でんさいは、2013年2月にサービスを開始した決済制度です。
徐々に普及が進みつつありますが「でんさいについて耳にしたことはあるけど、いまいちよくわからない」という経営者の方も多いのではないでしょうか?
今後、でんさいが本格的に広まっていくと、ファクタリングが不要になる可能性もあります。
今はファクタリングで売掛債権を早期資金化している企業も、今後はでんさいだけの利用で事足りるようになるかもしれません。
本記事では、でんさいの概要や手形とファクタリングとの違いを詳しく解説していきます。
でんさいは、企業の決済や資金調達手段・自社の支払いについても大きく変化を及ぼす可能性を持っているので、自社の資金繰りを円滑にするためにも、しっかりと理解を深めておきましょう。
でんさいネットとは?わかりやすく簡単に解説
でんさいネットとは、従来の売掛債権を電子化し、オンライン上で売掛債権の発行・譲渡・管理・決済を行なうシステムです。
全銀電子債権ネットワークに加盟している金融機関で利用することができ、でんさいネットに登録しないとでんさいを利用することはできません。
でんさいネットの概要や登録者数について詳しく解説していきます。
「株式会社 全銀電子債権ネットワーク」の通称
でんさいとは「株式会社 全銀電子債権ネットワーク」の通称です。
株式会社 全銀電子債権ネットワークは、電子記録債権を記録・流通させるための新たな決済を行なう会社として全国銀行協会が100%出資して設立した会社で、でんさいネットを提供しています。
全国銀行協会が始めた新たな決済システムが「でんさい」であると理解しておきましょう。
電子記録債権を記録・流通させる新たな決済
でんさいネットとは、電子記録債権を記録・流通させる新たな決済方法です。
電子記録債権とは、簡単に言えば売掛金を電子化したものであり、でんさいで決済することによって、でんさいネット上に債権の記録が残ります。
その債権をオンライン上で支払手段に変えたり、でんさいネット上に保管したりすることができます。
オンライン上で資産の管理と決済ができる電子マネーをイメージすればわかりやすいでしょう。
でんさいネットに登録している企業で電子記録債権での決済や譲渡ができる
でんさいネットは、でんさいネットに登録している企業でなければ利用できません。
でんさいネットには、でんさいネットに加盟している金融機関から申し込むことで登録できます。また、でんさいネットに登録している企業同士であれば、電子記録債権で支払うことができます。
同じ電子マネーを持っている人同士が電子マネー上で送金できることをイメージすればわかりやすいでしょう。例えば、LINE PayはLINE Payユーザー同士で簡単に送金が可能です。
でんさいもこれと同じイメージで、登録している事業者同士がオンライン上で電子記録債権での支払いが可能になります。
でんさいの利用者は13%
でんさいに登録している事業者数は、2022年10月時点で474,727社です。
日本全体の企業数は2021年6月時点で約367万社なので、1年ほどの時期の差が生じますが、でんさいを利用している事業者は全体の13%程度と言えるでしょう。
参考:でんさいネット請求等取扱高(2021年10月~2022年10月)
でんさいは、日本の決済システムや企業の資金繰りを大きく変革する可能性を秘めています。しかし、でんさいはでんさいに登録している企業間でないと決済できません。
でんさいが本格的に普及して決済システム全体を変えるためには、まだまだ登録事業者を拡大していく必要がありそうです。
便利なでんさいですが、登録している企業間でしか利用できないことをまずは理解しておきましょう。
でんさいと手形の違い
でんさいは、これまで手形でできることがオンライン上でできるようになったというイメージです。
これだけ聞くと「だったらこれまで通り手形で決済すればいいのでは?」と思ってしまう人も多いでしょう。
しかし、でんさいと手形には主に以下の3つの違いがあります。
- でんさいは分割可能
- でんさいは紛失・盗難のリスクがない
- でんさいは発行コストがかからない(印紙税がかからない)
決定的な違いは、でんさいは分割できるという点です。手形とでんさいの主な3つの違いについて詳しく解説していきます。
でんさいは分割可能
でんさいは分割することが可能です。
手形は証書になっているので、例えば100万円の手形のうち一部を裏書きしたり、割り引いたりすることはできません。
例えば、取引先から100万円の手形を受け取った場合、100万円を他社への支払いのためにそのまま裏書譲渡することは可能です。
しかし、100万円のうち、50万円だけを裏書譲渡するなど、手形の一部だけを支払手段として譲渡することができません。
ところが、でんさいであれば、保有する電子記録債権の一部だけを支払手段として利用することができます。
100万円のでんさいのうち、50万円だけを取引先へ支払う「分割支払い」も可能になるので、でんさいの方が自社の支払手段として利便性が高くなります。
でんさいは紛失・盗難のリスクがない
