電子記録債権(でんさい)は、2012年9月よりサービスが開始された、比較的新しい決済システムです。

従来の手形の弱点を克服した新たな金銭債権として、また、企業の資金繰り改善手段のひとつとして注目されていますが、その普及率は決して高いとは言えず、導入して活用するにはさまざまな手続きが必要となります。

企業の資金繰りを改善する手段には、売掛債権譲渡のファクタリングもあります。

いずれも債権を割引、あるいは譲渡することで資金調達を可能としていますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

今回は、電子記録債権の基礎知識を解説しつつ、ファクタリングとの違いや使い分けについても言及します。

電子記録債権(でんさい)とは

でんさいとは

電子記録債権とは、従来の手形や指名債権(売掛債権等)の問題点を克服した新たな金銭債権です。

債権を電子的に記録して管理、企業の資金調達の円滑化等を図ることを目的に、2008年12月施行の電子記録債権法により創設されました。

その発生・譲渡は、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することが、効力発生の要件です。

電子債権記録機関とは

電子債権記録機関は、記録原簿(登記簿のようなもの)を備え、利用者の請求に基づいて、電子債権を記録・管理することを主業務とするシステムです。全国銀行協会が100%出資する「全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)」をはじめ、三菱UFJ銀行の「日本電子債権機構(JEMCO)」、みずほ銀行の「みずほ電子債権記録」などがあります。

支払企業・受取企業は、パソコンやファクシミリから銀行・信用金庫などネットワークに参加している金融機関の専用システムにアクセスして、電子記録債権の発生・譲渡・決済といった取引が可能です。

電子記録債権は、企業の債権管理コストの削減や資金繰り改善の効果に期待されています。

電子記録債権のメリット

でんさいのメリット

電子記録債権と従来の手形と比較した場合に、支払企業・受取企業それぞれが受けるメリットについて解説します。

支払企業のメリット

領収書への印紙貼付が不要

手形を振出す場合、額面金額に応じた印紙税がかかりますが、電子記録債権は印紙税の課税対象外ですので、コスト削減につながります。

手形作成、郵送準備、集金対応が不要

手形を複数の取引先に振出す際は、作成や郵送のために面倒な作業やコストがかかります。また、受取企業から集金のための訪問があった場合は、担当者が対応しなければなりません。

電子記録債権はパソコンやファクシミリを使ってデータを送信する作業をするだけですので、手間やコストを削減できます。

受取企業のメリット

集金・取立手続きが不要

手形は支払期日が来ると、支払企業へ集金に行ったり、銀行に出向いて取立の手続きをしたりする必要があります。

電子記録債権は電子債権記録機関を通じて自動的に自社の銀行口座に振込が行なわれるため、受取企業はパソコンやスマホで口座残高を確認するだけで、集金や取り立て手続きが不要です。

分割できる

手形は額面をそのまま譲渡や割引することになりますが、電子記録債権は、額面の一部を分割して譲渡や割引が可能です。

たとえば、A社に対する500万円の債権のうち100万円だけをB社に譲渡したり、200万円を割引したりすることができます。
必要最小限を分割して割引くことで、割引料を節約できますが、分割するとごに手数料がかかります。

紛失・盗難の心配がない

紙ベースの手形は物理的に紛失や盗難のリスクがあり、金庫等で厳重に保管しなければならず、それだけ管理コストがかかってしまいます。

電子記録債権はペーパーレスなので、手形のような紛失や盗難のリスクがありません。

電子記録債権のデメリット

電子記録債権を利用するにあたっては、以下のようなデメリットがあることにも留意する必要があります。

電子債権記録機関への登録が必須

電子記録債権を利用するには、支払企業と受取企業の双方が、電子債権記録機関への登録が必須です。

自社が電子記録債権を利用したいと思っていても、相手が電子記録債権に対応できなければ利用できません。

現在、電子記録債権を利用している事業者数は、全体の12%程度とされています。

支払不能のリスク

従来の手形と同じく、電子記録債権も支払期限までに口座間による決済や支払がなされなかった場合は、手形の不渡りに相当する「支払不能」が発生します。

債務者(支払企業)には支払不能処分が科され、2回支払不能になれば実質倒産となります。

また、債権者(受取企業)も取引先が支払不能となれば、売掛金を回収することができず、黒字倒産リスクが伴います。

電子記録債権を現金化する方法

電子記録債権を現金化するには、以下の方法があります。

  • 期日決済
  • 譲渡された電子記録債権の決済
  • 割引

それぞれの現金化までの流れを解説します。

電子記録債権の現金化は、パソコンやファクシミリを通じて、その記録を請求することで作業が完結します。

期日決済

期日通りに支払企業と債権者の二社間で電子記録債権を決済する方法は、以下の流れで行われます。

  1. 信用取引の発生
  2. 支払企業が窓口金融機関のシステムを通じて発生記録の請求を行う
  3. 電子債権記録機関が記録原簿に発生記録を行う
  4. 受取企業に窓口金融機関のシステムを通じて発生記録の通知が行われる(売掛債権の発生)
  5. 支払期日に支払企業の銀行口座から受取企業の銀行口座へ資金が自動的に送金される

譲渡された電子記録債権の決済

電子記録債権を受け取ったら、第三者(孫請業者など)に譲渡することもできます。

譲渡された電子記録債権の現金化は、以下の流れで行います。

  1. 信用取引の発生
  2. 支払企業が窓口金融機関のシステムを通じて発生記録の請求を行う
  3. 電子債権記録機関が記録原簿に発生記録を行う
  4. 受取企業に窓口金融機関のシステムを通じて発生記録の通知が行われる(売掛債権の発生)
  5. 受取企業が第三者に譲渡する旨を、窓口金融機関のシステムを通じて「譲渡記録」の請求を行う
  6. 電子債権記録機関が「譲渡記録」を行なう
  7. 支払期日に支払企業の銀行口座から直接、第三者の銀行口座に資金が自動的に送金される

