手形割引とファクタリング。どちらも売掛債権を期日前に資金化する方法ですが、「違いや使い分けの方法がよくわからない」という人が多いのではないでしょうか?
会社にとっては後日入金になるものを前倒しで入金を受けることができるという点では同じですが、その他の点では異なるポイントが多いと言えるでしょう。
売掛債権を活用した資金調達は手形割引とファクタリングで上手に使い分けることが大切です。
手形割引とファクタリングの5つの違いをよく理解して、自社に最適な資金調達をすることができるようになりましょう。
手形割引とは
まずは手形割引の概要について解説していきます。
手形割引とは、手形を担保に期日前に銀行から資金調達する方法ですが、主に以下の5つの特徴があります。
- 期日前の手形を担保に銀行からお金を借りる
- 金利は3%〜5%程度
- デフォルトリスクは自社が負う
- 回収は銀行が行う
- 売掛先には通知されない
期日前に資金化できるという方法の他、デフォルトリスクがあるなどの特徴があります。
手形割引の主な特徴についてまずはしっかりと理解しておきましょう。
期日前の手形を担保に銀行からお金を借りる
手形割引とは、期日前の手形を担保に手形額面金額を銀行から借りる方法です。
手形は期日になるまでは資金化することができないものですが、手形割引を利用することによって期日前に早期資金化することができます。
手形は3ヶ月先などにならないと資金化することができないので、企業の資金繰りが苦しくなってしまうことがありますが、手形割引を利用することによって資金繰りを円滑にすることが可能です。
金利は3%〜5%程度
手形割引の金利は企業の格付けによって決定します。
格付が高い企業は低い金利が適用され、格付が低い企業は高い金利が適用されます。
そのため、優良企業などは1%を切るような金利で手形割引ができる場合もありますが、一般的な企業はそれほどの高金利が適用されることはないのでわ概ね手形割引の金利は3%〜5%程度が適用されるものと理解しておきましょう。
例えば期日まで60日、100万円の手形を金利が3%で割り引いた場合の利息は以下のようになります。
100万円×3%×365日×60日=4,931円となります。
100万円から4,931円が控除された金額が入金になります。
金利は年利ですので、手形の期間分、日割りで適用されます。
デフォルトリスクは自社が負う
手形割引の場合、もしも割引いた手形の振出企業が手形代金を支払わなかった場合や手形期日前に倒産してしまった場合のデフォルトリスクは自社で負わなければなりません。
例えばA社が振り出した手形100万円を銀行で割引き、手形期日になった時に、決済ができなければ不渡りが発生します。
すると、自社が銀行に対して手形の代金100万円を支払わなければなりません。
手形割引は手形がデフォルトした場合のリスクを自社が負わなかければならないという点も特徴の1つです。
回収は銀行が行う
手形の回収は銀行が行います。
手形の期日になると、銀行が振出先銀行へ取り立てを依頼し、相手方の銀行から銀行へ支払いがあり、これで回収は完了します。
手形振出先企業が期日通りに手形を決済できる限り、手形割引によって資金調達した後は自社は何もする必要はありません。
売掛先には通知されない
手形割引をしても手形振出先企業には通知されることはありません。
そもそも手形とは、裏書きして支払手段として活用されるものですので、その都度手形振出先企業へ通知する必要はありませんし、手形振出先企業も「どこかへ裏書譲渡されるかもしれない」ということは理解しています。
手形割引は割引いたことを売掛先に通知されませんし、仮に売掛先企業が手形割引したことを知ったとしても自社をネガティブな目線で評価される心配もほとんどありません。
ファクタリングと手形割引の5つ違い
ファクタリングとは売掛債権を期日前にファクタリング会社へ売却して早期資金化する方法です。
早期資金化という意味ではファクタリングと手形割引は同じですが、その他の点では数多くの違いがあります。
- 借入か売却かが違う
- 資金調達コストが違う
- 一部だけ資金化できるかどうかが違う
- デフォルトリスクの有無が違う
- 審査での自社へのウェイトが違う
ファクタリングと手形割引の5つの違いについて詳しく見ていきましょう。
借入か売却かが違う
手形割引とファクタリングの基本的な違いは、借入か売掛債権の売却かという違いです。
手形割引は銀行からの借入です。
あえて分かりやすく言えば、受取手形を担保に銀行からお金を借りることが手形割引です。
手形割引を利用すると、貸借対照表には借入金として記載されます。
一方、ファクタリングは売掛債権の売却です。
売掛金などの売掛債権をファクタリング会社に売ってしまうので、借入金ではありません。
分かりやすく言えば、不動産などの資産を売却して現金にしていることと同じだと言えるでしょう。
借入なのか資産の売却なのかという点で手形割引とファクタリングは異なります。
資金調達コストが違う
