ファクタリングでは企業の決算書のオフバランス化を図ることができるなどとよく聞きます。
「オフバランス化」と言われてもどんな意味なのか分からない人も多いのではないでしょうか?
そもそもオフバランス化とは何か、なぜファクタリングがオフバランス化になるのかについて解説します。
また、オフバランス化はいいことですが、ファクタリングのリスクについても理解しておかないと決算書が悪化してしまうこともあるので注意が必要です。
ファクタリングが決算書に与えるメリットとリスクをしっかりと理解して、できる限りファクタリングの良い効果だけを享受できるようになりましょう。
オフバランス化とは?
オフバランス化とは決算書の貸借対照表(バランスシートB/S)を小さくすることです。
ファクタリングは売掛金という資産を売却することですので、銀行などからお金を借りるよりも資産も負債も小さくすることができ、オフバランス化に繋がります。
そしてオフバランス化がされた決算書の会社は外部から評価される傾向にあります。
なぜファクタリングがオフバランス化になる構造を仕訳などから詳しく解説していきます。
貸借対照表を小さくすること
オフバランス化とは決算書類の1つである貸借対照表(バランスシート)を小さくすることです。
なぜ、ファクタリングがオフバランス化になるのか、仕訳から考えてみましょう。
以下の会社が100万円のファクタリングをしたケースで想定していきます。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 500万円 | 借入金 100万円 |
資本金 500万円 (うち利益 100万円) |
|
売掛金100万円 | |
合計 600万円 | 合計 600万円 |
では、上記の売掛金を手数料10%でファクタリングした場合の仕訳はどのようになるのでしょうか?
ファクタリングをした時の仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
未収金 90万円 売上債権売却損 10万円 |
売掛金 100万円 |
入金になった時の仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 90万円 | 未収金 90万円 |
このファクタリングをした後の貸借対照表は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 590万円 | 借入金 100万円 |
自己資本 490万円 (うち利益 90万円) *売上債権売却損が発生したため |
|
合計 590万円 | 合計 590万円 |
では、銀行から100万円借りた時の仕訳とバランスシートはどのようになるでしょうか?
銀行から100万円借り入れた際の仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 100万円 | 借入金 100万円 |
この場合の貸借対照表は以下のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 700万円 | 借入金 200万円 |
自己資本 500万円 (うち利益 100万円) |
|
売掛金100万円 | |
合計 700万円 | 合計 700万円 |
このように、ファクタリングによって資金調達した方が、借入金によって資金を調達するよりも、貸借対照表は小さくなります。
このケースでは100万円の借入金が増えているので100万円分バランスシートが大きくなってしまいました。
ファクタリングは売掛債権の売却であるため、借入金のような負債が増えないためです。
これが、ファクタリングがバランスシートにオフバランス化になるというメカニズムです。
不要な資産も負債も持たないことが企業評価の1つ
今は不要な資産も負債も持たないということが企業を評価する視点の1つになっています。
できる限りコンパクトな資産で、最大の利益をあげているということは、効率のよい経営ができているということでもあります。
また、資産というのは様々な管理コストが発生するので収益の圧迫に繋がります。
ファクタリングの対象である売掛金であっても、保有することによって貸倒引当金というコストを計上しなければなりません。
負債が少ないのがよいことは間違いありませんが、不要な資産であっても持たない方がよいとされており、できる限りバランスシートは小さい方がよいとされているのです。
ファクタリングはオフバランス化につながる
ファクタリングはオフバランス化につながることは間違いありません。
売掛金という資産を現金という資産に交換している行為ですので、外部から資金調達をしているのにも関わらず貸借対照表はむしろ小さくなります。
売掛金にはデフォルトリスクがありますが、ファクタリングによってデフォルトリスクを排除することができるので、期末の決算時に貸倒引当金を計上する費用は発生しません。
期中も期末もバランスシートが大きくなることはないので、ファクタリングはオフバランス化につながる行為なのです。
貸借対照表はその企業の資産規模を知るのに有用な財務諸表ですが、資産を保有していることはその管理コストも要していることになります。
自己に帰属する資産の切り離しや組換えが柔軟にできる方が、企業の意思決定の選択肢を広げられるという言い方もできるかもしれません。
ファクタリングによるオフバランス化のメリット
オフバランス化をすることによってバランスシートが軽くなり、外部からは「スリムでコンパクトな経営をしている」と評価されることがあります。
また、ファクタリングによってオフバランス化することによって企業経営には具体的に以下のようなメリットがあります。
