「急な出費があったため、次の給料日までに食いつなげるか不安……」
「借金ではない方法で、個人が給料日前に現金を調達できる方法はないか?」
そんな緊急時に活用できる現金調達方法のひとつに、給料前払いがあります。
「給料前払い」と聞くと、上司や社長に頭を下げて何とか給料の前払いに応じてもらう……というイメージがあるかと思います。
もちろん、会社に状況を説明して承諾を得ることで前払いに応じてもらえるケースもありますが、月払いとは別に、サービス事業者と提携してスマホやパソコンから手軽に給料の前払いができる「給料前払いサービス」を福利厚生のひとつとして導入している企業もあります。
今回は給料の前払いについて、サービスの概要や、「給料前借り」「給料ファクタリング」といった間違えやすいサービスとの違いについて解説します。
給料前払いとは
給料の前払いとは、すでに働いた分の給料を給料日より前に受け取ることです。
あくまでも前払いは「すでに働いた分の給料に限られる」ということがポイントで、借金ではありません。
労働基準法第25条では、「非常時払」として給料の前払いを以下のように規定しています。
第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する給料を支払わなければならない。
つまり、労働者(あるいはその家族)が出産や疾病、災害などの非常時に、給料の前払いを請求した場合、使用者(雇用主)は「既往の労働に対する給料」を支払う義務があるということです。
使用者側は非常時払の請求に応じないと、法律違反として30万円以下の罰金が課されます。
給料前払い請求の手続きは勤務先によって異なります。最近では専用のスマホアプリから申し込むだけで、前払い請求ができる「給料前払いサービス」を導入している企業も増えています。
給料前払いサービスとは
給料前払いサービスとは、企業に代わって従業員の給料の前払い請求を受け、指定の口座に給料の前払い分を振り込むサービスのことです。
従業員側のメリット
勤務先の企業が給料前払いサービスを導入していれば、従業員は面倒な給料前払い請求の手続きを踏まえる必要がなく、専用のスマホアプリなどから簡単な手続きで即時現金を受け取ることができます。
従業員がサービスを利用するのにかかるコストは数百円のシステム利用料や振込手数料のみですので、上司や人事担当者に直接前払いを嘆願するよりも気軽に給料前払いが可能です。
企業側のメリット
給料前払いは勤怠管理データをもとに「すでに働いた分の給料」を算出するのみならず、支払い、記録、次回給与からの差し引きなどの業務を伴います。従業員数の多い企業は給料前払い請求の都度これらの対応へリソースを割かなければなりません。
上記の業務をサービス事業者が請け負うことで、利用会社は導入の初期費用や月額費用のみで給与前払いを行えるようになります。
さらに、給料の前払いや日払い、週払いを希望する従業員のニーズを満たし、人材の獲得や定着を図ることができます。実際に給料前払いを福利厚生として組み込むことで、求人応募数の増加や人材定着率の向上を実現している企業が増えています。
給料の前払いと給料の前借りの違い
給料の前払いと似たような言葉に「給料の前借り」がありますが、前払いは借金ではないということに注意しなければなりません。
一方で、給料の前借りは文字通り「借金」です。
まだ働いていない分の給料も前借りできるとした場合、従業員が前借りしてそのまま音信不通となるリスクもあるため、前借り制度を採用している企業は多くありません。
さらに、労働基準法第17条では、給料の前借り(前貸し)について以下のような記載があります。
第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と給料を相殺してはならない。
法律では使用者(企業、雇用主)が従業員に給料の前借りとしてお金を貸し、貸した分を次回以降の給料から差し引くことを禁止しています。
そのため、労働者と会社が天引きに同意すれば、会社独自のルールで前借りが成立する場合もあります。
前借りをする場合は、一般的に口頭ではなく同意書や借用書を作成することになります。
給料前払いサービスと給料ファクタリングの違い
給料前払いと混同されやすいサービスに「給料ファクタリング」があります。
給料ファクタリングとは、将来の給料をファクタリング会社に買い取ってもらい、給料日前に現金を受け取るサービスです。
そもそも「ファクタリング」とは、企業が信用取引において取引先に商品やサービスを提供して得た売掛債権(後から支払いを請求できる権利)を、ファクタリング会社が手数料などを差し引いて買い取り、現金を提供するサービスを指します。
給料ファクタリングで買い取ってもらうのは売掛債権ではなく、次の給料(給料債権)となります。
いずれも借金ではない現金調達方法という点では共通していますが、仕組みや手数料に大きな違いがあります。
勤務先の会社がサービス事業者と提携しているかどうかの違い