でんさいは、でんさいネットのオンライン上で管理されるため、紛失・盗難のリスクがありません。
手形は盗難されて、後ろに印鑑を押されてしまったら譲渡が成立してしまう恐れがあります。でんさいには物理的なリスクがなく、手形と比べて安全性に違いがあると言えるでしょう。
仮にでんさいネットのシステムがハッキングされても補償を受けられるので、手形を自社で保管しておくよりも安心です。
でんさいは発行コストがかからない(印紙税がかからない)
でんさいの発行にはコストがかかりません。でんさいは収入印紙が不要で、手形の用紙代もかからないためです。
手形の発行には手形用紙代がかかりますし、収入印紙を貼付する必要があるなど、所定の様式を具備するためにはやや面倒です。
ちなみに、100万円の手形には200円、500万円の手形には1,000円の収入印紙が必要になります。
さらに、手形は取引先に対して郵送や手渡しで渡さなければならないので、手形を渡す手続きも不便です。
でんさいであれば発行手続きのコストもかからず、契約が成立したときに顧客の面前で支払手続きを行なえます。
このように、でんさいは手形よりも発行にかかる手続きやコスト面において節約できるという点がメリットです。
でんさいとファクタリングの違い
でんさいは、期日を待たずに借入によって資金化できたり、期日前に支払手段として譲渡できたりするなどの特徴があります。
期日前に資金繰りに寄与させることができるという点で、ファクタリングと共通しているようにも思えますが、でんさいとファクタリングには以下5つの大きな違いがあります。
- でんさいは期日前に現金化することはできない
- でんさいは納入企業と支払企業がでんさいネットに加入していないと利用できない
- ファクタリングには手数料がかかる
- でんさいはデフォルトリスクを自社が背負う
- でんさい割引は銀行にバレる
でんさいとファクタリングの5つの違いについて詳しく解説していきます。
でんさいは期日前に現金化することはできない
でんさいは、でんさい割引という手段で借入をしない限りは現金化できません。
借入には当然ながら審査があるので、企業の業況が悪い場合には審査に落ちてしまう可能性もあります。
一方、ファクタリングは期日前にファクターに売却することによって現金化が可能です。
借入ではないので貸借対照表の借入金が増えることはありませんし、自社の与信状況が悪くても、基本的には売掛先の業況に問題がなければ資金化できます。
でんさいは納入企業と支払企業がでんさいネットに加入していないと利用できない
でんさいは、納入企業と支払企業の双方がでんさいネットに加入していないと利用できません。
自社が「でんさいで払いたい」と申し出たとしても、取引先がでんさいネットに登録していない場合や、でんさいでの支払いを拒否した場合には、でんさいでの決済が不可能です。
でんさいは非常に便利な決済方法ですが、でんさいネットに加入している企業双方が「でんさいで決済しましょう」と合意していない場合には、利用できません。
どんな売掛先に対しても秘密裏に利用できるファクタリングとは大きく異なります。
ファクタリングには手数料がかかる
でんさいの利用には、銀行ごとに異なる手数料がかかります。しかし、その手数料は数百円程度ですので、振込手数料ほどのコストしかかかりません。
一方、ファクタリングの場合には、以下のように非常に高い手数料が発生します。
契約 | 手数料(約) |
---|---|
2社間ファクタリング | 10〜20% |
3社間ファクタリング | 3〜10% |
自社に信用がなくても最短即日で資金調達できるファクタリングですが、コスト負担はでんさいよりも大きくなるので、利用するのは必要最低限の金額にしましょう。
でんさいはデフォルトリスクを自社が背負う
でんさいとファクタリングの最も大きな違いは、売掛債権のデフォルトリスクです。
ファクタリングはノンリコースで行なわれるので、もし売掛債権がデフォルトした場合にはファクターが損失を被り、自社に責任は及びません。
一方、でんさい割引や譲渡の後に売掛先が倒産などによってデフォルトした場合、その損失補填義務は自社に生じてしまいます。
売掛債権がデフォルトした場合のリスクまで売却できるのがファクタリングで、でんさいにおいては、売掛債権がデフォルトした場合のリスクは自社が背負わなければなりません。
これが、でんさいとファクタリングの最大の違いです。
でんさい割引は銀行にバレる
でんさい割引を民間のノンバンクなどに行なった場合には、銀行にでんさい割引がバレてしまいます。
でんさいの譲渡は銀行を経由して行なうので、でんさいの割引を行ない、でんさいをノンバンクなどに譲渡した場合には、その旨が確実に銀行へ知られてしまうと考えた方がよいでしょう。
銀行はノンバンクからの借入がある企業をネガティブに評価する傾向にあるため、でんさい割引を利用したことによって銀行から自社に対する評価が下落してしまう可能性があるのです。
一方、ファクタリングは銀行にバレる可能性はまずありません。
