個人事業主はお金を借りにくいと聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
確かに所得を低く申告し、事業と生活が一体化している個人事業主は住宅ローンはじめとして個人ローンを借りにくいことは間違いありません。
しかし、事業に利用する運転資金であれば融資を受けることができる手段は多数存在します。
ここでは、個人事業主が運転資金融資を受ける手段を全て紹介していきます。
急に資金が必要になった時に確実に必要資金を調達できるよう、個人事業主の運転資金の調達手段を理解しておきましょう。
個人事業主が低金利で運転資金を調達する方法
まずは個人事業主が低金利で運転資金を調達する方法を5つご紹介します。
- 日本政策金融公庫
- 銀行や信用金庫の信用保証協会保証付融資
- 地方自治体の制度融資
- 銀行や信用金庫のプロパー融資
- 3社間ファクタリングを利用する
これら5つの方法であれば低コストで必要資金を調達することが可能です。
それぞれの方法の概要や申込方法などを詳しく紹介していきます。
日本政策金融公庫
国が出資している公的な金融機関である日本政策金融公庫は、法人だけでなく個人事業主に対しても積極的に融資を行なっています。
日本政策金融公庫では様々な融資を取り扱っていますが、例えば商工会議所の経営指導を受けた事業者だけが有利な金利でお金を借りることができるマル経融資は1.21%という非常に低い金利で融資を受けることができます。
また、創業時に必要な資金を借りる開業資金は1.26〜2.15%と、やはり低い金利で開業に必要な資金を借りることが可能です。
日本政策金融公庫は無担保・無保証が原則ですので信用保証協会の保証をつけずに融資を実行します。
そのため、信用保証協会の保証をつける銀行や信用金庫などの民間金融機関とは完全に別枠で融資を受けることが可能です。
マル経融資は商工会議所が窓口となり、その他の融資は日本政策金融公庫へ直接相談しましょう。
日本政策金融公庫への相談は電話やインターネットからでも可能ですので、まずは気軽に問い合わせをしてください。
銀行や信用金庫の信用保証協会保証付融資
信用保証協会の保証をつけて銀行や信用金庫からお金を借りる方法です。
基本的に銀行や信用金庫などの民間金融機関は、取引履歴が浅く、信用度が低い個人事業主に対しては信用保証協会の保証をつけなければ融資を実行しません。
そのため、金融機関へ申し込みを行うと、ほぼ100%信用保証協会の保証を付けることになります。
信用保証協会への保証申込の手続きは銀行が行なってくれるので、まずは確定申告書3期分を持参して銀行へ相談に行きましょう。
銀行は信用保証協会の保証さえあれば損失のリスクがありません。
そのため、信用保証協会の保証を受けることができれば、ほぼ100%融資を受けることができます。
なお、金利や保証料は審査からリスクを判定して決定します。
地方自治体の制度融資
地方自治体の制度融資は個人事業主が低金利で運転資金を借りることができる非常に有力な方法です。
制度融資は地方自治体・金融機関・信用保証協会の3者がそれぞれ以下の役目を務めることで地域の中小企業や個人事業主に対して融資を実行します。
地方自治体 | 利息や保証料の補助 |
---|---|
銀行 | 融資を実行する |
信用保証協会 | 保証を行う |
地方自治体からお金を借りるのではなく、お金を貸すのは銀行で、信用保証協会は融資の保証を行います。
そして、地方自治体は金利等の商品内容を決定し、利息や保証料の補助を行う仕組みです。
制度融資はあらかじめ金利や融資条件が決まっており、信用度の低い中小企業や個人事業主でも低金利で借りることができるのが一般的です。
例えば、東京都の小口資金は1.9〜2.4%、創業資金も1.9〜2.4%となっており、非常に低い金利で中小事業者が融資を受けることができるように設計されています。
業況が悪い事業者や規模の小さな個人事業主でも、平等な条件で融資を受けることができるように設計されているのが制度融資に強みだと言えるでしょう。
申し込みや相談は銀行窓口か地方自治体の商工課などに行くようにしてください。
制度融資も信用保証協会の保証が必須
