株式投資において企業を評価する指標の1つにPER(株価収益率)があります。
ですが「PERが何かわからない」「他の指標との違いがわからない」という方も多いのではないでしょうか。
本記事ではPERとはなにか、PERを用いた企業評価の方法、注意点について解説します。
またPERとあわせて使われることの多い下記の5つの指標についても紹介します。
- PBR(株価純資産倍率)
- ROE(自己資本利益率)
- ROA(総資産利益率)
- 配当利回り
- 配当性向
「株式投資を始めてみたい」「企業評価の方法が知りたい」という方はぜひ最後までお読みください。
PER(株価収益率)とは
PERは(Price Earnings Ratio)の略であり>「株価が当期純利益に対して割高か割安か」を表す指標です。
株価の割高・割安を考える上での指標である、「バリュエーション指標」の1つとして企業の評価に用いられます。
PERの計算方法は下記の2通りです。
- PER = 株価 ÷ EPS(1株あたりの当期純利益)
- PER = 時価総額 ÷ 純利益
時価総額は「株価 × 発行済み株式の数」、EPSは「当期純利益 ÷ 発行済み株式の数」のため、2つの式は同じ結果になります。
例として、下記の条件でA社とB社について考えます。
企業 | 株価(円) | EPS(円) |
---|---|---|
A社 | 3,000 | 500 |
B社 | 3,000 | 600 |
この場合、それぞれのPERはA社が6倍、B社が5倍です。
EPSは1年で期待できる利益のため、PERは理論上「支払った株価の回収にかかる年数」とも考えられます。
そのため株価が同じ企業であれば、PERが高い企業(A社)はPERが低い企業(B社)と比較して割高と判断できます。
異なる株価・PERの企業の比較においても考え方は同じです。
PERを用いた企業評価では「EPSに対して何倍までのPERを許容できるか」を常に意識しておきましょう。
予想PERと実績PER
PERには予想利益によって算出される「予想PER」、直近の実績によって算出される「実績PER(業績PER)」があります。
株式市場は将来の値動きを加味して動くため、一般的に予想PERが重要視されています。
実際、企業サイトやその他メディアで掲載されている値の多くが予想PERです。
ただし予想PERは企業予想の数値もあれば、掲載メディア・媒体が独自で算出している数値もあります。
また企業予想には、強気や保守的など企業ごとの特色もあるため注意が必要です。
PERの目安は何倍?分析方法と注意点
PERはその倍率によって、株式の割高・割安を判断する要素になります。
株取引は安く買った株式の価格が上昇することで利益を得られるため、できれば割安なうちに株式を購入しておきたいものです。
ではPERが何倍なら、株式は割安であると言えるのでしょうか。
結論として、PERの目安は上場企業で15倍と言われています。
PERを用いた企業評価の代表的な手法が下記の2つです。
- 同業種の企業と比較する
- 過去のPERと比較する
同業種の企業と比較する
繰り返しになりますが、PERは業種によって高い・低いの傾向があります。
そのため同業種で比較をすることで、投資をしたい企業が業界の中で、どのような位置にいるのかを判断する材料になります。
JPX(日本取引所グループ)が発表した、2022年7月時点で東証一部に上場している企業の加重PERの一部が下記です。(加重PER:企業ごとの時価総額を考慮したPER)
業種 | 加重PER(倍) |
---|---|
サービス業 | 26.0 |
鉄鋼 | 4.5 |
陸運業 | 85.2 |
水産・農林業 | 13.2 |
銀行業 | 8.8 |
PERの目安を15倍とすると、陸運業とサービス業は割高、鉄鋼と銀行業は割安と言えます。
そのためPERの数値だけで投資先を決めると、鉄鋼や銀行業といった業種に偏ってしまいます。
業種ごとのPERの傾向を理解し、投資をしたい企業が業界の中で伸びているのか、落ち目なのかを考えることが重要です。
過去のPERと比較する
同業他社との比較に加えて、投資先の企業の過去と現在のPERを比較するのも有効な方法です。
