毎月のように資金繰りに追われ「資金繰りが厳しい」「資金繰りに疲れた」という経営者の方も多いのではないでしょうか?
資金的な体力のない中小事業者は、少しの景気変動などによって資金が枯渇して支払いに追われてしまうことも珍しくありません。
毎月のように支払いに頭を悩ませ「資金繰りに疲れてしまった」という経営者が多いのも事実です。
しかし、資金繰りに疲れてしまうのは、会社・本人・従業員の三方にとっても良いことではありません。
中小事業者はどんな企業でも資金繰りに困窮するリスクを抱えているため、資金繰りに疲れてしまう前にできる限りの備えをしておくことが重要です。
資金繰りに疲れた経営者が陥りがちな状況や、資金繰りへの備えについて詳しく解説していきます。
資金繰りのために日頃から備えるべき3つの対策
資金繰りに疲れた経営者は、会社や個人の私生活を悪化させてしまう可能性があります。このような事態にならないよう、前もって備えておくことが非常に重要です。
「中小企業は資金繰りに困窮するもの」と考えて、あらかじめ以下のような備えをしておきましょう。
- 複数の金融機関と取引する
- 相談できる人を探しておく
- 資金繰り表を細かく作成しておく
資金繰りに疲れる前に備えるべき対策について詳しく解説していきます。
複数の金融機関と取引する
金融機関によって審査基準や融資の方向性は異なるものです。そのため、企業の資金繰りが厳しいときにメインバンクがいつでも必ず融資に応じてくれるとは限りません。
1つの金融機関としか取引していないと、資金繰りが厳しいときに融資に応じてくれない可能性もあります。
また、そのようなときに急に他の金融機関へ相談しに行ったとしても、これまで何の取引もない金融機関はすんなり融資に応じてはくれませんし、そもそも初めての取引の場合には融資に時間がかかってしまいます。
このように、1つの金融機関としか融資取引を行わない「1行取引」は危険です。
資金繰り対策として、あらかじめ複数の金融機関と融資取引を行なっておき、いざという時のために相談できる金融機関を複数確保しておきましょう。
銀行や信用金庫などの民間金融機関は信用保証協会の保証を付けて融資を行うので、同じ枠で融資をしていることになります。そのため、これらの金融機関と複数取引をしても効果は高くありません。
可能であれば、信用保証協会の保証を付けて融資を行う民間金融機関とは別枠で融資を行う「日本政策金融公庫」と「民間金融機関」で取引しておいたほうが良いでしょう。
相談できる人を探しておく
資金繰りに追われると精神的に追い込まれてしまい、どうしても発想がネガティブになってしまいます。場合によっては自殺を考え、本当に首を吊ってしまった経営者がいるのも事実です。
資金繰りの問題を1人で抱えるのは良いことではありません。最悪のケースを回避するためにも、あらかじめ外部に資金繰りについて相談できる人を作っておいたほうが良いでしょう。
税理士や会計士などの会計の専門家や、中小企業診断士などの専門家へ、資金繰りについて相談できる体制を作っておくことがベストです。
また、経営者仲間で「普段から資金繰りはどうしているか」と話し合えるような人を作っておくのも良いでしょう。
経営者にとって資金繰りの悩みから完全に解放されることは不可能ですので、日頃から資金繰りについて相談できる人を見つけておき、1人で抱える状況にならないようにするのが非常に重要です。
資金繰り表を細かく作成しておく
日頃から資金繰り表を細かく作成しておくのは、資金繰りに悩まない最も効果的な方法です。
資金繰りとは、入出金のスケジュールを把握し、例えば支払日や月末などの資金の残高を予測する行為になります。
この資金繰り管理をいかに厳格に、先のことまで予測するのかという点が、資金繰りに疲れないベストな方法です。
前もって「〇〇日には〜円足りなくなる」ということが分かっていれば、余裕をもって不足分を外部から調達できますし、場合によっては営業活動を強化して利益により不足分を埋めることも可能です。
面倒でも、資金繰り表を日頃から詳細に作成しておくことが、資金繰り円滑化のための最良の方法になります。
資金繰り表の作成方法に関して詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
資金繰りに備えないことで疲れてしまう原因
経営者が「資金繰りに疲れた」と感じる主な原因として、以下のような理由が挙げられます。
- 会社が赤字
- 借入金の支払いが多い
- いくら頑張っても自分の手元にお金が残らない
会社が赤字
会社が赤字だと、入金されるお金よりも支払いのために出ていくお金が多いことになります。
その場合、支払いのために金融機関からお金を調達したり、自分のポケットマネーを出したり、時には親戚からお金を借りたりと、毎月のように金策に走らなければなりません。
会社が赤字の場合には、営業を続ければ続けるほど金策に追われてしまうので「疲れた」と感じることが多いようです。
借入金の支払いが多い
借入金の返済が多いことも、資金繰りに疲れたと感じる原因です。
あまりにも多くの借金を抱えると「借金返済のために頑張っている」という感覚に陥ってしまいます。
