「法人の社長にも確定申告は必要なの?」

この記事ではそんな疑問を解決します。

確定申告というと会社に雇われている人、または資産収入がある人がするものというイメージの人もいるのではないでしょうか。

しかし実際は確定申告の必要性に、雇用形態や会社勤めかどうかは関係ありません。

本記事では法人の社長に確定申告が必要なケース・不要なケースの条件について解説します。

また法人限定の注意点やメリットについても紹介していますので、経営者や法人化を考えている人はぜひ最後までお読みください。

法人の社長は確定申告が必要?

法人の社長に確定申告が必要かどうかは、役員報酬の金額やその他の条件によって決まります。

以下では確定申告が不要なケース・必要なケースそれぞれの条件について解説をします。

確定申告が不要なケース

法人の社長であっても、会社から役員報酬を受け取っていれば給与所得者に分類されます。

給与所得者は会社による年末調整を受けられるため、確定申告は必要ありません。

ただし以下の「確定申告が必要なケース」に該当する給与所得者は、年末調整を受けられないため確定申告が必要です。

確定申告が必要なケース

下記の条件に該当する人は確定申告が必要です。

  1. 役員報酬が2,000万円を超える
  2. 給与所得の他に20万円を超える副収入がある
  3. 2箇所以上から給与を受け取っている
  4. 同族会社の役員などで、その同族会社から給与の他に貸付金の利子などの支払いがある
  5. 災害減免法による所得税の猶予や還付を受けた

副収入の具体例

会社から支払われる役員報酬の他に20万円を超える副収入があれば確定申告が必要です。

副収入の具体例としては次のものがあげられます。

  • 不動産投資
  • 株式投資
  • フリマアプリでの商品販売

特に最近ではフリマアプリの出品者による所得の申告漏れが問題になっています。

「不要なものを売っていただけなのに気がついたら脱税をしていた」ということにもなりかねません。

同族会社の役員は注意!20万円以下でも確定申告の対象に

給与取得者は給与が2,000万円以下、かつ副収入が20万円以下であれば確定申告は必要ありません。

ただし同族会社の役員が会社から給与以外に貸付金の利子や不動産の賃料を受け取っている場合、それらの所得が20万円以下でも確定申告が必要です。

同族会社は所得や税金の調整がしやすいため、特別な規定があることも少なくありません。

日本の会社は90%以上が同族会社であり該当する人は多いため要注意です。

特殊な関係とは下記に該当する人を指します。

  1. 株主等の親族
  2. 株主等と内縁関係にある者
  3. 株主等(個人)の使用人
  4. 上記以外で株主等から受け取る金銭・資産によって生活する者
  5. 1.〜3.と同じ生計の者またはこれらの親族

【1人社長必見】確定申告で受けられる法人だけのメリット5つ

ここ数年で会社から独立して個人として働くフリーランスの数は急増しています。

フリーランスとして独立し、売り上げが大きくなったために法人化、晴れて1人社長となる人も少なくありません。

しかし中には「せっかく1人社長になったけど、いまいちメリットを実感できていない」という人もいるのではないでしょうか。

個人事業主やフリーランスでは受けられない確定申告のメリットに次の5つがあります。

  • 最大195万円の給与控除
  • 家賃を経費に計上できる
  • 個人と法人で所得を調整
  • 出張旅費規定で実費以上を経費にできる
  • 最大10年間は赤字が繰り越せる

上記のメリットを利用することで会社運営にかかるコストをぐっと節約できます。

最大195万円の給与所得控除

1人社長でも会社から役員報酬を受け取る場合は給与所得者です。

給与所得者にはその額に応じて最大で195万円の給与所得控除が受けられます。

受けられる給与所得控除は以下の通りです。

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで 収入金額 × 40% - 100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額 × 30% + 80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額 × 20% + 440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで 収入金額 × 10% + 1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

一方でフリーランスに給与所得控除はなく、受けられるのは青色申告控除(最大65万円)です。

給与所得控除の最低額550,000円と100,000円しか差がないことを考えると、給与所得控除は大きなメリットと言えます。

家賃を経費に計上できる

住んでいる家を法人所有の役員社宅にすることで、一定の「賃貸料相当額」を支払うだけで家賃の自己負担がなくなります。

さらに家賃の負担額が減った分の役員報酬を減らすことで、所得税を節税できます。

フリーランスにおいても自宅が仕事場を兼ねている場合は家賃を経費に計上可能です。

ただし仕事場として使用しているスペースに限られるため、大きな額にはなりづらいでしょう。

賃貸料相当額は社宅とする住宅の床面積によって以下の式で計算されます。

小規模(床面積が132平方メートル以下)の場合

以下の1.〜3.の合計が賃貸料相当額になります。

  1. (その年度の建物の固定資産税の課税標準額) × 0.2%
  2. 12円×(その建物の総床面積(平方メートル) ÷ (3.3平方メートル))
  3. (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額) × 0.22%

