毎月のように資金繰りに追われ「資金繰りに疲れた」という経営者の方も多いのではないでしょうか?
資金的な体力のない中小事業者は、少しの景気変動などによって資金が枯渇して支払いに追われてしまうことも珍しくありません。
毎月のように支払いに頭を悩ませ、「資金繰りに疲れてしまった」という経営者も多いのは事実です。
しかし、資金繰りに疲れてしまうことは会社にとっても本人にとっても従業員にとっても良いことではありません。
中小事業者はどんな企業でも資金繰りに困窮するリスクを抱えているため、資金繰りに疲れてしまう前にできる限りの備えをしておくことが重要です。
資金繰りに疲れた経営者が陥りがちな状況や、資金繰りへの備えについて詳しく解説していきます。
なぜ経営者は資金繰りに疲れてしまうのか
「資金繰りに疲れた」
経営者がそのように感じる原因はさまざまですが、多くの人が疲れたと感じる主な原因として以下のようなものをあげることができます。
- 会社が赤字
- 借入金の支払いが多い
- いくら頑張っても自分の手元にお金が残らない
会社が赤字
会社が赤字であれば、入金になるお金よりも、支払いのために出ていくお金が多いことになります。
すると、支払いのために金融機関からお金を調達したり、自分のポケットマネーを出したり、時には親戚からお金を借りたりと、毎月のように金策に走らなければなりません。
会社が赤字の場合には、営業を続ければ続けるほど、金策に追われることになってしまうので、「疲れてしまう」と感じることが多いようです。
借入金の支払いが多い
借入金の返済が多いことも資金繰りに疲れたと感じる原因です。
あまりにも多くの借金を抱えると、「借金返済のために頑張っている」という感覚に陥ってしまいます。
少しでも返済に遅れると銀行からは矢のような督促が行われるので、頭からは借金のことが離れません。
借金の場合は返済できないと自宅が差し押さえられて家族にも迷惑がかかるケースもあるので、そのプレッシャーとストレスは甚大です。
「資金繰りに疲れた」「逃げたい」と感じることが多くなり、最悪のケースとして自ら命を絶ってしまう経営者も存在します。
いくら頑張っても自分の手元にお金が残らない
このように、資金繰りに窮して金策に走るストレスは甚大です。
そして、経営者は金策だけでなく営業や生産や労務管理なども仕事として抱えています。
資金繰りが上手くいっていない会社の経営者はこれだけの業務とストレスを抱えていながら、自分の手元には何も資金が残りません。
資金繰りが苦しいと「何のためにこれほど頑張っているのだろう」と心身ともに疲弊してしまうことになってしまいます。
資金繰りに疲れた時に経営者が陥る状況
資金繰りに疲れた時、経営者は精神的に追い込まれ、普段ではありえない行動をとってしまったり、その行動によって会社の経営がさらに傾くようなことがあります。
資金繰りに疲れた経営者が陥る症状として以下の4点をあげることができます。
- カレンダーを見ることができない
- 通帳の残高から目を背ける
- 安い仕事の受注が増えていく
- 従業員のモチベーションも下がる
資金繰りに疲れてしまうとどんなことが起きるのか、詳しく見ていきましょう。
カレンダーを見ることができない
資金繰りに疲れた経営者はカレンダーを見ることができなくなってしまいます。
普段から支払いに追われているため、カレンダーの日付=支払日に見えてしまうという人も多いのではないでしょうか?
カレンダーを見ると「支払いまであと何日」という感覚になり、ノイローゼのようになるのでカレンダーから目を背けるようになるのです。
すると、生産計画に支障が出たり仕入を怠ったりするようなことがあり、計画的な経営ができなくなってしまいます。
通帳の残高から目を背ける
資金繰りに疲れた経営者は通帳の残高から目を背けるようになる傾向があります。
通帳の残高を確認すると「あといくらお金が足りない」という発想になり、すると、どこかから資金繰りをしなければならない義務感に追われることになります。
このようなストレスから逃れるために、資金繰りに厳しくなる企業ほど通帳の残高から目を背けるようになります。
すると、当然ながら資金繰り計画を立てることができなくなり、資金繰りはさらに悪化してしまうでしょう。
また、口座から引き落とされる支払いも残高不足によってできない可能性があり、さらに未払いは溜まっていきます。
資金繰りに疲れた経営者は資金繰りから逃げるため、カレンダーや通帳残高から目を背け、さらに経営を悪化させてしまうリスクがあります。
安い仕事の受注が増えていく
資金繰りに疲れた経営者は、支払いのためになんとか現金を獲得しようと行動します。
すると、利益が出ないような安い仕事を受注するようになります。
例えば100万円の受注でなければ利益が出ない仕事を70万円で受ければ、他社よりも安いため当然仕事の量は確保することが可能です。
しかし、そもそも価格的に利益を出すことができないので、仕事をすればするほど赤字が増えるという状況になってしまいます。
資金繰りのために安い仕事を受注して赤字になり、さらに資金繰りが苦しくなるという悪循環が生まれることになります。
従業員のモチベーションも下がる
資金繰りに追われた経営者は「どこかからお金を用意しなければならない」という発想ばかりになり、前向きな考えができなくなってしまいます。
そのような経営者の暗い態度や、後ろ向きの考えは従業員にも伝わってしまうものです。
経営者というのは会社そのものですので、経営者が後ろ向きになると、従業員も後ろ向きになり、会社全体がネガティブな方向へ行ってしまうことになります。
やはり、経営者は資金繰りばかりに追われるのではなく、「どうしたら利益を増やせるのか」「新製品や新サービスを開発するにはどうすればよいのか」など、前向きな方向に頭を使った方がよいでしょう。
資金繰りのために日頃から備えておくこと
