事業を行う上で、経営者を悩ませる原因の一つが「資金繰り」です。
「毎月が自転車操業でつらい」「最終的な利益がない」と悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、会社が資金繰りに陥ったときの対策や資金調達方法、資金繰りが厳しくなる原因について解説します。
記事を読むことで、資金繰りを改善するために経営者が取るべき行動を知ることができます。
「資金繰りが厳しい」と感じたらまずは銀行に相談
資金繰りが厳しいと感じたらまずは銀行に出向き、融資や返済猶予の相談をしましょう。
その際に重要なのが資料作りです。
なぜなら、銀行の担当者は業界や経営状況について細かく把握しているわけではないからです。
具体的には現在の経営状況を理解してもらうため、下記の5項目を「経営改善計画書」としてまとめ提出しましょう。
- 業界の現状
- 業界内での自社の立ち位置
- 決算書の変化
- 今後の取り組み
- 銀行への要望
また数値を補填する根拠として、資金繰り表も作成しておきましょう。
資金繰り表の作成方法は、資金繰り表の作り方・活用方法を簡単解説!エクセルフォーマット付きをご覧ください。
銀行を利用した資金繰り改善の方法として、新規・追加融資の他に下記の3つがあります。
- 条件の変更(リスケ)
- 返済猶予
- 借入の一本化
貸出条件の変更(リスケ)
リスケでは下記の2つの方法により、むこう1年間の返済額が見直されます。
- 減額した分だけ2年目以降を増額
- 減額した分は最後の返済に上乗せ
どちらの方法にしても、会社の業績によっては2年目以降の負担が大きくなります。
そのため「毎年の経営状況によって契約内容を更新していく」というのがリスケの実情です。
リスケのデメリットとして、下記の2つがあります。
- 新規借入ができない
- 金利が上がる
中小企業庁では新型コロナウイルスの影響により経営難となった企業を対象に、リスケの支援を行っています。
詳細は新型コロナ特例リスケジュール支援をご覧ください。
返済猶予
元金の返済を、6ヶ月〜1年猶予してもらう方法です。
猶予期間中は利息のみの返済になるため、毎月の資金繰りに余裕が生まれます。
またリスケと同様に、業績次第では期間終了後も更新可能です。
リスケ・返済猶予は銀行のデメリットが大きくハードルが高いように感じますが、ほとんどのケースが承認されます。
なぜなら無理に返済をさせて、倒産される方が銀行にとっては損失になるからです。
貸付条件の変更等の状況についてによると、令和2年3月10日から令和4年3月末に申請された中小企業のリスケのうち99.0%が実行されています。
融資が信用保証協会を介したものであれば、銀行は貸倒れの心配がないためよりハードルは低くなります。
借入の一本化
複数の銀行からの借入を1つにまとめることで、毎月の返済額を減らす方法です。
A銀行とB銀行から1,500万円ずつ借り入れ、毎月それぞれに50万円ずつ返済するケースを考えます。
合計3,000万円の借入に対して4,000万円を新たに融資を受け一本化することで、下記のように毎月の返済額を減額できます。
借入残高4,000万円の毎月の返済額が70万円とすると、一本化する前後での差は+30万円です。
借入残高 | 毎月の返済額 | |
---|---|---|
一本化前 | A銀行:1,500万円 B銀行:1,500万円 |
各行に50万円 |
一本化後 | C銀行:4,000万円 | 70万円 |
また返済期間を伸ばすなど計画を組み直すことで、返済額をより減らすことも可能です。
銀行以外の資金繰り改善方法5選
銀行への相談以外にもさまざまな方法で、コストカットや資金調達を行う必要があります。
資金繰りが厳しい時に検討すべきコストカット、資金調達方法として下記の5つがあります。
- 売掛金・買掛金の交渉
- 資産売却
- 手形割引
- ファクタリング
- 補助金・助成金
売掛金・買掛金の交渉
期日前の売掛金・買掛金がある場合、期日変更の交渉を検討しましょう。
売掛金の期日を短く、買掛金の期日を延ばすことで、手元に資金が滞留する期間が長くなり毎月の資金繰りに余裕が生まれます。
