ファクタリングは売掛債権を早期資金化するものですが、同じように売掛債権を早期資金化して資金調達する方法に手形割引があります。
手形割引とファクタリングについて「どちらも同じようなもの」と思っている人も多いのではないでしょうか?
確かに手形割引もファクタリングも売掛債権の期日前に資金化するという点では同じですが、その他の部分では異なる点が多数あります。
違いを理解して使い分けることによって、企業の資金調達方法の幅が大きく広がります。
手形割引とファクタリングの違いについて解説していきます。
違いをしっかりと理解して、適切なタイミングで手形割引とファクタリングの使い分けができるようになりましょう。
手形割引とは|手形を譲渡して早期に資金化
手形割引とは、企業の持っている受取手形を第3者へ譲渡して資金調達する方法です。
銀行に対しても手形を譲渡して銀行から融資を受けることが可能です。
- 手形割引を申し込む
- 手形の額面金額から利息を差し引いた金額の融資を受ける
- 手形期日になると銀行が手形の取り立てを行い回収する
手形は期日になると、振出先に取り立てができるようになる特性から、売掛先企業に割引を行なったことを知られることなく、銀行が回収できるという点に特徴があります。
ファクタリングとは|売掛債権を売却して早期に資金化
ファクタリングとは売掛債権の売却です。
売掛債権をファクターへ売却することによって早期に資金化ができます。
借入ではなく売却ですので、利息ではなく手数料が発生します。
売掛債権の金額から手数料を控除した金額が自社へ入金になります。
ここだけ見ると、手形割引とファクタリングはほとんど同じようにも思えますが、手形割引とファクタリングには大きな違いがあります。
どのような違いがあるのか詳しく見ていきましょう。
手形割引とファクタリング8つの違い
手形割引とファクタリングは、「売掛債権を早期資金化する」という部分以外では数多くの違いがあります。
主な違いとしては以下のようなものがあります。
手形割引 | ファクタリング | |
---|---|---|
借入か売却か | 借入 | 売却 |
回収リスクをどちらが負うか | 債務者(自社) | ファクター |
金利か手数料か | 金利 | 手数料 |
手形か売掛金か | 受取手形のみ利用可能 | 受取手形・売掛金が利用可能 |
資金化までの速度 | 極度枠を作っていない場合は長くて2週間程度 | 最短即日 |
自社に対する与信のウェイト | 重い(自社の業績によっては審査落ちの可能性も) | 軽い(3社間ファクタリングが最も軽い) |
売掛先の同意 | 不要 | 2社間ファクタリング:不要
3社間ファクタリング:必要 |
額面金額の一部を資金化できるか | できない | できる |
対象になる債権や資金化への方法、売掛債権デフォルト後の責任、審査基準など、ありとあらゆる部分で手形割引とファクタリングは異なります。
手形割引とファクタリングの違いを詳しく掘り下げていきましょう。
借入と売却の違い
手形割引は借入で、ファクタリングは売却です。
借入であれば貸借対照表の負債の部に記載されますが、ファクタリングは売掛債権という資産を売却して現預金という資産と交換しているだけですのでファクタリングをしても貸借対照表に大きな変化はありません。
借入と売却の違いは決算書上の表示だけでなく、銀行融資を利用するときの審査等外部からの評価に影響します。
決算書を負債のないクリーンな状態に保ちたいのであれば、ファクタリングを利用するほうがよいでしょう。
回収リスクをどちらが負うか
ファクタリングは売掛債権の売却です。
売却の際には「お金を受け取る権利」だけを売却しているわけではなく、「売掛債権がデフォルトした場合のリスク(支払われなかった場合のリスク)」も一緒に売却しています。
つまり、ファクタリングによって売却した売掛債権が、その後売掛先の倒産などによってデフォルトしたとしても納入企業である自社には一切責任が及びません。
一方、手形割引では手形振出人が資金ショートなどを起こし、手形が不渡りになった場合に銀行に対して自社が返済しなければならなくなります。
ここが手形割引とファクタリングの最も大きな違いです。
- 手形割引:回収リスクを負うのは債務者(自社)
- ファクタリング:回収リスクを負うのはファクター
ファクタリングは回収リスクまで売却しているのに対して、手形割引は回収リスクを自社が背負わなければならない点が大きな違いです。
金利と手数料の違い
手形割引は借入であるため金利が設定され、金利に基づいて計算された利息を支払わなければなりません。
ファクタリングは債権の売却ですので手数料が発生します。
この手数料はファクターの回収リスクに対するリスクプレミアムとして計算されますので、回収リスクを債務者が負う手形割引と比較して手数料は高くなります。
- 金利:銀行に回収リスクがないので低くなる
- 手数料:ファクターが回収リスクを背負うので高くなる
金利や手数料の相場は以下のようになっています。
- 手形割引:1%〜4%程度
- 2社間ファクタリング:20%程度
- 3社間ファクタリング:5%程度