資金繰りに疲れた経営者は会社や個人の私生活をさらに悪いものにしてしまう傾向にあります。
このような事態にならないよう、前もって備えておくことが非常に重要です。
「中小企業は資金繰りに困窮するもの」と考えて、あらかじめ以下のような備えをしておきましょう。
- 複数の金融機関と取引をする
- 相談できる人を探しておく
- 資金繰り表を細かく作成しておく
資金繰りに疲れる前に準備すべき備えについて詳しく解説していきます。
複数の金融機関と取引をする
金融機関によって審査基準や融資の方向性は異なるものです。
そのため、企業が資金繰りに困った時にメインバンクがいつでも必ず融資に応じてくれるとは限りません。
1つの金融機関としか取引をしていないと、資金繰りに困った時に融資に応じてくれない可能性もあります。
また、そのような時に急に他の金融機関へ相談に行ったとしても、これまで何も取引のない金融機関はすんなり融資に応じてはくれませんし、そもそも初めての取引の場合には融資に時間がかかってしまいます。
資金繰り対策として、1つの金融機関としか融資取引を行わない1行取引は危険です。
あらかじめ複数の金融機関と融資取引を行なっておき、いざという時のために相談できる金融機関を複数確保しておきましょう。
銀行や信用金庫などの民間金融機関は信用保証協会の保証を付けて融資を行うので、同じ枠で融資をしていることになります。
そのため、これらの金融機関と複数取引をしても、複数取引の効果は高くありません。
できれば、信用保証協会の保証を付けて融資を行う民間金融機関とは別枠で融資を行う「日本政策金融公庫」と「民間金融機関」で取引をしておいた方がよいでしょう。
相談できる人を探しておく
資金繰りに追われると精神的に追い込まれてしまい、どうしても発想がネガティブになってしまいます。
場合によっては自殺を考え、本当に首を吊ってしまった経営者もいるのは事実です。
そのため、資金繰りの問題を1人で抱えるのはよいことではありません。
できれば、あらかじめ外部に資金繰りについて相談できる人を作っておいた方がよいでしょう。
税理士や会計士などの会計の専門家や、中小企業診断士などの専門家へ、資金繰りについて相談できる体制を作っておくことがベストです。
また、経営者仲間で「普段から資金繰りはどうしているか」と話し合えるような人を作っておくのもよいでしょう。
経営者にとって資金繰りの悩みから完全に解放されることは不可能ですので、日頃から資金繰りについて相談できる人を見つけておき、資金繰りについて1人で抱えることがないようにすることが非常に重要です。
資金繰り表を細かく作成しておく
日頃から資金繰り表を細かく作成しておくということは、資金繰りに悩まない最も効果的な方法です。
資金繰りとは、入出金のスケジュールを把握し、例えば支払日や月末などの資金の残高を予測する行為になります。
この資金繰り管理をいかに厳格に、先のことまで予測するのかという点が、資金繰りに疲れないベストな方法です。
前もって「〇〇日には〜円足りなくなる」ということが分かっていれば、余裕をもって不足分を外部から調達することができますし、場合によっては営業活動を強化して利益によって不足分を埋めることも可能です。
面倒でも、資金繰り表を日頃から詳細に作成しておくことが、資金繰り円滑化のための最良の方法になります。
資金繰り表の作成方法に関して詳細に知りたい方は以下の記事をご参照ください。
資金繰りに疲れてもやってはいけないこと
いくら資金繰りに疲れたと言っても以下のようなことをやってはいけません。
- 個人向けカードローンの借入
- 従業員への給料未払い
これの行為は資金繰りや会社経営をさらに悪いものにしてしまうリスクがあります。
資金繰りに疲れても、やってはいけない2つのことを詳しく理解しておいてください。
個人向けカードローンの借入
資金繰りに困窮した経営者が安易に手を出してしまうのが、個人向けカードローンです。
アコムやプロミスなどの大手消費者金融のカードローンは申込日当日にお金を借りることができ、これまでに借りたことがないのであればかなり高い確率で審査に通過できます。
つまり、資金繰りに困った時にはあまりにも簡単に借りることができてしまいます。
例え、お金に困った時に数十万円の借入を個人向けカードローンでできたとしても、企業の資金繰りが悪化している体質は何も変わっていなければ問題は何も解決していません。
また、翌月以降は個人向けカードローンの返済も発生するのでより資金繰りに困窮することになってしまいます。
個人向けカードローンは金利が高く、利息負担も膨大です。
例えば金利18%、借入残高30万円の場合、1ヶ月の利息負担は約4,400円にもなってしまいます。
一度借りてしまったら、長期的には資金繰りはむしろ悪化するので、どんなに資金繰りに困っても個人向けカードローンには手を出さないようにしましょう。
従業員への給料未払い
どんなに資金繰りに困っても従業員への給料を支払わないという行為だけは絶対に行ってはなりません。
経営者は従業員を家族のように思っていたとしても、従業員は給料のために働いています。
そのため、給料を払わずに従業員を働かせることは違法行為ですし、従業員のモチベーションも保てませんし、経営者と従業員の人間関係も壊れてしまうでしょう。
また、従業員には家族が存在するので給料を払わなければ家族も困窮することになります。
もしかしたら従業員に借入金があり、返済日は給料日かもしれません。
その場合、給料が遅れたことによって従業員の信用情報に傷がついてしまう可能性もあります。
給料の未払いの影響は大きく多岐に渡ります。
たった1日でも給料の支払いは絶対に遅れてはなりません。
優先すべき支払い|銀行借入は待ってもらえばいい
多くの人が資金繰りに疲れた時に銀行借入金の返済を優先していないでしょうか?