例えば、大手コンビニチェーンである、ローソンのPERは下記のように推移しています。
年月日 | PER(倍) |
---|---|
2017年2月28日 | 21.29 |
2018年2月28日 | 26.07 |
2019年2月28日 | 26.4 |
2020年2月28日 | 28.51 |
2021年2月26日 | 57.3 |
2022年2月28日 | 26.84 |
上記の結果より、以下のような推測ができます。
事象 | 推測 |
---|---|
2017年~2020年でPERが増加 | 株価の上昇
純利益の減少 |
2021年のPERが飛び抜けて大きい | 純利益の減少
特別損失の計上 |
2022年のPERが例年通り | 2021年から純利益が回復 |
株価や収益とあわせてPERの推移を確認することで、企業の成長性や他の投資家からの評価を分析できます。
PERを用いた分析では上昇・下降と言った結果よりも「なぜその結果なのか」という理由が重要です。
【注意①】特別損益によるPERへの影響
特別損益(特別損失・特別利益)とは、当期中に発生した通常業務と関係ない例外的な損益です。
特別損益の具体例に下記があります。
特別損失 | 不動産や有価証券の売却損
自然災害や犯罪による被害 リストラ費用 |
---|---|
特別利益 | 不動産や有価証券の売却益
債務免除益 |
特別損失は税引前当期純利益に計上されるため、EPSひいてはPERに影響します。
EPS | PER | |
---|---|---|
特別損失 | 小さくなる | 大きくなる |
特別利益 | 大きくなる | 小さくなる |
PERの値が例年と比べて乖離している場合、特別損益の発生を疑いましょう。
特別損益は損益計算書、決算短信、有価証券報告書で確認できます。
【注意②】赤字企業には使えない
PERは「理論上、投資額の回収にかかる年数」であり、EPS(1株あたりの当期純利益)が赤字の場合はマイナスとなります。
投資額の回収にかかる年数がマイナスになることはないため、赤字企業のPERは求めても意味がありません。
ですが「赤字だから投資しない」というのは早まった判断です。
なぜなら特別損失によって当期が赤字となっているケースもあるからです。
赤字が継続的なのか、一時的なのかは四季報などに掲載される来期予想から確認できます。
また赤字によって株価が下落していれば、割安で投資できる可能性もあります。
PERとPBRの違い、使い分け【どっちが重要?】
PERとあわせて企業評価に用いられるのが「PBR(株価純資産倍率)」です。
PBRは下記の式で算出され、「株価が企業の資産価値に対して割高か割安か」を表します。
- PBR = 株価 ÷ BPS(1株あたりの純資産)
- PBR = 時価総額 ÷ 純資産(解散価値)
一般的にPBRの目安は1倍と言われています。
その理由はPBRが1倍ということは、時価総額と解散価値が同額になるためです。
ただしベンチャー企業など、純資産の少ない企業はPBRが1倍以上になることも少なくありません。
そのためPBRの倍率だけを見て単純に割高・割安と判断はしない方がいいでしょう。
またPERとPBRは表す内容が異なり、どっちが重要ということはありません。
使い分けとしては、決算期ごとに変化するPERは短期的な分析に、短期的に変化しない純資産が含まれるPBRは長期的な分析に用いるといいでしょう。
株式投資で役立つその他の指標
株式投資では、複数の指標を用いて複合的に分析することが重要です。
以下では、PERやPBR以外の代表的な4つの指標を紹介します。
ROE(自己資本利益率)
ROE(自己資本利益率)は「Return On Equity」の略であり「株主資本利益率」とも呼ばれます。
「投資家から集めた資本に対して、企業がどれだけ効率よく利益を上げているか」を表す指標です。
ROEは下記の2つの計算で求められます。
- ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
- ROE(%) = EPS ÷ BPS × 100
経済産業省の発表によると2018年時点での日本の上場企業におけるROEの加重平均は9.4%です。