小規模でない自社所有の場合

以下の1.と2.の合計の1/12が賃貸料相当額になります。

  1. (その年度の建物の固定資産税の課税標準額) × 12%
  2. (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額) × 6%

1.について、法定耐用年数が30年を超える場合は12%ではなく10%

小規模でない他からの借受の場合

以下の1.と2.のいずれか多い方が賃貸料相当額になります。

  1. 家賃の50%
  2. 小規模でない自社所有の場合の額

個人と法人で所得を調整

フリーランスが事業で得た所得は事業所得として累進課税が以下の税率で課されます。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

フリーランスは稼げば稼ぐほど、支払う所得税も増えていきます。

対して、普通法人の法人税は以下の通りです。

資本金1億件以下 年800万円以下の部分 適用事業者 19%
上記以外 15%
年800万円越えの部分 23.20%
上記以外 23.20%

法人税の税率は一定であり、役員報酬は自由に設定できるため所得税、法人税を状況に合わせて調整できます。

ただし役員報酬は1年間変更できないので決める際は気をつけましょう。

出張旅費規定で実費以上を経費にできる

法人の場合「出張旅費規定」に則り、出張にかかる費用を経費として妥当な範囲内で自由に決められます。

例えば、「ある出張にかかる費用に5万円を想定していたが、実際には4万円だった」という場合でも5万円を経費として計上できます。

同じ内容の出張でもフリーランスは実費分の4万円までしか経費として計上できません。

出張が多い人は出張旅費規定をうまく利用することで節税効果があります。

最大10年間は赤字が繰り越せる

法人は年の所得が赤字になった場合に最大10年間、その赤字を繰り越せます。(平成30年3月31日までに開始した事業は9年)

フリーランスは最大で3年と法人の約1/3の期間しか繰り越せません。

ただし赤字となった金額が丸々繰り越せるわけではないので気をつけましょう。

繰り越せる金額には以下の規定があります。

開始事業年度 控除割合
平成24年4月1日〜平成27年3月31日 80%
平成27年4月1日〜平成28年3月31日 65%
平成28年4月1日〜平成29年3月31日 60%
平成29年4月1日〜平成30年3月31日 55%
平成30年4月1日〜 50%

長期間の繰越しができることで、事業が上手くいかない時のリスクを抑えつつ黒字化した時の節税が可能です。

確定申告をすることで控除や還付が受けられる

確定申告をすることで特別な控除や還付が受けられるケースを紹介します。

紹介する控除には、医療費や住宅ローンなど日常生活に関係するものが多くあります。

納税額を減らすためには制度を無駄なく利用することが大切です。

確定申告だけで受けられる控除には次の4つがあります。

  • 医療費控除
  • 雑損控除
  • 寄附金控除
  • 住宅ローン控除

上記に加えて配偶者控除など、年末調整で受けられる全ての控除も受けられます。

医療費控除

医療費控除は1年間に支払った医療費に対する控除です。

申告者だけでなく、同一生計の配偶者や親族などのために支払った医療費も対象になり、最高200万円の控除が受けられます。

控除額 = (1年間の医療費の総支払い額) - (保険金など)- 10万円

(所得が200万円以下の方は10万円ではなく所得の5%)

雑損控除

雑損控除は災害や盗難で資産に損害が発生した場合に受けられる控除です。

次の1.と2.のいずれか多い方の金額が控除されます。

  1. (損害金額 + 災害等関連支出の金額 - 保険金等の額) - (総所得金額等) × 10%
  2. (災害関連支出の金額 - 保険金等の額) - 5万円

損害金額:損害を受ける直前の資産価値

災害関連支出の金額:損害を受けた後で資産の回復などにかかった費用

寄附金控除

寄附金控除は特定の団体や法人に寄付金を支払った場合に受けられる控除です。

(次の1.と2.のいずれか少ない方の金額) - 2,000円が控除されます。

  1. 1年間の寄付金の合計
  2. 1年間の総所得金額等の40%

寄附金控除はふるさと納税をした時も利用できます。

住宅ローン控除

住宅ローン控除は正式には「住宅借入金等特別控除」と呼ばれ、住宅ローンを利用して物件を取得した場合に受けられる控除です。

控除期間や控除額は住宅を取得した年度によって異なります。

令和3年1月1日から令和4年12月31日に取得した物件であれば下記の内容が適用されます。

控除期間 控除額
13年

1〜10年目:年末の残高 × 1%

11〜13年面:次のいずれかの少ない方

  • 年末の残高 × 1%
  • (住宅の購入金額等の合計) × 2% ÷ 3

住宅ローン控除は1年目に確定申告をすれば2年目以降は年末調整で済ませられます。

無駄なく利用することで、大きな額の控除が受けられます。

住宅を購入する予定がある人はしっかりとおさえておきましょう。

社長の確定申告に税理士は必要?