資金繰りにどうしても困窮した時には銀行借入の返済金を優先すべきではありません。
もっとも優先して支払うべきものは、従業員への給料、次に支払うべきものは取引先への支払いです。
少なくともことの2つさえ支払うことができれば、普通に事業継続をすることができ、経営再建のチャンスはあります。
そのため、支払いの優先順位として
- 従業員への給料
- 取引先への支払い
ということを徹底してください。
そして、もっとも後に回すべきなのは銀行の借入金の返済です。
銀行はどうしても資金繰りが厳しい時には事情を話せば支払いを待ってくれますし、期限の延長などのリスケジュールにも応じてくれます。
これは金融庁の方針ですので、銀行にとっては資金繰りの厳しい企業のリスケジュールに応じることは義務だということもできます。
そのため基本的に最低1回は絶対にリスケジュールには応じてくれます。
「借入金の返済だけは絶対に優先しなければならない」と考えている経営者の方も多いですが、実は借入金の返済は優先すべきものではありません。
どうしても資金繰りが苦しいのであれば、銀行へ事情を話して返済を待ってもらいましょう。
資金繰りに疲れた人のよくある質問
- 会社の借入金を残したまま死亡した場合、借金は誰のものになるのでしょうか
- 会社名義の借入金は経営者が死亡したとしても法人名義であることに変わりありません。
経営者が死亡しても法人は残るので、引き続き法人が返済していくことになります。
しかし、多くの場合で法人名義の借入金に対して経営者個人が連帯保証人となっています。
この場合は、経営者の子供や配偶者などの相続人が連帯保証人としての地位も相続することになるので、会社が借入金を返済することができなければ、死亡した経営者の配偶者や子供などの相続人個人に借金の返済義務が残ってしまうことになります。
なお、相続人が会社経営と無関係の場合には、銀行へ相談することによって連帯保証人を外してもらうことができる可能性があるのでまずは相談してみましょう。
- 資金繰りの悩みから解放される方法を教えてください
- 基本的に中小企業を経営している限りは資金繰りの悩みから完全に解放されることなどありません。
企業経営には資金繰りの悩みがつきものだと、まずは理解しておきましょう。
しかし、資金繰りは「いつ」「いくら」お金が足りなくなるということをあらかじめ把握しておくことで、資金の準備をすることは可能です。
資金繰りの悩みを解決するためには、詳細な資金繰り表を作成し、できる限り前からお金が足りなくなることを予測することで余裕をもって準備ができるので、資金繰りに頭を悩ませることは少なくなるでしょう。
- 売上拡大と資金繰り改善のどちらを優先すべきでしょうか?
- どちらも同じように重要です。
会社経営の中で売上拡大はオフェンス、資金繰り改善はディフェンスに当たるので、どちらが優先ということはできません。
売上が減少すれば資金繰りは苦しくなりますし、資金繰りが悪化すると攻めの経営ができなくなってしまいます。
売上拡大と収益管理と資金繰り管理は表裏一体と考えて、どちらも同じように重視して経営を行うようにしてください。
資金繰り管理・改善の提案
資金繰りに疲れた経営者は「カレンダーを見ない」「通帳残高を見ない」という現実逃避に走りがちです。
しかしそのような姿勢は従業員にも悪影響を及ぼし、会社経営にとってマイナスにしかなりません。
そこまで精神的に追い込まれることがないよう、日頃から資金繰り管理を厳格に行い、資金繰りについて相談できる人を見つけておくようにしましょう。
また、いざお金に困った時に資金調達できるよう、複数の金融機関と取引をしておくことも非常に重要です。
日本政策金融公庫と民間金融機関と取引しておくとよいでしょう。
どんなにお金に困っても、絶対に従業員へ給料は支払い、個人向けカードローンなどには手を出すべきではありません。
資金繰り管理は収益管理と同じくらい大切なものと考えて、日頃から厳格に資金繰りを管理するようにしましょう。