会社の経営状態が悪化して、「従業員へ給料を支払うお金がない」という状況になった時、経営者は何をすべきでしょうか?

以前は「会社の経営が苦しかったらリストラされる」などと首切りが軽々しく言われてきましたが、人手不足の昨今はそのように簡単にリストラはできませんし、会社の継続性を考慮した場合には簡単にリストラすべきではありません。

優秀な従業員を確保して会社の事業を継続していくためには従業員に対する給与支払は絶対に行わなければなりません。

給与が支払えないない時に、経営者はどのように対処すべきでしょうか?

また、会社の資金繰りが苦しい時に経営者はどの支払いを優先すべきでしょうか?

いざという時のために「給与を支払えない時の対処法」を理解しておきましょう。

 

お金のない時の支払順位

会社に「払うべき所に払うお金がない」という状況では、すべての支払先に支払う余裕がないのですから、支払いの優先順位をつけていかなければなりません。

会社の存続のために支払いの優先順位をつけるとすると以下のような順番になります。

  1. 手形や小切手
  2. 従業員の給料
  3. 取引先への支払い
  4. 銀行への借金
  5. 税金の支払

結論的に言うと、どんなに資金繰りが苦しくても、手形・小切手の決済と従業員への給与支払いだけは優先して行う必要があります。

なぜこのような順番で支払いをしていく必要があるのかについて、まずは詳しく解説していきます。

1位:手形や小切手

手形や小切手の支払期日に決済代金を用意することは最優先にしなければなりません。

手形や小切手を期日に決済することができないということは、不渡りになるということです。

企業は不渡りを起こしてしまうと融資を受けることは不可能になりますし、「貸しているお金を一括で返済せよ」という期限の利益喪失になってしまう可能性もあります。

また、6ヶ月の間に2回不渡りを出してしまうと、銀行取引停止処分となり、銀行との取引が完全に不可能になってしまいます。

これは、実質的に事業活動が不可能になるということであり倒産と同じです。

不渡りを起こしてしまうと、企業が倒産に追い込まれてしまうので、手形や小切手の決済代金だけは絶対に優先して用意しなければなりません。

2位:従業員の給料

次に支払うべきものは従業員への給料です。

会社は人で成り立っており、従業員は給料のために働いているのですから、給料を支払わないということは会社の存続が難しくなってしまいます。

「経営者は何を置いても従業員とその家族の生活を支えていかなければならない」ということは徹底して頭に入れておきましょう。

経常経費の中で最も最初に払わなければならないものは従業員への給料です。

3位:取引先への支払いふぁjy

次に支払わなければならないものとして、仕入先などの取引先に対する支払いです。

取引先とは契約書を交わしていることが一般的ですので、取引先へ期日通りに支払いをしないことは契約違反になってしまいます。

また、取引先も従業員や支払先を抱えているため、取引先へ支払いをしないことによって、取引先も自社の支払いをできずに倒産してしまうかもしれません。

いずれにせよ、取引先への支払いが遅れることによって、取引先からの信頼を失ってしまうことは確実で、今後の事業継続へ悪影響になってしまいます。

給料の支払いが難しい時には「申し訳ないが支払いが1週間程度遅れる」と言って支払いを延ばしてもらうことはありかもしれませんが、やはり高い優先順位で支払わなければならないものであることは間違いないでしょう。