社長の確定申告というと、「なんだか複雑そうだから税理士に相談した方がいいのでは」と考える人もいるのではないでしょうか。

結論、所得が給与(役員報酬)のみなら税理士は不要です。

記事の冒頭でも説明をしましたが、社長であっても会社から給与を受け取っていれば給与所得者として年末調整を受けられます。

また年末調整の対象から外れる場合でも「給与所得 + 副収入1つ」程度であれば、手続きは簡単なため税理士は必要ありません。

ただし下記に該当する人は税理士への相談・依頼を検討してもいいかもしれません。

  • 複数の投資商品に投資している
  • 同族会社の役員(社長)を勤めている

複数の投資商品に投資している

複数の投資商品に投資をしている場合、確認事項が多くなり申告時の手間が増えます。

株式投資であれば、一般口座なのか特定口座なのか、他の投資と合算して損失は出ているのかなどがあります。

確定申告をするには投資商品ごとの損益とそれぞれの税額、(受けていれば)源泉徴収された金額を計算しなければなりません。

税務にかかる手間の削減、申告漏れや税金の納めすぎを防ぐためにも税理士に依頼をするのが無難です。

同族会社の役員(社長)を勤めている

同族会社は利益の調整や税金の回避がしやすいため、下記の特別規定により厳しい制限を受けています。

  • みなし役員制度
  • 留保金課税
  • 行為又は計算の否認

またすでに解説をしたように、貸付金の利子などを受け取っていればその額が年20万円以下でも確定申告が必要です。

同族会社で役員をしている人は確定申告の前に税理士に相談をしておくといいでしょう。

確定申告をしないデメリット

「少しくらいなら金額をごまかしてもバレない」

「売り上げが少ないし申告しなくても平気なのでは」

確定申告をする人の中には上記のように考える人もいるかもしれません。

確定申告で嘘が発覚すると以下で解説する罰則を受けることになります。

税務調査は全国の国税局と税務署をつなぐKSKシステムや、銀行口座への調査をもとに行われます。

そのため申告漏れ・無申告がバレないということはほとんどありません。

申告漏れ・無申告の罰則

所得税の申告漏れや無申告が発覚した場合は、その内容に応じて以下の加算税のいずれかが課されます。

  • 過少申告課税:新たに納める分の10〜15%
  • 無申告課税:納付額の15〜20%
  • 不納付課税:納付額の5%〜10%
  • 重加算税:納付額の35〜50%

上記の加算税に加えて、納付期限から納付日まで日数に応じて延滞税が課されます。

額が大きい・悪質性があると判断されれば、脱税として刑事罰の対象にもなります。

脱税の刑事罰は「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、あるいはその両方」と非常に重たい罰則です。

社長の確定申告に関するQ&A

自分が社長の会社は自分(個人)と会社(法人)の両方の申告が必要?
はい、法人と個人の両方の申告が必要です。
個人については申告する所得を得た年の翌年2月16日から3月15日の間に確定申告を行います。
法人の申告には法人税や法人事業税など申告する税金の種類が多くなります。
申告期限は会社の会計期(決算期)によって異なるため気をつけましょう。
確定申告はオンラインで行えますか?
国税庁のホームページから申告書の作成・提出ができます。
申告書の作成は国税庁 確定申告書作成コーナーより行えます。
作成した申告書の提出方法はe-Taxと郵送の2つです。

状況に応じた適切な確定申告をしよう

法人の社長は給与所得者であり、年末調整の対象のため確定申告は不要です。

ただし役員報酬の金額など条件によっては年末調整を受けられず、確定申告が必要な場合もあります。

またフリーランスから法人化した人は控除や還付を利用することで、フリーランスの時よりも節税できるかもしれません。

所得税は申告漏れや無申告があると加算税、最悪の場合は刑事罰に発展する可能性もあります。

確定申告や税務について不安がある人は一度税理士に相談をしておくといいでしょう。

最新の確定申告の変更点や申告方法については【2022年版】確定申告とは?必要な人・不要な人、変更点を解説をご覧ください。

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