このように、手形割引と2社間ファクタリングでは負担が大きく異なるので、手数料が収益に及ぼすリスクも十分考慮した上で、手形割引とファクタリングを使い分けた方がよいでしょう。
手形と売掛金の違い
資金化に利用できる債権は、手形貸付であれば受取手形しか不可能です。
手元に受取手形がないという企業は、手形割引を利用できません。
一方、ファクタリングであれば、売掛債権であれば何でも資金化可能です。
- 手形割引で利用できる債権:受取手形
- ファクタリングで利用できる債権:受取手形・売掛金
形がない債権としてこれまでは支払手段として利用することができなかった売掛金も、ファクタリングであれば資金化に利用可能になります。
なお、売掛債権を電子記録化することで安い手数料で割引ができる「でんさい割引」もあります。
でんさいを利用すると、手形同様に割り引くことも、銀行が提供するでんさいファクタリングを利用することも可能となります。
資金化までの速度
資金化までの速度にも違いがあります。
- 手形割引:極度枠を作っていない場合には時間がかかる
- ファクタリング:初めての取引でも即日資金化も可能
銀行に対して「〇〇万円までなら手形割引可能」という手形貸付の極度枠を作成しておけば、即日で手形割引に対応してもらうことは可能です。
しかし、銀行と初めて融資を受ける場合や手形割引の極度枠がない場合には審査に時間がかかり、長い場合には2週間程度の時間がかかってしまうこともあります。
一方、ファクタリングであれば初めての取引でも即日資金化可能です。
自社に対する与信のウェイトの違い
自社に対する与信のウェイトも手形割引とファクタリングでは大きく異なります。
どちらも、売掛先の与信が最も重視されることは間違いありませんが、銀行は債務者の審査も重視します。
- 企業にとって本当に必要な資金か
- 資金を供給して企業は正常に運転できるようになるか
などを審査するので、債務者の業況があまりにも悪ければ、例え手形割引であったとしても融資をしてくれないこともあります。
一方、ファクタリングは2社間ファクタリングと3社間ファクタリングで自社の与信に対するウェイトは異なります。
- 2社間ファクタリング:自社の与信も重要
- 3社間ファクタリング:自社の与信は重視されない
2社間ファクタリングは売掛債権期日になると、自社に売掛先から資金が振り込まれ、自社がそのままそのお金をファクターへ送金します。
一度資金が自社を経由するので、自社が資金流用しないかどうかの自社に対する与信も重視されます。
一方、3社間ファクタリングは、売掛債権期日になると売掛先がファクターに直接支払いをするので自社の与信に関係なくファクターは確実に回収できます。
手形割引よりもファクタリングの方が自社の与信に対するウェイトは軽くなり、その中でも3社間ファクタリングが最もウェイトが軽いので、自社の経営状態に自信がない時には3社間ファクタリングを利用するとよいでしょう。
売掛先の同意の有無の違い
前述したように、手形割引には手形振出企業の同意は必要ありません。
そもそも手形というのは裏書譲渡して支払手段として利用できるものですので、銀行へ手形割引する場合には、特に手形振出先企業へ通知する必要はありませんし、手形取り立て時にも、手形振出企業は誰が取り立てにきたのかということは知りません。
一方、ファクタリングは2社間か3社間かによって売掛先に秘密にできるかどうかが異なります。
- 2社間ファクタリング:売掛先の同意不要
- 3社間ファクタリング:売掛先の同意必須
取引先に「外部から資金調達した」ということを知られたくない場合には、手形割引か2社間ファクタリングを選択した方がよいでしょう。
額面金額の一部を資金化できるかどうかの違い
売掛債権の額面金額のうち、一部のみを資金化できるのかという点でも、手形割引とファクタリングでは違いがあります。
- 手形割引:全額資金化しかできない
- ファクタリング:一部だけの資金化可能
手形は額面金額全てしか資金化できません。
100万円で1枚の手形のうち、半分を切って50万円だけ割り引くことができないため、手形割引は手形額面金額しか資金化不可能です。
一方、ファクタリングは売掛債権の一部だけを売却することも可能です。
100万円の売掛金のうち、50万円だけをファクタリングできます。
むしろ、ファクタリングでは額面金額のうち一部だけを資金化する方が一般的です。
ファクタリングでは審査で掛け目が設定されます。
掛け目とは、売掛債権のうち何%を買い取るのかという割合です。
100万円のファクタリングに申し込みをしたところ、掛け目60%が適用された場合には、60万円だけが買取対象になり、売掛債権全額の資金化はまずありません。
掛け目で差し引かれた金額は、ファクタリング会社が無事に売掛金を回収できた後に支払われます。
債権の一部だけ資金化できるか否かにも、手形割引とファクタリングでは大きな違いがあります。
手形割引とファクタリング3つの共通点
違いの多い手形割引とファクタリングですが、共通点も存在するのは事実です。
- 売掛債権を期日前に資金化する
- 自社の与信よりも売掛先が重視される
- 手形も極度枠を作れば即日資金調達可能