そのためROEが8〜10%程度の企業であれば、経営効率が高いと言えるでしょう。
ROA(総資産利益率)
ROA(総資産利益率)は「Return on Assets」の略であり「企業が総資産をどれだけ効率よく運用しているか」を表します。
ROAの計算方法は下記です。
- ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100
ROEは純資産に対する利益の割合ですが、ROAは銀行からの借入や設備投資なども含めて計算します。
経済産業省の発表によると2018年時点での日本の上場企業におけるROAの加重平均は3.9%です。
ROAは5%が目安と言われますが、業種によっても大きく変わるため、一概に「何%あれば優良企業」と言うことはできません。
配当利回り
配当利回りとは「株価に対して、いくら企業から配当があったか」を示す割合であり、下記の式で求められます。
- 配当利回り(%) = 1株当たりの配当金 ÷ 株価 × 100
株価や配当金は企業によって異なるため、配当利回りを算出することで、企業を比較しやすくなります。
例として、下記のようなケースを考えます。
企業 | 1株あたりの配当金(円) | 株価(円) |
---|---|---|
A社 | 500 | 4,000 |
B社 | 600 | 3,000 |
この場合、A社とB社の配当利回りはそれぞれ下記です。
- A社:500 ÷ 4,000 × 100 = 12.5%
- B社:600 ÷ 3,000 × 100 = 20%
配当利回りにおいては、B社の方が高いことがわかります。
ただし、配当利回りの計算には、その時点での株価が使われるため、将来的に異なる結果になることがあるため注意しましょう。
配当性向
配当性向とは当期純利益に対する配当金の割合であり「企業の利益のうち、投資家に還元した割合」を表します。
配当性向は下記の式で求められます。
- 配当性向(%) = 1株あたりの配当金 ÷ EPS(1株当たりの当期純利益) × 100
投資する側としては、配当性向は高ければ高いほどいいように思えますが、そうとも言えません。
例えば、成長中の企業などは資金を事業拡大に回すため、配当性向が低くなる傾向にあります。
そのため配当性向の数値だけで「良い企業・悪い企業」を決めることはできません。
PERについてよくあるQ&A
- PERが10倍の企業と20倍の企業では、10倍の企業の方が収益性が大きいのでしょうか?
- PERが小さい(=割安)だからと言って、収益性が大きいとは言えません。
PERはあくまでも「利益に対して株価が割高か割安か」を示す指標です。
収益性の判断には「資金運用の効率」を表せるROE・ROAをあわせて参照しましょう。
- PERが高い業種にはどのようなものがありますか?
- サービス業や小売業、医薬品業など人間が生きていく上で欠かせないものを扱う業種はPERが高い傾向にあります。
反対にPERが低い業種の代表例が、為替リスクのある金融業・銀行業です。
その他にも市況関連株と呼ばれる、取引状況が株価に大きく影響する石油・石炭製品業などがあります。
- 企業評価や決算が確認できるWebサイトで、PERが表示されていない銘柄があるのはなぜですか?
- PERは「投資額を何年で回収できるか」を表す値でもあります。
そのため当該銘柄が赤字決算だと、表示されない場合が多いです。
その他の理由としては、初回の決算日をむかえていない、株式分割が行われているなどが考えられます。
PERやPBRなどを併用して企業を評価しよう
PER(株価収益率)を見ることで「利益に対して株価は適切か」を知ることができます。
一般的に割安と言われるPERが15倍以下の企業に投資をすることで、企業の成長にあわせて投資による利益を得られます。
ただしPERは業種によって傾向があるため、数値だけを見て単純に割高・割安を判断するのは危険です。
また大きな特別損益が発生した場合は、PERも大きく変化します。
重要なのは「なぜ上昇・下落しているのか」という理由を考えることです。
そのためには同業他社や過去の数値との比較、PBRなど他の指標を併用した企業評価がかかせません。
投資をしたい企業のPERなどの指標は、IR BANKで確認できます。