は慎重にファクタリング会社を選ばなければなりません。
今回は、ファクタリングを取り巻く免許や登録制の現状、およびファクタリングが貸金業とみなされたケースを紹介しながら、やばい貸金業者を見極めるポイントを解説します。
ファクタリング業を営むのに免許・登録は不要
銀行・クレジットカード会社・消費者金融会社などの融資業務を行う業種は、出資法に基づき、貸金業の登録が必須です。
一方、ファクタリング業を営むのに免許や登録は必要ありません。
金融庁はファクタリングについて、以下のような見解を公開しています。
「ファクタリング」とは、一般に、企業が取引先に対し有する売掛債権をファクタリング会社が買い取り、買い取った債権の管理・回収を自ら行う金融業務をいいます。このようなファクタリングの法定性質は、売買契約に基づく指名債権の譲渡であり、金銭の貸し借りではないので、貸金業の登録は必要ありません。
ファクタリングは債権を売買する債権売買契約であり、お金を貸し借りする金銭消費貸借契約ではないため、貸金業法には該当しません。
現段階では、ファクタリングは債権譲渡に関わる法律に従うのみであり、ファクタリング業を営むにはあらゆる免許・登録が不要なため、法人であれば自由に始めることができます(※個人は貸金業とみなされる)。
つまり、免許がないファクタリング業者=やばい貸金業者ではなく、そもそもファクタリング業を営むのに免許や登録は必要ないのです。
ファクタリングを規定する法律はない
貸金業を営む業者は、貸金業法や利息制限法、出資法といった法律を遵守しなければなりません。
たとえば、利息制限法では法定金利を年率20%までと規定しているため、貸金業者は法定利息を超えない範囲内で利息を設定しなければ、貸金業法違反となります。
一方で、ファクタリングは融資や出資ではなく、また取引そのものを規制する法律がないため、その妥当性は民法に委ねられています。
なお、ファクタリングは以下のような民法に基づいて営業していますが、手数料や利用額については何ら規制されていません。
- 民法第466条の「債権の譲渡性」
- 民法第467条の「指名債権の譲渡の対抗要件」
- 民法第555条の「売買契約」
ファクタリングの手数料はリスクの対価
ファクタリングには、大きく分けて3社間ファクタリングと2社間ファクタリングがあります。それぞれの手数料相場は、以下の通りです。
- 3社間ファクタリング:1~5%
- 2社間ファクタリング:10~20%
ファクタリングの手数料は、ファクタリング会社が引き受けるリスクに応じて決められています。
ファクタリング会社が引き受ける貸し倒れリスク
平成29年3月3日、ファクタリング利用者を原告、ファクタリング業者を被告とする判決の判例では、業者側が負担するリスクと手数料の妥当性について、以下のように定義しています。
- 金銭消費貸借契約であれば、貸主は、利息制限法所定の制限利率の限度でしか利息を収受することができない
- 債権の売買契約ということで利息制限法所定の制限利率を上回る利益を上げることが正当化されるとすれば、貸主はこれを正当化できるリスクを負うなど、相応の理由があってしかるべき
ファクタリングの訴訟では「ファクタリング業者が、手数料に相応するリスクを負担しているかどうか」が最大の争点となっています。
ファクタリング会社が引き受けるリスクとは、 債務者(取引先)の経営悪化や倒産によって債権の回収ができない「貸し倒れリスク(未回収リスク)」のことです。
利用者が売掛債権をファクタリング会社に譲渡すると、貸し倒れリスクも譲渡人(ファクタリング利用者)から譲受人(ファクタリング会社)へと移行します。
これにより、仮に取引先が期日通りに売掛金の満額、あるいは1円すら支払えない場合でも、利用者は買い戻しをする必要がありません。
結果的には、ファクタリング会社が貸し倒れリスクを負います。これを、償還請求権がない「ノンリコース契約」と言います。
このように、ファクタリング会社は貸し倒れリスクを負う対価として、ファクタリングの手数料を設定しているのです。
見方を変えれば、手数料に見合ったリスクをファクタリング会社が引き受けていない場合は、債権売買契約ではなく金銭消費貸借契約とみなされ、貸金業法違反に問われる可能性があります。
3社間よりも2社間の手数料が高い理由
2社間ファクタリングは、債権を譲渡する際に取引先への通知および同意が必要なく、取引先から支払われる売掛金は、通常通り利用者の口座に振り込まれます。
その代わり、債権譲渡契約とは別に、利用者に入金された売掛金をファクタリング会社へ引き渡すことを約束させる「集金代行業務委託契約」の締結が必要です。
集金代行業務委託契約を交わすことで、いったん利用者の口座に振り込まれた売掛金は、利用者自身がファクタリング会社に入金する義務が発生します。
あってはならないことですが、最悪の場合、ファクタリング会社としては以下のようなリスクを考慮しなければなりません。
- 期日通りに取引先から入金された売掛金を、ファクタリング利用会社が持ち逃げする
- 売掛金が口座に入金された直後に自動引き落としされ、ファクタリング会社が売掛金を受け取れない
上記のように、2社間ファクタリングはファクタリング会社が未回収リスクを被る可能性が高いため、3社間ファクタリングに比べて高めの手数料が設定されているのです。