- キャッシュが増える
- 融資や投資を受ける際に有利になる
- ビジネスローンを借りるよりも評価が下がらない
ファクタリングによってオフバランス化することによるメリットについてもう少し深掘りして解説していきます。
キャッシュが増える
ファクタリングは売掛金という未入金の売掛債権を現金という資産へと売却することです。
売掛金は期日になって入金されない限り支払いなどに使用することができません。
しかし、ファクタリングによって現金にすることで、企業の資金繰りは圧倒的に改善します。
ファクタリングによってキャッシュが増えるので、企業の資金繰りにファクタリングは寄与します。
ファクタリングをするとオフバランス化によってバランスシートが改善するだけでく、資金繰り表にも短期的には余裕が生まれることになるのです。
融資や投資を受ける際に有利になる
ファクタリングによってオフバランス化を図ることで、融資や投資などの外部からの資金調達に有利になることがあります。
オフバランス化の図られたバランスシートは肥大化したバランスシートよりも評価される傾向にありますし、自己資本比率なども向上するためです。
また、銀行融資の際には資金繰り表を提出する必要がありますが、ファクタリングによって資金繰りも改善しているため資金繰り表の評価もプラスになります。
借入によって資金調達をするよりも、バランスシートや資金繰り表の見た目がよくなるので、ファクタリングによってオフバランス化を図ることは外部からの自社の評価がプラスになります。
ビジネスローンを借りるより評価が下がらない
ファクタリングを利用する企業の中には、「銀行融資を借りることができなかったからファクタリングで資金調達をする」という人も少なくありません。
銀行融資の代用として利用できるローンの中に、ノンバンクが提供しているビジネスローンがあります。
ビジネスローンは借入金ですので、借りることによって貸借対照表は大きくなってしまいます。
さらに、銀行や投資家はビジネスローンというノンバンクから借入がある企業に対して「相当資金繰りに困っている」などのネガティブな評価を行います。
銀行の中にはビジネスローンを利用しているということを知っただけで、企業の格付けが下がってしまうようなこともあります。
ビジネスローンを借りるよりも、確実にファクタリングの方が外部からの評価を下げることはありません。
企業の倒産リスクを最小化するためにはキャッシュを多く保有すれば良いですが、不必要な水準まで保有していても効率の良い経営とは評価されません。
むしろ、現在は債権の状態であっても、すぐにでもキャッシュ化できる選択肢を有する方が効率の良い経営といえるでしょう。
オフバランス化によって指標はどう改善する?
オフバランス化によって企業価値が向上するということは「貸借対照表が小さくなったから」というだけではありません。
借入によって資金調達することに比べて、具体的に企業を評価する指標が向上するためです。
銀行や投資家は企業の決算書を様々な指標によって企業を評価しているので、ファクタリングによってオフバランス化をすることができれば企業価値が向上するのは事実です。
具体的にはファクタリングによってROAと自己資本比率が向上します。
ファクタリングによってこれらの指標はどの程度向上するのでしょうか?
ROAが上昇する
ROAとは総資産利益率のことで、総資産から何%の利益を生み出すことができているかという指標で、ROAが高いほど効率のよい経営ができていることになります。
ROAは以下のように計算します。
当期純利益÷総資産
上記の事例でファクタリングで資金調達した場合と借入金によって資金調達した場合のROEは以下のようになります。
- ファクタリングで資金調達をした場合のROE:利益90万円÷総資産590万円=15.2%
- 借入金で資金調達をした場合のROE:利益100万円÷総資産700万円=14.2%
このようにファクタリングを利用した方がROAは高くなります。
ROAとは、会社の総資産からどれだけ効率的に利益を生み出すことができているのかという指標です。
ファクタリングによってオフバランス化されているので、分母である総資産が小さくなります。
このため、利益はファクタリングによって小さくなったとしてもROAは向上するのです。
自己資本比率
自己資本比率とは、総資産に占める自己資本の割合がどのくらいかということを示す指標です。
自己資本比率は以下のように計算します。
自己資本÷総資産
上記の事例でファクタリングで資金調達した場合と借入金によって資金調達した場合の自己資本比率は以下のようになります。
- ファクタリングで資金調達をした場合の自己資本比率:自己資本490万円÷総資産590万円=83%
- 借入金で資金調達をした場合の自己資本比率:自己資本500万円÷総資産700万円=71.4%
負債が増えない分、自己資本比率はファクタリングを利用した方が高くなります。
会社の資産のうち、何%が自分の資本で構成されているのかという会社の安全性を示す指標が自己資本比率です。
自己資本比率が高い方が企業は安全と判断されるので、この場合にはファクタリングをして資金調達をした方が安全性が高いと判断されるのです。
ファクタリングの注意点
ファクタリングによって「企業価値が向上し」、「外部からの資金調達もしやすくなり」、「自社の資金繰りも改善する」と聞けば、ファクタリングには良いことづくめのように思ってしまいます。
しかし、これらのメリットはあくまでも短期的なものと言わざるを得ません。
ファクタリングは手数料が発生するので、確実に収益には悪影響になるためです。
「オフバランス化するからどんどんファクタリングをした方がいい」というのは短絡的です。