少しでも返済に遅れると銀行からは矢のような督促が行われるので、頭からは借金のことが離れません。
借金を返済できないと、最悪の場合は自宅の差し押さえにより家族にも迷惑がかかってしまう可能性があるので、そのプレッシャーとストレスは甚大でしょう。
「資金繰りに疲れた」「逃げたい」と感じることが多くなり、最悪のケースとして自ら命を絶ってしまうような経営者も存在します。
いくら頑張っても自分の手元にお金が残らない
どのような原因であれ、資金繰りに窮して金策に走るストレスは甚大です。
そして、経営者は金策だけでなく営業・生産・労務管理なども仕事として抱えています。
資金繰りが上手くいっていない会社の経営者はこれだけの業務とストレスを抱えていながら、自分の手元には何も資金が残りません。
資金繰りが苦しいと「何のためにこれほど頑張っているのだろう」と心身ともに疲弊してしまいます。
資金繰りの備えが足りないときに陥る状況
資金繰りに疲れたとき、経営者は精神的に追い込まれて普段ではありえない行動をとってしまい、その行動によって会社の経営がさらに傾くようなことがあります。
資金繰りに疲れた経営者が陥る症状としては、以下の通りです。
- カレンダーを見ることができない
- 通帳の残高から目を背ける
- 安い仕事の受注が増えていく
- 従業員のモチベーションが下がる
資金繰りに疲れてしまうとどんなことが起きるのか、詳しく見ていきましょう。
カレンダーを見ることができない
資金繰りに疲れた経営者はカレンダーを見ることができなくなってしまいます。
普段から支払いに追われているため、カレンダーの日付=支払日に見えてしまう人も多いでしょう。
カレンダーを見ると「支払いまであと何日」という感覚になり、ノイローゼのようになるので、カレンダーから目を背けるようになるのです。
すると、生産計画に支障が出たり仕入れを怠ったりするようなことがあり、計画的に経営できなくなってしまいます。
通帳の残高から目を背ける
資金繰りに疲れた経営者は、通帳の残高から目を背けるようになる傾向があります。
通帳の残高を確認すると「あといくらお金が足りない」という発想になり、どこかから資金繰りをしなければならない義務感に追われるでしょう。
このようなストレスから逃れるために、資金繰りに厳しくなる企業ほど通帳の残高から目を背けるようになります。すると、当然ながら資金繰り計画を立てられなくなり、資金繰りはさらに悪化してしまうのです。
また、口座から引き落とされる支払いも残高不足によって間に合わない可能性があり、未払いはどんどん溜まっていきます。
資金繰りに疲れた経営者は資金繰りから逃げるため、カレンダーや通帳残高から目を背け、経営悪化を加速させてしまうリスクがあります。
安い仕事の受注が増えていく
資金繰りに疲れた経営者は、支払いのためになんとか現金を獲得しようと、利益が出ない安い仕事を受注する傾向にあります。
例えば、100万円の受注でなければ利益が出ない仕事を70万円で受ければ、他社よりも安いため当然仕事の量は確保することが可能です。
しかし、そもそも価格的に利益を出せないので、仕事をすればするほど赤字が増える状況になってしまいます。
資金繰りのために安い仕事を受注して赤字になり、さらに資金繰りが厳しくなるという悪循環が生まれてしまうのです。
従業員のモチベーションが下がる
資金繰りに追われた経営者は「どこかからお金を用意しなければならない」という発想ばかりになり、物事を前向きに考えられなくなります。
そのような経営者の暗い態度や後ろ向きの考えは、従業員にも伝わってしまうものです。
経営者というのは会社そのものですので、経営者がネガティブになると従業員もマイナス思考になり、会社全体が悪い方向へ行ってしまいます。
やはり、経営者は資金繰りばかりに追われるのではなく「どうしたら利益を増やせるのか」「新製品や新サービスを開発するにはどうすれば良いのか」など、前向きな方向に頭を使ったほうが良いでしょう。
資金繰りに備えず疲れてしまってもやってはいけないこと
いくら資金繰りに疲れたと言っても、以下のようなことはやってはいけません。
- 個人向けカードローンの借入
- 従業員への給料未払い
上記の行為は、資金繰りや会社経営をさらに悪化させるリスクがあります。
資金繰りに疲れてもやってはいけない2つのことを詳しく理解しておいてください。
個人向けカードローンの借入
資金繰りが厳しいときに経営者が安易に手を出してしまうのが、個人向けカードローンです。
アコムやプロミスなど、大手消費者金融のカードローンは申込日当日にお金を借りることができ、これまでに借りたことがなければ高確率で審査に通過できます。
つまり、資金繰りが厳しいときでも、審査にさえ通ればあまりにも簡単にお金を借りられるというわけです。
しかし、お金に困ったときに個人向けカードローンで数十万円を借りられたとしても、企業の資金繰りが悪化している体質が変わっていなければ問題は何も解決していません。
また、翌月以降は個人向けカードローンの返済も発生するので、より資金繰りが厳しくなってしまいます。