ファクタリングが貸金業とみなされるケース
ファクタリング契約が以下のケースに該当する場合、貸付業にあたると判断され、債権を買い取ったファクタリング業者は貸金業法および利息制限法、出資法違反に問われる可能性があります。
償還請求権がある
手形の振出人(支払人)が支払不能になり、譲渡された手形が不渡りになってしまった場合に、手形の振出人や裏書人に対して一定の金額を請求できる権利のことを、償還請求権もしくは遡求権と言います。
ファクタリングは原則、償還請求権のないノンリコース契約ですので、万が一、取引先の倒産等で売掛金が未回収となっても、ファクタリング利用者は買い戻しをする必要がありません。
償還請求権がないファクタリングでは、未回収リスクはファクタリング会社が負うため、その対価として手数料が設定されるのです。
さらに、金融庁のホームページでは「違法な業者の例」として、以下のように注意喚起しています。
ファクタリング契約や売掛債権売買契約において、譲受人に償還請求権や買戻請求権が付いている場合、売掛先への通知や承諾の必要がない場合や、債権の売り主が譲受人から売掛債権を回収する業務の委託を受け譲受人に支払う仕組みとなっている場合は、ファクタリングを装ったヤミ金融の可能性がある。
仮にファクタリング契約に償還請求権があり、相場通りの手数料が設定されていたら、ファクタリング会社は何のリスクも負っていないことになります。
実際に、ファクタリングを装い、利用者に対して高利の貸付や債権を買い戻させていたやばい貸金業者が摘発された事例もあります。
手数料を支払うことで入金期日を延長する
手数料を支払うことで、本来設定していた入金期日の延長を許容してくれるようなファクタリング会社は、良心的に見えて実は危険です。
延長によって新たな手数料がプラスされるのは「利息」「利子」「金利」とも言えますので、貸金業とみなされる可能性が色濃くなります。
免許も登録も一切ないファクタリング会社が、貸金業のような取引を行ったり、利息制限法を無視した金利を付けたりすることは、事実上認められません。
利用会社が債権買取代金の一部しか受け取れない
利用会社の債権120万円を100万円で買い取るとしながら、実際には内金として60万円だけを支払い、残りの40万円は債権全額の弁済を受けたら支払うという取引を行っていた業者が、貸金業法および出資法違反で摘発されています。
この事例では、ファクタリング業者は債権120万円を実質60万円で買い取り、利用会社からの80万円の支払いで弁済・相殺していることに他なりません。
ファクタリング業者は債権買取代金の残額40万円の支払いを先延ばしにしているだけで、たとえ残り40万円分が焦げ付いたとしても、20万円を損失するのみです。
ファクタリング業者が受け取る20万円を手数料とみなせば、ファクタリング業者は手数料に相応するリスクを負担していることにならず、この契約は貸付と判断されます。
債権の一部のみが買取対象となっている
通常、売掛債権は登記を行わない限り、分割できるものではありません。
ファクタリング業者が債権の買取を全額ではなく一部のみを対象とし、残りの売掛金を取引先から回収するまで留保した場合、債権回収リスクは軽くなります。
この契約は売掛債権を担保としている性質が強く、事実上の貸金業とみなされる可能性があります。
違法業者を回避して優良業者を見極める方法
やばい貸金業者を回避して信頼のあるファクタリング会社を見極める方法は、以下の通りです。
- 登録貸金業者情報検索サービスを利用する
- 日本貸金業協会の協会員検索でチェックする
- 公的機関や日本ファクタリング業協会に相談する
登録貸金業社情報検索サービスを利用する
金融庁が提供する「登録貸金業者情報検索サービス」を利用すれば、未登録のやばい貸金業者を回避できます。
登録番号・所在地・商号・名称・代表者名・電話番号のいずれかさえ分かれば、検索が可能です。また、詳細検索なら、上記の項目が不明でも登録先・登録日・本店などで調べられます。
利用を検討している貸金業者またはファクタリング会社が、違法・偽装・架空である場合、データは見つかりません。
日本貸金業協会の協会員検索でチェックする
日本貸金業協会の協会員検索では、違法の貸金業者を見つけられます。
エリア別もしくは協会員番号・登録地域・登録番号・商号・本店住所・電話番号から検索が可能です。
実在する会社のなりすましや、無関係の会社の関連会社を装っているなど、注意すべき貸金業者をスピーディーに発見できるでしょう。
公的機関や日本ファクタリング業協会に相談する
近年、金融庁・日本貸金業協会・警察などの公的機関は、違法(偽装)ファクタリング会社の利用に対する注意を促しています。
利用しようか迷っているファクタリング会社について、少しでも「怪しい」と感じたことがあれば、迷わず相談しましょう。事前相談は、後に起こりうるリスクを防いでくれます。
また、ファクタリングの適正化を目指す団体「日本ファクタリング業協会」に相談するのも一つの方法です。
日本ファクタリング業協会は、ファクタリングサービスを信頼・安心して利用できる環境作りに励んでおり、もちろんファクタリングに関する相談も受け付けています。
ファクタリングの将来性とは?給料ファクタリングに注意!