制度融資は信用保証協会の保証が必須ですので、制度融資も信用保証協会の保証付融資の1つだと理解しておきましょう。そのため、信用保証協会の審査に通過できなければ制度融資も借りることはできません。
銀行や信用金庫のプロパー融資
銀行や信用金庫のプロパー融資を受けることでも運転資金の調達は可能です。
プロパー融資とは、信用保証協会や保証会社の保証をつけずに金融機関が全リスクを背負って行う融資のことです。
金利は格付によって決定するので、銀行内での格付が高い企業は1%を切るような低金利で融資を受けることができますが、格付がそれほど高くない事業者は制度融資よりも金利が高くなってしまうこともあります。
ただし、信用保証協会の保証をつけないので保証料の支払いは必要ありません。
いずれにせよ、プロパー融資は銀行にとってリスクが高い融資ですので、銀行からある程度の信用を獲得することができないと借りることは不可能です。
そのため新規で銀行と取引を行う中小企業や個人事業主が銀行からプロパー融資を受けることができる可能性は非常に低いと考えた方がよいでしょう。
銀行から「プロパー融資を借りませんか?」と提案されたら、企業としては一人前の証と言っても過言ではありません。
まずは、信用保証協会の保証付融資や制度融資で銀行との信頼関係を醸成し、プロパー融資を借りることができるように事業拡大を図っていきましょう。
3社間ファクタリングを利用する
低コストで資金調達することができる方法として、3社間ファクタリングという方法もあります。
ファクタリングとは売掛債権をファクタリング会社へ売却して売掛債権の期日前に早期資金化する方法で融資ではありません。
ファクタリングは売掛債権という資産を売却しているだけですので、自社の業況が悪くて融資を受けることができない企業でも資金調達することができる可能性があります。
3社間ファクタリングの手数料は1%〜5%程度ですので、低コストで資金調達することができます。
ただし、3社間ファクタリングは売掛先企業の同意を得て売掛債権の売却をする方法ですので、売掛先企業へ売掛債権を売却したことが知られてしまいます。
低コストで資金調達することができる非常に有力な方法ですが、ファクタリングによって資金調達することに同意してくれる取引先の売掛債権を保有している場合のみ利用することができるという方法です。
個人事業主が即日で運転資金を調達する方法
続いて、個人事業主が急いで運転資金を調達する方法をご紹介していきます。
即日で資金調達することができる方法は以下の2つだけです。
- ビジネスローンの融資を受ける
- 2社間ファクタリングを利用する
それぞれの方法の特徴や申込方法について詳しく解説していきます。
ビジネスローンの融資を受ける
消費者金融や信販会社が提供するビジネスローンは最短即日で借入をすることが可能です。
インターネットから申し込みを行い、WEB上で契約を完結されることができるので午前中に申し込みをすれば当日中にお金を借りることができます。
即日融資に対応したビジネスローンで代表的なものは以下の4社です。
ビジネスローン | 金利 | 限度額 | 資金使途 | 対象者 |
---|---|---|---|---|
アイフルビジネスファイナンス ビジネスローン |
3.1%〜18.0% | 1,000万円 | 事業資金 | 法人 個人事業主 |
プロミス 自営者カードローン |
6.3%~17.8% | 300万円 | 事業資金 消費資金 |
個人事業主 |
オリックスクレジット VIPローンカードBusiness |
6.0%~17.8% | 500万円 | 事業資金 消費資金 |
個人事業主 法人代表者 |
アコム ビジネスサポートカードローン |
12.0%~18.0% | 300万円 | 事業資金 消費資金 |
個人事業主 |
このうち、プロミスとアコムは無人契約機で当日中にカード発行をすることが可能です。
また、ビジネスローンの中には、事業資金と消費資金両方に利用することができる商品も多数存在するので、「所得を低く申告しすぎて個人向けカードローン審査に通過できない」という個人事業主でも、個人向けカードローンの代わりとして利用することができます。
なお、個人事業主専用のビジネスローンは個人信用情報を確認するので、ブラックの場合には融資を受けることが難しくなるので注意しましょう。
2社間ファクタリングを利用する