割引

電子記録債権は、従来の手形のように割引依頼をすることで現金化も可能です。割引による現金化の流れは、以下のとおりです。

  1. 信用取引の発生
  2. 支払企業が窓口金融機関のシステムを通じて発生記録の請求を行う
  3. 電子債権記録機関が記録原簿に発生記録を行う
  4. 受取企業に窓口金融機関のシステムを通じて発生記録の通知が行われる(売掛債権の発生)
  5. 受取企業が窓口金融機関のシステムを通じて銀行に割引申込を行う
  6. 割引申込を受けた銀行は審査を行い、でんさいネットに譲渡記録の請求を行う
  7. 割引が実行され、銀行から受取企業の預金口座に資金が支払われる
  8. 支払期日に支払企業の銀行口座から、割引を行った銀行へ資金が自動的に送金される

電子記録債権とファクタリングの違い

でんさいとファクタリングの違い

電子記録債権とファクタリングでは、以下の点で違いがあります。

電子債権記録機関への加入の有無

電子記録債権は、自社と取引先の双方が電子債権記録機関に加入している必要があります。

ただし、新しい取引先が増えても、その企業がでんさいネットに加入していれば、新たに口座を作る必要がなく、スムーズに支払いや譲渡ができるようになります。

ファクタリングは電子債権記録機関への加入が不要で、ファクタリング会社に申し込めば債権譲渡が可能です。

緊急の資金調達が必要なシーンでは、ファクタリングのほうが利便性が高いと言えるでしょう。

手数料が異なる

電子記録債権の利用には、銀行ごとに手数料が設定されていますが、基本的には振込手数料程度のコストしかかかりません。

一方で、ファクタリングを利用すると、2社間ファクタリングの場合は利用金額の10〜20%、3社間ファクタリングの場合は利用金額の3〜10%の手数料が発生します。

電子記録債権には償還請求権(遡求権)がある

償還請求権(遡求権)とは、手形の振出人が経営不振や倒産等が原因で不渡りになると、割引を依頼された金融機関が受取人に対し、買い戻しを請求できる権利のことです。

電子記録債権も手形割引と同様に償還請求権があるため、債権者が保証人となって返済義務を負うリスクがあります。

たとえば、自社とクライアントとの取引で発生した電子記録債権を、その孫請業者に譲渡するとして、クライアント(債務者)が支払不能となれば、自社が金融機関と孫請業者に支払い義務を負うことになります。

ただし、債務者に代わって弁済した債権者は、支払等記録をする法的要件を満たすことで「特別求償権」を取得します。特別求償権とは、債務者および自分より前に電子記録保証人となった者に求償できる権利のことです。

ファクタリングは償還請求権がないノンリコース契約ですので、万が一、売掛先が支払不能に陥っても、債権を買い取ったファクタリング会社がリスクを負担するため、ファクタリング利用会社には返金の義務が生じません。

ただし、ファクタリング会社が負うリスク相応の手数料を支払うことになります。

ファクタリングと電子記録債権についてQ&A

ファクタリングと電子記録債権について、Q&A方式で解説します。

Q.電子債権記録機関は、個人事業主でも登録可能ですか?
A.日本国内に居住していること、反社会的勢力に属さないことなど、一定の要件を満たす法人、個人事業主であれば登録できます。登録の際は、電子債権記録機関の参加金融機関と利用契約を締結する必要があります。でんさいネットであれば、全国500以上の金融機関が参加しているため、取引のある金融機関で利用契約が結べる可能性が高いです。
Q.電子記録債権を割引で資金化するにはどれくらいの時間がかかるでしょうか?
A.電子記録債権の割引には審査がありますが、基本的には1~2営業日以内に資金化が可能です。
Q.電子記録債権でファクタリングはできますか?
A.三菱UFJファクター(三菱UFJ銀行の子会社)が提供する「でんさい一括ファクタリング」などのサービスを利用することで、受取企業が保有する電子記録債権をファクターが買い取って現金化、決済事務はファクターが一括して引き受けます。ただし、割引とは異なり、償還請求権のない契約となるため、手数料は高めに設定されています。
Q.でんさいネット等を利用するのに、インターネットバンキングの導入が必要ですか?
A.必要となるケースが多いです。2019年頃までは店頭での手続きも可能としていた金融機関もありましたが、現在はインターネットバンキングによる利用に限る金融機関が多くなっています。
Q.他の記録機関(日本電子債権機構、みずほ電子債権記録など)発生した電子記録債権を、でんさいネットで利用することはできますか?
A.電子記録債権の債権者が債務者の承諾を得て、提携している記録機関に「特定記録機関変更記録」という請求を行うことにより、提携記録機関にて発生した電子記録債権をでんさいネットで利用することができます。ただし、特定記録機関変更記録には所定の手数料がかかります。

ファクタリングと電子記録債権は使い分けが重要

電子記録債権は従来の手形に代わるシステムで、手形のように割引することで早期の資金調達が可能です。

しかし、取引先も電子債権記録機関に登録している必要があり、割引で資金調達をするには審査に通過する必要があります。

ファクタリングは電子記録債権や手形と異なり、回収前の売掛債権さえあれば利用可能で、審査は売掛先の信用力が重視されます。

ただし、ファクタリング手数料は電子記録債権にかかる手数料と比べて高めです。

電子記録債権とファクタリングはそれぞれ一長一短あるため、シーンに合わせた使い分けが重要です。

資金調達を検討する際は、利便性や調達コストを比較しながら、よりリスクの低い方法を選択しましょう。