資金化に用いる資産が売掛債権という点や審査のウェイトや資金化までのスピードは共通しているのです。
手形割引とファクタリングの共通点について詳しく見ていきましょう。
売掛債権を期日前に資金化できる
手形割引とファクタリングはどちらも売掛債権を期日前に資金化するものです。
手形も売掛金も売上が発生してから実際に入金になるのが数ヶ月先になるので、その間の資金調達方法として活用できます。
自社の与信よりも売掛先が重視される
手形割引もファクタリングも、審査で最も大きなウェイトを占めるのは売掛先の与信状況です。
手形割引は銀行が直接手形の取立てを行うので、売掛先が支払能力がなければ手形が不渡りになり回収ができません。
また、ファクタリングは債権を売却しているので、ファクターにとっての債務者は売掛先になります。
債務者に支払能力がなければ、売掛債権の回収は不可能ですので、ファクタリングでは圧倒的に売掛先の与信の方が重視されます。
手形割引もファクタリングも自社の与信よりも売掛先の与信の方が重視されるので、自社の業況が悪く銀行の運転資金審査などに通過できない場合でも、資金調達ができる可能性があります。
手形も極度枠を作れば即日資金調達可能
手形割引もあらかじめ銀行の手形割引の極度枠というものを作成しておけば、枠の範囲内で即日資金調達できます。
極度枠を作成するのは、時間のかかる厳しい審査に通過しなければなりませんが、一度枠を作ってしまえば、その枠の範囲内で即日資金調達可能です。
銀行に手形を持っていけば、よほど業況の悪い会社の手形でない限りは高い確率で即日に手形を割り引いてくれます。
手形割引の極度枠を作成しておけば、ファクタリングで高い手数料を払わなくても手形割引で即日資金調達可能です。
手形割引とファクタリングの大きな3つの違い
手形割引とファクタリングで大きく異なるのは以下の3つです。
- 償還請求権の有無
- 売掛先の同意の有無
- 税金滞納時の資金調達
この3つの違いさえ理解しておけば、手形割引とファクタリングを機動的に使い分けることが可能になります。
手形割引とファクタリンの大きな3つの違いについて詳しく解説していきます。
ファクタリングは償還請求権がない
ファクタリングと手形割引の最も大きな違いは償還請求権の有無です。
償還請求権とは売掛債権がデフォルトした時に、債務者に対して「代わりにお金を支払ってくれ」と請求する権利のことです。
- 手形割引:償還請求権あり
- ファクタリング:償還請求権なし
手形割引は償還請求権があるので、もしも手形が不渡りになって場合には債務者である自社が負担して借りたお金を銀行へ返済しなければなりません。
つまり、損失は全て自社が被るので、手形割引後も手形の不渡りリスクに常に晒されることになります。
一方、ファクタリングは償還請求権なしが基本ですので、売掛債権がファクタリング後にデフォルトしたとしても自社には一切責任が及びません。
売掛債権の回収リスクを誰が負うのかという違いが手形割引とファクタリングの最も大きな違いです。
売掛先の同意の有無
売掛先の同意の有無も、手形割引とファクタリングの大きな違いです。
- 手形割引:売掛先の同意不要
- 2社間ファクタリング:売掛先の同意不要
- 3社間ファクタリング:売掛先の同意必要
3社間ファクタリングは、手形割引並みに少ない手数料負担で資金化できます。
しかし、売掛先の同意が必要なので、外部から資金調達をしたことが確実に取引先に知られてしまいます。
売掛先に秘密にできるかどうかという点も手形割引とファクタリングの大きな違いです。
ファクタリングは税金滞納時も資金調達できる
税金滞納時に資金調達できるかどうかも、手形割引とファクタリングでは大きな違いがあります。
手形割引は極度枠を作成していない限りは、審査で納税証明書の提出を要求されるので、税金を滞納していると審査に通過できません。
一方、ファクタリングは審査で納税証明書などの提出は不要なので、税金滞納時でも問題なく審査に通過できます。
- 手形割引:税金滞納時の資金調達不可能
- ファクタリング:税金滞納時でも資金調達可能
手形があるなら手形割引の方がメリットあり
手形が手元にあるのであれば、手形割引の方が基本的にはメリットがあると考えた方がよいでしょう。
手形割引の方が金利が低いためです。
ただし、ファクタリングには手形割引にはない長所があります。
- 即日資金調達可能
- デフォルトリスクはファクターが背負う
急いで資金が必要ではなく、一般的に考えて倒産するような可能性がない企業の受取手形を持っている場合には、金利の低い手形割引の方がメリットがあります。
ファクタリングを利用すべき3つのケース
手元に手形があるのであれば、ファクタリングの手数料と比較して低い金利が適用される手形割引の方がメリットがあることは間違いありません。
しかし、手元に売掛金しかない場合を除いても、以下のいずれかに該当するのであればファクタリングを利用した方がメリットはあると言えるでしょう。
- 売掛先の支払能力が心配
- 売掛金しか売掛債権を持っていない
- 融資審査に通らないとき
なぜ、これらの場面ではファクタリングの方が活用することができるのでしょうか?