ただし取引先に経営難を疑われる可能性があるため、注意が必要です。
交渉をする際は一方的に都合を押し付けず、取引量の増加や優先的な支払いなど取引際のメリットとあわせて提案することで成功率が上がります。
資産売却
会社が所有する土地や有価証券、設備などを売却し資金を得る方法です。
売却する資産によっては、目先の現金を得られるだけでなく、維持費の削減にもなるため短期的・長期的な効果があります。
会社の資産には流動資産・固定資産・繰延資産の3種類があり、売却できるのは流動資産と固定資産です。
各資産の例は以下の通りです。
- 流動資産:預金、有価証券、売掛金、商品在庫
- 固定資産:不動産、設備、特許権、ソフトウェア
- 繰延資産:開業費、株式交付費
資産売却による資金調達を行うときは、下記の3点を判断基準としましょう。
- 売却によって必要な資金を調達できるか
- 売却しなかった場合の将来的な利益・損失
- 売却した場合の将来的な利益・損失
手形割引
期限前の受取手形と引き換えに、現金を受け取る方法です。
期限が数ヶ月先の手形であっても、1週間程度で現金に変えられます。
仕組みは後述のファクタリングと似ていますが、現金化の対象が異なります。
ファクタリングでは売掛金の債権が取引の対象であるのに対して、手形割引の対象は受取手形のみです。
手形割引のデメリットとしては、期限日までの利息相当分が手数料としてかかる点があげられます。
また分割での譲渡は不可、買い戻しは債権者(手形割引人)の同意がないとできないため注意しましょう。
融通手形はNG
融通手形とは、実際には行われていない取引に振り出される手形です。
融通手形であっても、手形割引による資金調達ができます。
しかし実際には取引がないため手形の期限までに現金を用意するハードルが高く、不渡になりかねません。
不渡は手形を振り出した側・振り出された側どちらの信用も大きく低下させます。
ファクタリング
ファクタリングとは、未回収の売掛金の債権をファクタリング業者に買い取ってもらう資金調達方法です。
通常であれば売掛金は回収日まで受け取れませんが、ファクタリングを利用することで最短即日で現金を得られます。
ファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの2種類があり、違いは以下の通りです。
2社間ファクタリング | 3社間ファクタリング | |
---|---|---|
売掛先の同意 | 不要 | 必要 |
債権譲渡登記 | 必要 | 不要 |
手数料 | 10〜20%程度 | 5〜10%程度 |
資金化 | 最短即日 | 1週間〜10日程度 |
ファクタリングの詳細は【国も勧める資金調達方法】ファクタリングの仕組みを分かりやすく解説をご覧ください。
補助金・助成金
中小企業向けに、さまざまな補助金や助成金が国によって実施されています。
審査が必要であったり、用途や目的が決まっていたりしますが、上手に活用することで返済を必要としない資金調達が行えます。
代表的な補助金・助成金が下記の3つです。
補助金・助成金 | 目的 |
---|---|
小規模事業者持続化補助金 | 商品宣伝、ホームページ開設 |
IT導入補助金 | IT導入による業務の効率化、見える化 |
雇用調整助成金 | 休業手当の支払い |
中小企業向けの補助金・助成金は、ミラサポplusで検索できます。
資金繰りが厳しいときこそ注意!支払いの優先順位
各種支払いは事業への影響の大きさによって、重要度が異なります。
そのため支払いの優先順位を決め、重要なものから確実に支払いましょう。
具体的な優先順位は、下記の通りです。
- 約束手形・小切手
- 人件費
- 取引先への支払い
- 税金
- 銀行融資の返済
1位:約束手形・小切手
約束手形・小切手が期限までに決済ができなければ、不渡となり会社の信用に大きく影響します。
また6ヶ月以内に2回の不渡を出すと、金融機関との取引が2年間停止され実質的な倒産となります。
2位:人件費
給与の不払いは、従業員の会社離れの原因となります。
資金繰りが厳しい状況で従業員がいなくなれば、売り上げを立てられず状況はより悪化します。