4位:銀行への借金

本当に資金繰りが苦しい時には銀行への借金はそれほど優先順位は高くありません。

少なくとも従業員への給料支払いを差し置いても優先して支払うべきものではないことは間違いないでしょう。

経営状態が悪化した時には、銀行に対して「〜日まで待ってくれ」と言えば、銀行は大抵支払いを待ってくれます。

また、長期的に支払いが難しい理由があるのであれば、リスケジュールに応じてくれることもあります。

まずは「支払いが難しい」と相談してみましょう。

数年も待ってもらうことは難しいですが、大抵の銀行はやむを得ない理由があるのであれば、1年以内くらいであれば支払いを待ってくれます。

いきなり差し押さえなどをする銀行はほとんどないので、先に従業員への給与支払いを済ませてしまいましょう。

5位:税金の支払順位

税金の支払いも優先順位はそれほど高くありません。

市区町村役場の税務課などに相談することで、一定期間の支払いを待ってくれます。

ただし、税金の滞納は裁判なしで差し押さえが可能になっているので、何も言わずに滞納を続けていると簡単に差し押さえ手続きを執行されてしまいます。

どうしても支払うことが難しい時には早めに相談するようにしてください。

また、税金には高額な延滞税が課されますので、あまり滞納を長期化させるのではなく、早めに支払うことを心がけましょう。

従業員への給料支払いを最優先すべき3つの理由

給料を支払うことができない時の5つの対処法

前述したように、従業員への給料支払いは最優先に行うべき支払いです。

給料の未払いはそもそも契約違反ですし、契約云々以前に、会社のリーダーとして従業員の生活を優先して保証しないという行為はあり得ないためです。

このような会社は長期的には必ず衰退していきます。

従業員への給与支払を優先すべき3つの理由について詳しく解説していきます。

給料の未払いは雇用契約違反

従業員への給料の支払いについては、雇用契約書で「毎月○○日」と言うように契約締結しているのですから、決められた日に支払いをしないということは契約違反になります。

労基署に訴えられて行政処分の対象になる可能性もあれば、債務不履行によって裁判所から財産の差し押さえになる可能性もあります。

給料を支払わないことは、契約違反であり違法行為である」ということをまずは頭に入れておくようにしましょう。

経営者にとって「社員は家族」でも

従業員のことを「社員は大切な家族と同じ」と考えている経営者も多いのではないでしょうか?

確かに、従業員を家族のように大切にするということは重要かもしれません。

しかし、資金繰りが苦しいときには「家族」という言葉が裏目に出てしまうこともあります。

「資金繰りが苦しいのだから少しくらい給料の支払いに遅れてもいいだろう」という甘えが生じてしまうケースがあるのです。

経営者にとっては家族でも、従業員は「お金のために働いている」ということを忘れないようにしましょう。

従業員と経営者の距離が近いことをいいことに、給料の未払いが許容されると勘違いしないようにする必要があります。

仕事の効率や社員のモチベーションが下がる

従業員は賃金のために働いているのですから、賃金がもらえなければモチベーションが下がり、仕事の効率は落ちてしまうでしょう。

また、優秀な人材はしっかりと給料を支払ってくれる別の会社へ転職してしまう可能性もあります。

会社は人で成り立っている組織ですので、給料未払いによって従業員のモチベーションが下がったり、転職が増えてしまうと会社の事業継続は難しくなります。

従業員にも生活があり、さらには家族も存在します。

また、従業員へ会社に貢献してもらうためにも、賃金支払いは最優先に行わなければなりません。

給料未払いのまま倒産すると

給料を支払うことができない時の5つの対処法

ちなみに、従業員への給料を未払いのまま倒産してしまうと、従業員はどうなってしまうのでしょうか?

結論的に言えば従業員への給与支払いは保証され、会社はその分の債務を背負うことになります。

従業員への給与を未払いのまま倒産してしまった場合の顛末について見ていきましょう。

社員の給料は労働者健康安全機構に補償される

会社が賃金未払いのまま倒産し、2万円以上の未払いの給料がある場合には、従業員は労働者健康安全機構という厚生労働省所轄の独立行政法人に未払い分の給料を補償してもらうことができます。

そのため、従業員は会社が突然倒産しても、すでに労働した分の給料に関しては労働者健康安全機構から受け取ることができます。

会社は労働者健康安全機構に支払いの義務を負う

労働者健康安全機構が未払い分の給料を従業員に立て替えたことによって、労働者健康安全機構は会社の債権者となります。

労働者健康安全機構が立て替えた分に関しては、労働者健康安全機構に回収する義務が残っているので、労働者健康安全機構が破産管財人などに申し立てを行い回収を図ることになります。

給料を支払うことができない時の5つの対処法

給料を支払うことができない時の5つの対処法

従業員の給与は何がなんでも支払う必要があります。

どうしても支払うことができない場合には、従業員へ精一杯の誠意を見せる必要がありますし、経営者は外部からの資金調達に奔走する義務があります。

従業員への給与を支払うことができない時の対処法は主に以下の5つです。

  • 給料を支払うことができないことを社員に説明
  • 一部だけでも支払う
  • 銀行から借入をする
  • ビジネスローンを利用する
  • ファクタリングを利用する

給与支払いができない時の5つの対処法について詳しく解説していきます。

給料を支払うことができないことを社員に説明

どうしても給料を支払うことができない場合には、とにかく丁寧に従業員に対して給料を支払うことができない旨を説明し、謝罪しましょう。

説明は経営者が自ら行うことが大切で、部活や他の役員などに任せてはなりません。

経営者が謝罪することによって、従業員は「社長が言うなら仕方がない」と給与を払うことができないことに理解を示してくれる可能性があります。

また、給与が払えないという事態に対して従業員は「この会社で働いて大丈夫か?」と不安を感じています。

そのため、「なぜ支払いができないのか」「いつ確実に支払うことができるのか」という2点を明確にして、従業員が納得できるように丁寧に説明することを心がけましょう。

給与を払えないことによって、従業員は多大な迷惑を被ります。

経営者自ら誠意を示すことが非常に大切になるということをしっかりと認識しておきましょう。

一部だけでも支払う

従業員の給料を全額支払うだけのキャッシュがなくても一部だけ支払うことができる程度のお金があるのであれば、一部だけでも支払いましょう。

多くの会社員は給料日に合わせて様々な支払いのスケジュールを組んでおり、ローンやクレジットカードの返済日などは「支払いに遅れないように」と、給料日直後を設定している人が多数存在します。