ファクタリングが決算書に及ぼすデメリットについても理解した上で利用しましょう。
オフバランス化には寄与するが収益にはマイナス
ファクタリングは売掛債権を売却して資金化する行為で、確かにバランスシートのオフバランス化には寄与します。
しかし、先ほどの仕訳でも分かるように、ファクタリングには決して安くない手数料が発生します。
ファクタリングの手数料は高い場合には20%程度にもなりますので、その費用負担は確実に収益を圧迫します。
確かにオフバランス化によってROAや自己資本比率は向上し、この面では企業評価はプラスになるでしょう。
しかし、この評価はあくまでも企業を評価する補完的な情報です。
企業を評価する点で最も重要なことは、やはり「いくら儲かっているか」です。
ファクタリングは手数料負担が増大し、企業収益を圧迫します。
本質的な企業評価のポイントである収益を犠牲にしてまで自己資本比率やROAの向上を図っても、外部からの評価が大きく向上することはありません。
やはり「どれだけ儲かっているか」を最優先に考え、できる限り不要な手数料を負担しないようにする必要があります。
手数料によっては指標が下落する可能性もある
ファクタリングによってオフバランス化を図ることができる可能性があるのは事実です。
しかし、手数料負担があまりにも多すぎると、利益が減ってしまいます。
利益が減ればROAなどの利益に関連する指標はむしろ下がってしまうことがあるのです。
上記の事例で100万円の売掛金を30%の手数料を支払ってファクタリングした場合を考えてみましょう。
貸借対照表は以下のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 570万円 | 借入金 100万円 |
自己資本 470万円 (うち利益 70万円) *売上債権売却損が30万円発生したため |
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合計 570万円 | 合計 570万円 |
上記貸借対照表からROAを計算すると以下のようになります。
ROA:利益70万円÷総資産570万円=12.2%
この場合のROAは12.2%です。
100万円を借入によって調達した場合のROAは14.2%ですので、あまりにも手数料が高いとファクタリングをした方が指標が悪化してしまうことになるのです。
ファクタリング業者は貸し倒れリスクを負担する以上、そのリスクを利用手数料に反映させます。
利用手数料を吸収しても自社の損益や財務内容を悪化させない水準が、ファクタリングを利用するためのハードルレートとなります。
ファクタリングのメリットを最大限生かすために
ファクタリングにはメリットもありますが、デメリットもあることを解説しました。
できる限りメリットを享受してデメリットを極力排除する方法は1つだけです。
それが手数料負担を抑えるということです。
できる限り手数料の安いファクタリングを行う
ファクタリングには資金繰りを改善するだけでなくオフバランス化をすることができるというメリットがあります。
しかし手数料が高すぎてしまうと利益を圧迫し、ROAすら下落してしまうこともあります。
ファクタリングのメリットを享受してデメリットを排除するためにはできる限り手数料が低い会社を選択することが重要です。
ファクタリング会社の手数料は業者によってまちまちですし、業者の中には30%以上もの高額手数料を設定するような悪徳業者も相当数混じっています。
このような業者と取引をしてしまうとROAまで下落してしまうという事態になってしまう可能性があります。
できる限り手数料が低いファクタリング会社を選びましょう。
どこが手数料が安い優良業者か分からない時には複数の業者へ相見積もりをとり、最も手数料が安い業者と取引を行うことが重要です。
一般に、取引実績や買取先が多いファクタリング業者の方が、買い取る債権の個々の貸し倒れリスクを適切に評価できるため、結果として利用手数料を低く抑えることができるようです。
また、特定の業種や地域に強いといったファクタリング業者もあり得ます。
ファクタリングのメリットを更に詳しく知りたい方へ
ファクタリングは借入金ではなく、売掛金の売却ですのでファクタリングをすることによって貸借対照表が大きくなることはありません。
借入によって資金調達をすることに比べると貸借対照表は小さくなり、オフバランス化に寄与します。
資金繰りが改善し、オフバランス化も図ることができるので、ファクタリングによって銀行や投資家などの外部からの評価が上昇する可能性は確かにあります。
しかし、ファクタリングには銀行借入よりも高額な手数料がかかるので借入をするよりも利益を圧迫することは間違いありません。
あまりにも手数料が高いと、ROAなどの指標が銀行借入をした時よりも悪化することがあります。
ファクタリングのメリットを最大限享受しつつ、デメリットを極力排除するためにはできる限り手数料の低い業者でファクタリングをするようにしましょう。
企業経営者の当事者の立場からすれば、「どれだけ儲かっているか」という損益計算書(P/L)を自ずと重視してしまいがちですが、金融機関などの利害関係者の立場からすれば、その企業の将来の収益獲得のための資金の「調達源泉(負債・純資産)」とその「運用形態(資産)」を顕す貸借対照表(B/S)を重視する傾向にあります。
また、損益計算書は「過去の結果」であるのに対し、貸借対照表は「企業の将来を占うもの」ともいえます。
ファクタリングは、利用の仕方によって資金繰りにも財務安定性にも寄与するものであり、上記のような貸借対照表を俯瞰した利用を心掛けたいものです。