前述の通り、給料前払いサービスは勤務先がサービス事業者と提携してはじめて、従業員が前払いサービスを利用できるようになります。
給料前払いまでのプロセスは、まず従業員がサービス事業者に前払いの申し込み、サービス事業者は企業に前払い分を請求、勤務先はサービス事業者を介して従業員に給料を前払いします。次回の給料日になると、従業員は前払い分が控除された給料を受け取ります。
給料前払いサービスは従業員、勤務先、サービス事業者の3者間で成り立っているサービスと言えるでしょう。
企業は給料前払いサービスを福利厚生として扱っているため、従業員は社会保険や通勤補助と同じように、福利厚生を受ける権利を行使しているに過ぎないのです。
一方で、給料ファクタリングは勤務先が取引に関与することは一切ありません。
従業員(利用者)が給料ファクタリング会社に申し込み、審査を経て給料の売買が行われ、手数料を差し引いた現金がファクタリング会社から振り込まれます。
利用者は次回の給料日に通常どおり給料が振り込まれたら、速やかにファクタリング会社に返済します。万が一、利用者がファクタリング会社への返済ができなかった場合でも、ファクタリング会社が直接勤務先から給料を回収することはありません。
つまり、給料ファクタリングは利用者とファクタリング会社の2社間で成り立っているサービスです。
サービス利用に伴う手数料の違い
給料前払いサービスで従業員にかかる手数料は、システム利用料および振込手数料です。勤務先が初期費用や月額費用を負担している場合は、システム利用料金がかかりません(振込手数料も無料の場合も)。したがって、数十万円の給料を前払いしたとしても、従業員にかかる手数料が1,000円を超えるようなことはないでしょう。
一方で、給料ファクタリングは1回の取引あたり10~40%の手数料がかかります。
たとえば、次回支払われる予定の給料10万円を手数料10%で買い取ってもらった場合、利用者が受け取る現金は9万円(手数料1万円)です。
ファクタリング手数料は勤務先の信用情報や給料の買取額に応じて変動します。手数料はファクタリング会社が給料買取に伴って負うことになるリスクプレミアムとなるため、とくに勤務先の信用情報(経営状況、財務状況等)が審査において重視されます。
給料前払いサービスに関するよくある質問
給料前払いサービスに関する疑問にQ&A形式でお答えします。
- Q.給料前払いサービスは定職があればだれでも利用できますか?
- A.誰でも利用できるわけではありません。勤務先が給料前払いサービスを導入している従業員(正社員、パート、アルバイト等)のみが利用できます。
- Q.給料前払いサービスで「すでに働いた分の給料」の全額を前払い可能ですか?
- A.サービス事業者によって「給与前払限度額」が異なります。たとえば、あるサービス事業者は給与前払限度額を「一定の期間において既に働いた分の給与額の70%」と定めています。A.サービス事業者によって「給与前払限度額」が異なります。たとえば、あるサービス事業者は給与前払限度額を「一定の期間において既に働いた分の給与額の70%」と定めています。
- Q.「給料前払いサービス」を提供するファクタリング会社はありますか?
- A.ファクタリング会社が提供するのは給料債権買取サービスであって、企業の福利厚生である給料前払いとは全く異なるサービスです。「給料前払いサービス」を称するファクタリング会社は消費者の誤解を招くおそれがあります。
- Q.給料前払いは利息が発生しますか?
- A.給料前払いは借金ではないため利息は発生しませんが、給料日には前払い分が控除された金額しか振り込まれません。
- Q.給料前払いサービスを導入していない勤務先に給料前払いを請求することはできますか?
- A.上司や人事担当者に相談してみましょう。労働基準法第25条の「出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合」に該当する場合、勤務先は前払い請求に応じなければなりません。ただし、該当しない場合は勤務先に前払いを断られる可能性もあります。
給料の前払いサービスの利用は計画的に
給料前払いサービスは、急な出費や現金不足のときに「借金をせずに」現金を調達できる便利なサービスです。
借金ではないため、借入限度額いっぱいまで借りている人や信用ブラックの人でも、勤務先が給料前払いサービスを導入していれば、給料日前に「すでに働いた分の給料」を受け取ることができます。
ただし、給料の前払いをした次の給料日は、前払い分が控除された給料しか支払われないことに注意が必要です。
仮に「すでに働いた分の給料」が20万円で、毎月の給料が30万円の従業員が給料前払いで14万円を引き出したら、次の給料日に支払われる給与額は16万円です。
現金不足の根本原因が解決されないのにお金が足りなくなったら都度前払いを利用していては、前払いに依存することになってしまいます。
あくまでも給料の前払いサービスは緊急時の現金調達方法として活用するに留めましょう。