手形割引とファクタリングは資金調達コストも全く異なります。
期日まで60日の売掛債権100万円を金利5%で手形割引した場合と、手数料5%でファクタリングした場合を比較してみましょう。
計算 | 利息(手数料) | |
---|---|---|
手形割引 | 100万円×5%÷365日×60日 | 8,219円 |
ファクタリング | 100万円×5% | 50,000円 |
このように同じ5%でも、ファクタリングの場合には5%が全て手数料として取られてしまいます。
一方、手形割引の金利は年利ですので実際に利用した日数分で按分されることになるので、同じ5%でも発生するコストは大きく異なります。
さらに2社間ファクタリングの相場は10%〜20%程度ですので、一般的に手数料はさらに高額になってしまいます。
手形割引よりもファクタリングの方が資金調達コストは圧倒的に高くなってしまいます。
一部だけ資金化できるかどうかが違う
売掛債権の額面金額全てを資金化できるかどうかという違いも非常に大きな違いです。
手形割引は一部だけ資金化するということは不可能です。
100万円の受取手形を持っているのであれば、100万円すべてを手形割引しなければなりません。
半分の50万円だけ割引きたいと考えても、受取手形を半分に破ることは不可能だからです。
一方、ファクタリングは債権金額全額を売却する必要はなく、一部だけ資金化可能です。
100万円の売掛債権のうち「50万円だけ必要」なら、50万円だけファクタリングすることができます。
手形割引は必要金額が少額だったとしても全額割引かなければなりませんが、ファクタリングは必要金額だけ割り引くことができるという特徴的があります。
デフォルトリスクの有無が違う
手形割引は手形が不渡りになった時の責任は自社が負わなければなりません。
そのため、手形振出企業がデフォルトした場合のリスクは手形割引後も残ってしまいます。
一方、ファクタリングはノンリコースで行われるのが基本ですので、ファクタリング後に売掛先の倒産などによって売掛債権がデフォルトしたとしても自社は責任を負う必要はありません。
ファクタリングは売掛債権の売却であるため、売掛債権のデフォルトリスクも一緒に売却することができるのです。
売掛先のデフォルトリスクを自社が負うのか負わないのかという点は、ファクタリングと手形割引の非常に大きな違いだと言えます。
デフォルトの心配がある売掛債権はファクタリングしてしまった方が安心でしょう。
審査での自社へのウェイトが違う
手形割引とファクタリングでは、自社に対する審査のウェイトが異なります。
手形割引もファクタリングも支払いを行うのは売掛先企業ですので売掛先企業の与信が重視されることは変わりません。
自社の信用もかなり重視され、いくら優良企業の手形を割引きに出したとしても、自社に赤字や債務超過が続いていた場合には審査に通過できないことも珍しくありません。
銀行は企業の格付をつけていますが、格付によって「融資不可」と判定されてしまった企業は、例え銀行にとってリスクが低い手形割引であっても審査に落ちてしまうこともあります。
一方、ファクタリングは自社の審査のウェイトは非常に低くなっており、赤字や債務超過の企業でも売掛債権に問題がなければ高い確率で審査に通過できます。
自社の業況が悪い時には、ファクタリングのほうが資金調達しやすいので活用しましょう。
ファクタリングと手形割引の共通点
上記のように、ファクタリングと手形割引は数多くの相違点がありますが、共通点があるのも事実です。
具体的には以下の2つの点でファクタリングと手形割引は共通しています。
- 売掛債権の期日前に資金化できる
- 2社間ファクタリングは売掛先にバレない
ファクタリングと手形割引の共通点についても理解しておきましょう。
売掛債権の期日前に資金化できる
売掛債権の期日前に資金化できるという点ではファクタリングと手形割引は共通しています。
売掛債権は期日まで資金化することができませんが、手形割引やファクタリングを利用することによって、売掛債権の期日が到来する前でも資金を手に入れることが可能です。
売掛債権は売上が発生してから入金になるまでの時間的なギャップである資金ギャップがありますが、手形割引やファクタリングを利用することによって資金ギャップを改善することができます。
2社間ファクタリングは売掛先にバレない
手形割引も2社間ファクタリングも売掛先に通知させることなく、資金調達が可能です。
売掛先にバレずに資金調達することができるので、売掛先から「資金繰りが苦しい」などとネガティブな印象をもたれる心配はありません。
なお、3社間ファクタリングは売掛先の同意が必要になるので、この限りではありません。
どちらを使うべき?手形割引とファクタリング
手形割引とファクタリングは「売掛債権を期日前に資金化することができる」という点で共通はしていますが、違いの方が多いので「どの場面で使い分けたらいいかわからない」と考える人も多いのではないでしょうか?
