企業の資金繰りは、中小企業であれば少しのトラブルや問題ですぐに悪化してしまうものです。

中小企業を経営している限りは、資金繰りの悪化から完全に逃れることはできません。

しかし、資金繰りが悪化する原因をあらかじめ把握しておくことで、未然に資金繰りの悪化を防ぐことができる場合もあります。

資金繰り悪化には様々な原因がありますが、主な原因だけで15も挙げることができます。

資金繰り悪化の15の原因と、自社だけで今すぐできる資金繰り改善方法について詳しく解説していきます。

 

資金繰り悪化の15の原因

資金繰りか悪化する原因としては以下の15の原因を考えることができます。

  1. 赤字
  2. 投資の失敗
  3. 売掛債権の貸し倒れ・手形の不渡り
  4. 不要な在庫の増加
  5. 支払サイトの短縮
  6. 入金サイトの長期化
  7. 賞与や役員報酬の大判振る舞い
  8. 借入過多による返済金の増大
  9. 売上の急激な減少
  10. 急激な受注の増加
  11. 銀行の貸し渋り
  12. 銀行の貸し剥がし
  13. 税金対策による支出の増加
  14. 従業員の資金流用
  15. そもそも資金繰り管理ができていない

まずは、どんな原因で資金繰りが悪化してしまうのか、具体的に理解しておきましょう。

赤字

赤字経営であれば、入金額よりも支出額の方が多くなるので、資金は足りなくなります。

赤字の原因として考えることができるのは以下の2つです。

  • 売上の不足
  • 経費の増大

赤字にならないようにするためには、売上の拡大とともに経費の圧縮をしていく必要があります。

資金繰り管理は経営管理の中で最も重要な管理の1つですが、資金繰り管理ばかりに目を奪われていると収益管理が疎かになり、結果的に赤字になってしまうことも珍しくありません。

赤字にならないよう、収益管理もしっかりと行っていくことは非常に重要です。

投資の失敗

投資に失敗すれば、投資のために投下した資金は無駄になってしまうので、その分資金繰りは悪化します。

設備投資や、多角化、他社の買収などには多額のキャッシュが必要です。

投資が成功すれば、投資のために投下したキャッシュは何倍にもなって返ってきます。

しかし、投資に失敗してしまうと、投資に投下したキャッシュは何も返ってこないばかりか、投資を成功させようとすればするほど運転資金も増大し、さらに資金繰りは悪化します

投資を行う際には綿密な計画を立てて、極力失敗するリスクを減らした上で、資金を投下するようにしてください。

なお、銀行借入などによって投資をした場合、失敗すると倒産のリスクもあるので十二分に慎重に検討した上で判断しましょう。

売掛債権の貸し倒れ・手形の不渡り

売掛債権の貸し倒れや、受取手形の不渡りなどによって資金繰りが悪化するケースです。

これらの事象は取引先の業況悪化によって起こります。

取引先の業況が悪いと、売掛金や手形の期日になっても現金が用意できずに、売掛債権がデフォルトしてしまうのです。

そして、売掛債権がデフォルトしてしまうと、その損失はすべて自社の損失になるので収益は悪化します。

さらに、本来であれば入金になっていたはずの売上金が入ってこないので、資金繰りも大きく悪化することになるでしょう。

このような事態になるのを防ぐためには、取引先の与信管理を徹底するしかありません。

少しでも「おかしい」と感じる様子があるのであれば、取引を停止するか現金取引のみに切り替えるなどの対応が必要になります。

なお、売掛債権のデフォルトが心配な場合には、ファクタリングの利用も検討してみるとよいでしょう。

不要な在庫の増加

不要な在庫が増えてしまうと資金繰りは悪化します。

販売しきれないほどの在庫を抱えると、仕入れた分だけ現金が流出することになります。

また、倉庫の代金など、在庫は保有しているだけでもコストがかかります。

できる限り不要な在庫を持たず、その時使う分だけ適宜仕入れを行っていくことによって、現金の流出を食い止めることが可能です。

普段から在庫管理は徹底し、不要な在庫をできる限り持たないようにしましょう。

支払サイトの短縮

支払サイトが短くなれば、その分現金の流出が早くなるので資金繰りが悪化します。

例えば、これまでは「月末締め翌々月末払い」だった支払いが、仕入れ先の要請によって「月末締め翌月末払い」へと変更になった場合、手元からは1ヶ月早く資金が流出することになり、資金繰りは苦しくなってしまいます。