ちなみに、個人向けカードローンは金利が高く、利息負担も膨大です。例えば、金利18%・借入残高30万円の場合、1ヶ月の利息負担は約4,400円にもなってしまいます。
長期的に見ると、一度借りてしまったら資金繰りはむしろ悪化するため、どんなに資金繰りが厳しくなっても個人向けカードローンには手を出さないようにしましょう。
従業員への給料未払い
どんなに資金繰りが厳しいときでも、従業員への給料を支払わないという行為だけは絶対に行ってはなりません。
給料を払わずに従業員を働かせることは違法行為ですし、従業員のモチベーションも保てません。最悪の場合、経営者と従業員の人間関係も壊れてしまうでしょう。
また、従業員には家族がいるので、給料を払わなければ家族も困窮することになります。
もしかしたら従業員に借入金があり、返済日は給料日かもしれません。その場合、給料が遅れたことによって従業員の信用情報に傷がついてしまう可能性もあります。
このように、給料未払いの影響は大きく多岐に渡ります。給料の支払いは、たった1日でも絶対に遅れてはいけません。
資金繰りの備えが足りなかったときに優先すべき支払い
資金繰りに疲れたとき、多くの人が銀行借入金の返済を優先していませんか?資金繰りが厳しいときは、銀行借入金の返済を優先すべきではありません。
最も優先して支払うべきものは、従業員への給料と取引先への支払いです。少なくとも、この2つさえ支払えれば問題なく事業を継続でき、経営再建のチャンスはあります。
そのため、以下の支払いの優先順位を徹底してください。
- 従業員への給料
- 取引先への支払い
そして、最も後に回すべきなのは銀行の借入金の返済です。
銀行は、どうしても資金繰りが厳しいときには事情を話すことで支払いを待ってくれますし、期限の延長などのリスケジュールにも応じてくれます。
これは金融庁の方針ですので、銀行にとっては資金繰りの厳しい企業のリスケジュールに応じるのは義務と言えます。基本的に、最低でも必ず1回はリスケジュールに応じてもらうことが可能です。
「借入金の返済だけは絶対に優先しなければならない」と考えている経営者の方も多いですが、実は借入金の返済は優先すべきものではありません。
どうしても資金繰りが厳しいのであれば、銀行へ事情を話して返済を待ってもらいましょう。
資金繰りに備える方法に関するよくある質問
- 会社の借入金を残したまま死亡した場合、借金は誰のものになるのでしょうか?
- 会社名義の借入金は、経営者が死亡したとしても法人名義であることに変わりありません。
経営者が死亡しても法人は残るので、引き続き法人が返済していくことになります。
しかし、法人名義の借入金に対して経営者個人が連帯保証人となっているケースがほとんどです。
この場合は、経営者の子供や配偶者などの相続人が連帯保証人としての地位も相続することになります。
そのため、会社が借入金を返済できなければ、死亡した経営者の配偶者や子供などの相続人個人に借金の返済義務が残ってしまいます。
なお、相続人が会社経営と無関係の場合には、銀行へ相談することによって連帯保証人を外してもらえる可能性があるので、まずは気軽に相談してみましょう。
- 資金繰りの悩みから解放される方法を教えてください。
- 基本的に、中小企業を経営している限りは資金繰りの悩みから完全に解放されることはありません。
企業経営には資金繰りの悩みがつきものだと、まずは理解しておきましょう。
しかし、資金繰りは「いつ」「いくら」お金が足りなくなるということを事前に把握しておけば、資金を準備することが可能です。
資金繰りの悩みを解決するためには、詳細な資金繰り表を作成し、できる限り前から資金不足を予測することが重要と言えます。
前もって資金不足の金額とタイミングを知っておけば、余裕をもって準備できるので、資金繰りに頭を悩ませる頻度は少なくなるでしょう。
- 売上拡大と資金繰り改善のどちらを優先すべきでしょうか?
- どちらも同じように重要です。
会社経営の中で売上拡大はオフェンス、資金繰り改善はディフェンスに当たるので、どちらが優先とは断言できません。
売上が減少すれば資金繰りは苦しくなりますし、資金繰りが悪化すると攻めの経営ができなくなってしまいます。
売上拡大・収益管理・資金繰り管理は表裏一体と考え、どれも同じように重視して経営するようにしてください。
資金繰りに備える方法を実践して現状の改善を図ろう
資金繰りに疲れた経営者は「カレンダーを見ない」「通帳残高を見ない」という現実逃避に走りがちです。しかし、そのような姿勢は従業員に悪影響を及ぼし、会社経営にとってもマイナスにしかなりません。
そこまで精神的に追い込まれないよう、日頃から資金繰り管理を厳格に行い、資金繰りについて相談できる人を見つけておくようにしましょう。
また、いざ資金繰りに困ったときに資金調達できるよう、複数の金融機関と取引しておくことも非常に重要です。日本政策金融公庫・民間金融機関と取引しておくと良いでしょう。
どんなにお金に困っても、従業員には絶対に給料を支払ってください。個人向けカードローンは長期的な資金繰り悪化を招きますので、手を出すべきではありません。
資金繰り管理は収益管理と同じくらい大切なものと考えて、日頃から厳格に管理するようにしましょう。