融資ではありませんが、2社間ファクタリングでも最短即日で資金調達することが可能です。
2社間ファクタリングは自社とファクタリング会社の2社で契約をするので売掛先の同意は必要ありません。
売掛先企業の同意を必要とする3社間ファクタリングが入金までに1週間程度の時間を要することに対して、2社間ファクタリングはファクタリング会社の審査にさえ通過できれば当日中に資金化することもできます。
2社間ファクタリングは手数料が10%程度と比較的高くなりますが、売掛債権を保有しているのであれば、即日資金調達する有力な方法の1つだと言えるでしょう。
個人事業主の運転資金のその他の調達方法
個人事業主が運転資金を調達することができる方法として、他にも以下の2つの方法があります。
- クラウドファンディング
- 補助金や助成金
これら2つの方法は必ずしも希望した人全員が資金調達することができるわけではありません。
しかし、返済する必要がないので、採択されれば自社の資金繰りには大きなプラスになります。
返済不要の2つの運転資金獲得手段について詳しく解説します。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは「こんな事業をしたい」というプロジェクトをクラウドファンディングサイトへ投稿し、その事業を応援してくれる人から資金を募る方法です。
集めた資金は返済する必要がないので、募った資金は自己資金として運転に活用することが可能です。
ただし、クラウドファンディングはプロジェクトに対して賛同を得られないと資金を集めることは難しいですし、単に金儲けのためのプロジェクトはクラウドファンディングサイト側から掲載を断られてしまうことも珍しくありません。
多くの賛同者を募ることができる社会課題を解決するための事業や、夢のある事業でないとクラウドファンディングで資金を集めるのは難しいでしょう。
補助金や助成金
国や地方自治体が拠出している補助金や助成金を獲得することができれば、返済不要の資金を調達することができます。
例えば創業に必要な経費の一部を補助してもらうことができる創業補助金や、事業のIT化の支援を受けることができるIT導入補助金などが有名です。
参考:ミラサポ
補助金には採択があるので、申請すれば全ての事業者が補助を受けることができるわけではありません。
しかし、採択されればメリットは非常に大きいので、自社でも受けることができる補助金や助成金がないかどうかは公的機関のホームページなどから随時チェックするようにしましょう。
ただし、補助金な助成金は基本的に後払いですので、補助相当額はあらかじめ銀行融資などによって用意しておかなければならない点には注意しましょう。
例えば、100万円の創業補助金を受けることができるのは、100万円の創業にかかる経費を使った後ですので、あらかじめ100万円以上の資金は手元に用意しておかなければなりません。
個人事業主が運転資金融資を受ける際の注意点
個人事業主が運転資金融資を受ける際には以下の3点について十分に注意する必要があります。
- 生活費と事業の経費は明確に分ける
- 返済原資を確保する
- 資金使途を明確にする
生活と事業が一体化した個人事業主は資金が本当に必要で、返済には問題ないということを明確にしなければ融資を受けることができません。
個人事業主の運転資金融資で重要な3つのポイントを詳しく解説します。
生活費と事業の経費は明確に分ける
個人事業主が運転資金を借りる際に最もハードルになるのが、「運転資金として融資したお金を生活費に使われてしまうのではないか」という点です。
銀行や日本政策金融公庫の運転資金は事業の支払いにしか使用することができません。
しかし、個人事業主はそもそも事業と生活が一体化しているので、結果的に事業資金が生活費に使われてしまうことはよくあります。
そのため、事業と生活が明確に区分されている個人事業主の方が銀行や日本政策金融公庫の運転資金融資の審査には通過しやすくなります。
個人事業主の中には、個人のアパートの家賃や生活費としての支出まで事業の経費として申告している人が多数存在しますが、できる限り事業と生活は別にして正確な確定申告書を作成するようにしましょう。
返済原資を確保する
返済原資をしっかりと確保した確定申告をするということも重要です。
