ファクタリングは、手元にある売掛債権を売却し、資金調達をする方法です。銀行やノンバンクからの借入が難しい場合でも利用できる方法として重宝されています。
しかし、ファクタリングは資金調達方法として優れている点がクローズアップされがちですが、効果はそれにとどまりません。企業の運営を円滑にしたり、節税効果を発揮したりなど「使いやすい資金調達方法」以外のメリットもたくさんあります。
そこで本記事では、ファクタリングの効果として以下の7つを紹介します。資金調達手段としてだけでなく、ファクタリングの様々な効果を企業経営に生かせるようになりましょう。
ファクタリングの9つの効果
ファクタリングには以下の9つの効果があります。
- 担保、保証人が用意できなくても資金調達できる
- 銀行等から融資を断られたとしても利用できる
- 融資とは違い負債が増えない
- 資産のオフバランス化ができる
- 売掛債権の回収不能リスクに備えられる
- バックオフィス業務を効率化できる
- 節税効果も見込める
- (2社間の場合)取引先にファクタリングを使ったことが知られにくい
- (2社間の場合)その日のうちに資金調達できることもある
それぞれの効果について詳しく解説していきます。
1.担保、保証人が用意できなくても資金調達できる
(買取)ファクタリングはあくまで売掛債権の売却による資金化に過ぎません。融資とは違い、担保や保証人は不要です。
担保、保証人の話が出たら要注意
本来、ファクタリングには担保や保証人は必要ありません。ただし、貸金業としての登録を受けていない違法業者が、ファクタリングを口実にした債権担保貸付の勧誘をしようと、担保や保証人の話をしてくることもあります。担保や保証人の話をされた時点で「一度持ち帰ります」とでも言い、その場を離れましょう。
また、担保や保証人の話をしなかったとしても、以下の動きがあった場合は、ファクタリングを装った違法な貸付の疑いがあります。
- ファクタリングとして勧誘を受けたが、契約書に「債権譲渡契約(売買契約)」であることが定められていない
- ファクタリング業者から受け取る金銭(債権の買取代金)が、債権額に比べて著しく低額である
この場合も、まずはその場を離れたほうが無難です。
2.銀行等から融資を断られたとしても利用できる
ファクタリングは、銀行等から融資を断られたとしても利用できます。売掛債権の売却による資金化である以上、融資の場合に比べると、自社の支払能力は厳しく問われません。
100%利用できるわけではないので注意
ただし、銀行等から融資を断られた会社の場合、ファクタリングも利用できないことがあるため気をつけましょう。
特に2社間ファクタリングの場合は注意が必要です。2社間ファクタリングの場合、取引先から回収した売掛債権の相当額を最終的に利用者がファクター(ファクタリング会社)に払わなくてはいけません。しかし、利用者の資金繰りや業績に問題があった場合、支払いをせず持ち逃げする可能性もあります。
業績が芳しくない状況が慢性化しているなど、審査において不利になる要素があれば、3社間ファクタリングの利用も検討しましょう。3社間ファクタリングの場合、ファクターが取引先から直接売掛債権の回収を行います。利用者に持ち逃げされるおそれがない分、ファクターが負うリスクが軽減されるため、2社間ファクタリングに比べると審査難易度は低いです。
3.融資とは違い負債が増えない
ファクタリングは融資ではないため、使っても負債は増えません。あくまで、資産の一種である売掛債権の売却に過ぎないためです。また、負債が増えないので、将来的に銀行等の金融機関から融資を受ける際も有利になります。負債が増えていない以上、信用情報に影響も及ばないからです。
4.資産のオフバランス化ができる
ファクタリングを使えば、資産のオフバランス化も可能です。オフバランス化とは資産や取引などが事業主体の財務諸表に記載されない状態を指します。
なぜオフバランス化が必要なのか
ここで、なぜオフバランス化が必要なのか、考えてみましょう。
企業の財務分析において用いられる指標の1つに、ROA(総資産利益率)があります。ROAは次の式で求めることが可能です。
総資産利益率(ROA)=当期純利益率÷総資産 |
ファクタリングを利用すれば、分母となる総資産を減らせるため、借入による資金調達よりもROAを結果として増やせます。
借入よりファクタリングを利用するとROAが増やせる事例
借入の代わりにファクタリングを利用したことで、ROAが上昇する事例を紹介しましょう。
これは、とある会社の貸借対照表です。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 500万円 売掛金 200万円 借方合計 700万円 |
借入金 100万円 資本金 600万円(内利益100万円) 貸方合計 700万円 |
ここから、売掛金200万円を10%の手数料でファクタリングした場合、貸借対照表は以下のように変化します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 680万円
借方合計 680万円 |
借入金 100万円 資本金 580万円(内利益80万円) 貸方合計 680万円 |
この場合のROAは11.7%(=80万円÷680万円)となります。一方、借入で180万円を調達した場合の貸借対照表がこちらです。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 680万円 売掛金 200万円 借方合計 880万円 |