給料の支払いが遅れることによって、給料日直後の支払スケジュールがズレてしまうので、一部だけでも給料日に支払うようにしましょう。

銀行から借入をする

「資金繰りが悪化して従業員の給料を支払うことが厳しい」ということがあらかじめ分かっている場合には、銀行に対して借り入れの申し込みを行い、早めに資金を確保しておきましょう。

銀行融資は金利が2%前後と非常に低いことから、低いコストで資金調達することができます。

しかし、銀行融資は融資までに2週間前後の時間がかかってしまうので、急いで資金が必要なタイミングでは間に合いません。

前もって自社の資金繰りをしっかりと管理できていれば、金利の低い銀行融資を借りることが可能です。

低いコストで資金調達することができるよう、資金繰りの管理は前倒しで徹底するようにして下さい。

ビジネスローンを利用する

銀行融資が間に合わない場合、銀行融資の審査に落ちた場合などはビジネスローンを利用して従業員の賃金確保をする方法もあります。

ビジネスローンは最短即日融資に対応しているので銀行融資が間に合わないタイミングでも融資を受けることができる可能性がありますし、銀行融資よりも金利が高い分、審査も緩くなっています。

いざという時の資金調達にビジネスローンは活用できます。

ただし、ビジネスローンで資金調達できるのは、多くても500万円程度で、人件費だけで毎月数千万円にものぼる中規模以上の企業はビジネスローンで借りることができる金額では用を成さない可能性があります。

ファクタリングを利用する

ファクタリングを利用して給与支払資金を確保する方法もあります。

ファクタリングとは、売掛債権を売却して資金調達する方法です。

最短即日で資金化することができ、売掛先の信用で審査を受けることができるので、信用のない会社でも売掛先の業況がよければ資金調達可能です。

さらに、2社間ファクタリングであれば売掛先に秘密で資金調達することができます。

ほとんどのファクタリング会社で数千万円から数億円のファクタリングまで対応しているので、規模が大きく給与支払額が大きな会社でもファクタリングであれば対応することができます。

給料が払えない時のQ&A

いつまでに従業員へ「払えない」と伝えるべきでしょうか?
給料を期日通りに支払うことができないのであれば、従業員も資金繰りをする必要があるので、早ければ早く伝えるに越したことはありません。
ただ、会社としても資金調達のためにギリギリまで奔走する必要があることを鑑みれば、給料日の1週間前くらいに伝えるというのがギリギリのラインでしょう。
あまりにも直前になると従業員が困ってしまうので、できる限り早めには伝えるようにして下さい。
銀行がリスケに応じてくれない場合には従業員への未払いが生じてもやむを得ませんか?
給料の支払いに遅れてやむを得ないということは絶対にありません。
銀行がリスケに応じてくれなくても従業員への給料支払いは期日通りに行い、銀行への返済は後回しにしてしまいましょう。
数日程度であれば返済期日に遅れても銀行は待ってくれるので大きな問題にならないことも少なくありません。
銀行に融資を申し出たら従業員のリストラを行うように言われました。必ず従わなければなりませんか?
銀行が融資取引を継続するために、従業員のリストラなどの経営改善計画を迫ってくることはよくあることです。
もちろん、経営改善のために不要な人員を削減するというのは1つの方法ですし、大きな固定費となっている人件費をリストラによって削減する方法は経営改善には効率的です。
しかし、経営改善策は何も人員削減だけではありません。
経費圧縮や在庫の見直し、仕入れコストの圧縮など様々な方法があります。
従業員には生活があり、従業員の背景には家族が存在します。
軽々に人員削減という手段をとるのではなく、まずは他の方法で経営改善を図ることができないか検討するようにしましょう。

まとめ

どんなにお金がなくても従業員への給与支払いは最優先にしなければなりません。

給料を支払うことができない時の対策として銀行融資やビジネスローンやファクタリングなどの外部からの資金調達という方法があります。

しかし、これらの方法でも従業員への給与支払いが遅れてしまう場合には、経営者が従業員へ丁寧に説明し、謝罪することが大切です。

会社と従業員は信頼関係で結ばれていますが、この信頼関係の紐帯となっているのは給料です。

給料だけは期日通りに支払うことを徹底してください。