売掛先の支払能力が心配な時
売掛先の支払能力に不安がある場合は、ファクタリングの方がメリットがあります。
ファクタリング最大の特徴は、売掛債権の回収リスクも一緒に売却できる点で、これは手形割引にはない特徴です。
「この売掛先は、本当にお金を払ってくれるのか心配」という場合には、ファクタリングを行うことによって売掛債権の回収リスクを完全に排除できます。
新規で取引をする企業などは支払能力が心配です。
このような場合にファクタリングを利用すれば、デフォルトリスクがなくなるので安心して取引ができるようになります。
売掛金しか売掛債権を持っていない場合
売掛金しか売掛債権を持っていない場合には、手形割引の利用はできません。
銀行では売掛金を担保にして融資を受けるABLという融資もありますが、審査に2週間程度の時間がかかり、難易度も厳しいので簡単に資金調達はできません。
このような場合には、売掛金を手軽に資金化できるファクタリングしか選択肢がありません。
手数料は高いですが、急いで資金調達したい時には売掛金しかなくても資金調達できるファクタリングを利用するのがよいでしょう。
融資審査に通らないとき
ファクタリングは、手形割引を含む融資審査に通過できない場合にも有効利用できます。
ファクタリングは自社の与信よりも売掛先の与信を慎重に審査するため、融資審査に比べて審査通過のハードルは低くなるからです。
一般的に自社の与信審査が厳しいとされている2社間ファクタリングであっても、手形割引の審査の方が厳しいとされています。
そのため、融資審査に通らなくてもファクタリングなら資金化ができる可能性が高いのです。
融資審査に落ちてしまったけどどうしても資金が必要なときや、すでに多額の借り入れをしていて融資に通りそうにないときは、ファクタリングを検討するとよいでしょう。
手形割引とファクタリングについてよくある質問
- 大きな金額の売掛債権を資金化したい時にはファクタリングと手形割引どちらが有利ですか?
- 銀行は企業ごとに融資限度額というものを設定していますので、いくら手形割引とは言え融資限度額を超えている場合には審査に通過することが難しくなってしまいます。とは言え手形割引の方が少ない負担で資金調達することができるので、まずは銀行へ「この金額の手形を割り引くことができるか」確認し、銀行から断られたらファクタリングを利用した方がよいでしょう。
- 手形でもファクタリングを利用することはできますか?
- 可能です。ファクタリングは売掛債権の売却で、手形も売掛債権ですのでファクタリングで手形を売却することはできます。
- 手形割引の極度枠を持っている場合には、何時までの申し込みで即日資金化可能ですか?
- 極度枠がある場合でも、一応審査があるのでお昼くらいまでには取引支店の窓口へ手形を持参するようにしてください。
- ファクタリングは何時まで即日資金化可能ですか?
- 審査は夕方くらいまで行われていますが、新規取引の場合には審査に時間がかかってしまうこともあるので、13時くらいには申し込んだ方が安心でしょう。
まとめ
手形割引とファクタリングは
- 売掛債権を早期に資金化できる
- 売掛先の与信で資金調達できる
などの点では共通点があります。
しかし、借入なのか売却なのか、回収リスクの有無、資金化までのスピード、税金滞納時の審査などでは手形割引とファクタリングでは大きな違いがあります。
手形割引とファクタリングの違いを理解しておくことによって、それぞれを最適な場面で活用することができるようになります。
似ているようで実は全く異なる手形割引とファクタリングの違いをよく理解して、最適な資金調達ができるようになりましょう。