取引先からの依頼によって支払サイトの短縮を図る場合には、自社の資金繰りをから「支払サイトを短縮しても資金繰りに問題がないか」ということを確認するようにしましょう。

安易に取引先の言うがままになるのは危険です。

入金サイトの長期化

入金サイトが長期化すると資金繰りは苦しくなります。

入金サイトとは、請求を出してから入金になるまでの期間のことです。

例えば、これまでは「月末締め翌月末払い」だった入金が、販売先の要請によって「月末締め翌々月末払い」へと変更になってしまうと、自社には1ヶ月先まで入金がないことになります。

手元に潤沢な資金があれば問題ありませんが、そうでない場合には、自社の資金繰りは非常に苦しくなり、場合によっては入金がズレてしまった分だけ外部から資金調達しなければならない可能性もあります。

販売先から「入金サイトを先にして欲しい」と依頼されたら断りにくいものかもしれませんが、やはり自社の資金繰りと慎重に照らし合わせた上で、応じるか応じないかを慎重に検討してください。

賞与や役員報酬の大判振る舞い

利益が出たからと言って、賞与や役員報酬を大判振る舞いしてしまうと、その分だけ現金が流出するので注意してください。

損益計算書上はいくら利益が出ていても、売掛債権で販売していた場合には、売上金が入金になっていないこともあります。

すると、賞与や役員報酬で現金が流出した分だけ資金繰りが苦しくなってしまいます。

利益が出過ぎてしまうと、賞与などによって経費を膨らませることで税金対策になることは間違いありません。

しかしその分だけ現金が流出して資金繰りは苦しくなるので、「賞与を多く支払ったら資金繰りはどうなるのか」と資金繰り表を作った上で支給を検討するようにしましょう。

借入過多による返済金の増大

借入金が多すぎると返済金も多くなります。

返済金の分だけ毎月現金が流出するので、借入金が多すぎることによって資金繰りが悪化すると理解しておきましょう。

そもそもお金を借りる時には資金繰り表をしっかりと作成し、「毎月返済しても資金繰りに問題ないか」ということを十分に検討した上で融資を受けなければなりません。

多くの経営者が「銀行が〇〇万円貸してくれるから」という安易な理由で、借入の判断を行っていますが、「借入をする=返済金が流出する」ということと考えて、資金繰りを予測した上で意思決定をするようにしましょう。

なお、借入金による返済金の負担が多すぎる場合には「返済期限の延長(リスケジュール)」を行うことによって、毎月の返済金を減らすことができます。

銀行へ相談することによって対応してもらうことができるので、どうしても借入金の返済が苦しい場合には相談してみましょう。

売上の急激な減少

売上が急激に減少してしまうと資金繰りは非常に苦しくなります。

支払い変わらないのに、入金がない」という状況になってしまうためです。

コロナ禍によって、多くの飲食店が倒産に追い込まれましたが、これは外出自粛の影響によって売上が激減したことから資金繰りが大きく悪化したことが原因です。

急激に売上が減少すると、従業員の解雇や仕入の縮小などの規模縮小を行う前に資金が枯渇してしまうので、場合によっては倒産まで至ってしまうことがあります。

急激な受注の増加

急激に受注が増加した場合にも資金繰りは苦しくなります。

受注が増加するということは、増加した分だけ仕入をしなければならないということです。

増加した受注の売上金の入金よりも先に仕入代金の支払いがあるので、手元に余裕資金がなければ増加した運転資金の支払いを賄うことが難しくなってしまい資金繰りは大きく悪化します。

増加運転資金の借入を銀行から行うか、注文書を資金化することができるPOファイナンスを活用するなどして、受注の増加による資金繰りの悪化に備えましょう。

銀行の貸し渋り

銀行が企業に対して融資をすることを忌避する「貸し渋り」を行うと企業の資金繰りは苦しくなります。

例えば、毎年ボーナスシーズンになると、ボーナス支給分相当額を銀行から借りている企業は多数存在します。

しかし、銀行の方針が急に「格付B以上ないとプロパーでの融資はしない」などと変化した場合には、毎年借りていたボーナス資金を借りることができなくなってしまうことがあります。

銀行が貸してくれないからと言って従業員にボーナスを支払わないというわけにはいかないので、企業は大切な運転資金をボーナス支給に充てた場合、そこから企業の資金繰りは一気に苦しくなります。