2社間ファクタリングであればファクターと自社だけの契約になるので、銀行はおろか取引先にすらファクタリングを知られる心配はありません。
3社間ファクタリングは自社・ファクター・売掛先だけの契約であり、この場合も銀行は無関係です。
「銀行に外部のノンバンクから資金調達することを知られたくない」という事業者の方は、でんさい割引を利用するよりもファクタリングを利用した方がよいでしょう。
でんさいネットでできること
でんさいネットでできることは主に以下の3つです。
- 自社が持つ電子記録債権で支払い
- 他社から受け取った電子記録債権で支払い
- でんさい割引での借入
これまでは手形で行なっていたことをオンライン上でできるようになったと考えればわかりやすいでしょう。
でんさいネットでできることについて詳しく解説します。
自社が持つ電子記録債権で支払い
でんさいでは、でんさいに登録している事業者が、同じくでんさいに登録している事業者に対して電子記録債権で支払いをすることができます。
電子記録債権には支払期日を設定するため、手元に現金がなくても取引先への支払いが可能です。
この場合のでんさいは、手形を電子化して振り出すイメージを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。でんさいの基本的な機能は、電子化された債権を振り出して決済できるというものです。
他社から受け取った電子記録債権で支払い
自社が販売先から受け取った電子記録債権は、でんさいネット上で保管されます。自社はその電子記録債権を、自社の支払先に対して支払手段として利用することができます。
例えば、取引先A社から受け取った電子記録債権を、自社の支払先B社へ支払うことができるのです。要するに、手形の裏書譲渡と同じ方法で利用できるというわけです。
でんさい割引での借入
でんさいは借入手段としても利用することが可能です。この借入方法を「でんさい割引」と言います。
でんさい割引とは、企業が保有する電子記録債権を担保に銀行やノンバンクからお金を借りる方法です。
でんさいの期日前でも、でんさいの残高を現金に換えることができ、期日になるとでんさいの決済によって、債権者(銀行・ノンバンクなど)へ返済を行ないます。こちらも、手形割引のイメージと同じです。
期日になるまでの間に手形を担保にして銀行から借入できる「手形割引」のように、でんさいも期日までの間は「でんさい割引」として銀行から借入できます。
でんさいの導入方法から使い方まで
でんさいの導入は、まず窓口金融機関から利用を申し込むことから始まります。
また、でんさいの使い方は、基本的に支払企業が発生記録請求を行ない、納入企業がでんさい期日に資金の入金を受けるという流れです。
ここでは、でんさいの導入方法から具体的な使い方までを解説します。
でんさいの導入方法
でんさいの導入方法は、以下の通りです。
- 窓口金融機関にでんさいの利用を申し込む
- 窓口金融機関からの審査結果を待つ
- 審査に通ったら、利用契約締結などの手続きを済ませる
- でんさいネットが利用できる
でんさいネットは、利用者・窓口金融機関・でんさいネットが利用契約を結ぶことで使えるようになります。
導入・審査にあたって必要な書類や具体的な手続き内容は、窓口金融機関に問い合わせましょう。
使い方①支払企業がでんさいに発生記録請求
支払企業A会社の取引が成立し、取引先B会社に対して支払義務が生じると、でんさいネットで取引先に対して支払いを行ないます。これを発生記録請求と言います。
発生記録請求を行なうと、納入企業B会社にでんさいネットから通知が届くので、納入企業B会社も「でんさいネットで支払われた」ということがわかります。
使い方②納入企業が取引先に譲渡し、でんさいへ譲渡記録請求
納入企業B会社は保有するでんさいで、自社の支払先C会社に対して支払うことが可能です。
この場合は、納入企業Bがでんさいネットに譲渡記録請求という請求を行ないます。
譲渡記録請求を行なうと、納入企業B会社が保有しているでんさいは販売先C会社へ譲渡され、これによって支払いが完了します。
販売先C会社は、B会社の持っているでんさいの債権者となり、支払期日にA会社から支払いを受ける権利を得るのです。
これが、でんさいの手形における裏書譲渡と同じ仕組みです。
前述したように、でんさいの譲渡は一部だけ可能なので、全額の裏書譲渡しかできない手形よりもメリットがあります。
使い方③でんさい期日に銀行が支払企業口座から譲渡先へ送金
でんさいの期日になると、支払企業A会社の口座からでんさいの金額が引き落とされ、譲渡先C会社の口座へ振り込まれます。これで、でんさいの決済は完了です。
手形であれば、手形の所有者が銀行へ手形の取立てを出さなければなりません。
しかし、でんさいの場合には自動的に決済が行なわれるので、手形のように現金化するために銀行へ赴く手間がかからないというメリットもあります。
でんさいは、支払い・譲渡・取立てなどの一連の手続きを全てオンライン上で完結できるので、一度登録してしまえば銀行に行く必要はありません。
でんさいについてよくある質問
- でんさいにデメリットはないのですか?