手形割引とファクタリングは具体的に以下の場面で使い分けるべきでしょう。
- 税金を滞納した時
- 自社の業況が悪い時
- より確実に当日中に資金が必要な時
- 売掛先の倒産が心配な時
場面ごとに手形割引とファクタリングを使い分ける方法について詳しく解説していきます。
税金を滞納した時
税金を滞納した時はファクタリングでないと資金調達できません。
銀行の融資では、納税証明書の提出が必要になるため、税金滞納が発生してしまうとその時点で審査に通過できないためです。
税金の滞納が発生してしまったら手形割引ではなく、ファクタリングを利用するようにしましょう。
自社の業況が悪い時
自社の業況が悪い時にはファクタリングの方が審査に通過しやすいと言えます。
ファクタリングは、審査で自社のウェイトが低いので手形割引よりは自社の業況が悪い時には審査に通過しやすいと言えます。
より確実に当日中に資金が必要な時
確実に資金調達したいときにはファクタリングの方が適しています。
ほとんどのファクタリング会社で申込日当日に振込を行なってくれます。
当日中に契約手続をとることができれば、ファクタリングほ高い確率で即日で資金を手に入れることが可能です。
手形割引も事前に銀行に極度枠を作成しておけば、即日融資を受けることができますが、極度枠がない場合には融資を受けるまで1週間程度かかってしまいます。
急いでお金が必要であれば、ファクタリングの方がよいでしょう。
売掛先の倒産が心配な時
売掛先の倒産が心配という人は絶対にファクタリングを利用する必要があります。
手形割引は手形が不渡りになったときに自社が銀行に対して手形金額を弁済する義務が生じます。
一方、ファクタリングは売掛債権がデフォルトしたとしても、自社には責任は及ばずに、損失はファクタリング会社が背負うので、自社には何も責任が及びません。
「この取引先は倒産が心配」という企業に対する売掛債権があるのであれば、手形割引ではなくファクタリングを利用するようにしましょう。
手形割引とファクタリングに関してよくある質問
- ファクタリングした売掛債権を担保に銀行から借入をすることはできますか?
- 不可能です。
2社間ファクタリングの場合には債権譲渡登記を設定するのが一般的ですので、ファクタリング済みの売掛債権を担保にしようとした段階で銀行へばれてしまいます。
ただし債権譲渡登記なしでファクタリングした場合には理論上は当該売掛債権を担保に融資を受けることは可能です。
しかし銀行にファクタリング済みであることがバレた場合には一括返済を請求されてしまい、最悪のケースとして財産の差し押さえまで行われる可能性があるので、絶対にファクタリング済みの売掛債権を担保として活用しようとしてはいけません。
- 手形割引とファクタリングは期日をすぎた売掛債権を資金化できませんか?
- 不可能です。
手形割引もファクタリングも活用することができるのは期日前の正常な売掛債権だけです。
期日を過ぎた受取手形は不渡手形となっていますし、期日を過ぎた売掛金も不良債権ですので、このような売掛債権を手形割引やファクタリングで資金化することは残念ながら不可能です。
- 手形割引を即日で行う方法を教えてください
- 事前に銀行へ手形割引の極度枠を作成しておくしか方法はありません。
極度枠とは、「〇〇万円なら自由に借りることができる」という借入枠です。
手形割引の極度枠を銀行に作成しておくことによって、枠の範囲内までは実質的な審査なしですぐに銀行から借り入れをすることが可能です。
まとめ
ファクタリングも手形割引も売掛債権を期日前に資金化することができるという点では同じです。
しかし、以下の点では大きく異なります。
- 借入か売却か
- 売掛債権のデフォルトリスクの有無
- 資金調達コスト
- 資金化までのスピード
両者の違いをしっかりと理解して、手形割引かファクタリングの最適な方法で売掛債権を資金化するようにしましょう。