企業にとって必要な資金を、銀行が銀行の都合によって融資をしない「貸し渋り」をしてしまうと、企業の資金繰りは一気に苦しくなります。

銀行の貸し剥がし

貸しているお金の返済を迫り、実際に半ば強引に回収していく「貸し剥がし」が行われると企業経営は非常に苦しくなります。

社会的な不況時には銀行の融資先企業もいつ倒産するか分かりません。

融資先企業が倒産してしまうと、銀行にとっては大きな損失になるので、企業が倒産する前に「融資金を返済してほしい」と迫り、回収してしまうのです。

確かに銀行は損失を免れることができるのでよいもしれませんが、ただでさえ不況で資金繰りが苦しいのに、銀行にキャッシュを持っていかれたら資金繰りはさらに苦しくなります。

これまで期日通りに返済していたのであれば、銀行の回収に応じる義務も法的根拠もありませんので、貸し剥がしには絶対に応じないようにしてください。

税金対策による支出の増加

利益が出ている会社が税金対策として「自動車を購入する」「豪華な社員旅行に行く」などということは決して珍しいことではありません。

確かに、支出を増やせば節税効果はありますが、その分資金も流出するということにも注意する必要があります。

一般的には節税効果によって得られるキャッシュよりも、税金対策で流出した現金の方が多くなります。

つまり、このような税金対策は資金繰り的にはマイナスになるので、資金繰りを十分に勘案した上で税金対策をするようにしてください。

従業員の資金流用

中小の飲食店などの資金繰りを悪化させる大きな原因の1つとして意外に多いのが従業員による売上金の流用です。

何店舗も飲食店を経営している会社では、お金の管理を店長などに任せっきりになってしまうこともよくあります。

従業員がお金に困っていた場合には、このお金を持ち逃げして音信不通になるということは珍しくありません。

週末の売上などは数百万円になることもあるので、このような大金を持ち逃げされてしまったら、企業の経営は一気に悪化することになります。

忙しくても現金の回収だけは経営者が責任を持って行うか、キャッシュレス決済割合を高めるなどして、このような会社内部での資金繰りの悪化に備えるようにしてください。

そもそも資金繰り管理ができていない

ここまで資金繰り悪化の様々な原因をご説明してきましたが、基本的に企業の資金繰りが悪化する原因は、「経営者の資金繰り管理ができていない」からです。

資金繰り管理とは、入金と出金のスケジュールをしっかりと把握して、「○月○日の現金の残高は〜円」と正確な予測を立てることです。

この予測がしっかりとできていれば、不足に備えて外部から資金調達を行うなどの対応を取ることができます。

経営者は「いくら儲かったのか」という収益管理ばかりに目を奪われがちですが、資金繰り管理も収益管理と同じかそれ以上に徹底して行うようにしてください。

自社だけでできる資金繰り悪化への対処法

資金繰りの改善方法として「入金サイトの短縮」や「支払サイトの長期化」などがよく言われることですが、これらの方法は他社との交渉になるので簡単にできる方法とは言えません。

他社を巻き込まずに自社だけでできる資金繰り改善の方法として、以下の4つの方法を挙げることができます。

  • 不要な資産を売却する
  • クレジットカードを利用する
  • ファクタリングを活用する
  • 資金繰り管理を徹底する

自社だけで簡単にできる資金繰り改善の4つの方法について、詳しく解説していきます。

不要な資産を売却する

1つ目の方法が不要な資産を売却することです。

会社に業務とは無関係な不動産や自動車や有価証券があるのであれば、売却を検討しましょう。

売却することで、売却代金が会社へ入金になるのでその分資金繰りは改善します。

また、不動産や自動車は保有しているだけで税金等の管理コストによって、むしろ資金が流出していく資産です。

売却することによって固定資産税や自動車税などによる現金流出を防ぐことができます。

会社の資産台帳から不要な資産がないかどうか検討し、売却しても業務に影響がない資産は売却することで資金繰りはかなり改善するでしょう。

クレジットカードを利用する

日常の経費の支払いでクレジットカードを利用することでも資金繰りは改善します。

ご存知のようにクレジットカードは月末締め翌月末払いなど、支払いを後にすることができるものです。

まさに支払サイトの長期化を行なっていることと同じ効果があります。

例えば毎月100万円の経費支払を現金で行っていた会社が、この支払いをクレジットカードへ変更すると、この会社には1ヶ月長く100万円が滞留することになり、その分だけ資金繰りは改善します。