また給与の不払いは刑事罰の対象でもあるため、優先的に支払いましょう。
3位:取引先への支払い
取引の実績や交渉次第では、支払いを猶予してもらうことができます。
ですが取引先も資金繰りに余裕がない場合もあるため注意が必要です。
契約の不履行は信用関係に影響し、取引の停止などにつながることがあります。
そのため人件費などと比べて優先度は低いものの、早急に支払うべき対象です。
4位:税金
税金の滞納が、会社運営にただちに影響することはありません。
ただし督促を放置していると、差押に発展する可能性があるので注意しましょう。
また銀行からの借入と違い、下記に該当する場合は法人破産をしても税金は免責されません。
- 無限責任社員である
- 第二次納税義務者である
- 納税保証をしている
納税が難しい場合は、税務署に申請をすることで支払いを猶予してもらえます。
猶予の申請や必要書類の詳細は、国税庁『国税を期限内に納付できないとき』をご確認ください。
5位:銀行融資の返済
銀行は資金繰りが厳しい旨を伝えることで、返済を猶予してくれることがあります。
なぜなら銀行としては、無理な支払いで倒産される方が損失だからです。
リスケや返済猶予などを受けられるケースが多いため、資金繰りが厳しいときは積極的に相談してみましょう。
資金繰りが厳しいときの最終手段
売掛金の交渉や銀行融資のリスケなどを行っても資金繰りが厳しく、自社での再建が望めないときの最終手段として下記の2つがあります。
- 早期経営改善計画策定支援・経営改善計画策定支援
- 民事再生
早期経営改善計画策定支援・経営改善計画策定支援
早期経営改善計画策定支援と経営改善計画策定支援は、中小企業の経営状況を改善するための支援制度です。
上記制度のメリットは次の2つです。
- 国の認可を受けた専門家の支援を受けられる
- 必要費用の2/3を国が負担
早期経営改善計画策定支援と経営改善計画策定支援の違いは、以下の通りです。
目的 | 支援の上限金額 | |
---|---|---|
早期経営改善計画策定支援 | 資金管理や経営状況の確認など、早期的な改善 | 15万円 |
経営改善計画策定支援 | 資金的な支援を必要とする本格的な経営改善 | 200万円 |
民事再生
民事再生とは、裁判所の介入を受け経営状況を改善する制度です。
裁判所の認可を得ることで、無担保の融資を減額できます。
資金繰りが厳しくどうにもならない状況でも、すぐに破産手続きを行わず民事再生を検討しましょう。
また民事再生と似た制度に「会社更生」があります。
民事再生と会社更の違いは「誰が再建業務を行うか」です。
会社更生では大企業を対象に、裁判所が選任した管財人が再建業務を行います。
民事再生・会社更生の詳細は民事再生とは?民事再生の要件と会社更生との違いを徹底解説をご覧ください。
資金繰りが厳しくてもしてはいけないこと
会社の資金繰りが厳しいとき、経営者はなんとかして資金調達・コストカットを行わなければなりません。
しかし中には、利用すべきでない資金調達方法、無視してはいけない支払いがあります。
具体的には下記の2つです。
- 税金の滞納
- 街金や商工ローンの利用
税金の滞納
税金の滞納は延滞税や、財産の差押に発展します。
延滞税とは納付が遅れた場合に、遅れた日数に応じて支払う税金です。
税金は滞納してもすぐに督促や電話確認がされないため、つい放置してしまう経営者も少なくありません。
税金の滞納による個人(経営者)と法人のデメリットには下記があります。
個人(経営者) | 法人 |
---|---|
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また通常の債権と異なり、税金滞納による差押は裁判を介さずに行われます。
どうしても納付が厳しい場合は、猶予を申請することができます。
税金の猶予相談・申請の担当は、所轄の税務署です。
また一般的な質問については、国税局猶予相談センターへの電話または『国税の納税の猶予制度FAQ』で確認できます。
街金や商工ローンの利用
借入先として、街金や商工ローンを利用するのはできるだけ避けましょう。
街金や商工ローンは最大18%/年と高金利なため利払いの負担が増え、返済が間に合わず結局は資金がショートする可能性が高まります。