借入金 280万円 資本金 600万円(内利益100万円) 貸方合計 880万円 |
この場合のROAは11.3%(100万円÷880万円)となります。以上のことから、同じ額の資金調達をする場合、借入よりもファクタリングを用いたほうが、ROAを上昇させる効果が高いのが確認できます。
5.売掛債権の回収不能リスクに備えられる
ファクタリングは、売掛債権の回収不能リスクに備える手段としても有効です。本来の支払期日が到来した際に、本当に売掛債権を回収できるのかは誰にもわかりません。しかし、ファクタリングを使って早めに現金化しておけば、万が一取引先が倒産したとしても、大きな影響はないでしょう。
一般的なファクターで扱うファクタリングのほとんどは、ノンリコース契約に基づくものです。仮に取引先が倒産し、売掛債権が回収できなかったとしてもファクターから責任を追及されることはありません。代わって支払う必要もないので、安心して利用できます。
ファクタリングを利用すれば、売掛先企業の回収リスクを完全に排除して、より前向きな企業経営ができるようになるでしょう。
ただし、高い手数料であるにも関わらず、ノンリコース契約を結ばないなど、問題がある業者も混じっているケースもあるので、この点だけには注意が必要になります。
6.バックオフィス業務を効率化できる
経理や債権管理など、営業などの表に立たない業務をバックオフィス業務と言います。
ファクタリングを利用すると、バックオフィス業務の効率化も見込めます。ファクタリングによって売掛債権を売却してしまえば、自社が売掛先に督促に行ったり、集金をしたりする手間はなくなるためです。
売掛金の管理は取引先ごとの残高を計算して請求を行い、入金を確認し、未入金であれば取り立てを行うなど、対応すべき業務が多岐にわたるのが大きな特徴です。売掛債権をファクタリングしてしまえば、このような手間はかかりません。バックオフィス業務の効率化によって浮いた経営資源を営業などの収益分野へ注力することができるようになります。
また、売掛先の与信管理も企業にとっては重要な業務の1つです。売掛先が突然倒産しないように、企業は継続的に売掛先の業況に変化がないかどうかをチェックしておかなければなりません。
ファクタリングを利用すれば、与信管理は審査のプロが行ってくれるので、自社で対応する必要もなくなります。
7.節税効果も見込める
ファクタリングは節税効果も見込めます。ファクタリングの手数料は経費算入が可能です。つまり、経費分だけ利益を圧縮することができるので、その分の税金は節税することができます。
利益が出ている時は、資金繰りも充実しているためファクタリングは必要ないようにも思えるかもしれません。しかし、利益が出ている時でもファクタリングを利用すれば、節税に役立ちます。すでに触れた通りバックオフィス業務の効率化も見込めるので、検討する価値は多分にあるでしょう。
8.(2社間の場合)取引先にファクタリングを使ったことが知られにくい
あくまで2社間ファクタリングに限った話ですが、取引先にファクタリングを使ったことが知られにくいというメリットがあります。
3社間ファクタリングと違い、2社間ファクタリングは利用者とファクターのやり取りで完結します。また、債権譲渡登記が必須でないケースも多いです。そのため、利用者が触れ回りでもしない限りは、取引先にファクタリングを使ったことを知られる可能性は極めて低いです。
9.(2社間の場合)その日のうちに資金調達できることもある
これも2社間ファクタリングに限った話ですが、その日のうちに資金調達できるのも珍しくありません。
2社間ファクタリングは、3社間ファクタリングとは違い、利用にあたって取引先の同意は不要です。やり取りの手間もかからないため、申込~審査~入金までのプロセスがスピーディに進みます。
実際にその日のうちに資金調達できるかは、審査の状況や申込をした時間にもよるので断言できません。どうしてもその日のうちに、ということであれば、必要な書類を抜け・漏れなく揃えたうえで、午前中に手続きを済ませましょう。
ファクタリング3つの注意点
ファクタリングにはさまざまなメリットがありますが、デメリットや注意点も存在します。デメリットや注意点をよく理解した上で使わないと、かえって不利益を被るおそれもあるので気を付けてください。
ここでは、具体的なデメリット・注意点として以下の3つを解説します。
- 手数料が高い
- 分割払いはできない
- 売掛債権の範囲内でしか資金調達できない
1.手数料が高い
ファクタリングの手数料は高いです。
ファクタリングを利用すると、ファクターに売掛債権の回収リスクが移ります。リスクプレミアムとして、借入よりも手数料が高くなってしまうため、一般的には10%~20%(2社間ファクタリングの場合、3社間ファクタリングの場合は1%~10%)程度の手数料が必要になります。
100万円ファクタリングした場合は、最高で20万円程度の手数料がかかる計算です。たった数週間分の資金を確保するためのコストと考えると、かなり割高といえます。
売掛金の支払期日まで待てるなら、無理をしてファクタリングをする必要もありません。「本当にファクタリングをしないと資金が足りないのか」を考えて、行動するのをおすすめします。
利用が慢性化しないように注意を
また、一時的になら何ら問題ありませんが、ファクタリングの利用が慢性化しないように気をつけましょう。