昨今のファクタリング業界では、会社員などの給料日前の賃金(給料債権)を買い取り、現金化する「給料ファクタリング」の動向に注目が集まっています。
ここ1年ほどで給料ファクタリングを取り扱う業者が急増しており、消費者とのトラブルも少なくありません。
なかには、返済できない利用者から強引に取り立てたり、ファクタリングを装って高利の貸付を行ったりする業者もおり、ファクタリング業界だけでなく金融庁でも問題視されています。
2020年3月には、東京裁判所が給料ファクタリングについて、貸金業法や出資法違反で契約は無効、刑事罰の対象となる判決を言い渡しました。
また、金融庁は「給与ファクタリングは貸金業に該当し、貸金業登録が必要」との見解を示しています。
現状では、給料ファクタリングを取り扱う業者に貸金業登録の義務付けが必要とされていますが、将来的にはファクタリング事業者登録の義務付けも検討されています。
ファクタリングの免許に関するQ&A
ファクタリングの免許や登録について、よくある質問をQ&Aにまとめました。
- Q.怪しいファクタリング業者に取引を持ちかけられた場合、どのように対処すれば良いですか?
- A.その業者とは決して取引をせず、日本ファクタリング協会や金融庁、警察庁などの相談窓口に報告しましょう。いずれも電話や質問フォームから手軽に相談・質問できます。
- Q.「償還請求権あり」のファクタリング取引はあるのでしょうか?
- A.売掛債権担保融資(ABL)であれば、万が一、取引先から売掛金が支払われなかった場合に、利用者が買い戻しをする必要があります。売掛債権担保融資は文字通り融資であり、貸金業登録を行っている業者でなければ取り扱いできません。
- Q.SNSなどで個人の給料を現金化するという書き込みを見つけたのですが、信頼して良いのでしょうか?
- A.給料日前に、それまで働いた分の賃金(給料債権)を現金化する「給料ファクタリング」の業者と見られます。給料ファクタリングは売掛債権ファクタリングに比べて、ルール自体が未整備であり、金融庁も違法業者や詐欺の可能性があると指摘しているため、SNSの書き込みだけで判断するのはやめましょう。
- Q.ファクタリングと手形割引の違いを教えてください。
- A.ファクタリングも手形割引も、債権を早期に現金化するという点は共通しています。大きな違いとしては、償還請求権の有無です。ファクタリングは債権売買であり、債権そのものを譲渡するため、償還請求権(遡求権)がありません。一方で、手形割引は融資であり、償還請求権があります。手形割引のサービスを提供する業者は、貸金業登録が必要です。
>>「償還請求権の有無」について詳しく見る
ファクタリングに免許・登録は不要!やばい貸金業者に注意して賢く見極めよう
ファクタリングには免許や登録の必要がなく、だれでもすぐに開業できることのメリット・デメリットを解説しました。
とりわけ、ファクタリング利用者は免許や登録の有無で、ファクタリング業者が違法なのか優良なのかを見分けるすべがありません。
優良業者は、実際の手数料や取引実績、あるいは口コミ・評判などが選定の基準となります。
公的機関をはじめ、日本貸金業協会や日本ファクタリング業協会に相談しながら、信頼できるファクタリング会社を見つけてみてください。
ファクタリングで安全に資金調達できるよう、貴重な売掛債権を譲渡できる優良業者を慎重に見極めましょう。