- でんさいの主なデメリットは、銀行にバレてしまい企業の評価に影響を及ぼす可能性がある点です。
また、ファクタリングと異なり、デフォルトリスクを自社が背負わなければならないのもデメリット言えるでしょう。
そもそも、でんさいは納入企業と支払企業がでんさいネットに加入していないと利用できないため、登録していない立場からすると不便に感じるケースもあります。
- でんさいは誰でも加入できますか?
- でんさいは、でんさいネットに登録した事業者であれば誰でも加入できます。
ただし、加入には銀行の一定の審査があるので、銀行取引停止処分中の人などはでんさいネットへの登録を断られてしまうかもしれません。
なお、事業者ではない一般個人はでんさいに登録できないため気をつけましょう。
- 資金不足によってでんさいの決済ができなかった場合はどうなりますか?
- 半年の間に2回でんさいが決済不能になった場合には、銀行取引停止処分となります。
これは手形の不渡りを出した場合と同じです。
銀行取引停止処分になると、銀行を経由した決済などは一切不可能になってしまうので、実質的には企業活動は継続不能になってしまいます。
- 分割払いの電子記録債権を発生させることはできますか?
- 分割払いの電子記録債権を発生させることはできません。
でんさいは、一括払いのみとなっています。
これは手形と同じです。
分割払いを希望する場合には、支払先に対して分割払いを交渉して、売掛金にて分割払いを認めてもらうしか方法がないでしょう。
- 休日にでんさいでの支払いは可能ですか?
- 休日にでんさいで支払いをすることは可能です。
銀行によって営業時間は異なりますが、例えばみずほ銀行のでんさい利用日時は以下のようになっています。
平日 :午前8時00分から午後11時45分
土曜日:午前8時00分から午後10時00分
日曜日:午前9時00分から午後5時00分
(※毎月第2土曜日、祝日、振替休日、年末年始、5月3日〜5日は利用できません。)
でんさいであれば、銀行が営業していない土日でも支払えるため、土日営業のサービス業でもでんさいでの支払いが可能です。
- 銀行ででんさい割引は扱っているのでしょうか?
- 銀行でもでんさい割引を扱っています。
でんさいネットを提供している多くの銀行で取り扱いを行なっており、金利は格付けによって決定することが一般的ですが、ほとんどの場合でノンバンクよりは金利が低くなっています。
ノンバンクに申し込む前に、銀行にてでんさい割引へ申し込みをした方がよいでしょう。
- でんさい割引にかかる時間を教えてください
- でんさい割引には審査があります。
審査にかかる時間はそれほど長くはかかりません。
例えば、三井住友銀行では、前日の15時までにでんさい割引に申し込めば翌日には現金を受け取ることが可能です。
最初に申し込む場合には審査が必要ですが、一度審査に通過してしまえば短い時間で資金調達できます。
銀行にでんさい割引枠を作成しておけば、必要なときに最短1営業日で資金調達することが可能です。
- でんさいをファクタリングすることはできますか?
- でんさいをファクターへ譲渡するということは、でんさい割引と同じです。
この場合、売掛債権の回収リスクは残ってしまいますので、売掛債権がデフォルトした場合のリスクは自社で背負わなければなりません。
でんさい割引を扱っている会社はファクターではなく、銀行やノンバンクがほとんどであり、ファクタリングとでんさい割引は異なるものです。
ファクタリングとでんさいは使い分けるようにしましょう。
でんさいを導入して支払手段や資金調達法の選択肢を広げよう
でんさいは、手形をオンライン上で管理して決済するというイメージです。
でんさい割引という手段で現金を調達することはできますが、審査に通過しない限りは資金調達できません。
また、でんさいはでんさいネットを利用している企業間でないとやりとりできないので、全ての取引先に対してでんさいでの決済ができるわけではありません。
でんさいネットを利用している企業間であれば決済・譲渡を行なえますが、でんさいネットを利用していなければこの利便性を享受することはできないので、ファクタリングと併用して利用するとよいでしょう。
ファクタリングとでんさいネットを併用すれば、でんさいネットが利用できる取引先には低コストかつ便利に決済でき、でんさいを利用していない企業にはファクタリングで売掛債権を最短即日に資金化できます。
でんさいにはファクタリングよりもメリットが大きな部分もあるので、まだ登録していない人は銀行ででんさいネットに登録してみてください。