ファクタリングを使えば、期日前に早期資金化できるため、短期的には資金繰りは改善します。しかし、長期的には手数料の分だけ資金繰りは圧迫されます。高い手数料を支払って毎月のようにファクタリングするのは避けましょう。
バックオフィス業務の効率化などのために恒常的にファクタリングを利用したいのであれば、できる限り手数料が安い業者を探すか、手数料交渉を行った上で進めてください。
2.分割払いはできない
ファクタリングは借入とは異なり、分割で支払うということができません。
2社間ファクタリングを利用した場合、本来の支払期日を迎え、取引先から売掛債権相当分が入金されたら、利用者からファクターへ支払わなければなりません。
この際、分割払いはできず、一括払いが必須となります。分割で支払うことになると、実質的には売掛債権を担保とした融資とみなされるためです。貸金業としての登録を済ませていないファクターが、支払方法として分割払いを認めるのはあり得ないと考えてください。
当然、一括払いともなれば資金が一気に出ていくため、資金繰りに及ぼす影響も大きくなる点には注意しましょう。
3.売掛債権の範囲内でしか資金調達できない
ファクタリングで調達することができる金額は売掛債権の範囲内のみです。
ファクタリングは売掛債権の売却で、ファクターが金額以上に高い金額で売掛債権を買い取ってくれることはあり得ません。
そのため、高額な資金をファクタリングで調達しようと思っても、売掛債権の金額が少額であれば、必要資金を調達することができないこともあります。借入ではないので、自社の売掛債権以上の金額をファクタリングで調達することは不可能です。
ファクタリングの便益が最大化される3つのタイミング
ファクタリングは適切なタイミングで使えば、企業経営にも大きなメリットをもたらします。手数料を払ってでもファクタリングを使ったほうが良いと思われるタイミングとして、以下の3つを解説します。
- 手元資金が足りない時
- 黒字で節税を図りたい時
- 与信管理が不安な時
1.手元資金が足りない時
手元資金が足りない時で、銀行融資が間に合わない時や使えない時にはファクタリングを使いましょう。2社間ファクタリングは、銀行融資を断られた場合でも使える可能性があるうえに、最短即日資金化にも対応しているためです。
ただし、手数料が高いため、あまりにも多用することはおすすめできません。しかし、「お金がなければ倒産してしまう」など急を要する場合は、ファクタリングで緊急の資金を調達することができます。
「今日どうしてもお金が必要」「銀行融資が出るまでのつなぎの資金が必要」という場合には、積極的に利用しましょう。
2.黒字で節税を図りたい時
黒字であっても節税をしたいなら、ファクタリングを利用するとよいでしょう。
手数料を経費にできる上に、ファクタリングによってバックオフィス業務の効率化を測ることができるなどの副次的なメリットもあります。
企業外部からの評価の向上も期待できる
また、バランスシートをオフバランス化することもできるので、多少なりともファクタリングで外部からの評価の向上も期待できるでしょう。
決算期前などの節税を検討しなければならないタイミングでファクタリングを利用すると、ファクタリングの資金調達面以外のメリットも享受できるので効果的にファクタリングを活用することができます。
3.与信管理が不安な時
与信管理が難しい場合も、ファクタリングを使うと効果的です。
ファクタリングを行えば、審査のプロが売掛先を審査します。自社が審査するよりもより正確に審査を行うので、初めて取引を行う売掛先の売掛債権をファクタリングすると売掛先が信用できる取引先かを知ることが可能です。
初めて取引をする取引先が、安心して取引ができる企業かどうか分からないのは珍しくありません。どれだけ最新の注意を払っても、100%正確な与信管理は難しいでしょう。
初めて取引先をする企業が「しっかりとお金を払うことができる企業かどうか心配」という場合には、手数料を払ってでも初回だけファクタリングを利用することに大きなメリットがあると言えます。
ファクタリングに関するよくある質問
- ファクタリング審査に必要な書類を教えてください。
- 必ず必要な書類は「身分証明書」「請求書」「取引通帳の写し」などです。ファクターによってはこの他にも書類を要求することもありますので、事前に必要書類について確認しておくのがよいでしょう
- 創業1年目で決算書がありません。ファクタリングは可能ですか?
- 可能です。売掛先の与信で審査を受けることができるファクタリングに創業年数はあまり関係ありません。創業1年目でも優良な売掛債権さえ持っていれば十分にファクタリングを利用することができます。
- 他社で断られた債権の売却を他のファクターに依頼することはできるのでしょうか?
- 審査基準はファクターによって異なりますので、他のファクターに相談すれば他社から断られた債権でもファクタリングできる可能性はあります。
まずはファクターへ相談してみましょう。ただし、期日を過ぎた売掛債権を売却することはほぼ不可能です。
まとめ
ファクタリングは売掛債権の早期資金化に役立つ上に、バックオフィス業務の効率化やバランスシートの改善、節税など他の様々な効果が見込めます。ただし、手数料が高いため、闇雲にファクタリングを多用することはあまりおすすめできません。
実際のところ、ファクタリングの効果を最大限発揮できるタイミングは限られています、恒常的に利用するのではなく、本当にファクタリングが必要なタイミングかを見極めた上で、「手数料を払ってでも使う意味がある」と判断できたら使いましょう。