また「高金利でも借りている = 経営状況がかなり悪い」と銀行に判断され、融資・猶予を断られる可能性もあります。
街金や商工ローンには無担保で即日融資が受けられるなどのメリットがありますが、資金繰りにおいてはデメリットの方が大きくなりがちです。
資金繰りが厳しくなる原因
資金繰りが厳しくなるのには必ず理由があり、その理由を把握できなければ来年も同じことを繰り返すことになります。
資金繰りが厳しくなる理由として、下記の3つがあげられます。
- 急激な売上の増加
- 損益計算書だけで資金繰りを考えている
- 資金繰りが厳しくなりやすい業種である
急激な売上の増加
急激に売上が増加すると、仕入れ費や人件費などの経費も比例して増加します。
売上が売掛金によるものであれば回収までにタイムラグがあり、仕入れ費や人件費によって資金がショートする可能性があります。
売上の急増に耐えるためには、最低でも1,2ヶ月分の運転資金の確保が必要です。
大口の取引先の開拓や、販路の拡大に成功した場合は急いで資金調達を検討しましょう。
売上の増加による運転資金の借入は銀行の融資を引き出しやすいため、発注書などを持って相談に行きましょう。
損益計算書だけで資金繰りを考えている
損益計算書だけで資金繰りを考えるのは、(黒字)倒産の元です。
損益計算書は資金繰りを行った結果の数値をまとめたものであり、収支の過程は確認できません。
また売上は発生主義であり、未回収の売掛金も売上として計上されます。
そのため「結果が黒字でも、売掛金の入金がなければ赤字」というケースも存在します。
会社経営において、損益計算書が黒字になることは重要です。
しかし日々の資金繰りにおいては、資金繰り表によって収支の過程を確認することも忘れてはいけません。
資金繰りが厳しくなりやすい業種である
常に資金繰りが厳しい場合、業種が原因であることも考えられます。
資金繰りが厳しくなりがちな業種の例が、製造業と建設業です。
どちらも売り上げを回収するまでに数ヶ月かかることが多く、その間の運転資金を確保しておく必要があります。
手付金や中間金をもらい資金繰りを行うこともできますが、取引終了までの預かり金であるためおすすめはできません。
また観光業やアパレル業など、季節によって売り上げが大きく変わる業種も同様です。
資金繰りに関するFAQ
- 資金繰りを相談できる専門家はいますか?
- 資金繰りの相談先として、下記があげられます。
・税理士、会計士
・商工会、商工会議所
・よろず支援拠点
・中小機構
いずれも相談料は無料です。
- 資金繰りが厳しいため負担の大きい社会保険を脱退したいのですが可能ですか?
- 原則として社会保険の脱退はできません。
法人であれば社長1人の会社であっても、社会保険への加入が義務付けられています。
社会保険の脱退が認められるのは、下記に該当する場合のみです。
・事業を廃止(解散)する場合
・事業を休止(休業)した場合
・他の事業所との合併により事業所が存続しなくなる場合
・一括適用により単独の適用事業所でなくなった場合
- 会社の資金を社長である自分のポケットマネーから出すのは問題ありませんか?
- 法的な問題はありませんが、税務上での注意が必要です。
借用書がないと会社への贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります。
贈与税とみなされるのを防ぐには、借用書の作成が効果的です。
資金繰りが厳しいと感じたら早めの行動を
会社の資金繰りが厳しいと感じたら、なるべく早く銀行へ相談をしましょう。
銀行では融資だけでなく、毎月の返済に関してさまざまな措置が取られています。
また同時にコストカット、民間企業からの資金調達などの検討も必要です。
中には、書類の用意や申請から調達までに時間がかかるものも少なくありません。
そのため経営者には常に資金の流れを把握しておき、いち早く行動することが求められます。
まずは資金繰り表を作成し、会社の収支を見える化するところから始めてみましょう。
資金繰り表の作成方法は資金繰り表の作り方・活用方法を簡単解説!エクセルフォーマット付きをご覧ください。