会計ソフトなどと連動できるクレジットカードも多いので経理の事務も非常に楽になります。

経費の支払いをクレジットカード払いとして、資金繰りの円滑化を図りましょう。

ファクタリングを活用する

資金繰り改善のためにファクタリングを利用するというのも有効な方法です。

ファクタリングは売掛債権を期日前に早期資金化するものですので、入金サイトを自社でコントロールできるようになります。

また、ファクタリングは売掛債権を売却した時点で売掛債権の回収リスクも売却することができるので、期日前に売掛先企業が倒産などをして売掛債権が回収不能になったとしても、その損失はファクタリング会社が負ってくれるので自社に損失はありません。

資金繰り悪化の大きな原因の1つが、売掛債権の貸し倒れですが、ファクタリングを利用することによって貸し倒れリスクを完全に排除できます。

この点でもファクタリングは資金繰り改善のために非常に有用な手段の1つだと言えるでしょう。

資金繰り管理を徹底する

資金繰り改善の最も基本的な方法が、日頃から資金繰り管理を徹底することです。

できれば3ヶ月〜半年くらい先まで、入出金の金額とスケジュールを把握して、綿密な資金繰り管理を行ってください。

資金繰り管理は、入出金のスケジュールを把握して、予定に変更があったら修正するという作業の繰り返しです。

できる限り先の日付まで、詳細に残高を予測することによって、将来的な資金の不足に備えることができます。

資金繰り表は毎日更新していく癖を付けるようにしましょう。

資金繰り表の作成方法の詳細は以下の記事をご参照ください。

資金繰り悪化についてよくある質問

資金繰りが悪化した企業は借入をすることが難しいでしょうか?
融資の審査では資金繰り表の提出が求められます。
この際に「返済していくだけの資金がない」と判断されてしまうと審査に通過することは難しくなります。
したがって、融資審査の際に提出する資金繰り表は返済原資が確保できる程度の資金がなければなりません。
現在は資金が足りなくても「融資金によって売り上げを拡大し、資金繰りがプラスになる」などの経営計画を立てて、銀行へ提出する資金繰り表では必ず返済原資を確保できる状態としてください。
資金繰りを悪化させないために経営者自ら資金繰り管理をすべきでしょうか?
資金繰り管理にはできる限りこまめに経営者が関わることは徹底してください。
経営者が忙しければ日常の資金繰り管理は経理担当者に任せても構いませんが、最低でも週に1回程度の割合では確認するようにしてください。
資金繰り管理は収支管理と同じくらい大切で、収益が出ていたとしても、資金繰り管理ができていないと黒字倒産になってしまう可能性もあります。
また、資金繰り管理を従業員に任せっぱなしにすると従業員が資金流用してしまうリスクもあります。
資金繰り管理にはできる限り経営者自ら関わるようにしてください。
資金繰り表はどの程度先まで作成すればよいですか?
資金繰り表は最低でも3ヶ月先までは作成しておくようにしましょう。
例えば1か月先しか作成しなければ、不足分を借入でしか賄う手段がなくなってしまいます。
時間があればあるほど、売上の拡大、資産の売却などの様々な方法で資金繰りをプラスにすることができます。
そのため、先の資金繰りまで作成すればするほど、資金繰りの心配はなくなります。
ただし、資金繰り表が根拠のないもので絵に描いた餅であれば何も意味はありませんので、根拠のある予測に基づいた資金繰り表を作成することを心掛けてください。

資金繰り改善をご提案

資金繰り悪化の原因は様々です。

しかし、基本的には資金繰り管理を怠り、無計画な投資計画や販売計画を立てることによって資金繰りは悪化していきます。

何事もシビアな目線で計画性をもって経営していくことが最も重要です。

資金繰り改善のためには、まずは以下のような自助努力でできる方法を徹底しましょう。

  • 不要な資産を売却する
  • クレジットカードを利用する
  • ファクタリングを活用する
  • 資金繰り管理を徹底する

また、仕入先や販売先に対して、自社の資金繰りに有利になるような入出金スケジュールを組むということも重要です。

日頃から資金繰り管理を徹底するとともに、自社の資金繰りに有利になるよう、取引先と契約を締結するようにしてください。