個人事業主は節税のために生活費を経費として計上し、所得を低く申告している人が非常に多くなっています。
例えば、申告所得100万円の人は、審査する側から見ると「100万円から生活費を支出して、返済をしていくのは不可能」と判断されてしまいます。
実際には生活費を支払った上での所得100万円であったとしても、審査ではそのようなことは関係ありません。
そのため、所得を低く申告しすぎると、「返済原資がない」と判断されてしまいます。
申告所得≧生活費+借入金の年間返済額
となるように、確定申告を行い、返済原資がしっかりと確保できている状態で申し込みをするようにしてください。
節税しすぎると借りにくい
節税のために生活費を経費に混ぜ込みすぎると、「事業と生活がごちゃ混ぜになっている」「返済原資がない」などと判断されるので融資を受けにくくなってしまいます。
生活費の経費計上は一定範囲にとどめ、返済原資を確保できるだけの所得は残しておくようにしましょう。
資金使途を明確にする
「借りたお金を何に利用するのか」という資金使途を明確にするということも非常に重要です。
銀行はいくら返済に問題がないと判断できる人でも、何に利用するのか不明瞭な資金には融資を行いません。
「去年の運転資金が400万円だったから半年分の運転資金200万円を借りたい」などと、その資金がなぜ必要で、金額の根拠は何なのかという資金使途を明確にするようにしてください。
資金使途が不明瞭なお金は「生活費に使うのかもしれない」などと判断されて融資を受けることが難しくなってしまいます。
個人事業主の運転資金融資に関するよくある質問
- 個人事業主の運転資金融資では信用情報を確認されますか?
- 銀行や日本政策金融公庫の事業資金融資では信用情報は確認されません。審査の対象はあくまでも事業内容に対してであり、個人のお金の情報である個人信用情報は事業とは無関係だからです。
しかし、ビジネスローンでは個人信用情報の確認が行われます。
そのため、いくら確定申告書の内容が立派でも、個人信用情報に問題がある個人事業主は融資を受けることが難しくなります。
- 個人事業主の運転資金融資を生活費に使ったらまずいでしょうか?
- 銀行や日本政策金融公庫の運転資金は生活費に使うことはできません。
使ってしまったことがバレてしまったら、最悪のケースとして一括返済を求められてしまうので、あまり堂々と生活費に使うことは避けた方がよいでしょう。
ただし、ビジネスローンの中には消費資金に利用することができる商品もあります。
そのような商品であれば、生活費に使っても全く問題ありません。
また、ファクタリングも調達した資金に対する使い道の制限はないので生活費に利用することもできます。
- 個人ローンの代わりに借りることができる手段はないのでしょうか?
- プロミスの自営者カードローン、アコムのビジネスサポートカードローン、オリックスクレジットのVIPローンカードBusinessなどのカードローンは個人事業主専用で、事業資金にも消費資金にも利用することができます。
これらのカードローンは、総量規制の関係上、個人向けカードローンを借りることが難しい個人事業主に対して「個人向けカードローンの代わりに利用してください」という意図で商品展開されているローンですので、個人ローンの代わりとして借りても全く問題ありません。
名目はあくまでもビジネスローンですので、総量規制対象外となっていることから、申告所得が低い個人事業主でも希望額を借りることができる可能性があります。
まとめ
個人事業主が融資を受ける方法としては
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会の保証付融資
- 制度融資
- プロパー融資
などの方法がオーソドックスです。
この他にもビジネスローンやファクタリングでも個人事業主の運転資金を調達することが可能です。
また、個人事業主が運転資金を借りる上で最大のネックになるのが、事業の経費に生活費を混ぜ込んでいるという点です。
節税のためにある程度所得を低くすることはやむを得ないのかもしれませんが、やりすぎてしまうと融資を受けたい時にお金を借りることが難しくなってしまいます。
普段から返済原資と生活費は確保できる程度の決算とすることを心がけるようにしましょう。